2-2【学生生活 3:~ゴーレム研究所~】
アクリラには沢山の研究室がある。
大通り、裏通り、街中、街外れ。
どこにでもあり、大きなところもあれば、民家に紛れるほど目立たないものもある。
その中では様々な分野の研究が日夜進められており、日用品から最先端技術に至るまで様々な分野に影響を与えていた。
アクリラの研究室の特徴として、研究所の”手伝い”をアクリラの生徒から募ることができるというものがある。
アクリラの生徒は優秀だ。
小さな子供ですら重機の様な力を持っているだけあって、単純な労働力としても価値は高い。
学生のアルバイトと部活動を足したようなものであるが、”課外”もしっかりと成績に影響してくる要素であるため、おろそかにしてはいけないのだ。
それに所属する研究所は、将来その者がなる”将来”を宣言するようなものとして見られる。
なので中には軍属となるのが決まっている者が行く”士官研究所”や、政治家を育成する”政治研究所”などの、明らかに”研究所ではない研究所”も存在し、各国が独自の”専門家”を育成するために利用している現状があった。
そう、この街の研究所は、出資という形で各国がそれぞれの生徒を囲える貴重な場でもあるのだ。
そしてこういった研究所は、各国のアクリラにおける”出先機関”として大きな影響力を持っている。
国や種族をデタラメに放り込んだようなアクリラであっても、そういう場所もあるのである。
さて、話を俺達に戻して。
幸いにも、俺達はこういった”将来を運命づけられている人”用の研究所にはいかなくていい。
・・・というか絶対行けない。
なので自由に好きな所へ行くことができるというわけだ。
俺達の希望は”ゴーレムの研究所”。
アクリラにはゴーレム関連の研究所は9か所ある。
だが選べるわけではない。
俺達の希望を正確に言うなら、”ゴーレム機械”の研究所だからだ。
9か所のうちゴーレム機械を扱っているのは、6か所、そのうち5か所はどこかの国の”直属”。
つまり行けないところである。
兵器に直結しうるゴーレム機械はどの国でも活発な”兵器研究”の対象であり、軍事機密の塊だ。
まあ、正確には”マグヌス出身者”ということになっている俺達は、マグヌス系の2つの研究所には制度的に行けないことはない。
だが常識的に考えて、敵の巣のど真ん中に行けるわけがないという話だ。
なので俺達が選べるのは残った”1か所”のみである。
つまり迷う必要はない。
迷う必要はないのだが・・・・
『これは・・・・』
俺が思わずそんな声をモニカに漏らす。
モニカに至っては固まっていた。
建物は大きい。
かなり大きい。
ちょっとしたデパート並みに大きい。
ただし、ほぼ廃墟である。
今はだいぶ日が落ちて暗くなっているのに、上の方の階は明かりもついてない。
それがより廃墟感を強くしていた。
「ここでいいんだよね」
『・・・ここだぞ、ここのはずだ』
建物は一見すると3階建て。
だが一階一階が大きいので、実際は9階建てくらいの高さがある。
いくら裏通りとはいえ、アクリラでこれ程の大きさの建物がこんなに寂れてるなんて・・・
それでも一階は明るく、僅かに何かが動く気配がしてくる。
機械的な感じからして、たぶんゴーレム機械か。
モニカもそれを感じて、ここが目的地と悟ったのか、諦めたように建物の入口に向かっていった。
”ミシッ”っという不安な音を残して巨大な扉を開けると、古びた建物の内部が目に入ってきた。
やはり天井はかなり高い。
10m近くあり、ちょっとした異空間じみた感じである。
先程から聞こえる謎の機械音が誰もいない体育館のようにあたりに反響していた。
ここならば体が大きい者たちも伸び伸び動けるだろう。
おそらく大きなゴーレム機械であってもそうだ。
流石にコルディアーノは少し頭を擦ってしまうか。
だが内装はガランとしており、驚いたことに壁がガラス張りの玄関ホールには小さなソファと、端の方で埃をかぶった見るからにレトロな機械が1機置いてあるだけだった。
置いてある機械は八脚の小型耕運機みたいな見た目だ。
モニカが少しの間珍しそうにその機械を眺めたあと、この玄関ホールに響く機械音のする方に顔を向ける。
