2-X2【幕間 :~面倒事の予感~】


 教練場に元気な声が響き渡る中、ルーベンは1人もの思いにふけっていた。

 するとそんなルーベンの気分など全く気にしない、気の抜けた声が漂ってきた。


「あー、みんなかわいいなー」


 ルーベンは若干憂鬱になりながら、すぐ横で嫌にニコニコした表情の友人のアデルの様子を窺う。

 ルーベンと対象的にトゲのない柔らかい顔のアデルは、訓練中の女子の姿を目で追っていた。

 アデルは幼い頃から”家族ぐるみ”の付き合いでよく知った仲だ。

 ルーベンを恐れる同級生が多い中で、気さくに接してくれる貴重な存在でもある。

 だがこの女子に対する”だらしなさ”はどうにかならないものか。


 今は北の郊外にある大きな教練場で戦闘訓練の授業中だ。

 といっても直接戦う授業ではない。

 それどころか、どちらかといえば”運動”に近かった。


 あれだ、街の子供が木を登ったり、家の壁を駆け上がったりするやつ。

 ただ、”ここ”の運動は少々”高度”である。

 ルーベンは視線を、今しがた目の前を駆け抜けていった生徒に向けた。

 その生徒は、なめらかな動きで10ブル(10m)もある小山のような障害物を手もつかずに飛び越え、その先の紐を掴んで片腕の力だけで揺らし、遙か先の足場に飛び乗ってしまった。

 そして、その様子を見てわかるとおり、この授業は障害物を避けながら進んでいく”アスレチック”の形を取っている。


 魔法士にとって移動能力は死活問題だ。

 得意なのが遠距離戦だろうと近距離戦だろうと、常に最適な位置に陣取らなければそれだけで不利である。

 なので、こういった障害物を乗り越える訓練は、誰であろうと必須となっていた。

 ただ、どうしても得意不得意が出やすい科目でもあり、ルーベンがトップではない数少ない科目でもある。

 それでも”条件”を揃えるために、この授業には”非人形ヒトガタ”の生徒は来ていない。

 大きな障害物も、魔獣の生徒にはなんでもないものになるし、小さな生徒だとそもそもそれを”障害物”と捉える場面が違ってくる。

 なのでこの授業では”体長”1ブル(1m)〜3ブル(3m)程度の範囲の身長の生徒が対象だ。


 だがそれでも生来の身体能力が生きる科目とあって、獣人系の生徒がめっぽう強く、ルーベンでさえ追いつくことはできないでいた。

 そして、それと反対に極端に”苦手”な生徒も発生する。


「メリダ、ガンバレ!」


 教練場に声援が飛び、その”声”に反応したルーベンが視線を向けると、そこに友人を応援するモニカと、その声援を受けて必死に障害物を登る巨大な芋虫の姿が目に入ってきた。

