2-3【激突! ライバル! 5:~”平和”なある日~】
最近知ったことがある。
”透視能力”というのは、思ってたのと全然違うという事だ。
俺達のいるアクリラという街は、スキル保有者の宝庫でもある。
となると当然ながら、解析スキルでコピーできるスキルの数もなかなかの物になるわけで、”力”の起動待ちのものも含めると、結構な量になっていた。
だが、残念ながらその殆どは俺達の”下位互換”だ。
特に魔力制御系や身体強化系、特定の魔力をブーストするタイプなどが多いが、それは俺の基礎能力の方が全然高性能なのだ。
まあ、”制限”の参考にはなるけれど。
そしてたまに拾う特殊なやつは、その殆どが使い物にならない。
必要な”力”がまだ起動していないか、そもそも持ってないからだ。
今使える特殊なのは、唾液を強酸にする(口の中がエライことになる)、血液を強酸にする(モニカから絶対使うなと念を押されている)、吐き気を催す程の強烈な体臭を放つ(なぜかモニカのウケが良い)、
といった使い所に困るラインナップ。
誰か、乙女の体臭が酷い方がいい場面を教えてくれ。
あとは”感知系”のスキルはよく手に入る。
特に視覚強化系は、皆普段から観察に使っているのか、色々手に入った。
というか、まずアクリラ生になった次の日に、やたら高精度の”望遠視”が手に入ったくらいである。
最初は見られてると言われてるようで居心地が悪かったが、今では慣れたものだ。
なかには紫外線や赤外線を見たり、音波を視覚化したりと面白いものもあり、暇潰しにはちょうどいい。
そしてついに先日、念願の”透視”を手に入れた。
これで覗き放題・・・おっと・・・ええっと、見通しの悪い交差点での安全確認がしやすくなった。
それで俺は意気揚々と使ってみたのですよ。
そしたら吐くかと思った。
人の内側って想像以上にカオスでグロいのだ。
どうやらこの透視スキルは、服だけ透かすような
しかも慣れないと、内臓とか筋肉とか血管とかごちゃ混ぜで、何が何だか分かったものではない。
よくよく考えれば、人のCT画像を見ても嬉しくもなんともないし。
そして別にこんな事しなくても、毎日寮の風呂でもっと”いい景色”が見れるということに気がついて、俺の透視への興味は完全に消滅してしまった。
なお、どういうわけかモニカは色んな物の構造を解析するのに便利だと大変喜んでいる。
その辺を走ってる馬車の車輪の軸構造や、建物の柱の付け方や、意外なところに刻印された魔力回路などを見て、胸を躍らせていた。
どうやらすっかりピカ研のノリに染まってしまったらしい。
おそらく、それが”本来”の使い方と思われるだけに何も言えない。
そして俺達の学生生活は、
ある日の朝のこと、教室の扉を開けると大量の釘が降ってきた。
しかもご丁寧に全部尖った方を下に向けてである。
だが扉の上部に吊ってあるのが透視スキルで見えていたので、事なきを得た。
誰がくれたか知らないが感謝しておこう、モニカの体を覗いたのはそれでチャラにしてやる。
そしてすっかり”工業系”に嵌っていた俺達は、床に突き立った釘を見て大変喜んだ。
前にも言ったとおり、釘というのは実はこの世界では結構珍しい。
しかもどれも10cm位ある大きなものだったので、その姿は新鮮だった。
「へぇ・・・これを打ち込んで留めるんだ」
と、モニカもご満悦である。
またある日の昼過ぎのこと、今度は空から大量の水が降ってきた。
その角度や勢いから逆算するに、近くの公園で誰かが水を空中に留めておく練習をしていて、それをミスってこちらまで飛んできたのだろう。
危ないものだが、この程度はこの街では日常茶飯事。
むしろ真夏の太陽で熱くなった体を冷やすにはちょうどよく、俺もモニカも随分と心地の良い昼下がりを過ごすことが出来た。
また別の日。
今度はいつも使っているロッカーの中に、グチャグチャになった羊の死骸が詰め込まれていた。
そのロッカーは別に貴重品などを置くためのものでなかったので問題ないが、俺達は心の中で今後も大事なものなどは置かないようにと認識を改める。