そして僅かに開いた小さな扉の先から音が聞こえてくることが分かると、そちらに向かって歩き始めた。
ガシャガシャとまるで機織り機のように規則的なその音は、音の発生間隔と振動から大量の機械が並んでいることが分かっていた。
モニカがその小さな扉を開くと、その先には大きな工場が広がっていた。
高い足場やはしごが所狭しと置かれ、沢山の棚に謎の部品が並んでいる。
そして先程から聞こえる謎の機械音の正体は、ズラリと並んだ上半身だけのゴーレム達が一斉に上に文字を書いていく様子だった。
俺達がその奇妙な光景に言葉を失う。
なんだここは・・・
「なに?」
モニカがゴーレム達の手元の紙を見つめる。
すぐ横にはそれが何枚も積み重なっていた。
そしてそれと反対側には開いた本が置かれ、ゴーレム達が手元の紙を書ききると、ページが1つめくられている。
『本だ・・・本を作ってる・・・』
なんとそこでは、ゴーレム達が横の手本を見ながら、ひたすらその内容を目の前に書き写していた。
いわゆる”写本”というやつだ。
「本って、こうやって作ってたんだ・・・」
『全部がこうじゃないとは思うが・・・』
俺達はまるで、世界の大いなる秘密を知ったかのような気分になった。
見れば簡単な挿絵なども器用に写し取っている。
活版印刷に比べれば遅くて非効率だが、こちらの方が柔軟で、何より便利だ。
これでなんとなく本の値段の理由が見えてきた。
人が手書きするよりは安くつくが、印刷機よりは遥かに高コストなのだ。
そして、この技術があるので印刷技術は発展しなかったと思われる。
そんな”本工場”の中を抜け、奥の”ゴーレム工場”へと足を向けると、今度は奇妙奇天烈な何に使うのかも分からない機械に出くわす。
そこでは何体かのゴーレム達が今も組立を待っているところだった。
そしてその工場の一番奥でいくつかの工具を手に、ゴーレムの腹の中に身を突っ込んで組み立てている人物のもとへと歩いていく。
「あの・・・」
モニカがそう声をかけると、その人物の手が止まりゴーレムの中から這い出した。
大きい。
3mはないが、2mは余裕で超えている。
立ち上がると大きく見上げる形になった。
肌は灰色で象のように硬い質感だ。
そして頭に付けていた安全ゴーグルのような物を外すと、サメのような顔と白目の無い真っ黒な目玉が顕になった。
第一印象は、正直にいうとかなり怖い。
ゴブリンの一種か、それともその近縁種か、とにかく亜人なのは間違いなさそうだ。
「えっと・・・ピカティニ先生ですか?」
モニカが恐る恐る、この研究所の所長であるかを問う。
するとその大きな亜人のサメ顔が間抜けに歪み、慌てて着ていた巨大なエプロンを捲った。
下から出てきたのは高等部の男子用の制服。
つまり彼は生徒で、所長ではない。
「ゴメンね、紛らわしい格好しちゃって」
そして、その声はなんとも気の弱そうな軽いもので、とても怖そうなものではなかった。
「ピカティニ先生は?」
「先生はもう歳でね、ここには滅多に顔を出さないんだ、
「
「アハハ、ごめんね、モリカベントに似てる名前で覚えてたから」
そう言って亜人先輩が気に抜けた謝罪を送ってきた。
そこに第一印象の怖さはどこにもない。
気のせいか縮んで見えるくらいだ。
「ではあらためて、モニカ。 ピカティニ先生から話は聞いてるよ、スコット先生のところの生徒だって?」
「はい」
モニカが返事を返す。
実は今日ここに来ることはスコット先生から事前に話を通してもらっていたのだ。
あの人には本当に頭が上がらない。
所属の教師は形だけというのが多いと聞いていたのに、スコット先生は何かと手を焼いてくれる。
自分が忙しい時なのにも関わらずだ。
「ゴーレム技術者になりたいんだって?」
「はい」
「なんでここに?」
「え?」
その先輩が聞いた質問にモニカが少し驚いた。
「言っちゃ悪いけど、ここってボロいだろ? だから普通は他の研究所に行きたがるもんだ」
「じゃあ、先輩はなんでここに来たんですか?」
「僕はほら、これだし・・・」
先輩が恥ずかしそうに自分の顔を触る。
”種族”が、って事だろうか。
