2-7【2つの王 2:~悪戯心~】
交渉の翌日。
マグヌスとの交渉が週末に行われていたということで、今日は当然ながら”休日”
ともなれば普通の学生であれば街に繰り出して羽根を伸ばしたり、友人と小旅行に出かけたり、人生をかけた研究課題に籠もりきりで打ち込んでいてもおかしくないが、俺達のここ最近の休日の過ごし方は殆ど決まっていた。
つまりはガブリエラとの” 秘密のレッスン ”である。
「ふぬぬ・・・」
モニカが唸る。
眼の前では、1辺が100mに迫ろうかという巨大な真っ黒の立方体の水槽が、その内部に大量の水を湛えながらゆっくりと震えるように上昇していた。
見てのとおり、初めの頃に比べればかなりの進歩だ。
もう既にだいたいのコツは掴んでおり、何をすべきかも理解して、今は”慣れ”を増やす段階になっている。
だが、いかんせんこの量の水だ。
その凄まじい重量を魔力の動きだけで持ち上げるのはかなりハードなことで、魔力源であるモニカ、調整役である俺双方にとてつもない負担を強いていてる。
現に俺達の”水槽”は、”目標&手本”としてもう1時間以上も上空に浮かんでいるガブリエラの持ち上げた”水槽”と違い、完全に”正立方体”ではなく、微妙に水圧で歪み表面もデコボコしている。
さらにプルプル震えるので中の水がバシャバシャと溢れ、壁のいたるところからピューピューと水が吹き出しているので、付近にいる”関係者”連中は早々に”傘の魔法”のようなものを展開して様子見状態となっていた。
それにしても慣れの恐ろしさと言うか・・・
最初は一応、俺達の関係者、ガブリエラの関係者双方とも、どこかピリピリとした空気が漂っていたはずなのに、今や催し物の観客のごとく他人事のように空に浮かぶ奇妙な水槽を見ながら”お茶”と洒落込んでいる。
スコット先生なんて向こうの給仕長とお茶の銘柄で語り合っちゃって、完全に馴染んでいるし、今回の”立会人”ことアラン先生もボーッと眺めてるくらい。
ガブリエラもこの程度では児戯にもならないので、現在この中で真剣な表情なのはモニカだけである始末だ。
しかも、ときおり体を伸ばす向こうの関係者の様子を見る限り、むしろいつもよりガブリエラはのんびりしているのは間違いない。
一応彼女、今絶賛俺達でも手に余るレベルですごい魔力を使っているんだけど・・・
その時不意に俺の中の”コントロール”が破綻した。
『あ!?・・・だめだ』
「うわああ!!?」
ついに制御可能の閾値を超えた俺達の水槽が一気にグニャリと変形し、中から一気にこぼれた水に潰されるようにグチャグチャになって消滅する。
一気に下に向かって落下する大量の水。
それが元あった水槽の底に叩きつけられ、地震のような振動と爆発のような轟音を巻きちらかすと、その反動で一気に盛り上がり津波のように押し寄せる。
だがそれも、もう慣れたもので、次の瞬間にはガブリエラの作り出した黄金の壁に阻まれそこで止ってしまった。
そしてそれで終わり。
もうほぼ毎週、同じようなことが何度も起こるので誰も驚かないし、ガブリエラもいちいち問題を指摘したりもしない。
彼女の”教育方針”は結構独特で、上手く行ってるときにちょっと問題点を指摘するくらいで、後はよほどのことがない限り”我関せず”。
堂々巡りみたいな時でも、そう簡単に”コツ”を教えてくれたりはしない。
それでも概要だけは無駄にしっかり教えてくれるので、どこかスリード先生を思い出すな。
そんな訳で、モニカはただ恨めしげに空中に浮かぶ黄金の”
「・・・・・」
『あと、一歩なんだけどなぁ・・・』
感覚としてはもうほぼ完成していると言っていい。
実際、先々週あたりにガブリエラにそう言われた。
だが、その僅かに
そう考えると、これは思いの外厳しい課題かもしれない。
力だけでも駄目だし、コントロールだけでも駄目。
全てが完璧でなければ上手くいかないのだ。
モニカが今度は恨めしげな視線をガブリエラに向ける。
ここ数週間の”レッスン”で、この様な表情を向けられるくらいにはモニカの態度も打ち解けていた。
だが視線の先の王女様は、オープンカーよろしく上半分がパカっと割れた黄金の巨大な”王球”の中央の高そうな椅子に座って、こちらに面白そうな視線を向けている。
”はよ!”
