2-8【決意と選択 1:~浮島定期船~】



「みんなー、中で走っちゃ駄目よー」

「「「はーい!!」」」


 引率の先生の声が石造りのしっかりとした船着き場に響き渡り、それに反応するように生徒達の明るい声が沸き起こった。

 今日は”社会見学遠足”とあって皆のその声はどこか軽く、忙しないエネルギーを持っており、先に入った生徒たちの興奮気味な空気でその樽のような船体は既に風船のように膨らんで見えた。

 当然ながら、我らがモニカもこんな”イベント”とあっては大変浮かれて・・・・


『モニカ、順番だぞ』

『・・・あ? うん、ごめん』


 ・・・いるわけでもなく、俺の注意に慌てて”船”に乗り込んだ。

 だが、1mほどの長さの短いタラップを踏むその足取りは、何処か心ここにあらずといった雰囲気で危なっかしい。

 最近、モニカは時々こうしてどこか遠くを見るように、思考を巡らせていることがある。

 俺はそれが一過性のものだと思いたかったが、その”原因”を知っているだけに心配だ。


 それでも流石に”船内”に入ると流石に少しは”非日常”を感じ取ったのか、モニカの目線が少し上を向き窓に固まる学友たちに集まったくれたのは救いか。


 椅子も仕切りもない殺風景な空間が広がる船内は、どこかロープウェイなどのゴンドラを思い出す作りだ。

 既に窓側は全て先に入った生徒たちによって抑えられており、モニカの前後に入った生徒たちがその後ろについて”わいのわいの”と声を出していた。


「あまり窓に寄るな! 前の生徒が潰されるぞ!」


 引率の先生のお叱りの言葉がさらに飛ぶ。

 この人も大変だな。

 普段はまだ比較的おとなしい中等部とはいえ、興奮した子供というのはなかなかに扱いづらい。

 今日は特に力が強い生徒が多いだけになおさらだ。


 それでもモニカを含め、何人かの生徒はそんな興奮した生徒を何処か冷めた目で見つめながら船室の中心部に集まっている。

 別に景色が見たくないわけではない。

 この船の窓はどれも大きいので、下手に窓際に寄るよりもこうして中心部にいた方が四方をダイナミックな船窓を楽しめ・・・・って生徒だけじゃなさそうだな。


「モニカちゃん・・・まだ浮いて・・・ないよね?」

「大丈夫だよ、乗り終わるまでもう少し時間かかるから」


 モニカの”貴重な友人”の1人、”灰色の少女”ことアイリスがブルブル震えながらモニカの体にしがみついていた。

 ”ルーベン戦”で積極的にメリダを介抱してくれたり、”青の同盟戦”で前線まで付いてきた豪胆さの持ち主のくせに、高いところが怖いとは面白い。

 周りを見ればアイリスと同様にこの船が、いつ浮き上がるのかを心配そうな瞳で見つめている子が結構いた。

 もちろん大多数は今窓際で押し合いしている子達のように、高いところは大歓迎なのだが。


「やっぱり来るんじゃなかった・・・”課外”が忙しいとか言って来なきゃよかったよ」


 これから迫りくる”恐怖”に怯えてぐずるアイリス。


「それで今日休んでも、また別の日に組まれるだけだと思うよ?」


 と、正論で追い打ちをかけるモニカ。


「その時はまた休むの!」


 それに対しアイリスが、珍しく声を上げて反論した。

 よっぽど高いところが駄目なようである。

 この船が浮き上がったらどうなることやら・・・今から先が思いやられるぞ。



 そしてこの会話を見ればわかる通り、俺達はこれからこの船で、”空”を飛ぶのだ。



 唐突だが、アクリラにはいくつか”観光名所”が存在する。

 それは意外と細々とした街並みの中に隠されたりしていることも多いが、大多数の観光客がまず見たがるのは、”逆向きに流れる滝”だったり、”どぎつい原色に染まる森”だったり、山を上回る”大木”だったりするのだが・・・って、そういや全部行ってないな俺達。