「僕の種族はゴーレム技術者志望が少なくてね、それに他の研究所は”人間国家”の専属が多いだろ? 種族的にも向いてないと言われるから、”ここ”にしか来れなかったんだ」
「先輩は、なんでゴーレム技術者になりたいんですか?」
「なんでって、ほら・・」
先輩がそう言って今しがた弄ってた作りかけのゴーレム機械をコンコンと叩いた。
「かっこいいだろ? ゴーレム機械って」
そう言ってニヤリと笑う。
すると口の中のギザギザな歯がちらりと見えて怖かった。
だがその先輩は尚も続ける。
「ゴーレムのように柔軟に動けて、機械のように機敏で力強い、ゴーレム機械には”夢”が詰まってるんだ」
そう言って男の子のように屈託なく笑う。
「ここは僕みたいなゴーレム機械に魅せられたけど、他には行けない”ワケあり”の来るところなんだよ」
そしてその言葉には少なからぬ”諦め”が籠もっていた。
だが、
「私も、”ワケあり”です、他には行けません、それでもゴーレム機械をやりたい」
モニカのその言葉に先輩がキョトンとした顔になる、そしてすぐに真面目なものに変わった。
モニカの目の中の真剣な感情に気がついたのだろう。
そしてそのまま俺たちの手の甲へ目線が移った。
「あー、スキルは持ってるんだ、ゴーレムスキルに再組成するの? ちゃんと調律師と相談した?」
先輩が心配そうにそう聞いてきた。
たしかゴーレムって、ゴーレムスキル持ってるかどうかで大きく変わると聞いていた。
だが普通のスキル保有者がゴーレムスキルを得るには、既存のスキルを崩して組み直すしかない。
それは一生モノの決断になるだろうし、”力”の兼ね合いでちゃんとできるかどうかも分からない。
ただし、
「私はもうゴーレムスキルは持ってます」
すると先輩の顔が驚いたものに変わった。
「・・・でも、まだ使えないですけど」
そしてモニカが少し気まずそうに補足する。
勢いで言っちゃったけど、まだ枠しか起動してないことに気がついたのだろう。
普通に聞けばおかしく聞こえても仕方がない。
だが、先輩の返答は意外なものだった。
「ああ、まだ”青写真”を入れてないんだね」
「”青写真”?」
「設計図だよ、ゴーレムの、それを入れてないとスキルとして使えない」
そこで俺は、ゴーレムスキルが使えなかった事に大きく納得した。
どうやらゴーレムスキルって、そもそもが”そういうもの”だったのだ。
「その辺はここで知ればいいよ、”青写真”の作り方もね、それよりも・・・」
そう言って先輩が近くの棚から、脳ミソのようにぐちゃぐちゃに絡まった金属の塊のような物を取り出し、近くの作業机の方に持っていってゴトリと置いた。
「ここでこれをバラしてみてよ」
先輩はさらにそこに近くの椅子を持ってきて、俺達に座るように促す。
「それは?」
「ゴーレム機械は”ゴーレム”である前に”機械”だからね、噛み合わせとか、組み合わせとか、そういった物が重要になる。 手伝ってもらう前にその辺の”現状”を知っておきたい」
そう言って机の上の金属の塊を指でつついた。
よく見ると複雑な知恵の輪のような構造をしている。
これを解けということなのだろう。
何かのテストなのだろうか。
「力が強いという話は聞いてるけど、結局は”手先”だからね」
先輩がそう言いながら指先を複雑に動かす。
俺達の手首並みに太い指の一本一本が、まるで精密機械のように滑らかに動く様は壮観だった。
そしてそれに対してモニカの身が僅かに強ばる。
”手先が器用”というゴーレムスキルの条件を思い出したのだろう。
それは”直接的な意味”もちゃんと含んでいたのだ。
「まあ、終わらなくてもいいから、ゆっくりやってみて、僕は”こいつ”があるから」
先輩が親指で、先程までいじってたゴーレムを示す。
「何かあったら気軽に声かけてよ」
そう言って先輩は再びゴーレムの腹の中に潜っていった。
残された俺達は指示通り椅子に座り、目の前の金属の塊に向き直る。
とりあえず今はこれを解くしかないだろう。
『どっちが解く?』
「・・・わたしがやっていい?」
『手伝いはどうする?』
「・・・最初はわたしだけでやってみたい」
どうやら先ほどの先輩の手先の動きに触発されたようだ。
ちょっと気合が入っている。
