2-2【学生生活 9:~交渉の後で・・・~】


「おお、モニカ!」


 ”ピカ研”の扉を開けると、”本工場”のゴーレムを分解していたベル先輩がこちらを向いて嬉しそうに声をかけてくれた。

 だがその緩んだサメ顔は俺達の後に立つ人物を見つけると、すぐに引き締まったものに変わる。


「おっと、スコット先生も一緒でしたか」

「ああ、”注文の品”の確認に来た」


 スコット先生がそう言うと、ベル先輩が小さくうなずく。


「お待ちしてました、2階までご案内します」




 俺達はあの”交渉”の後、相手の交渉人が北の外れにあるマグヌスの”駐屯地”に帰っていくのをアラン先生が確認してから、スコット先生と一緒にこのピカティニ研究所にやって来ていた。

 どうもアラン先生はアクリラのどこに誰がいるのか把握しているらしい。

 この街にはプライバシーは無いようだ。


 スコット先生がピカ研に来たのは、ベル先輩にスコット先生が注文した”品物”の途中経過を見てほしいと言われたから。

 一体何を注文したのか、それは見るまでのお楽しみらしく2人共教えてくれなかったのだ。


 べル先輩が今しがた行っていた作業を中断し、手早くゴーレムを元の状態に戻すと研究所の中を先導しながら俺達を案内してくれた。

 そういえば今日で3日目だが、2階に上がるのは初めてだな。

 外から見て少なくとも3階まであることは分かっていたが、どうやって行くのかは分からなかった。

 だがこの様子だと、研究所の奥に階段か何かがあるのだろう。

 そう思いながら進んでいると、研究所の端の方で袋に入った”材料”を整理している薄紫の芋虫を見つけた。


「あ、メリダ!」


 それを見た瞬間、モニカの中に嬉しげな感情が溢れ出し、それを確認した俺の中に安堵の感情が生まれる。

 目に飛び込んできた友人の姿に、ようやくモニカの中に僅かに残っていた・・・・・”熱い感情”が溶けるように消えてくれたのだ。


「うん? あ、モニカ! ルビウスさんがね、今日はこれ使うって!」


 メリダがそう言って嬉しそうに6本の”腕”で袋を上に掲げた。

 そこには南方の言葉で”腐葉土”と記されている。

 確か初歩的なゴーレムの材料として広く使われているやつだった筈だ。

 そしてそれを知っているモニカはそれを見てさらに喜びの感情を増幅させた


 それとよく見れば、メリダの後には1mほどの小鬼のような見た目の人物が同じ作業をやっている。

 この特徴的な長い尻尾と、遠目では角のようにも見える大きな”エルフ耳”の人物は”ルビウスさん”。

 この研究所に勤める、まだ”助手格”の研究者だ。

 見た目の割に存在感が薄く声も小さいが、ベル先輩によるとルビウスさんの経歴を語りだすと1月以上かかるらしい。

 俺達より前からいるメリダも実はまだ数ヶ月なので、この人についてはよく知らない。

 ただ、とっても優しい人だというのは昨日初めて会った時にすぐに分かった。

 ちなみに女性である。

 彼女がこの研究所でのモニカとメリダの”研修”を監督してくれているので、今後もお世話になるだろう。



「後でね!」

「うん! 待ってるよ!」


 そのやり取りのあとモニカが視線を前を歩くベル先輩に戻す。

 するとベル先輩に面白そうな目で今のやり取りを見られていたことにモニカが気付き、少し恥ずかしげに顔を赤らめた。

 そして同時に、後方視界にはなんとも言えない優しげな表情でこちらを見守るスコット先生の姿が入ってきた。

 それを見る限り、モニカに友達ができたことにスコット先生も少し安心しているようだ。





「手を挟まないように」


 ベル先輩が目の前の扉に注意するよう俺達に警告した。

 そしてその直後に金属製の頑丈な柵のような扉が閉められる。

 2階に上がる手段は、意外なことに階段でもスロープでもなく、なんと”エレベータ”だった。

 この魔力をエネルギー源としたこのエレベータもピカ研の”製品”らしく、当然制御はゴーレム制御。

