1-X7【エピローグ 1:~審問~】



アルバレス  ネブラの湖


 そこは地域の住民にとっては隠れた名所として有名な場所だった。

 緑豊かな森と壮大な山に囲まれた小さな湖は、見るものの心を癒やし、隠れた保養地としてもなかなかの場所で、アルバレスの国境から遠い立地とおおらかな気質の住民によって、世界でも有数の治安のいい地域でもある。


「フム」


 湖畔に建てられたレストランのテラスに、身なりのいい老人が座っていた。

 その姿は品が良く、この美しい湖と似合っていた。


「どうしたんですか? お師匠様」


 その老人の向かいに座って、サラダを頬張っていた少女が、老人の一息に気付いて声をかけた。

 すると師匠と呼ばれた老人が、ある方向を向いたまま少女に応える。


「アクリラに光が見える」

「ボケたんですか?」


 少女は呆れたように即答した。

 ただしそれは師匠が何千kmも離れたアクリラの事を見たからではない。


「アクリラにはガブリエラがいるでしょうに」


 この老人はちょっと”特殊”なので、アクリラに光を見ることは不思議ではない。

 そしてアクリラにはその光の元であるガブリエラが居るので、これも不思議ではない。

 要は”空が青い”程度の意味でしかないのだ。


「いや、黄色い光ではない、そのすぐ隣に黒い小さな光が見える」

「本当に?」


 少女がサラダを食べる手を止め、師匠の話に耳を傾ける。

 それが本当なら彼女にとっても大きな話だ。


「”王”候補がまた別に出てきおったか・・・これはお前さんもウカウカしておられんの」

「歳は? 男?」

「ガブリエラよりも小さい、これは・・・女だな」

「なーんだ」


 少女は女と聞いて露骨にがっかりした声を出した。


「私含めて、女3人、偏り過ぎです」

「おや、興味はなかったのではないのか?」

「バランスの問題です、師匠の言う”運命”は信じてませんが、世迷い言にもせめてバランスを」

「お前もいずれ分かる、己の”運命”をな、それを知ってなお、”準備”を嫌がるなど理解できん」


 すると少女は、師匠のその物言いに露骨に不機嫌な表情を作った。


「だったら、今のうちに師匠がちゃっちゃと片付けてくださいよ、強いんだから」

「愚か者め、お前自身がやらねば意味はないのだ」

「近い歳の女の子と、殺し合いなんかしたくないですよ! 私だって女の子なんですからね!」


 すると師匠が視線を少女に向け、上から下まで眺めてからバカにするように笑った。


「なんですか!? この服着せてるのは師匠でしょうに!」


 少女は無骨な鎧を、使い古した男性服の下に着込んでおり、そのせいもあってか可愛らしい格好というわけにはいかなかった。


「お前もいずれ分かる」

「分かりたくないです」


 少女はそれだけ言うと、再びサラダへ視線を向けた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※



アクリラ   校長室


 校長室は意外にも手狭だ。

 殆どの場合は、事務局内の作業用の執務スペースを使っているので、校長の研究室の中にある校長室が、公務で使われることは殆ど無い。

 なので応接セットのようなものもなく、実用的な家具類しか置かれていない。

 そのかわり、ソファーやベッドなどの休憩のための設備が充実しており、忙しい校長の休憩室としての役割が大きかった。


 そしてその役目通り、今も校長が疲れた体をソファーに横たえて休んでいた。


「・・・何とか入りましたね」


 校長が独り言のようにそう呟く。

 机の上には大量の書類が置かれ、その一番上でモニカを生徒として正式に認める書類が、魔力認証を受けて僅かに光り輝いていた。


 何はともあれ、これでひとまずこの件に関して校長としての役目は終わった。

 後はこれから始まるマグヌスとの交渉に備える必要があるが、暫くは事務レベルでの調整が主になるため、校長が出ていく必要はない。