モニカが金属の塊を手に持つと見た目以上にズシリとした重みが腕にかかった。
相当に中身が詰まっているようだ。
そのまま一通り外から様子を窺う。
そこで分かったが、この金属の塊はただの知恵の輪ではないようだ。
いきなり表面が”ボルト”で固定されていた。
直径が1cm程度の小さな四角のボルト。
この世界ではボルトは、釘やネジ以上によく使われているのを見かける。
だが、この世界では一般的に”スパナ”も”レンチ”も使わない。
例外的に小さなボルトを扱うときに被せて太くする”アダプター”を使う程度だ。
あとは魔力検査でウォルターが検査器の巨大なボルトに対して”スパナ”を使用していたが、あれはボルトのサイズ故の本当に特殊な事例である。
なのでこれくらいの”小さな”ボルトを回す工具は存在しない。
ではどうするか?
まずそのボルトを両側から指で摘まみます。
そして力を入れて・・・軽く”キュッ”っとすれば、すぐに外れる。
恐るべき ”身体強化” 社会。
指で回すだけで必要十分な圧力で締め付けることも、外すことも可能なのだ。
他にも重機代わりに重いものを持ち上げたりと、大工や職人は出来損ないの戦士や魔法士よりも身体強化系の魔法が得意という恐ろしい世界である。
モニカの小さな手も、この小さなボルトを外すのには有利だった。
すぐに表面を覆っていたボルトが外され机に積みあがっていく。
そこで気付いた。
『モニカ、ちょっとタンマ!』
「ん?」
『そのボルト、そこの皿に入れた方がよくないか?』
このまま机に置いておくと紛失の恐れがある。
俺が監視しているのでその恐れは少ないが、こういうのも”減点要素”になりかねない。
幸い、机の上にはそういう用途で使えとばかりに仕切りのついた大きな鉄の皿が置いてある。
小さな部品をなくさないための物であるとみて間違いないだろう。
そして俺の指摘を受けたモニカが1つづつ確認するように、小さなボルトを皿に入れていった。
全てのボルトが外れ各部品が動かせるようになると、いよいよ”知恵の輪”パートの始まりだ。
モニカが何とかバラせないものかと各パーツを弄っていく。
だがグラグラと動くそのパーツは、必ず他のパーツによって外れないように固定されていて一筋縄ではいかない。
俺の中にはその構造が一見するだけで入ってくるが、それがどうやって付いているのか、どうやれば外れるのかはかなり難解だった。
正解は一つだけ。
数ある手段の中で、正しい順番で正しい角度で動かした時だけちゃんと外れる設計のようだ。
それをどのように判断するか・・・
意外と頭を使う、正確な手の動きも、そして時には力の強さも・・・
かなり難解なパズルだが、同時にかなり強固な”思想”も見えてきた。
力は必ず接合部以外で受け、軸に求められるのは回転だけではない。
面取りは見た目のためだけではないし、飾りも留め具になりうる。
そういった物に触れながら一つ一つ外していくと、次第にモニカの頭の中がこの金属の塊に集中していくのを感じた。
◇
「かなりうまくバラせてるね」
机の上に所狭しと並べられた”知恵の輪”のパーツを灰色の肌の先輩が一つ一つ検分しながらそう言った。
「順番に並べたのは?」
「ろ・・・いや、私がそうした方が良いと思ったから」
「順番があるのにちゃんと気づいたのか」
先輩のサメの様な恐ろしい顔に感心の表情を浮かんだ。
どうやら彼の”想像以上”ではあったようだ。
そのことに気が付いたのか、モニカの中にホッとした感情が流れ込む。
「うん、これならできる手伝いも多いだろう、何か聞きたいことは?」
「ここって、他に誰がいるの?」
モニカが少しおっかなびっくり”工場”の端から端まで視線を動かして先輩にそう聞いた。
「今日は僕だけ、だけど普段はライリーとメリダって子が手伝いに来てる、あとルビウスっていう研究者がいて、ピカティニ先生が寝てて来れないから、彼女と僕だけが今のところ”コア”を作れるね」
「”コア”?」
「見たことない?」
「えっと・・・たぶん・・・」
「ちょっと待ってね」
その先輩がそう言うと、どこかへと歩いて行った。
”コア”とやらを持ってきてくれるのだろうか?