 しかも1基だけでなく大小様々なエレベータが並んで配置され、その数はこの建物の”人口”よりも多いという不思議な事になっている。

 さらにゴーレムの搬送用と思われる一番大きなエレベータなど、大型の魔獣でも乗せてしまえそうなほど大きい。

 そしてガチャリという音で目の前の扉がロックされると、エレベータが唸りを上げて上に向かって動き始めた。


「うわぁ」


 モニカが感嘆の声を上げながら下を覗き込む。

 このエレベータは普通のものと違って、”むき出し”なので外の様子がよく分かる。

 なのでエレベータを支える柱とレールの間から、広い研究所の中を見下ろすことが出来たのだ。

 そしてモニカがその景色に見とれているなか、俺は先の”交渉”の”結果”に思いを寄せていた。




 

 サンドラ先生が交渉で感じた違和感は、相手の俺達に対する執着感のなさだそうだ。


「殺す気がないってことですか?」


 俺がそう聞くと、サンドラ先生はしばし悩み込んだ後、首を横に振った。


「そうではないと思います・・・ただ、どうもこの交渉自体にそれ程乗り気でないというのか・・・あなた方について測りかねている節がありましたね」

「それで、最後に喧嘩したの?」

「ええ、ですが、こちらの狙いは少々的を外しました」

「外した?」


 俺がそう聞くと、サンドラ先生が再び悩みこみ、そして先にスコット先生が答えた。


「それは私も感じたな、あの剣士以外誰もモニカを狙わなかった」

「それはスコット先生がいたからじゃ?」


 俺が暗に無双したスコット先生を警戒してのことではないかと指摘すると、スコット先生は首を振った。


「”優先度”を考えるなら連中の兵士長は、交渉人を守るよりもモニカを狙うのを優先するはずだ、こちらにはクワシが控えていたとはいえ、あの者はそれだけの”実力”がある。 だがその素振りさえ見せなかった」


 スコット先生が指摘したのは、相手のリーダー格の兵士の行動。

 たしかに彼だけは状況が動いて、即座に交渉人2人の保護に動いた。

 それは一見すれば正常に見えるが、スコット先生によるとそれはおかしいらしい。


 すると、それに対しサンドラ先生が意見を述べた。


「ひょっとすると・・・その兵士にモニカさんを見せるのが目的では?」

「見せる? なんのために?」


 スコット先生が聞き返す。


「”評価”です」

「”評価”?」

「おそらく、向こうもモニカさんについて殆ど何も把握していないのではないですか?」


 その言葉で俺は意外な事実に思い至る。

 そういえば、狙われはしたものの、相手がどの程度俺達を知っていたかについては全く知らなかったのだ。


「ということは、今回の交渉は完全に”現状把握”が目的だと?」


 サンドラ先生はその問いに対してうなずいた。

 そして予想外の結論を述べる。


「おそらく・・・向こうは、モニカさんを自分たちの陣営に取り込んだ・・・・・場合のシナリオについて検討を始めたんだと思います。 もしかするとあの交渉人の人選もそれ絡みかもしれません」


 サンドラ先生のその言葉に、その場にいた全員の顔に驚愕が走った。

 当然俺達はその中でも最大級の衝撃を受けてたのは語るまでもない。


「嫌だよ?」 


 それに対しモニカがこれが結論だとばかりに、ハッキリとそう言った。

 交渉からまだ時間が立っていないせいか、その声は驚くほど刺々しい熱気が篭っていて、同時に漏れ出した感情に俺がドキリと肝を冷やす。

 だがサンドラ先生は冷静にモニカの目を見つめた。


「気をつけてください、怒りや憎しみは最も”付け入りやすい”感情です、怒れば怒るだけ相手の思う壺だと思わねば」


 その言葉で、モニカの中の感情が僅かに揺らぐ。

 だがそれでもその火は完全に消えることはなかった。


「だが、それだとモニカを出したのは愚策だったな」


 クレイトス先生が少々悔しげにそういった。

 だがそれに対してサンドラ先生は即座に意見を放つ。

 