 この街で普通に学業に励んでるだけでは、なかなか近寄る機会がないのでそういった”観光名所巡り”はまったくやっていなかった。

 となると、これが初めてになるのか・・・

 話を戻すと、そういった”観光名所”の中で、特に人目を引くものがある。


 それがアクリラの上空に浮かぶ、6つの”浮島うきしま”である。


 なんでそんな事になってるのかは調べてないので俺はよく分からないが、なにかよくわからない原理か何かで、アクリラの上にはいくつか土や石が浮いている。

 時期によってまちまちだが、おおよそ2000から3000個くらい浮いてるらしい。

 結構な量である。

 そのなかでも飛び抜けて大きいのが6つあり、アクリラの象徴として君臨しているというわけだ。


 ただ、最初こそ瞠目するが、慣れてしまえば大して目立つものでもなく、密集しているわけでもないので、いくつかは山の陰とかに隠れてしまって地上から全部見えない。

 その上、自力で空を飛べなければ行くことも出来ないので、アクリラの”ガッカリ名所”としても有名だった。


 この”自力で行かなければいけない”という決まりは結構厳密で、空を飛べる誰かに連れていってもらうことも許されない。

 なぜなら、浮島から落ちたり、浮島ごと・・・・落ちたりしたとき、空が飛べなければ助からないからだ。

 ちなみに俺達は飛べるけど、”無免許”なのでアウトである。

 まあ、行っても大して何かあるわけでもないんだけどね。

 一応、宗教的な施設みたいなものがあるとは聞いているが、重量制限の関係か大したものではなく、ルシエラいわく”一瞬で飽きる”とのこと。 


 さて上記の浮島に関する情報は、あくまで”原則”だ。

 つまり”例外”が存在する。


 浮島の中で最大のもの・・・”ユレシア島”と呼ばれる浮島だけは飛べない者の立ち入りが条件付きで許可されている。

 ユレシア島は他の全浮島を足したよりも数倍の大きさを誇っており、浮力も強くその安定度は桁違い。

 なのでちょっとやそっとの重みで落下する恐れもないため、少人数であれば立ち入っても問題ないのだ。

 

 そしてその条件というのが、今俺達が乗り込んだこの”船”である。


 これは日に5回、浮島と地上を往復する連絡船で、中央を流れる3本の川のうち一番南側の川に設けられた特設の船着き場から発着している。

 ご想像のどおり、この船に乗り込める人数が、浮島に行って良い人数となるわけだ。

 そしてこの内2回は管理を行っているアクリラが”乗船権”を持っており、特に浮島への輸送が少ない日などにその枠を生徒達の”社会見学”に当てている。

 今回、俺達はそれでやってきたというわけ。

 とはいえ当然ながら、1日で行ける数は限られており、授業や活動の都合で振り分けた少人数での見学になる。

 メリダがいれば一緒にはしゃげたのだが、今回のメンツで見知った顔はこのモニカに縋り付いてブルブル震えてるアイリスと、向こうの方でつまんなそうにボーッとしてるルーベン。

 あと、あの右の方にいる女の子は何度か授業が一緒になったことがあるな。

 