「先輩!」
だがモニカが声をかけ、肌色の先輩がそこで立ち止まりこちらに向き直った。
「うん? どうしたんだい?」
「先輩の名前」
モニカがそう言うと先輩はしばし何事かと悩んだ後に、ようやく自分の名前を伝えてなかったことを思い出したようだ。
「あ・・・っとごめんね、僕の名前は ”ベル” ナシオルの息子ベルだ」
灰色の肌の大きな亜人は、そう名乗ると再び工場のどこかへと歩いていった。
数分後、戻ってきたベル先輩の腕には黒い木製のケースが抱かれていた。
そしてそのケースを俺達の座っている席の前に置く。
真っ黒なそのケースは奇妙な高級感を漂わせている。
そしてベル先輩がその蓋を開けると、中には綿のようなものが敷き詰められ、卵くらいの大きさの綺麗な金属製の複雑な物体が並んでいた。
モニカがそれを見て言葉を失う。
輝きに魅せられたわけではない。
「これが ”ゴーレムコア” 、ゴーレムの心臓部だ」
ベル先輩が説明を行う。
「どんなゴーレムか、どのように使うか、それを決めるのはこの部品だ」
「作るのは難しいの?」
「全てのゴーレム部品の中でこの”コア”と、魔力を生み出す”ジェネレーター”が一番作るのが難しい。 逆に言えばこの2つさえ作れれば”とりあえず”ゴーレムは作れる」
「それまで、どれくらいかかる?」
「それは
ベル先輩がそう言って指を一本立てる。
「だが簡単なのなら、比較的早く済む」
「難しいのなら?」
モニカが目の前に並ぶコアを真剣な様子で見つめる。
それは間違いなく、今はルシエラの異次元倉庫に眠るモニカの
だが一つだけ違うことが。
「一生、たどり着けない領域もある」
ベル先輩が諦めたようにそう言うと、モニカの中に暗い感情が芽生えた。
目の前に並ぶ”コア”たちは、どれも果てしなく高度で、美しく・・・・
2人の守護者の物よりもはるかに”簡素”だったのだ。
「・・・・」
ベル先輩が雰囲気の変わったモニカに気付き、少し気まずそうに身を引いた。
彼なりに、コアを見つめるモニカの目が普通ではないことに何かを感じたらしい。
そして話題を変えるためなのか、思い出したようにわざとらしく驚いた表情を作った。
「おっと、いけない! 君はスコット先生のところの生徒だったね」
「・・・? そうだけど・・・」
「なら伝言を頼む、”注文の品物は磨きに入った、先生のチェックが欲しい” って」
その言葉に不思議そうにモニカが後ろを振り向いた。
「”注文の品物”? それってなに?」
「それは先生に聞いてみるといい、きっと喜んで教えてくれるよ」
そういって白目のない目を片方つぶって”ウインク”した。
それだけでこの恐ろしげな顔に愛嬌が生まれるから不思議だ。
だが、それが突然崩れた。
「おっと、今は忙しいんだった、もちろん”説明会”の後でいいよ。 先生に気を使わせたくないからね」
ベル先輩が言ったのは、スコット先生が明日行う研究の”説明会”のこと。
こんなところまで話が知れ渡っているとは、やはり相当なことなのだろう。
ここに来る前に行った今週の”活動報告”も、あまりの忙しさですぐに終わったほどだ。
スコット先生自身は気丈にふるまっていたが、”明日の恐怖”の限界は近そうに見えた。
「・・・スコット先生、大丈夫かな」
モニカのその呟きは、俺にだけ聞こえるものだった。
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