そしてすぐに俺がスキルでロッカーの中をスキルと魔法を総動員して洗い、更にモニカの指示で羊の肉を適切に処理し、その日の夕食に並べた。
ルシエラとベスも、モニカの作った肉料理(俺監修)に大変満足してくれ、おかげで非常にいい思い出となったのだ。
差し入れ感謝いたします。
ただ、できれば次回はせめて血抜きしてください。
そして他の女子達との戦闘訓練は大変有意義だ。
どうしても遠慮が見られる男子勢と違い、戦いに対して真摯な彼女達は、格上の子も猛然と攻撃してくるし、格下の子も恐ろしいまでの執念で食い下がってくる。
モニカ曰く格下の女子相手との一戦は、格上の男子10戦分の価値があるとのことだ。
嬉しい限りである。
彼女達は他にも様々な”学び”を俺達にくれる。
日常に一挙手一投足、”こうした方がいい”などとか、おかしい作法などについてすぐに指摘してくれるのだ。
そのおかげで俺達も、この世界の”一般常識”を知ることが出来たし、モニカ自身も深くそれを理解することが出来た。
だが、1つ文句をいうならば”ブス”や”ペチャパイ”と言った類の問題は、どのように解決すればいいのだろうか。
それに俺はモニカの顔をブスだとは思わないし、ここの基準でもそうだと思う。
更に言うなら胸の大きさなんて、11歳なら誰だって”ぺちゃぱい”だろう。
偶にびっくりするくらい大きな子もいるけどさ。
まあそんなわけで”人間関係”に困ったことはない。
ロメオの方も暇な厩舎での時間に遊んでくれる相手がいるらしく、俺達が迎えに行くとよく興奮した様子でタックルで迎えてくれる。(いたい)
ときどき、積んでいた荷物が激しく破損したり、返り血のようなものが頭についてる事があるが、相手は大丈夫だろうか?
まあ、ここはアクリラなので少々大量出血したところで、頭が胴体に付いていればどうとでもなるとは思うが。
そして”今”になる。
その日は取っている授業の関係で、たまたま全ての授業が座学だった珍しい日だった。
特に魔力を使うこともなく、授業のある学舎を移動して授業を受ける。
お昼には、これまた偶然近場で授業を受けていたベスと合流して、彼女のオススメの”カフェ”で少し軽めの昼食を優雅に頂き、また別の授業のために移動する。
ここ最近全く経験していない程、本当に何もなくゆっくりと一日が進んでいく。
ただ、いつもと違うのは、最後の授業が”キャンセル”になったことか。
もちろん授業のキャンセル自体は珍しいものではない、先生も研究者や専門家であり様々な理由で忙しい。
今回は、南にある隣町で魔力関連の事故があって、その調査に招集されたのとのことだ。
ご苦労なことで。
こういう時、何をするかは生徒の自由だ。
その時間は教室は空いているので、別に居残って自習してもいいし、次の授業に向かってもいい。
「どうしようか」
『ちょうどメリダも一緒の授業だし、一緒にピカ研に行けばいいんじゃないか?』
「そうだね」
教室のある学舎の廊下に張り出されたキャンセルの”掲示”を見ながら、俺達が今日の予定について相談し、そのまま教室に向かって歩いていった。
面倒なことに、こういうときでも一応授業開始時間には教室に居ないと、色々とめんどくさい。
全て魔力的に管理しているので、”サボり”が発生すると手続きがややこしいのだ。
まあ、そのおかげで確実にメリダと合流できるわけだが。
この授業は数の少ない”白黒傾向の者向け”の魔力の座学の授業で、力に差がある者同士でも関係なく組まれている印象がある。
なので他の授業より比較的バラエティ豊かなメンツが揃いやすい。
まあ、受講者の身につけるものの色が黒と白に偏るので、モノクロの印象が強まるのだが。
そして授業が行われる”予定”だった2階の教室まで、モニカがスタスタと歩き、その重々しい扉を開く。
「あ・・・」
すると、扉の先に居た角の生えた男子生徒と目があった。
だが、どういうわけかモニカの姿を見ると気まずそうに目を伏せる。
なんだろうか?