と、その顔が言っているかのよう。
それを見てモニカの中の恨めしげな感情が少し大きくなる。
俺達が一個の水槽に四苦八苦している中、この人はそれを何十個も同時に持ち上げられるのだ。
”しかも片手間に”
何が違うんだろうか?
魔力の動きを見る限り単純なフランチェスカの操作精度なら、ウルスラに対しても見劣りしてない気がするのだが・・・
やっぱり俺の経験不足かな?
モニカが再び水路の水槽の縁に意識を集中させる。
そしてその水と水槽の”接点”に魔力を送り込み、俺が薄く万遍なく伸ばすと、その密度と厚さを増やしていく。
するとすぐに元の水槽のすぐ内側に真っ黒な魔力の層が形成され、それに押し出される形で水の上部分が”ザブン”と音を立てて盛り上がる。
これに対応するため、わずかに水槽の壁の縁を水面より高くするのがコツの一つだ。
そして俺達の”水槽”が完成すると、そこに上向きの力を掛けていく。
その時、気をつけないといけないのは、水槽の全体が”均等に上昇する”ようにすることだ。
”均等に力をかける”ではない。
水の重量の移動や、僅かな厚みの違いなどで、水槽の底にかかる圧力は均等ではない。
それに柔軟に反応し、また先読みして適切に力を配分しなければ、あっという間に崩壊してしまうのだ。
特に壁と底の”繋ぎ目”が重量が大きく変わるポイントなので危ない。
それから暫くの間、いつもの様に休日のマロリー水路に数分おきに”ドシャン!!”という、水の溢れる音が響く”平和な時間”が流れ続けた。
その雰囲気があまりに平和だったのでガブリエラが小さく欠伸を堪え、それを見た従者達が様子を窺うということが何度かあり、その度にガブリエラは首を振って従者を下がらせたくらいだ。
それにしても今日は、比較的長く付き合ってくれるな。
ガブリエラは王女とあって比較的スケジュールがカツカツである。
不意の用事とかもあるので、1時間かそこらしか時間が取れないことも珍しくないのだが、今日は比較的暇なようだ。
それは彼女の少々気の抜けた表情からも伺える。
しかし、こうして体が大きくて迫力のあるガブリエラのリラックスした姿を見ると、まるで巣の中で寛ぐライオンみたいだな・・・
・・・まったく、こっちは”昨日の今日”でピリピリしているというのに・・・
昨日の”交渉”の後、サンドラ先生は珍しく少し苦い表情をしていた。
向こうの”思い切り”が思いのほか良かったからだ。
どうやら”消せない”と分かった以上、”どう抱え込むか”に考えが完全にシフトしているらしい。
それも、国王の”魔法契約”まで話が飛び出してくるとは予想していなかったようで、それは暗にかなり強力な”圧力”になりうるとのこと。
名目上とはいえ、アクリラの最大の出資者にそこまで”身を切る覚悟”を見せつけられたことで、色々とやり辛くなったそうだ。
それとその提示した内容と姿勢から、向こうのあの謎の”そんなに強くない女性兵士2人”についても、ある程度の推測が立っていた。
なんと”医者”だそうだ。
それも片方は”産婦人科”に相当する専門医ではないかという。
どうやら向こうは前回である程度こちらの”力”を把握し、更に”突っ込んだ”情報収集を仕掛けてきたようだ。
つまりモニカが”王位スキル保有者”として・・・・そして”母体”として健康であるか。
スコット先生曰く、あの2人ともモニカに対して、かなり専門的な”目”で観察を行っていたフシがあるらしい。
その時は釈然としなかったらしいが、話の流れからしてあの場でモニカを”診断”していたのではというのだ。
これが魔法やスキルなどの魔力に寄るものであれば俺も気づけただろうが、単純な経験からくる”視診”ならば俺も気づくことはできない。
それに気づいたとしても何もできないしね・・・
なにせ”見るだけ”なのだ。
少し気になるのは向こうがそれで”どんな結論”を出したのか。
”母体”として、将来的に”有望”などと報告書に書かれているのだろうか?