 むしろモニカをどの様に扱うかの方が、気になる所だった。

 彼女の話では管理スキルの性能によって、殆どメンテナンスフリーに近い状態だそうだが、それをそのまま信じる訳にはいかない。

 モニカが持っている力はそれだけ危険で、不安定なはずなのだ。

 なので検査体制はかなり大仰なものになるだろう。

 それはロンも了承してくれている。


 その時、校長室の扉が開けられ、丸メガネをかけた頭の禿げた男が入ってきた。


「校長、モニカ・シリバの第一次検査報告書ができましたぞ」

「ああ、ウォルター、そこに置いといてください」


 校長がその者に答えると、ウォルターが持ってきた書類を校長の机の上に置く。


「どうでしたか? なにか問題は見つかりましたか?」

「いいえ、まったく! 驚いたことに彼女は調整直後のガブリエラ以上に安定した状態です、自己補正機能があるというのは本当でしょうな」

「それは、どの程度信頼できますか?」

「さあ、それはまだなんとも、成長期ですからな、どのようなことが起こっても不思議ではない」


 ウォルターのその言葉に校長が軽く頷く。


「分かりました、では当初の予定通り検査はガブリエラと同じくらいでいきましょう」

「それが妥当ですな、ただし手間は殆どかからないでしょうが、いやあ、それにしてもとんでもないものだ」


 ウォルターがしみじみとそう言った。


「それほどですか?」

「彼女の管理スキルのことですよ、あれは凄まじい」

「ウルスラの物と比べても?」

「根本的に”段階”が違う、他の管理スキルが表層的に人格を模倣しているのに対して、あれは既にある人格を、スキル用に書き換えて・・・・・・いる」


 そこで校長が眉をひそめた。


「つまりロンさんは、モニカさんの人格を書き換えたものだと?」

「それだけではない、人の人格を機械的機能に繋いだのだ、この意味がおわかりですか?」


 ウォルターが興奮した様に語り続ける。


「人格の書き換えだけでも十分に”禁忌”に値するのに、その上、人格をまるで魔力触媒のように用いて制御回路化するとは、さすがはゴーレムマイスターだ!」


 ”禁忌”

 

 その言葉に校長の表情は更に暗いものになる。

 校長はその職務上カシウスが犯した禁忌として、機械に人格を与えたという話は聞いていた。

 だが実際には、彼は”その先”に進んでいたのだ。


 彼が晩年、狂った様にゴーレムによる”人格の再現”に取り組んでいたことは、専門家の間では周知の事実である。


 だがそれと同時に、その裏で行われていた ”生命の模倣” と ”人格の改変”。

 いったい何が彼をそこまで追い立てたのか。

 皆が言う様に本当に狂っていたのだろうか?

 だが彼の行動には、明らかな”目的性”のような物が見える。

 校長はそのことに薄ら寒いものを感じ、本能的な嫌悪感を覚えていた。



※※※※※※※※※※※※※※※※※




ルブルム評議会 議事堂



 その日、王都の中心にある議事堂は、異様な空気に満ちていた。

 議席に座る評議員たちの数は平時の7割程で空席が目立つ。

 王が出席する観覧議会としては異例の出席率の低さだ。

 議会の一番上座には特設の玉座が置かれ、そこに国王が不機嫌そうな表情で座っている。


 そして2階席には通常入るはずの傍聴人の姿はなく、代わりに四方を取り囲むように数人の完全武装の者たちが座っていた。


 二階席の上座側、すなわち国王のすぐ後ろに控える形に陣取るのが、アオハ伯爵夫人であるエミリア。

 元第一王女で現在はマルクスの長男であるデニス・アオハ伯爵に嫁いでいるため、マルクスの義理の娘でもある。

 デニスの従兄弟ではあるが、エミリアがウルスラ王妃の子で、デニスとの直接の血縁はないことを理由に、自分から結婚を申し入れる行動派であると同時に、母譲りの強大な力将位スキルを限界まで磨き抜いた武闘派でもある。