 あの芋虫、メリダというのか、いくつかの授業で見かけたが、戦闘系の授業は取ってない。

 運動系の科目が被ることはあるのでおかしくはないが、今回彼女は非人形向けの授業なので偶々会場が被ってるだけだろう、ルーベンたちとは別メニューのコースを通っている。

 だが、その芋虫が普段乗っている大きな車輪付きの台車はこういった地形には不向きで、メリダは文字通り芋虫のごとく這うように障害物を登っていた。

 そしてその横を猛スピードで獣人の生徒が通過していく。

 本当に同じ授業を受けている生徒とは思えない差だ。


「メリダちゃんも可愛いなー」

「!?」


 突然なされた相方アデルのその”狂言”に、流石のルーベンも目を見開いて身を引く。


「アデル・・・まさか、あんなの・・・・でもいいのか?」


 ルーベンが恐る恐るそう問いかけると、驚いたことにアデルが表情を変えて怒り出した。


「あんなのとは失礼な! メリダちゃんは可愛い女の子だぞ! それともルーベンは二本足で胸がついてないと女の子だと思えないの!?」

「あ、いやすまん・・・」


 アデルのあまりの剣幕にルーベンは咄嗟に謝ってしまった。

 だが同時に、お前は”女の子”ならそれだけでいいのか? と言い返したい衝動に駆られたが、それをぐっと堪える。

 どうせ”それだけでいい”と即答されるのは目に見えていた。


 ちなみにルーベンとアデルが2人揃って端の方から見学を決め込んでるのは、別にサボっているわけではない。

 この教練場の大きさに対して、生徒が多いので順番待ちをしているからだ。

 それにこうして眺めているだけでも、学ぶことは多い。

 特に獣人系の身体強化はルーベンから見ても惚れぼれするものがある。


 ただアデルの方はルーベンと一緒だと”1人”になれるから、近づいてきているフシがあった。

 ちなみにルーベンの人数はカウントしない。

 アデルはこんな性格の割に女子から非常に人気があり、いつも周囲に何人かの女子がくっついているのだが、流石にルーベンに近寄るときだけは、女子の集団が剥がれてくれる。

 そして女子の姿が見えなくなると、決まってアデルはくだらない女子への”憧れ”を呟いていた。

 なんとなくだが、おそらくアデルは女子の前では”猫”を被っているのではないかと思う。

 だから息苦しくなった時に安全地帯ルーベンの近くへ避難して、己の欲望をぶち撒けるのだ。


「あ、モニカちゃんが走るみたいだよ」


 アデルがそう言って、ルーベンの肩を軽く小突いた。

 その言葉通り、名前を呼ばれた小柄な少女が未だ”登山”中の友人に別れを告げて、スタート位置へとスタスタと歩いていった。

 ルーベンはそれを無意識に目で追う。

 だが、それは別におかしな事ではない。


「モニカちゃん凄いよね」

「そうだな」


 驚く事に、モニカはこの授業でも20位台をキープし続けていた。

 順位はつかない授業ではあるが、それでもそれはモニカの成績が獣人や獣の生徒と比べても遜色ない身体能力があることを意味する。

 当然”真人間”の中では1番速い。

 あの小さな体躯のどこにそんな身体能力があるのか。

 モニカ自身は気にしている様子はないが、その動きなどは密かに他の生徒の注目の的だった。


 だがルーベンはそこに、複雑な感情を混ぜていた。

 あの”負け”から数日、既にルーベンは平静を取り戻している。

 それでも、”手心を加えられた”という思いは払拭できない。

 ただ、モニカの様子を見る限り、手加減しているのは別にルーベンに対してだけではないことが分かってきた。

 それは、あれほど”奇妙”な特化型にもかかわらず、全ての授業で20位台という”奇妙”な成績にも現れている。

 まるで、その順位が良い・・・・・・と言わんばかりの対応だ。


 コースでは、スタートの合図と共に、モニカが白い閃光のように駆け抜けると、あっという間に彼女の友人を抜き去って、障害物を飛び越えた。

 驚くのはそこからで、なんとそのまま反対側の足場まで飛び乗ってしまったのだ。


「どうやったら、あんな動きができるんだ?」

「魔法は使ってなさそうだけど」


 ルーベンとアデルが口々に意見を述べる。

 モニカについて一番驚かされるのは、空中でのバランス感覚。

 まるで猫のように自在に姿勢を変え、正確に目標に飛び移っている。 

 あれに関しては、獣人系の生徒ですら及ばないレベルだ。

 あれはもう空中に”馴染んでる”といった方がいい。

 どうやったら、あんな技術が身につく?