 あ、よく見れば窓際でアレジナが潰れてら・・・

 意気揚々と最前列を取ったはいいが、小さなドワーフの体では後ろからくる圧力を押し返せないらしい。

 いつもの様に可愛らしく怒鳴っているが、あの様子では効果がなさそうだな。


「扉、閉めるぞ!!」


 その時、船員の掛け声が響き、続いて乗り込んできた扉がパタンと閉められた。

 どうやら乗り込みが終了し、これから出発するらしい。


 船の窓の前方に船員の姿が現れると、足元から”ブーン”という魔力が繋がる音が響いてきた。

 と、同時に窓際の生徒達のボルテージが1段階上昇する。


『結構、出力が大きい。 上まで保つのかな?』

『音からして、単純な制御しかしてないから大丈夫なんじゃないか?』


 足元で起動した魔力回路にモニカが感想を述べ、それに俺が答える。

 やはり、こんなところでも気になるのは魔道具絡みか。


 すると窓際から歓声が上がる。


「「おおおおおお!!!」」


 それに反応したモニカが何事かと爪先立ちになって外の様子を見てみれば、船の四隅を太いロープのようなワイヤーがスルスルと持ち上がっていくの見えた。

 その先は元々屋根の方に伸びていたのだが、さっきまではその途中が垂れ下がっていたのだ。

 ということは・・・


 予想通り何人かの生徒が窓に顔をつけて上の方を見つめている。

 さらに別の生徒がしきりに「飛竜だ!」と興奮したように喋りだした。


『飛竜だって』

『ちょっと待ってね』


 モニカが顔を上に向ける。

 もちろんそこには船の天井があるだけだが、俺が”透視スキル”を発動すればすぐに天井の頑丈な骨組みと構造を通り抜け、その向こうに飛竜の巨大な姿が現れた。


『大きいね』


 モニカが感想を述べる。


『ユリウスの半分くらいあるな』


 だいたい頭から尻尾まで30mと少しか。

 ノーマルな飛竜としてはかなり大きい。

 もはや完全に魔獣に足を突っ込んでるレベルだ。

 あ、ちなみに飛竜は魔獣じゃないぞ。

 種族自体が元々あのサイズなのだ。

 それにしてもアクリラが飼育している飛竜の中から割り当てていると聞いていたが、こんなのを飼ってたんだな。

 

 そしてその飛竜が羽ばたきながらゆっくりと高度を上げると、そこに繋がれたワイヤーが金属製の骨材を通してしっかりと伸びて、船体の四隅がゆっくりと持ち上がった。


「おお」


 足下の浮遊感に感嘆するモニカ。


「「「うわあああああ」」」


 巨大な船体が持ち上がる不思議な光景に興奮が最高潮に達する生徒達。


「いやあああだあああああ」


 と、悲鳴を上げながら縋り付く力を強めるアイリス。


「うぼっ!? おすな・・・、つぶれ・・・」


 と窓と生徒のサンドイッチがいよいよ限界に近いアレジナ。


「・・・・・」


 そんな事より自分の爪が気になる様子のルーベン。


 乗客たちはそれぞれの反応を見せ、それをすべて抱えた船は、力強い飛竜の羽ばたきによって少しずつ上昇を始めた。


 完全に離水すると、眼下には船のいなくなった船着き場が見える。

 そこにさっきまで船が着いていたことを示すのは、不自然に揺れる水面だけだ。

 窓を見れば、先程まで見上げていたアクリラ中心部の街並みが、今では目線の高さまで下がっている。

 そして建物の間をすり抜けるためゆっくりだった船の速度は、障害物が無くなる高度まで達したところで一気に加速した。


 いつも見ている街の景色を下に見た生徒達は大はしゃぎ。

 数人の怖がっている生徒も、その景色に目を奪われるのか顔を覆った手の隙間からチラチラと外を眺めている。

 だがアイリスだけは依然として高度と速度に比例して抱きつく力を増加させ、今では一般人の体なら簡単に捩じ切ってしまえるのではというレベルまで達していた。

 これは抱きつかれたのが俺達で良かったな。

 下手に弱い子に抱きついていたらちょっとした惨事だ。

 それでもモニカには優しく抱き返して、背中を撫でてあげる余裕がある。

 だがその視線は、アイリスではなくこの船の壁の外を激しく動き回る魔力を追っていた。


『掛けてるのは軽量化だけ?』

『軽量化っていうか、上向きの力を乗客分だけ掛けてるみたいだな』


 【透視】を調整しながら、動いている魔力回路を調べていく。

 魔力回路で船の重量を打ち消して飛竜で引っ張るというのは聞いていたが、実際にそのメカニズムを目にしてみると、その説明では不十分ではないかと思ってしまう。

 まあ、一般人に説明するにはそれでいいのかもしれないけれど。

 しかし、流石というか、アクリラの中でもトップクラスの魔道具とあって、その回路の精度や複雑さ、それに出力のメリハリが凄い。


『1日中、ずっとでも見てられるね』

『ご飯3杯は軽いな』

 