 もちろん義理の父だからといって容赦するような人物ではなく、王都で3本の指に入る程の鉄の女としても有名で、今も恐ろしい表情でマルクスを見下ろしている。


 そしてそこから見て右側、ちょうどマルクスの正面の二階席に陣取るのが、レジス。

 マルクスと同格の”軍位”スキル”持ちにして、条約にその名を刻まれる”特級戦力”の1人だ。

 この建物の中で、マルクスと一対一で互角に戦えるのはおそらく彼だけである。


 そしてその向かいに座るのが、シュワルベ魔法士長。

 カシウス亡き後、最も才ある魔法士は誰かと街行く人に聞けば、10人が10人その名を挙げると言われる男だ。

 驚くことにスキルや加護等の”特殊能力”を何も持たず、己の研鑽だけでその力を手に入れた筋金入りの”秀才”である。


 そして下座側の2階に陣取るのがグラン将軍とその精鋭部隊。

 見る者全てを威圧するその姿と、横に並ぶ10人の”エリート”魔法士と剣士の隊列が放つオーラは、他の3人に引けを取るものではない。


 そしてそんな規格外戦力を持ってこなければいけない理由が、議事堂の中央に被告人席のように置かれた証人席に、覇者のように座るマルクスである。

 だが、評議委員達の顔色はすぐれない。

 もし仮にマルクスが癇癪を起こせば、上の4者が止める前に自分達を殺し切ると理解しているからだ。

 そもそも2階の戦力は国王を守るためのものであって、議員を守るためのものでは無い。

 そしてこれから彼等は、マルクスの堪忍袋を試すような行為を行うのだ。


 議会の中に張りつめた空気が漂っていると、議席の中から1人の女性議員が立ち上がり、答弁用の壇上に歩み出た。


「それではこれより、ルッツ・カルマン殺害事件に関する証人喚問を開始します」


 女性議員のその宣言で議会の中の空気が一層厳しいものに変わった。


「マルクス元帥兼筆頭魔法士、あなたはルッツ・カルマンの直接の上司で間違いないですね?」

「間違いありません」


 女性議員の質問にマルクスが頷きながら答えた。


「報告では彼は殺害される直前まで、極秘任務に就いていることになっていますが、間違いないですね?」

「間違いありません」


「では、その極秘任務について教えてください」

「できません」

「なぜですか?」

「極秘だからです」


 マルクスが何を当たり前の事をといった表情で、議員を見つめ返す。

 だが議員は冷静に続けた。


「今評議会は、非公開並びに議事録秘匿の下に行われています。極秘情報を開示してください」

「できません。この情報はこの議会の秘匿レベルで開示できるものではありません」

「評議会が取れる最高の秘匿が足りないと?」

「今議会の議事録は、今議会に参加している全員の死亡後に、自動的に開示されてしまいます。それでは足りないのです」


 マルクスがそう説明すると、議員が深くため息をついた。


「マルクス局長、あなたには極秘命令権を傘に来て、非道な活動を行っている疑惑があります」

「それが?」

「もしそれが本当ならば越権行為として、査問委員会を招致する必要があります」

「どうぞご自由に」


 マルクスの返答に議員の眉が不機嫌に曲がる。


「あなたを解任すべきとの声も多いのですよ」

「ではそうしてみれば?」


 マルクスはまるで何でもないように、手を広げて飄々とそう言い切った。


「議会を愚弄するのですか?」

「いいえとんでもない。あなた方が”正義”を行うために、我ら公人がどれほど身を粉にしているか」

「マルクス局長、情報の開示を」

「できません」

「ルッツ・カルマンとアイギスの関係は何ですか?」



”アイギスの火は再び灯された!!”