「いえ、こちらも見せた意味はあります」

「意味?」

「3つのメッセージを送ることが出来ました。 ”モニカさんがマグヌスに対して憤っている”こと、”アクリラの保護下にある”こと、そして”スコット・グレンの生徒である”ことです」


 その言葉を聞いた瞬間、スコット先生の顔になんとも言えない微妙な表情が浮かび、俺達の胸元に目をやった。

 そこには俺達の”校章”が付けられ、そこには”スコット・グレン”とデカデカと書いている。


「これでモニカさんがそのバッジを付けている”意味”はかなり大きくなった」

「校長とスリード女史の狙いはこれか・・・」


 スコット先生が諦めたように頭に手を当てる。

 すると、その様子を見たモニカの感情が急速に変化した。


「迷惑だった?」


 モニカが懇願するような声でスコット先生に問いかける。

 直前までと異なり、その目には”捨てられるのではないか”という”恐怖”が浮かんでいた。


 そしてそんな目を向けられて”迷惑だ”と答えられる者がいるだろうか。

 

「そんなことはない」

 

 スコット先生がそう言ってモニカの頭の上に手を置くと、その優しい熱がまるで溶かすようにモニカの中の熱を冷ましていくのを俺は感じたのだった。




 ガチャン! という大きな音を立ててエレベータが2階に到着すると、目の前の鉄の扉が開けられ、その向こうに巨大な空間が広がっているのが見えた。


「ここは?」


 モニカがベル先輩に問いかける。


「”実験場”さ、今は物置に近いけどね」


 ベル先輩のその言葉通りこの巨大な空間には沢山の物品が置かれていて、その多くはシートのようなもので覆われ埃を被っていた。

 だがその向こうには土張りの広い空間が取られており、その様子から確かにここでゴーレムの稼働試験などが可能なことが伺える。


『これだけ広いと、運動とかにも使えそうだな』

「・・・あとで聞いてみようか」

『それがいいだろう』


 ここを使えれば、Road2.0への to強化 2.0計画で予想されている実験にも困らなくて済む。


 ただ、今回はその実験場に用はないようだ。 

 ベル先輩が案内してくれたのは、その手前の物置部分。

 さらにその手前側だ。

 そこにはホコリを全く被っていない物品が置かれていた。

 大きさは高さ3mほど。

 ベル先輩と同じくらいの高さでモニカの小さな体から見るとかなり大きく感じる。

 そしてその物品に被さっていたシートをベル先輩が取り外した。

 

 目の前に現れたのは・・・なんだこれ?

 見た感じは巨大なゴミ箱みたいな物体だ。

 スコット先生が注文したのだから天文学に関係するものだとは思うが、このバケツのような形の物体が何に使われるのかは想像できない。

 モニカも見たこと無い物を相手に、どう距離感を保てばいいのか分からない感じだ。

 だが俺と違って興味はあるようで、好奇心の篭ったワクワクした感情が上がってきた。


「どんな感じだ?」

「おおよそ”荒研ぎ”は済ませた感じです、”本磨き”に入る前に確認をお願いしたい」


 ベル先輩がそう言うと、バケツ状の物体に近寄り両手でそっと持ち上げた。

 バケツ状の物体の中から出てきたのは、ほとんど・・・・平らな円盤だった。

 そしてその質感は金属質で、薄っすらと鏡のように天井を反射している。

 