 俺達の学ぶゴーレム系統とはまた毛色が違うけれど、こういう簡単だけど大きくてしっかりとした動作が求められる物の回路というのは、職人の”ワザ”の見せ所だ。

 よく出来たゴーレム回路がオーケストラだとするならば、こちらはさながら俳句などの短い”詩”だろうか。

 出来ることが少ない分、全ての箇所に万全の創意工夫が凝らされ、一点の曇りもない。

 だからこそ、その一つ一つの回路の重みに圧倒されてしまうのだ。


 その後もモニカがゆっくりと全体を確認するように視線を動かしながら、あの回路はなんだろうと興奮した様子で俺と意見を交わしあった。

 そのことに俺は心の中でホッとする。

 やっぱりモニカもちゃんと・・・・遠足を楽しんでいたのだ。

 ・・・他の子と見るところは違うけれど。



 ”あの一件”以来、モニカが俺に”頭の中の声”で話しかけてくるようになって、2週間が経過した。

 もうすっかり季節は秋の半ばを過ぎて、冬の色を見せ始めている。

 それでも冬に雪が降ったりすることはないと聞いているので、”超極寒”生まれのモニカからしてみれば酷暑もいいところなのだが、この気候に少しずつ慣れてきたのか、気づけば体温調整のための冷却スキルを弱めることが増えてきたと思う。


 だがそれよりも”俺の環境”は大きく激変していた。


 考えればこれまで俺に直接話しかけてくる存在というのは、ごく一部の例外を除いて存在しなかったのだ。

 モニカだって普通に声に出してたのを俺が勝手に聞いていただけに過ぎない。

 それでも会話が成立するので話し相手だと言えるかもしれないが、今の”この現状”を知った以上は、もうそうとは思えない。


 口に出して話すという行為は、それなりの”社会性”を伴うものだ。

 誰かが聞いているかもしれないし、”喋る”という行動を取らなければならない以上、それなりに言葉を選んでいたのだ。

 ところがこれが頭で直接話せるとなればどうなるか?

 考えてもみてほしい、ほんの少し思考のやり方を変えるだけで相手に伝わるのだ。

 当然のように話す内容の敷居は低くなり、他人の前では憚られる様な内容であっても気兼ねなく発言できる。


 最初の1週間、アクリラ北病院の中で暇を持て余したモニカからの”声掛け”は想像以上だった。

 ”ガブリエラを助ける”という目標が有ったときは、それに集中していたため普段と殆ど変わらなかったが、それが抜けたことで一気に”爆発”したのだ。

 おそらく彼女も上手くコントロール出来ていなかったのだろう。



 まず発言の6割が支離滅裂だ。

 文法もへったくれもなく、”あれ”や”これ”が乱舞し、しまいには単語の代わりに”感情”や”感覚”を送りつけてくる始末。

 しかも”下品”。

 解釈できた内、上品なものを抜き出したとしても、”尻がかゆい”だの、”奥歯に詰まった食べかすが気になる”だの、他人にとってはどうでもいい内容。

 下品な方を抜き出すと色々と”危ない”ので、こういった発言はまとめて意識の端に追いやっていた。

 

 そしてかろうじて”まともな会話”になるものも、普段よりも”直球”が多いので最初は戸惑った。

 特に他人の”好き・嫌い”を何の抵抗もなく話されると、モニカの”知らない一面”を突きつけられているようでかなりドキッとする。


 とはいえ、こういったことは2週間でかなり少なくなっていた。

 彼女も少しずつ慣れたのだろう。

 それでも以前の数倍は会話している気がするけどね。


 そしてついでに、この2週間俺達は少し手持ち無沙汰になっていた。


 ”あの一件”で1週間の地獄のような・・・・・検査入院の末、出てからも過保護なまでにルシエラが目をかけてくるのだ。

 マグヌスとの交渉は当然のように”中断”。

 さらにガブリエラとの”秘密のレッスン”も無期限停止状態ときている。

 まあ、ガブリエラに関しては先方が入院中というのが理由なのだが・・・


 やっぱり胸に大穴を開けたのはまずかったかもしれない・・・

 モニカにはそんなことはないと言ってはみたが、実際のところその傷が元で入院中なのかもしれないし・・・


 まあ、仮にガブリエラが大丈夫だとしても、ルシエラが怒っているのでどうせ会えなかっただろう。

 今回の話にはさすがの彼女も堪えたようで、俺達とガブリエラを引き合わせたことを口には出してはいないものの後悔している様子で、「近づいちゃ駄目よ!」と俺達だけでなくベスにも口酸っぱく言う始末。