まあ、そりゃないか、胸小さいし・・・小さいままだろうし・・・
だが、それでも確実なことは実際に検査してみなければ分からないので、早ければ今回の交渉期間中にも向こうの”健康診断”の受診か、アクリラが測った俺達のデータの提出を求めてくるかもしれないとのことだ。
ただ、それを聞いた俺はやはり、若干気持ち悪いものを感じる。
アクリラが測ったデータには、それこそ俺達の体の”隅々”まで情報が載っているのだ。
あれを元に、見分けがつかないほどそっくりな”全身人形”だって作れる。
居候の身分ではあるが、この体は俺のものでもあるのだ。
それを、どこぞの知らない男と”くっつける”ための算段に使われるのは、まるで肌の上をムカデが這うかのように落ち着かないものがある。
そうしてもう一つ気になるのは、モニカの反応。
なんでも向こうの”お飾り”の方の交渉人の態度が気になったらしい。
「なんか・・・
と、交渉が終わっても”そのこと”に考えを巡らせているようだったのだ。
ちなみにどの辺が懐かしい視線なのかは思い出せないらしい。
・・・大方、サイカリウス辺りが向けた”獲物”に対する視線だと思うけどね。
「ああ!?」
すると、思いにふけっていた俺が、モニカの声で引き戻される。
どうやら、また失敗したらしい。
やはり、どうやっても”水槽”がグチャッとなるようだ。
俺は後方視界に映るガブリエラの様子を窺う。
彼女はモニカがまた失敗したことに若干落胆した様子ではあるものの、それだけ。
交渉人達がアクリラにやってきたことで、なにか変化があるかとも思ったが、そんなことはこの王女様には関係ないらしい。
一応、彼女は向こうの”親玉”の娘の筈なんだけど・・・
これほどまで強い彼女にとっては、そんな”些事”に気を取られたりはしないのかもしれない。
まったく・・・早く俺達もそうなりたいもんだ。
それにしても俺達が仮に”向こうの条件”を飲んだ場合、将来モニカは”公爵夫人”となるわけで、当然ながら”家族扱い”ではあるものの貴族の”最高ランク”になるわけだ。
そうなると仮にガブリエラが王家を継がずに、国王が誰か他の王子なり王女なりに”代替わり”すれば、当然ガブリエラも”それくらいの地位”に落ちてくることになる。
俺はその”事実”に気がつくと、少々奇妙な感覚に襲われた。
随分、身分に差があると思っていたのに、将来的には意外と近い位置に収まるかもしれないというのはなかなかに妙な気分になる。
いや・・・別にあちらの申し出を受けるとかじゃないよ?
もしも・・・”仮に”の話だ。
かなり問題だらけの道ではあるが、でもモニカにはそんな”道”も用意されていると考えると、なんというか”不思議な子だなぁ・・・”と我ながら、この子の奇妙な人生と将来に考えを巡らせてしまうのだ。
するとそんなある意味呑気な俺を他所に、モニカがまた水槽の縁に立って気合を入れる。
「ふん!」
そんなどこか調子の外れた掛け声に、俺の中のモヤモヤの重さが少し軽くなった。
片方が堂々巡りで、もう片方が妙に平常心というのはバランスが悪いかと思ったが、なるほどこれはこれで”健全”かもしれない。
再び水底を駆ける俺達の魔力。
それがまたも薄く形を取り始め、水槽となろうとした時だった。
『いつまで
突然、頭の中に女性の声が鳴り響き、俺達が驚いて水槽を崩してしまった。
水路の水は、まだ浮かべてないので溢れたりはしていないが、それでも水槽が無くなった衝撃でわずかに波立ち、大きくうねる。
そして、その様子を見たガブリエラが立ち上がった。
「おい! 勝手に話しかけるなと・・・」
『ガブリエラ、モニカのためということで従いましたが、ここまで見ていて進展しているようには見えませんでした。 事態の停滞が許容範囲を超えたと判断したため、”タネ明かし”をさせていただきます』
どうやらウルスラの”管理スキル”の声らしい。
俺の中に、そういえば久々に聞いたなという思いと、それがガブリエラの指示に反して勝手に話しかけてくるほど停滞してたのか・・・という思いが湧いてくる。
「モニカ自身に見つけさせるのが面白いんではないか!」
ガブリエラが憤る。
するとすぐにウルスラが反論した。
『否! あの”条件提示”から、その”事実”に論理的思考の下にたどり着く可能性は極端に低いと判断、明らかにあなたの提示に問題があります』
「”事実”?」
なんだろうか?
モニカがそんな意図を込めてその声をガブリエラに向けると、それを向けられた金髪の王女は若干バツの悪そうな表情で髪を弄りだした。
「・・・蓋をしろ」
そしてボソッとそんな言葉を口走る。
「”蓋”?」
「水槽に蓋をしろと言っておる、それで随分と簡単になるはずだ」
そう言って少し膨れたガブリエラは、普段の様子から考えられないほど”幼稚”であった。
モニカから”どうしようか?”といった感情が流れてくる。
『一応やってみようぜ、このままだと、なんか気まずい・・・』
俺がそう言うとモニカが軽くうなずき、再びガブリエラに背を向けて水面に向き直る。
すると後方視界には、若干居心地が悪そうなガブリエラと、その様子を驚いた様子で見つめる周囲の者たちの姿があった。
どうやら俺達、相当珍しい物を見ているらしい。
モニカが、また水の中に魔力を流し込んでいく。
すると当たり前だが、また水中に”底”と”壁”ができ始めた。
だが今度はいつもと違うことが一つ、水面の上に巨大な黒い”蓋”に覆われ、水面が見えなくなってしまったのだ。
これでいいのかな?