近くの生徒も同様の反応だ。
モニカが若干いつもと違う”空気”に、警戒しながら教室の中に入る。
予想通り、先生の姿はなく、部屋の前の掲示板にもこの授業がキャンセルされたことを知らせる掲示があった。
アクリラの教室は黒板もホワイトボードもないが、こうして様々な連絡を知らせる魔力稼働の掲示板が置いてある。
そしてモニカがそれを一瞥すると、やはりなんだか様子のおかしい生徒達に目を向けた。
最初に気付いたのは俺だった。
『・・・・!?』
視野の広い後方視界の方に”それ”が写り込んだ。
そして、それは間違いなく”緊急”を知らせる案件。
だが同時に、そのあまりにショッキングな光景に、モニカに伝える言葉が思いつかず、どうしていいか混乱してしまう。
そしてモニカも俺の状態に気が付き、何事かと視線を後ろに向けた。
そこには不自然に生徒が居ない”空間”があった。
いや、違う。
生徒はいる。
「・・・モ・・・ニカ」
「メリダ?」
声を掛けてきた生徒に対して、モニカが怪訝な顔で聞き返す。
それは間違いなく、毎日ピカ研で俺達と一緒に学び働く、モニカの友人だった。
だがその様子は、いつもと同じではない。
脳天気に明るかったはずの彼女の顔は苦痛に歪み、薄紫色の体はそこかしこがドス黒く腫れ上がっていた。
おしゃれに着こなしていた制服も泥やインクで汚れ、付けていたアクセサリーや持ってきたカバンの中身が無残に床に散らばっている。
そして活動的な彼女のトレードマークとなっていた、2輪式のゴーレム台車は、車軸が破壊され歪んだタイヤと穴の空いた台車部分が、まるで戒めのようにメリダの体に寄りかかっていた。
「モニカちゃん・・・・」
「メリダ!!」
変わり果てた友人の姿を見たモニカが、教室の中を一瞬で駆け抜けて友人の側に近寄る。
「誰にやられたの!?」
メリダに寄りかかっていた台車をどけながら、モニカが問う。
すると不快な”クスクス”という笑いが、教室の中に響いた。
「転けただけ・・・だから・・・気にしないで」
「転けただけで、
メリダの言葉に、モニカが反論する。
だが、メリダはちからない体を動かして、モニカにすがりついた。
「”私の問題”だから・・・モニカちゃんは気にしないで」
メリダは必死な顔でそういった。
その瞬間、俺達は”理解”した。
メリダは俺達に、自分が被った”火の粉”が行かないようにしようとしているのだ。
そして同時に、その”火の粉”は本来俺達に襲いかかった”火”の一旦であると。
その証拠に、教室の中の”クスクス笑い”は先程よりも勢いを増し、小声で俺達に罵声を呟いていた。
そしてその罵声は、メリダのものではなくモニカを指していた。
”ちょうしにのるな” ”20位台のくせに” ”芋虫としか仲良くなれないくせに”
ああ、同い年の諸兄よ。 愛しの学友達よ。
モニカが縋り付いていたメリダの手をそっと外し、散らばっていた物品をさっと手で避けてそこに彼女の体を横たえた。
そこで気付いたが、メリダの体には焦げたり、凍ったりした跡が見られる。
おそらく魔法で攻撃されたのだろう。
普段生徒を守ってるアクリラの防御魔法は、その殆どが生徒間の争いには反応しないと聞いたことがある。
そうでもしないと不都合が多いので、一定以上の重症を伴う行為以外は”喧嘩”として黙認されているのだ。
だがそれを悪用されたらしい。
「・・・ロン」
『・・・なんだ?』
「・・・校長先生に ”義”と”利”、どちらか即答できなければ”利”を選べって言われたよね」
『・・・言われたな』
それは魔法士の心構えを示す言葉。
この場合”利”とは、友人を見捨てて何もしない事。
今後のことを考えるのならば、そちらを選ぶのが”正しい選択”だ。
そして今日まで自分達に降り掛かってきた”火の粉”に対しては、必ずそうしてきた。
だが・・・・
「わたしね・・・
モニカの目には、いつの間にか僅かな”水”が溜まっており、それが蒸発することで赤く腫れた目の周りをそっと冷やす。
『わかった・・・・・・
そう答えた俺の心の中の冷静な部分が、”これで居づらくなるな”と警告を発していた。
だが、どうせいつかはバレるんだ。
もう既にアクリラ生なのだ。 何を憚る必要がある?
命の保証が有る以上、友人をこんな目に合わされてまで、あと何を守るものがある?
