1-14【魔法学校の入学試験 12:~面接試験~】
『ここか』
「うん・・・」
その建物の前に立ったとき、謎の感慨でモニカの足が震えた。
だが俺達の緊張とは対象的に、目の前にある建物はアクリラの建物の中でもかなり小さくて、ボロっちい。
隣りにある立派な研究所と比べると、それが特に際立っていた。
「本当にここですよね?」
一応確認のために、ここまで連れてきてくれた校長に俺が聞いた。
「ええ、ここで間違いないですよ」
校長の顔はとても疲れているが、昨日と違って老けては見えない。
何か事をやり遂げた満足感の様なものが浮かんでいた。
◇
結局、俺達は最終日の昼過ぎまで待つことになった。
その間ひたすら講堂の休憩室に座っていたのだが、俺もモニカも他に何もする気になれなかった。
重しのように乗っかる緊張と、どうにもならないもどかしさを感じながら、俺達の枠を確保してくれると言ってくれた校長達の言葉を信じて、待ち続けたのだ。
それでも俺は、駄目だった場合に即座に動けるように、持ち物リストの作成と今後の旅程を作ろうとあれこれ考えていたが、モニカの方は凪のようにじっと構えていた。
こうして腹が据わったときのモニカは、テコでも動かない。
実際、今日は一食も取っていなかった。
まあ、緊張しすぎで入らなかったのもあるが。
それでも昼を過ぎた辺りは、流石のモニカからも焦りと後悔の感情が流れ出し、いよいよこれまでかと思ったものだ。
おそらく講堂の中を、謎の興奮にも似た気配が包んでいなければ逃げ出していただろう。
少なくともそれで、校長達がちゃんと動いていることは伝わってきたからだ。
そして、もうすぐおやつの時間かなと俺が思い始めたくらいの時に、ようやく休憩室の扉が開けられたのだった。
校長に「枠ができました」と言われた時の感動と非現実感は、たぶん一生忘れないだろう。
その後俺達はすぐに荷物を纏めて、面接試験を行うために、”学校”へとやってきていたのだ。
だが俺達の目の前の建物は、学校というよりか変な形の家みたいな代物だ。
学校ってのが概念上だけのものであると知ってはいるが、こうして実際に目にしてみると、想像以上に学校っぽくない場所だと気付かされる。
「それでは、終わったら事務局の方に来てくださいね」
校長先生がそう言い、それに対してモニカが首を傾げる。
「校長先生は入らないの?」
そういえば今更だが全試験に同席したアラン先生も、これまで引率してくれたハル先生の姿もない。
というか、校長先生以外誰も来ていないが、本当に”試験”を行うのだろうか?
「4つの試験の中で、”面接”に関しては、”学校”の教師本人しか遂行する権利はありません、なので私も含めて、他の先生は同席できないんです」
「それでいいの?」
「はい、面接に進んだ時点でアクリラのシステムとしての試験は合格です、私達の試験官としての役目は既に終わっています」
どうやら、そういうシステムらしい。
「ってことは、わざわざ校長がここまで来る必要もないんじゃないのか?」
「昨日、あれだけ啖呵を切っておいて、他人に任せられるわけないじゃないですか」
そう言って校長がニッコリと笑う。
それを見ると本当に先生方にはお世話になった事を痛感する、というか校長先生とスリード先生の2大巨塔にここまでさせるなんて、それこそ”不正”になるかどうかのギリギリのラインなのではないか?
もはや裏口入学と言われても、俺は文句は言えないだろう。
俺の中で、”ひょっとしてこの借りって、かなりやばくね?” という思いが、今更ながら湧いてきたが、もう後の祭りだ。
「ありがとうございます」
「本当に感謝しても、しきれないです」
モニカが感謝を込めて丁寧に頭を下げそれに俺が続くと、校長の顔が綻んだ。
これで”借り”が少しは縮小すればいいが、俺も感謝自体はいくらしても、し足りないレベルで感じていた。
「事務局の場所は分かる?」
「講堂の向かいの建物だぞモニカ」
「ロンが知ってるみたいなんで、大丈夫です」
この試験が終わったら、落ちても受かっても一旦事務局に行くことになっている。
荷物も、病院からそちらに移してもらっているはずなので、その位置と道筋の確認は俺の最重要任務だった。
「それじゃ、私は戻るけれど、頑張ってね」
「「はい!」」
俺達が揃って返事し、建物へと向かって歩き出した。
◇
玄関を通ると、少し長めの廊下が続いていた。
廊下の壁には、謎の図形の書かれた紙が貼られていたりするが、扉のようなものは無い。
奥に行くしか無いだろう。
だが廊下の一番奥に着いても、少し広めの空間に、古びたソファーと幾つかの棚が置かれているだけだった。
ただ、家具はどれも使われている感じはなく埃を被っている。
そういえば、なんとなく勢いに任せて建物に入ってしまったが、鍵がかかってなかったけど大丈夫なのかな、と少し心配になった。
俺達が来ることを分かっていたからってのもあるだろうが、少し不用心ではないだろうか?