『それでは足りません、その蓋の位置を下げて、水を押し付けるようにして下さい』
こ、こうですか・・・?
俺がウルスラの管理スキルの指示に従い”魔力の蓋”を動かすと、すぐにその蓋が水面に触れる、ちょっとこそばゆい感覚が戻ってきた。
どうやら中でうねった波の先が複雑な形で蓋の魔力に触れて、奇妙な感触になっているらしい。
そしてさらに俺達は、その水面を抑えるべく蓋の圧力を強める。
すると必然的に壁や底にかかる圧力も増大し、反対にそれを押し込める力も強くなる。
だがこの感触は・・・
「ロン!」
『おっしゃ、こりゃいけそうだ!』
俺達はそう合図を交わすと、魔力の”水槽”をそのまま上に持ち上げた。
いつもならゆっくりおぼつかない感じで、それも水槽が激しく変形しながらだったが、今は違う。
黒い巨大な立方体は、痙攣するように激しく揺れてはいるものの、その形は崩れずに水が溢れてくることもない。
上下左右、全ての方向から圧力をかけたことで、逆に内部の水が非常に安定していたのだ。
俺達の”黒い立方体”はそのままスーッと上昇を続けると、あっという間にガブリエラの黄金の水槽に高さを並べた。
蓋で密封しただけだというのに、まったく勝手が違う。
こんなに変わるとは・・・
だが、たしかにこれをあの”模範”から自力で導き出せというのは無理がある。
むしろ気づいても駄目なやつにすら見えてしまう。
というか、
「だけど、これでいいんですか?」
俺がガブリエラにそう問いかけると、ガブリエラは若干目玉を動かして視線を外し居心地悪そうに頷いた。
「かまわん・・・今の”過程”で求めた条件は、それで達成されている・・・」
「え? いいの?」
モニカが驚いた声を上げる。
こんなんでいいなら、それこそ先々週には出来ていただろうに。
『ガブリエラの手本は、今の段階では不必要な高等操作を行っています。 そしてそれは”後の段階”まで行ったほうが、理解が早い』
「ええい! よいではないか! 別に今の段階で身につけてしまっても・・・」
『いいえ明らかな”時間の無駄”です』
ウルスラの管理スキルが、ガブリエラの言葉を即座に切り捨てる。
何やら彼女達の中の”力関係”は、かなり複雑のようだ。
それと今日はガブリエラの気が抜けているのも大きいだろう、強い言葉をぶつけてくる自分のスキルにどこかタジタジだ。
これは何か”引け目”があるな。
俺はガブリエラの様子に、そう直感する。
だが、流石にそれを突っ込むほど度胸は・・・・
『過ぎた課題に苦戦するモニカは、可愛かったですか?』
「ぬっ!?」
ああ・・・なるほど・・・
そういやこの人、”いじめっ子”だったっけ・・・
どうやら、まだ分不相応に難度の高い課題に苦戦するモニカを見ながら楽しんでいたらしい。
どうりで機嫌がいいはずだ・・・・・だって遊んでんだもん。
きっと”教え子”が出来ないでいることを、涼しい顔でやってのけるのはさぞ気分がいいに違いない。
俺はその事実にガブリエラの意外な”小ささ”を見た気がした。
だが同時に、もう一つの”事実”を叩きつけられてもいた。
この人は俺達がまだ覚える段階でない技術を平然と使え、さらに見せびらかす余裕すらあるのだ。
モニカもそのことに思い至ったようで、一瞬緩みかけた緊張を再度引き締め、真剣な眼差しでガブリエラを見つめる。
「それで・・・合格?」
そう言いながら、空中に浮かぶ2つの巨大な立方体を指差す。
するとガブリエラが少し虚を突かれた表情になった後、これまた少し真面目顔になる。
「第1段階は、まあ・・・合格でいいだろう。 だがまだ研鑽不足なのは事実なので、これからも、まずは”これ”をやってもらおうと考えておる」
ガブリエラは至極まっとうな表情で頷きながらそう言った。
「それじゃ、”次”を教えて」
するとモニカが即座にそう迫る。
その様子はこれから得るであろう”力”を求めて、クチバシを開けてなく”ひな鳥”の様だ。
モニカのこの”ひな鳥モード”久々に見たな、ルシエラとの”受験勉強”以来か。
アクリラの授業は得るものが多すぎてそういう感じにならなったのだが、やはり自分の力に直接変わるものとなれば、モニカの”がっつき”も増すということだろう。