次の瞬間、”ガスッ!!”っという大きな音が扉からして、生徒達が何事かと扉を見つめた。
そこにはそれまで無かったはずの金属製の器具が、隙間に挟まって扉を固定している様子があった。
生徒達がそれに対してざわめき出す。
なんてことないよ、ただ固定具を扉のところまで”転送”しただけだ。
すると続いて、窓の方から”ズガガガガガ”と連続して何かが穿たれる音が響く。
それも、なんてことない、同じ固定具を窓に”転送”しただけ。
「1人も逃さない・・・・」
モニカのその言葉は、とても小さなものだったのに、恐るべき迫力で以って教室の中を飲み込んだ。
「お、俺達は、何もしてないぞ!?」
その迫力に扉付近に居た男子生徒が、悲鳴のような声を上げる。
だがモニカはそれを視線だけで黙らせた。
「メリダを助けなかったでしょ?」
「で・・・でも・・・」
「今日・・・この教室から出る時は全員、メリダより”惨めな格好”をしてもらう」
モニカのその”宣言”に、メリダも含めその場に居た全員の表情が凍った。
「はぁ? ちょうしこいてんじゃねぇぞ、この糞チビ!」
すると1人の女子生徒がそう叫びながら、俺達の前に名乗りを上げた。
たしか・・・彼女は1組7位の・・・そう、この前ルーベンに一瞬で負けて泣いていた子だ。
あの時は”か弱い”女の子かと思ったが、こうしてみると、なるほどモニカを”チビ”と呼ぶくらいには体格が大きく、圧迫感が凄い。
たしか魔力量が多く、それで圧倒するタイプだった筈だ。
「ルーベン様に見てもらってるからって、自分が強いと勘違いしてるんじゃ・・・・」
その言葉は最後まで放たれることはなかった。
次の瞬間、恐ろしい速度で教室の中を駆け抜けたモニカの腕が、その子の顔面に突き刺さったのだ。
そしてそのまま、大きな音を立てて机を破壊しながら、教室の中を移動していく。
鎧袖一触とばかりに机や椅子を吹き飛ばすモニカに驚いた女子生徒たちが、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように”進路上”から飛び退き、
最後に掴んでいた女の子を教室の最前面の壁に叩きつけると、部屋全体が地震のように軽く揺れる。
だが感心したことに、それでもその子は無傷だった。
「・・・ぐっ、この糞チビが・・・・」
そしてその悪態をこちらに吐きつけると、彼女の後ろに巨大な魔法陣が出現し、そこに大量の魔力が注ぎ込まれた。
”普段”なら、それは一撃で俺達の敗北を決定するだけの威力の攻撃である。
だが今は
その子の黒い魔法陣が完成し、効果を発揮する刹那、
その魔法陣がモニカが放った大量の魔力に掻き消された。
「!?」
その子の目が驚愕に染まる。
魔法陣自体を消し去るなど、見たことがないのだろう。
これは最近ルシエラに教えてもらった、”ガブリエラにやられて嫌だった事” の第3位。
実は、殆ど触れられることができないと思われがちな他人の魔法陣であるが、その例外がいくつか存在する。
その一つは、大量の魔力を高速でぶつけられると、魔法陣と術者を繋ぐ魔力の”パス”が切れてしまうというもの。
尋常じゃない量の魔力が必要だが、幸い魔力の在庫はある。
まさに俺達向けの小技といえた。
そしてそのままバラ撒いた魔力を、今度は一箇所に集め臨界させて爆発させる。
流石にこの程度の魔力量で大爆発とは行かなかったが、そのおかげで俺達はノーダメージ。
もう遠慮せず潤沢な魔力を注ぎ込んだ身体強化は、この程度の爆発では熱さすら感じない。
だが、その直撃を受けた女の子の方は只では済まなかった。
流石に魔力が多い方だとしても、今の爆発を受け切るには足りなかったのだ。
艶のあった黒髪は熱で縮れ、整っていた顔が腫れて鼻血が出ている。
だが、そんなボロボロの女の子の顔に、一瞬だけ笑みが混じったのをモニカは見逃さなかった。
もはや本能というべき速度で危機を認識すると、俺が警告するよりも先に足元の瓦礫の中から”ペン”をひっつかみ、勘だけで後に突き出した。
すると手に柔らかい感触が。
後方視界には、獣人の女の子が俺達を攻撃しようと腕を伸ばしかけていたが、
その肘のところにペンが突き刺さり、更に俺達の肘がその子の柔らかな胸を穿って止めていた。
獣人の少女の顔が苦痛に歪む。
さらにそのままモニカは乱暴に相手の肘に刺したペンを動かして、そのままその少女を地面に叩きつけると、続けて顔面を踏みつけ意識を奪った。
そして、モニカがその子の肘から血のついたペンを引き抜いて、血を舐め取る。
「まずい」