 

 マルクスの頭のなかに、そう書かれた横断幕が広がる光景が映し出された。

 そんなことが書かれていれば彼とアイギスの関係を疑うのは自然なことだ。

 だがマルクスはそこで姿勢を正すと、議員を正面から見据える。


「ルッツ・カルマンは、アイギスとなんの関連もありません。犯人がいたずらにデタラメを書いただけでしょう。 議員はそれを信じるのですか?」

「旧アイギス派の貴族たちの間で、不穏な動きがあると言う噂もあります」

「それこそ根拠のない噂でしょう。それに、かつての自分の家の再興を謳う事件があれば、誰だって事実確認に走るでしょう?」

「では、それは根拠のない噂であると?」

「はい」


「我が国の南方にて軍事行動が行われたという情報があります。何か説明は?」

「ルッツ・カルマン殺害と何の関係が?」

「それを指揮したのは、”ボルド”という男、これはルッツ・カルマンが生前使用していた偽名です」


 これはまた・・・よく調べたもので。


「・・・それで?」

「ヴェレスの街にて彼の姿を見たという証言もあります」

「無理でしょう、彼はルブルムで殺されていた」

「ですが、ルッツ・カルマンの任務遂行情報は、彼の死亡日時よりも後にも記録されています。つまり”あなた達”が何らかの勢力に、騙されていたと考えるのが自然になります」

「・・・そうなりますね」

「国防局長の直属の極秘任務が、何者かの手によって欺かれた、これは由々しき事態です」

「・・・」


 マルクスが押し黙る。


「しかも、その内容は明かせないと来たものだ。これは失敗の隠蔽ではないのですか?」


 議員が鬼の首を取ったような勝ち誇った笑みを湛えながら、マルクスを見つめた。


「マルクス局長、直ちに”あなた方”が隠している情報を、全て公にすべきです! 我々にはその内容を知る正当な権利・・・・・がある」


 マルクスは証人席で何も反応せずに、ただ冷たい目で議員を見つめていた。

 そして暫く何かを逡巡した後、不意に目線が下に落ちた。

 

「議員、いい靴ですね」


 突然マルクスが突然議員の靴を褒め、何が起こってるか分からない議員が不審そうな表情になる。

 だがマルクスはそんな議員に構わず話を続ける。


「パルマ・ディール・・・アルバレス製の靴だ、その上着はルビウスのブランドもの、上から下まで全て合わせれば、10万セリス程度でしょうか?」


 議員はマルクスが何を言っているのか理解できないように、他の議員に視線を泳がせる。


「私が生まれた時、私の父は私を救うために家を売りました、10万セリスの魔水晶を買うために。その時から私は、この体に流れる血一滴すら自分の物ではないと言い聞かせてきた」


 マルクスは軍位スキル保有者だ、その力は強大である。

 だがそれは、同時に恐ろしいほどの金がかかったことも示していた。


「もちろん私の生まれた家は当時としては裕福で、だからこそ私は助かった。だが当時はまだまだ商人には辛い時代で、10万セリス捻出するのに、恐ろしいほど苦労したことは忘れません」


 そしてマルクスは議員の目を睨む。


「だが今じゃ経済が大きく発展し、10万セリスは中央の貴族にとっては服に使う値段だ。なぜだ? それは”平和”だからだ」


 そしてマルクスが大きく息を吸い込み、次の一言を放った。


「本当にそうか?」


 そして議場全体を見渡した。


「それはここにお集まりの議員の皆さまを含め、多くの善良な市民がより良き生活を求め努力した結果なのは事実です、ですがその土台である”平和”を用意したのは他ならぬ”我々”だ」