 もちろんそれを聞く義理はないが、俺達を心配してくれているだけにそれを無視して勝手に会うのも気が引ける。

 たぶんそのうち彼女の中の”熱”も引いて大丈夫になると思うが、それまでもう少しかかるか。


 それより、このままではもうすぐ予定されているルシエラの”調査旅行”に支障が出かねない。

 本来ならばもう”最終準備”のために研究室に籠もりっきりになってもおかしくないのに、毎日早めに帰ってきて俺達の安否確認をしている有様。

 スコット先生の発表に憧れたり、学会の会誌や論文などを目を輝かせて読んでいる姿を知っているだけに、俺達のためにルシエラの”研究”に支障が出ることだけは避けてほしかった。

 彼女が研究者として動けるのは、もうあと数年しかないのだ。


 それにあと少ししかないという意味ではガブリエラとの方が深刻だ。

 なにせ彼女が”卒業”するまであと半年もない。

 アクリラの教育課程を卒業するのも、単なる”箔付け”と聞いているので、間違いなく”研究科”には進まないだろう。

 それどころか今回の一件で、卒業前を待たずして国に帰るかもしれない。

 そうなれば”秘密のレッスン”は永遠にお流れだ。


 もちろんあとの半年で彼女に追いつけるとは思ってない。

 だが”第1段階”しか教えてもらってないうちにやめるのは癪だろう。

 それに何より、せっかく仲良くなれると思ったのに、あれで別れ離れではさみしいではないか。

 そんな事を考えていると、そんな俺の感情でも流れたのかモニカが声をかけてきた。


『ガブリエラのこと考えてるでしょ?』

『あ? あぁ・・・うん、なんか漏れてた・・・・か?』

『ううん、なんとなく、でも考え込んでたみたいだから・・・』

『なるほどな・・・でも、モニカも考えてるだろ?』


 根拠はない。

 なんとなくだ。


 だが確信もあった。


『ガブリエラ、大丈夫かな?』

『別れたときには元気そうだったじゃないか』

『でもスコット先生は、まだ治療中って言ってたじゃない』

『いつも言ってるが、”あんなこと”があったんだ。 ダメージもあるし元気でも心配だろう?』

『うん・・・そうだね』


 モニカがそう言って、いつもと同じ、納得と不満の入り混じった様な答えを返してきた。

  

『ねえ、ロン』

『うん? どうした?』

『”あれ” 結局何だったんだろうね』


 窓の外をうっすらと眺めながら、モニカがそんなことを尋ねてきた。


『”あれ”ってのは、あの”不思議な魔力”のことか?』

『うん、・・・なにか思いついたりしてない?』

『あれを見てから2週間、色々参考書のストックを読み漁ってはみたが、まったく該当なし』


 そもそもの話、あんな風に2つの魔力が”混じる”というのがおかしいのだ。

 魔力に詳しいルシエラに相談したら、開口一番「見間違いだ」と返ってくるくらいである。


『普通、複数の魔力が混合した場合、単純に”混色”したような魔力になるはずなんだ』

『ルシエラがそう言ってたね』


 それは例えば赤と青を混ぜて”紫”になるように絵の具に近い反応を見せる。

 しかも混ぜれば混ざるほど”グレー”の毛が強くなり、その特性は失われていく筈なのだ。

 だがあそこで見た魔力は、2色がそれぞれの色を残していた。

 混ざっていなかったわけではない。

 魔力自体が俺達の”黒”にも、ガブリエラの”金”にもその姿を変えていたのだ。

 その全てに感覚があったことからも、魔力自体は均一に混ざっていたことに疑いの余地はない。

 というか、


『そもそもモニカだって、あの時はなにか”確信”があったみたいだけど?』


 俺はその”謎”を指摘する。

 あの時、確かにモニカは何が起こっているか知っていた・・・・・し、その”対処”も適切だった。

 いきなり【思考同調】を複数展開してそれを引っ張りあわせるなんて”アクロバット”、普通の神経なら思いつきもしない。


『うーん・・・どう言っていいのかな。 あの時はなんでか、”何をしていいか”が分かるような気がしたの。 ガブリエラがどういう状態だったかわかったというか・・・・』


 モニカはそこで言葉を切り、自分の”考え”が正しいかどうか確認しているように目線を虚空に泳がせる。


『”半分ガブリエラだった”、か?』


 俺が”その言葉”を捻り出す。

 それはあの日、あの後・・・・病院のベッドの上でモニカが”話してくれたもの”の中でも、”2番目くらい”に衝撃的な言葉だった。




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