 スコット先生がゆっくりとその鏡の側に寄り、手を上にかざしてその反射の様子を確かめ始めた。

 よく見ればその円盤は完全な平ではなく、薄っすらと湾曲しているようだ。

 端の方に映った物が湾曲して見えている。

 そしてどうやらスコット先生はその湾曲の具合を確認しているようだ。 

 だがその目は真剣そのもの。


「角度はいい、このまま磨きに入ってくれ、だが仕上げの前にも呼んでくれ、もう一度確認したい」

「分かりました」


 ベル先輩がいつの間に取り出したのか、メモにスコット先生の言葉を書き込むと。

 再びバケツ状の物体を手に取り、そっと被せた。


「なんなの?」


 たまらずモニカがその物体の正体を問う。


「ん? ああ、”望遠鏡”だ。 作りかけのな」

「・・・望遠鏡?」


 モニカが小声で俺に解説を求め、俺がそれに答える。


『遠くを見るための道具だ、これを使って遠くの星を見る』


「星って鏡で見るの?」

「鏡で見るのではない、これは光を集めるためのもので、見るのはこっちだ」


 スコット先生がそう言うと、バケツ状の物体の上部に取り付けられていた小さな覗き窓のようなものを指し示す。


「星の光はとても小さい、目で見える星もあるが、大半は目では見えないほど小さな光しか無い。 そういう星を見る時は光を”集める”必要がある」

「光を集める?」

「この鏡には角度がついていてな、反射した光が一点に集まるようになってるんだ、それをここから覗いて見る」


 スコット先生がそう言って鏡の表面を指差した。

 そこには確かにわずかに角度がつけられていて、ほんの少し中央が少し窪む形になっていた。

 するとモニカから疑問の感情が流れてきた。


「なんで鏡をゴーレム研究所で作るの?」

「作ったのは鍛冶屋だ、ここでは磨くだけ」

「正確に磨くために、ゴーレムの制御が必要なんだ。 人の手だと、どうしてもムラが出る」


 ベル先輩の答えにスコット先生が補足を入れる。


「それにもう”一つ”、こいつの”台座”がある」


 スコット先生がそう言うとそれを合図に、ベル先輩が隣に置いてあった物品のシートを外した。


「こいつが”台座”だ」


 ベル先輩がそう言って紹介したのは直径3mほどの頑丈な土台と、その上に、上部に軸の付いた太い腕のような構造が2つ伸びていた。


「こっちがウチピカ研の力作。 ”ゴーレム制御の台座”だ」


 そう言って自慢げな表情を作る。


「こっちの進捗は?」

「基本的な部分はもうできています、あとは操作盤と細かな調整ですね、その辺はピカティニ先生が起きてこないと」


 スコット先生がこちらも真剣な眼差しで台座を見聞する。


「ゴーレムの台座?」


 モニカが不思議そうに聞いた。


「ああ、そうだ、コイツに望遠鏡を乗せれば完成する。 そうすればこれで星を”追いかけられる”」

「星を追いかける?」

「星は動くからな、望遠鏡もそれに合わせないと長時間観測してられない」


 なるほどゴーレムはそういう風に使うのか。

 だが、これでますます俺の中のゴーレムのイメージがコンピュータ染みてきたな・・・

 するとその話を聞いたモニカが小声で俺に質問してきた。


「・・・ねえ、星って動くの?」

『試験勉強でやらなかったか?』

「・・・そうだっけ」


 俺のツッコミに対し頭を捻るモニカ。

 どうも教科書の中の星と、実際の夜空に関連性を見いだせていないらしい。

 これは少し気になるな。


 それから暫くの間、スコット先生が望遠鏡の詳細な注文や確認を行い、俺達はそれを後ろから眺めていた。

 モニカは初めて見る天体望遠鏡に興味津々で、特に複雑に組み込まれたゴーレム制御装置に盛んに目をやっていた。

 その様子は好奇心旺盛な子供といった感じで、いつもと変わらない感じだ。

 だが俺はそれを見守りながら、同時に交渉の帰りがけにアラン先生に言われた事を思い出していた。



 それは俺だけに語りかけられたものだった。


『難しい年頃だ、モニカの様子に気を配ってやってほしい』

 