だが、その勢いはすぐに折られることになる。
「今日はだめだ」
「なんで?」
ガブリエラの言葉にモニカが即座に反応する。
するとガブリエラは上を指差した。
「”蓋”を使った場合、扱いやすくはなるが圧力が上がる分、流す魔力も増える。 もう既に何度も水槽を持ち上げておるからの、今日これ以上は止めておいたほうがいいだろう」
ガブリエラそう言うと、後ろに控えていた観測員に目配せを行う。
するとその観測員が頷いて返す。
どうやらデータとしても、モニカの魔力の使いすぎを検知したのだろう。
視覚ログを振り返ってみれば、ガブリエラは時々観測員たちの方に目線を向けていたので、寛いでいる中でもモニカの様子をちゃんと気にしていたようだ。
「・・・・」
それを見たモニカの表情が露骨に曇る。
さすがに不平を口にすることはないが、今日中に”第2段階”に進めなくて落胆しているようだ。
「そう暗い顔をするでない」
すると、ガブリエラがこちらに歩み寄り、モニカの頬に手を当てて顔を上に向けた。
「第1段階の突破の記念と・・・まあ、
「・・・願い?」
「まあ、そうは言っても大したことはできんが。 珍しい菓子でもいいし、我が家に伝わる魔道具を見せてやってもいい、なんなら私が肩でも揉んでやろうか?」
そう言ってガブリエラがニヤリと笑いながら両手を軽く持ち上げる。
あ、それはいらないっす。
あんたがやったら、絶対、その無駄な魔力を吸った握力で俺達の肩を握りつぶすでしょ。
そうだ! むしろ、それより逆に抱きつかせてもらいたい、そしてできればその巨大な胸に顔を埋めて・・・
「ロンは何かある?」
「ないよ! 特には・・・」
モニカの問に咄嗟に”妄想”が漏れないように、慌てて答える。
ああ・・・あぶない、あぶない・・・
「それじゃ私のお願いでいい?」
するとモニカが少し気恥ずかしそうにそう言った。
なんだモニカは何かガブリエラにやってほしい”望み”があるのか。
「なんだ? 言ってみるがいい。 魔道具か? それとも何か魔法でも教えてやろうか?」
ガブリエラがそう言って面白そうな表情を作る。
モニカが何を欲しがるのかに興味がある感じだ。
俺としては、できれば”抱きつき魔”のモニカさんの心に従ってもらうのが、一番モニカのために・・・
「”くれたり” とか、”なにかしてもらったり” は、しなくていいです。 ただ見たいものがあって・・・」
だがモニカが言ったのは俺の”希望”とは少し違ったものだった。
「見たいもの?」
「メリダが見せてもらった物の中で、興味があるのが1つあって・・・」
「そういえば”あのとき”、メリダ嬢をヘルガが案内したのう。 ”蔵”を見せたんだったな?」
「・・・はい」
なるほど、そういえば”初めての謁見”の時、メリダは色々と面白そうな魔道具を見せてもらってたんだっけ。
モニカはそのことを聞いていたので、そこに興味を持つのは至って”ゴーレム志望”の生徒の普通といえた。
うん、”胸”なんかより遥かに”健全”だ。
俺はうれしいよ・・・・・
「メリダ嬢をそこまで喜ばせるものがあったとは、あの”小屋”も捨てたものではないな。
どれ、申してみよ」
こ、小屋っすか・・・
ガブリエラのあのお屋敷は、俺らの感覚だとどう見ても”豪邸”だ。
俺はその感覚に、久々にお互いの”立場の違い”を思い知る。
ここんとこ毎週、殺風景な水路で一緒にいるせいで麻痺していたが、この少女、そういえばこの国で一番すごいお嬢様だった。
さて、モニカはそんな”小屋”のいったい何に興味を持ったのか。
俺はメリダが見たという魔道具の”リスト”を引っ張り出す。
どれもメリダの推定だが、参考になるのは多い。
特に空間系の魔道具なんかは・・・
「あの・・・・」
だが、モニカが少しモジモジしながら口にしたその”物品”は、そんな俺の・・・いや、
「・・・”玄関ホールの絵”を見せてほしい・・・です、私にそっくりだって聞いたから・・・」
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