 するとその瞬間、議場全体がざわめき立ち、中にはマルクスに対する野次も含まれている。

 だが、マルクスは止まらない。


「職人が己の腕を磨き、商人たちがそれに価値をつけ、国中、いや”世界中”の人間がその利益に与れるのは、この議場であなた方が”正義”を問うたからではない」


 そして再びマルクスの目の前に立つ女性議員を睨む。


「”我々”が、多くの”不都合”を廃し、多くの辛酸を飲むことで、その”土台”を維持し続けてきた。

 そして私も今日まで多くの物を犠牲にこの国のために働いてきた、自分の命と同じ値段の外国の服を、評議員達に着せるために!」


 そしてそれだけ言い終わると、そこで終わりだとばかりに息を一つ入れ、最後の結論を述べる。


「ですから、あなた方が今の暮らしを続けたいのであれば、”我々”にそれを壊させるような真似をさせないでください」


 マルクスの言葉に議員が押し黙る。

 彼女なりに、マルクスが隠そうとしてる物が、この国の平和を壊しかねない代物であると理解したからだ。

 彼女は己がどれだけ恵まれているかを自覚しているし、そのためにかなりの”闇”をこの国が抱えていることも知っていた。

 だが、彼女が登壇した理由はもう一つ有る。


「それでは”フランチェスカ計画”とは何ですか?」


 突然、議員が予想外の情報を切り出した。

 そして議員が右手で、”フランチェスカ計画”と印字された資料を取り出し、マルクスが僅かに表情を変える。


「何の話だか・・・・」

「これは国防局内で最近多く耳にする言葉で、ルッツ・カルマンも関わっていたとされるものです。

 そして我々は独自に調査を行い、フランチェスカ計画の名が書かれた資料を得た。

 ここには、カシウス・ロン・アイギスが主導して計画を行ったと書いてありますが、関係者の中にはあなたも含まれると書かれています、事実ですか?」

「そんなものを信じ始めれば、キリがないでしょ?」

「ですがこれは、前国王の署名によって発行された”正式”な魔法文書です、まさか国王の署名をお疑いで?」


 議員は書類の裏に描かれた魔方陣を指し示す。

 それは旧式ではあるものの間違いなく、国の機関で使用していた物だった。

 当然ながら偽造は困難を極める。


「失礼ですがどこでそれを?」

「国立魔法資料館の倉庫の中です」


 それを聞いてマルクスは頭の中で悪態をつき、すぐに彼の”管理スキル”が抗議を発した。

 まさかそんな所に資料が残っているとは、夢にも思わなかったのだ。


「この資料によれば、20年以内に王位スキルか、それと同等の力を量産できると書かれています。事実ですか?

 そして事実であれば先程”あなた方”が言った、身を粉にしてまで廃しようとしていた、この世界においての”不都合”そのものではないのですか?」


 マルクスはその内容から、その文書の書かれた時期を推察し、少しだけ安心する。

 おそらく本当に初期の頃の資料が残っていたのだろう。

 その時期であれば、具体的な内容は何も決まっていなかったはずだ。


「逆にお聞きしますが、そんな手段があるのなら、是非とも教えていただきたい。

 ガブリエラ様の例を見ればわかる通り、王位スキルの組成、維持管理は莫大な労力を必要とします」

「では、この文書は嘘であると?」

「国王の署名がある以上、嘘ではないでしょうが、思考実験の類の資料を、大層に受け取られたのでは?」


 マルクスがそう言って肩を竦める。

 これで国王の顔は立てつつ、すっとぼけることには成功した。



「それではこれは空想の産物であると?」

「その資料はいつ、誰が書いたのですか?」


 議員の質問に、マルクスが質問で返す。

 すると、議員は手に持っていた資料の一枚目をめくり、そこに書かれていた内容を確認する。


「日付は今から16年前・・・著者はカシウス・ロン・アイギスと書かれています」

「なるほど・・・ではその”彼”が、その時期にどのような状態・・・・・・・であったかを考えていただければ、ご理解いただけるかと」


 マルクスはそこで表情には出さずに、心の中で己を激しく罵った。

 もう何度も、己の大切な物を犠牲にしてきたが、それでも心が痛まないわけではない。

 特に、マルクスの”親友”に関することは。



「それでは、あなたはこれが ”前国王暗殺犯” であるカシウスの妄想だと?」



 ”前国王暗殺犯”

 

 その言葉にマルクスが顔をしかめ、玉座に座る現国王の顔が不機嫌なものに変わり、2階席に並ぶ”強者”達の空気が険悪になった。

 それはこの国が持つ最大級の”秘密”ではあるが、同時に議員であれば知っている程度のもの。

 だからこそ、マルクスは”あたりまえ”の返答を行った。


「はい、そう考えます」


 

 それは、マルクスが今日初めて言った、心からの嘘だった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る