モニカが吐き捨てるように、意識のない獣人の少女に己の血の味の感想を伝えるが、その言葉と裏腹にモニカの体は久々の感じた血の味に興奮を覚えていた。
そしてそのままくるりと、手の中でペンを一回転させると、再び後ろに向かって突き出す。
下から掬い上げるように動いたペン先は、
モニカの狙い通り正確に、もう1人突っ込んできた女子生徒の鼻の穴の中に潜り込んだ。
「ひっ!?」
突然鼻腔に入り込んだ異物に動きを止められ、その生徒が恐怖の表情でこちらを見つめる。
彼女は確か戦闘授業で15位で、足下の獣人の子が12位とかだったはず。
つまり今しがた制圧した3人は、試合ではモニカより格上、実際に勝った記憶のない相手だ。
だが”制限”のない俺達が、大量の魔力を使って行う身体強化は、それだけで彼女等を圧倒できる。
そのことを薄っすらと察したのか、教室全体にモニカに対する恐怖の感情が伝播した。
「やめて・・・」
鼻にペンを突っ込まれた少女が懇願するように、そう呟く。
「メリダの時はやめたの?」
「・・・私じゃない・・・その子よ」
そう言ってあっさりと仲間を売る少女。
売られたのは俺達が最初に攻撃した女の子。
実際、”これまで”も彼女が常に率先して、嫌がらせをしてきた。
それは知っている。
だが、
「言ったでしょ? この教室を出るときは、
実はこの子が”共犯”だって事は、すでに調べはついていた。
だがそれを伝えるまでも無い。
モニカにとってはこの場にいる”全員”が、報復の対象なのだ。
そしてそれを宣言するかのように、少女の中のペン先がもぞりと動き、鼻の中から真っ赤な血が流れ落ちた。
だがそれだけでは終わらず、モニカの腕に力が溜まっていく。
「
自分の鼻の”運命”を察した少女が必死にそう懇願する様子を、モニカは冷めた目で見ていた。
「鼻を捨てれば、攻撃できたのに」
相手の行動を冷静に分析し、そう吐き捨てると、大量の魔力が籠もったモニカの腕が
だがその動きは、その寸前で止められる。
驚いた事に凄まじい力を持っているはずのモニカの腕が、誰かの手によって止められていたのだ。
モニカが目だけを横に動かし”そいつ”を睨む。
「なんで”君”が?」
モニカが獲物を取られて不機嫌とばかりに、棘のある声で”そいつ”に問う。
「こいつらは関係ない・・・・全部僕がやった事だ」
「・・ルーベン様」
俺達を止めたルーベンに、下にいた女子生徒が反応する。
だが俺達は混乱していた。
ルーベンが犯人なわけない。
いつも決まって、彼が近くにいない時に事は起こっていたし、今日だって彼はまだ到着する前だ。
その証拠に、今しがたルーベンが扉を突き破るまで、この教室には彼の姿はない。
つまり”無罪”である。
「何で庇う?」
「庇ってなんかないよ、僕が”本気のモニカ”と戦うために仕組んだことだ」
ルーベンがそう言うと、モニカの腕を掴んでいる手に大量の魔力を流し、その力でモニカがペンを放す。
だが、モニカはそれに対抗するように、大量の魔力を腕に流し込み、逆にルーベンの腕を押し返す。
「やっぱり、力を隠していたな」
「だから何?」
ルーベンの言葉に、モニカが冷たい声で聞き返す。
「ここにいる生徒に”制裁”を加えたいなら、”本気”の君の力で、僕を倒してからにしろ」
ルーベンがそう言うと、彼の体から凄まじい勢いで魔力と何かのエネルギーが立ち上り、その”何か”が教室を支配する。
人の体からこれ程の”力”が立ち昇るのを、俺達は見たことはなかった。
だが、
「!?」
次の瞬間、鼻の危機から開放された生徒が俺たちを見て腰を抜かし、さらにもう一人が必死に意識のない獣人の生徒を引っ張りながら、”危険地帯”から這い出す。
そこではモニカの体から噴き出した大量の魔力が、ルーベンの力を押し返していた。
2人の放ったエネルギーは、激しくぶつかり混ざり合い、それだけで台風の様に周囲の破片や紙を巻き上げ、モニカとルーベンの力が普通でない事を物語っていた。
そしてその様子を見たルーベンの目が驚愕に見開かれ、頬を冷や汗が流れ落ちるのが見える。
だがその表情は、歓喜に満ちているかの様に満面の笑みだ。
そしてそれを見た俺達は、この”衝突”が避けられないものだと悟る。
「分かった・・・君から”潰す”」
モニカの言葉は、まるで神の宣告の如くその場にいた生徒達を釘付けにし、
そこに居た全員が、自分達が2体の”怪物の供物”にされた事を静かに悟ったのだった。
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