「ひょっとすると・・・」

「うん?」


 モニカは飛行系のスキルを持っているのかもしれない、それもかなり高度な・・・

 魔法やスキルが禁止されてる授業なので使えないが、”そこ”でバランス感覚を養う事はできる。

 するとモニカの様子を見ていたアデルが、感想を述べた。


「モニカちゃんって、”足”がいいよね」

「そうだな」


 実際、あの馬鹿げた機動性の大半を生み出しているのは、彼女のかなり鍛えられた下半身によるところが大きい。


「しっかりしてるというか、ムチッとしているというか、それでいてスラッとしてる」

「密度が高いんだろうな」


 筋繊維の量は、そのまま強化量に繋がる。

 力を倍にしたければ、かけられる魔力を倍にするよりも、筋肉を倍にしたほうが効率がいいのだ。


「それに、チラチラ見えるお腹が、とっても綺麗で、”グッ”とくるよね!」

「確かに」


 気をつけないと目で追いやすいヘソの部分に気を取られるが、それよりもその周りの健康的な筋肉に注目しなければならない。

 アデルの言うとおり、激しく動く中ではためく制服の裾の先に見える腹筋はかなり綺麗なものだった。

 モニカは暑がりなので、制服をわざとはためかせて、”冷却”に当てているところがある。

 そうでもしないと冷却が追いつかない強力な筋肉であることの証左だが、同時に腹筋の使い方がかなり見やすくて助かった。

 そしてルーベンは腹筋以上に、腰回りの発達した筋肉に目が行く。

 この様子だと”内側”の筋肉もかなりのものだろう。

 ルーベンは確認のために自分のスキルを起動し、その力でモニカの”内側”を透視する。

 少々燃費の悪いスキルのために普段は使わないが、モニカの力の”底”を見るには仕方がない。

 すると、ルーベンの視界の中のモニカの姿が透け、内臓や筋肉の動きが目に入ってきた。


「・・・やっぱり」


 予想通り、いやある意味予想以上に内側の筋肉は発達していた。

 それに密度が桁違いだ。

 ルーベンやアデルの、比較的”標準的”な筋肉とは”モノ”が違う。

 あの腹筋と腰回りの巨大な筋肉の連携が、強い”ねじれ”の動きを作り出し、空中での猫のような姿勢制御を可能にしてるのだろう。


 ルーベンは少しの間透視の感度を切り替えながら、モニカの動きを観察していた。

 だが突然、強烈な”寒気”に襲われる。

 そして、モニカの視線がこちらに向いたような気がして、ルーベンは慌てて”透視”を打ち切った。

 バレたか?


 だが、モニカ自身に見られた様子はない


「気のせいか・・・」

「?」


 やはりモニカは得体のしれないところがある。

 今もそうだが、観察してる筈のこちらが逆に観察されている・・・・・・・・・かの様な寒気を覚える時があるのだ。


「あと、お尻!」


 すると横にいたアデルが、結論とばかりに元気のいい声でそう言った。


「そこだな」


 そしてルーベンもそこに大きく同意する。

 モニカのあの運動性に、パワーを与えているのは、間違いなくあのバランスよく纏まった”大臀筋”だ。

 足が地面を捉えると、まるで火薬のように瞬間的に強烈な力でそれを弾き飛ばし、推進力に変えている。

 あれがあるだけで移動はかなり機敏になるだろう。

 ただ仮にルーベンにあの”臀部”が有ったとしても、使い切れるとは思えないが・・・


「こう、プリンとしているのに、キュッとしているのが、とっても”かわいい”よね」

「それはどうかな、立体感と密度感は同意するが、”かわいい”はない、あれは”魔獣”の筋肉だ」

「? 何言ってるの、ルーベン?」

「モニカの尻の話だろ?」


 ルーベンとアデルがお互いの顔を見合わせる。

 明らかになにか噛み合ってない様子だ。

 何だ? 今の話題は、モニカの機動力の考察ではないのか?


 そこでルーベンは今の会話を思い返してみる。


「・・・・」


 もしかして、これはアデルのいつもの”女子”に対する”妄言”の類だったかのか?


「はあぁ・・・・」


 ルーベンが大きな溜息をつく。

 これは真面目に相手して損したかもしれない。

 すると、そんなルーベンとアデルに横から特徴的な澄んだ声の女子が話しかけた。


「おい、そこの変態2人!」


 そこにはこの学年の”アイドル”的な存在のエルフの女子が、柄にもなく不機嫌な様子で腰に手を当ててこちらを睨んでいた。


「なんだ、シルフィーじゃ・・・」

「シルフィィィ!! 会いたかったよ!!」


 突然狂声上げたアデルが、ルーベンの言葉を遮ると、そのまま飛び込むようにシルフィーに抱き着きにかかった。

 だがその愚行はいつものように・・・・・・・、すんでの所でシルフィーがアデルの顔面を鷲掴みにすることで終了する。


「あででででで・・・いだいよジルビー・・・」

「だれが、ジルビー・・・・よ」


 この流れも半ば”お約束”だ。

 アデルはシルフィーが反応できると信じてるから飛び込むし、シルフィーもアデルが本気じゃないと知っているから遠慮なく鷲掴みにする。

 だが、見知ったエルフの少女はいつもと少し様子が違っていた。


「まったく・・・2人揃って何を話してるかと思えば・・・」

「別に、優秀な生徒の観察をしているだけだが」

「その”目”がいやらしいのよ」


 シルフィーがルーベンの目を睨んだ。

 彼女はどうもルーベンが”透視”を使うのを激しく嫌がる傾向がある。

 どうしてだろうか?