 そんな事、言われなくても分かってる。

 ここまで、あの”父親”と2人の”守護者”を除けば、誰よりも俺が一番モニカのことを気にかけてきたという自負がある。



 だがそうは言っても、モニカの事について正直わからなくなっていたのも事実だ。

 今回の交渉でモニカは、かつてないほど強い感情を見せた。

 てっきりあまり憤っていないと思っていた俺は、それに大きなショックを受けた。


 そしてもう1つ。


『”おまえさん”自身についてもじゃよ』


 とアラン先生は最後に言い残した。

 あれはどういう意味だったのだろうか・・・・





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※






「なんということだ!!」


 アクリラの北にある、マグヌスの駐屯地の中に怒声が響き渡った。

 広場に用意された飛竜とその騎手達が何事かと目を向ける中、その声の主である認識阻害の”黒衣を着た人物”は”同行者”に向かって怒鳴りつけていた。

 だがそれに対し”商人の交渉人”は飄々とした様子を覆さない。


「何か問題でも?」

「交渉が失敗したではないか!!」


 ”貴族の交渉人”が声を荒げる。


「失敗? いえいえ・・・難しい交渉の席においてはこんなものですよ」

「何を言っているんだ? 襲われかけたのだぞ!?」

「あれも”作法”の一つです、問題はない。 むしろけしかけ・・・・させたのはこちらです」


 すると貴族の交渉人が見えないフードの向こうから驚いた表情をこちらに向けた。


「なんのために!?」

「それをここで話すとお思いで?」

「私は今回の交渉を任されているのだぞ!?」

「立場ではなく場所の話です」


 ”商人の交渉人”が周囲を見回す。

 ここはマグヌスの駐屯地ではあるが、彼等がやってきた”理由”を公にしていい場所ではなかった。


「とにかく! このまま帰っては、”父上”になんと報告すればいいのだ!?」


 ”黒衣の人物”のその言葉に、”商人の交渉人”は心の中で呆れたため息を漏らす。

 なんのための認識阻害の黒衣だ。


「問題ありません、”叔父上”は今回の交渉の結果に満足なさるでしょう」

「なぜ!?」

「今回、”私”が行った交渉は”彼等”とだけではないからですよ」


 ”商人の交渉人”がそう言うと、黒衣の向こうで”黒衣の人物”の顔が怪訝なものになる。


「いつの間に? 他に誰とも会わなかったぞ?」

「優秀な商人は、殺し合いの最中でも別の好きな相手と取引できる、それだけの話です」


 ”商人の交渉人”がそう言ってニッコリと微笑むと、”黒衣の人物”の顔が更に怪訝に歪んだ。



「ところで・・・”あの子”の事をどう思いました?」


 ”商人の交渉人”が藪から棒にそう聞いた。


「どう思った? 襲われたのだぞ? あの野獣のような娘に!」


 ”黒衣の人物”が不満を爆発させる。

 だが、


「ふむ、結構」


 ”商人の交渉人”は”黒衣の人物”のその回答に満足したように頷くと、手近な飛竜の背中に向かって歩き始めた。

 そして残された”黒衣の人物”は、それを見て更に不審げな色を強くするが、それを向けられた方は意にも介してない様子だった。


「・・・ふむ、悪くない」


 帰りの飛竜へと向かいながら、今回の交渉の”成果”を確認したその男は、誰にも聞こえない声で満足げにそう呟いた。

 そして更に心の中で”今後”について考えを巡らせる。


 今回、この男が交渉した相手は、実はあの娘とアクリラだけではない・・・・・・

 そしてその中には男の後ろで燻っている、この”黒衣の人物”も含まれている。


 男はその”結果”に思考を巡らせた。

 ”見合い”の結果は、”どちらも”お互いに相手を嫌い合っている。

 だがそれは一見すれば悪いように思えるが、その実、その両者をくっつけるのは意外に容易い。

 ”無関心”でない以上は、好いているのとそう変わりはないからだ。


 モニカ・シリバがアクリラに着いた以上、もう完全に闇に葬る事はできなくなった。

 ならばそこに”価値”を見出さなければならない。

 それならば、いっそ今”国”に必要なもの・・・いや”我が家”に必要なものを”アイギスの秘宝”で埋めればいい。

 幸い・・今の状況には、デメリットを飲み込んで余りあるほどのメリットを作り出せる可能性がある。


 そしてそれが”商人”のやり方であり、”叔父上”の出した結論だ。


 だが男はそこで足を一旦止める。

 この”計画”の唯一の欠点に気づいたのだ。


「・・・”モニカ・アオハ”は少し語呂が悪いですね・・・」

 

 そう言って、男は顎に手を当てて真剣に悩みこんだ。

 

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