 それにシルフィーの”目”だって、ある意味ルーベン以上に”見える”というのに。

 するとアデルが”顔面鷲掴み”の状況から脱出した。


「そうだぞ! ルーベンの目はやらしー 僕にもその透視スキルよこせー って、あだだだ」

「馬鹿なことを言うのは、この口かぁ」


 尚も妄言を続けるアデルをシルフィーが即座に捕まえて、再び顔面鷲掴み状態に持ち込んだ。


「どうしたシルフィー、今日はやけに機嫌が悪いな」

「あなたのせいよ、ルーベン」

「僕のせい?」


 ルーベンが何事かといった表情で聞き返す。


「あなた最近、ずっとモニカのことばかり見てるでしょ、だからルーベンの”取り巻き”の女子たちがモニカに嫉妬し始めてるのよ」

「ルーベンって、モニカちゃん大好きだもんね」


 何を言っている?

 アデルが更に妄言を続けたが、そっちは無視する。

 なにせ聞き捨てならない情報が、


「僕に”取り巻き”なんていないぞ!?」


 ルーベンが声を上げて憤慨した

 今日の今日まで、話しかけてきた女子すら、シルフィーと・・・モニカ・・はかけてきてないな・・・

 だが、


「あなたが知らないだけでたくさんいるのよ、近寄り難いから遠くから見ているだけだけど。 だから余計にルーベンを怖がらずに近づくモニカに嫉妬してるのね」


 ルーベンはその話の理不尽さに、心の中で悪態をついた。


「また迷惑な・・・だけど、それならシルフィーだって僕に話しかけてるじゃないか」

「・・・ほうだよ・・」


 ルーベンの言葉に、顔をさらに深く鷲掴みにされたアデルが同意する。


「私はいいの。 ルーベンの取り巻き100人ともアデルの取り巻き40人とも、もう既に”解決済”よ」


 シルフィーがそう言って腕を組む。

 彼女のことだからおそらく”力づく”で解決したに違いない。

 だがそれより・・・


「100人!?」 


 聞いてないぞ、そんな数。


「というか、なんでアデルより僕の方が多いんだよ」

「アデルの取り巻きの半分は”ルーベン狙い”だからよ」

「ええ!?」


 明かされる衝撃の事実に、アデルがこの世の終わりみたいな声を上げた。


「それでこのままだと、ルーベンの取り巻きがいずれモニカに手を出すわ、なんとか回避しようとしてるけど無理そう・・・」

「つまり僕がその子達に、落ち着くように言えと?」


 ルーベンがそう答えると、シルフィーの表情が険しくなった。


「それをやらない・・・・様に、釘を刺しに来たのよ」

「なんで?」

「あなたが出れば、それこそ”カド”が立つでしょうが! ”ぶつかる”までは手出し無用よ」

「”ぶつかる”?」


 突然出てきた物騒な言葉に、ルーベンが怪訝な表情を作る。


「今のモニカは他の生徒にとって”異物”なの、だから周りが”力関係”が分からなくて混乱してる」

「だからぶつけてわからせると?」

「そう、でも、もしルーベンの取り巻き100人と”怒った”モニカがぶつかったら、どうなると思う?」

「モニカが勝つ、それも圧倒的に」


 シルフィーの問にルーベンは自分でも驚くほど、あっさりと結論が出た。

 そしてその言葉にシルフィーが深く頷く。


「そう、だから”フォロー”が必要だわ、じゃないと”血”を見る」

「ちょ、ちょっとまってよ・・・」


 話の流れに疑問を持ったアデルが、流石に真面目な様子でシルフィーの手を振りほどいた。


「モニカちゃんは強いけど、20位くらいだよ? もっと強い子も混じってるだろうし、いくらなんでも女子100人相手じゃ・・・」

「見てルーベン、アデルでもこの認識よ、他の子はどうだと思う?」

「モニカの”強さ”に気づいてるとは思えないな」

「ルーベンまで・・・」


 ルーベンはアデルのその呟きを手を上げて途中で止める。


「本当に、女子100人よりモニカの方が強いと思うか?」

「言ったでしょ、ルーベンより強い・・・・・・・って、”エルフの目”を誤魔化せるものなんてないわ」


 ルーベンはそこで不本意ながら心の中で納得した。

 ”エルフの目”まで持ち出されては、反論の余地など無い。


「先生に言うのか?」

「必要なのは”ストッパー”じゃなくて”フォロー”よ、先生が止めても”火”は消えない、お互いに”本当”の力関係を理解するまでは収まらないわ」

「その”役目”を僕にやれと?」

「もし女子100人がモニカを傷つけそうなら”私”が女子100人を止める。 もしモニカが他の女子を傷つけそうならルーベンがモニカを止めて」

「なんで僕の方が”難しい”んだよ」

「はあぁ・・・これだから”男子”は、反対だと”禍根”が残るでしょうが・・・」


 シルフィーがそう言って顔を抑えて嘆いた。


「でもモニカの方が僕より強いんだろ? どうやって抑える?」

「”黒幕は僕だ”とでも言って、怒りの矛先をルーベンに向けてよ、あなたなら怪我くらいで済むでしょ? それとも”かよわい”私にあんな”怪物”押し付けるの?」

「今まさに、その”怪物”を僕は押し付けられたわけだが・・・」


 それにシルフィーがか弱いとか何の冗談だ。

 ルーベン的にはモニカに匹敵するくらい底の見えない不気味な存在だと言うのに・・・


「それが”1位様”の仕事よ! 1人で無理そうならそこの”ヘンタイ”も連れていけばいいでしょ、2人ならなんとかなるんじゃない?」


 シルフィーはそう言ってアデルの方を向いた。

 だが2人に見つめられたアデルの顔には”勘弁願いたい”と書いてある。

 シルフィーにルーベン以上と太鼓判押されてる奴を抑えるなんて御免だ、という感じだ。


「アデルも良いって」

「いやいやいやいやいや・・・」


 シルフィーの言葉にアデルが全力で首を振るも、シルフィーは取り合わない。


「それじゃ、その時は任せた・・・からね!」


 そしてそれだけ言うと、シルフィーが踵を返してどこかへ向かい始めた。


「どこへ行く?」

「”調整”よ、モニカの”追っかけ”男子グループに釘を刺しに行くの。 あいつらまで出てきたら収拾がつかなくなるから」

「なんだ・・・それは?」

「まさかルーベンの”同類”がいないとでも?」

「僕は別に”追っかけ”じゃ・・・」

「”観察”してるんでしょ? 何か理由つけて。 まったく私の・・学年の男子ときたら、可愛い子にだらしがないんだから・・・」


 シルフィーは最後にそう言うと、足早にこの場を去っていってしまった。

 そしてすぐに近くにいた何人かの男子集団に声をかけている。


「”あいつら”が、ルーベンの”ライバル”かー」

「・・アデル」

「はいはい分かってるよ、”見てるだけ”なんでしょ?」

「・・・・・」


 ルーベンはその”茶化し”には答えず、モニカの様子に目を戻した。

 モニカは既にゴールしており、それどころかスタートまで戻ってきて、未だ障害物に苦戦する彼女の友人に心からの声援を送っていた。

 だが、そこには驚くほど”疲労”の痕がない。

 それはルーベンとシルフィーの見立てを裏付けるものだ。


 このまま行けば、またモニカと戦うことになるのか・・・

 それも今度は”本気”の可能性が高い。

 望んでいたこととはいえ、いざその可能性が出てくると素直に喜べなかった。

 なにせ同級生間の”トラブル”に首を突っ込めというのだ。

 

「面倒なものを抱えてしまったな・・・」

「ルーベンは良いよ”自己責任”だから、僕は”とばっちり”だ」

「アデルは被ってる授業が少ないから安心しろ。

 だがアデルの方が”へんな目で”見ていただろ」

「ルーベンには負ける」

「そうか? ”お尻がかわいい”とか言ってたのはどこの誰だ?」

「ルーベンじゃないの?」

「・・・?」


 ルーベンはそこで固まる。

 あれ、どっちが言っていた?

 なぜかそこにアデルと即答できない自分がいた。


「それにモニカちゃんはお尻よりも、”首元”が綺麗だよー」

「・・・・」


 そう言って、またニヘラっと笑みに表情を崩すアデルの妄言に、ルーベンが押し黙る。

 あやうく”そうだな”と即答しかけた自分に驚きながら・・・


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る