もう入ってしまったものは仕方がないが、モニカも気にせずに結構ズカズカと進んでいったので、その時は気にならなかったのだ。
だがここまで来た所で、目の前には使用感のゼロのソファーと、少し奥に階段があるだけなので、流石に次の行動を決め兼ねてしまった。
奥に上の階に続く階段があるが、流石に勝手にそれを登る度胸まではない。
「・・・どうしよう」
『一応、声かけとこうぜ』
「すいませーん! 面接を受けに来たモニカです!」
モニカが”本能的”に上に向かって声を発すると、上の階で何かが動くような気配が感じられた。
だが返事はない。
それでも俺達と会う気はあるのか、足音がゆっくりと頭上を移動し、そのまま階段の方へ向かう。
だが、その足音には妙な違和感がある。
俺達が階段へ視線を向けると、ちょうど上から人が降りてくるところだった。
「君が ”モニカ・シリバ”?」
「ええっと、はい・・・」
その人物から
緊張のせいもあるが、それ以上にその人物が発する謎の”オーラ”のようなものに気圧された。
というか、その動きを見て俺達の中に疑念のような感情が生まれる。
『かなり強いな』
俺がそう言うと、モニカから肯定の感情が流れてくる。
同時に疑念が深まった。
動きはとても滑らかなのに、明らかに手負いの違和感があるのだ。
そして、その人物が階段の下まで降りてくると顔が見えた。
俺のその人物に対する第一印象は ”この人の魔力傾向って何色?” だ。
この世界の魔力関連の従事者では珍しい混色の灰色の髪の毛に、色の定まらない、強いて言えば若干茶色?の瞳。
モニカの目のように色が濃かったり、ルシエラの髪のように光ったりはしていない。
さらに不思議なことに年齢がよくわからなかった。
20代後半のようにも見えるし、70代のようにも見える。
若い頃の顔のまま、雰囲気だけが”老け”込んだかのようだ。
笑えばきっとそれなりのイケメンだろうに、まるで墓の下から死に忘れた老人が這い出してきたかのような気分になる。
「私は、スコット・グレン、君の話は”だいたい”聞いている、ロンだったか?」
当たり前だが、俺のこともちゃんと知っているようだ。
そうじゃなきゃ面接も出来ないしな。
「よろしくお願いします、グレン先生」
俺がそう言うと、スコット・グレンの顔が僅かに不審なものに変わる。
「思ってたよりも流暢に”喋る”な、どこから声が出てる? 頭の後ろか?」
「これ」
そう言ってモニカが頭を捻り、ポニーテールの髪留めに化けたフロウの感覚器を見せる。
するとグレン先生の顔が感心したものに変わった。
「フロウか、扱いが難しいのに、その歳でよくそこまで操れるな、それもスキルの力か?」
「うん、ロンはすごいスキルです」
モニカが自慢げにそう答えると、グレン先生が軽く頷く。
「ところで私のことはスコットと呼んでくれ、別に禁忌ではないが、家の名前はあまり好きではない」
「あ、はいスコット先生」
「わかりました」
俺が頭の中でグレン先生の呼び名を”スコット先生”に切り替える。
理由は分からないが”何か”あるのだろう、そしてそれはたぶん”地雷”だ。
こんなに老けて見える人なのだ、間違いない。
「それで・・・ええっと」
スコット先生が、そう言って後ろから紙束を取り出して何かを確認する。
モニカの位置からはよく見えないが、裏表紙に小さく書かれた文字から、それが面接に関するマニュアル的なものだと理解した。
「モニカ、君はアクリラ条約の規定に則って私の”学校”を受験を希望する、ということでいいな?」
「はい」
スコット先生の質問にモニカが即答する。
「よろしい・・・・それでは君のことについて教えてくれ・・・って書いてあるが、これはいいだろう」
「え?」
あれ、聞かないの?
せっかく、面接対策に”志望動機”だの”自己PR”だのを、捏造してきたというのに。
「実は、私に君を落とす権利はない」
するとスコット先生が爆弾発言をして、モニカと俺が揃って固まる。
「私の友人は、君を入れるための枠を作り出すことに、それなりの犠牲を払っている、他の試験の結果を見る限り問題はないし、そんな状態で君を落とせば私が危ない」
「は、はぁ・・・」
モニカが、”どういうこっちゃ”という感じの声を漏らす。
それにしても”枠を作り出す”とは・・・
そういえば、校長は「枠が見つかりました」ではなくて「枠ができました」言っていたが、ひょっとして本当に虚無の闇の中から引っ張り出してきたのかもしれない。
「なので、君が私を”面接”してくれないか?」
そう言って持っていた、”面接の手引”をこちらに差し出してきた。
「え、ええっと・・・どうする?」
『俺に聞かれても・・・』
「ああ、状況が分からないか、すまない」
スコット先生が、呆気にとられている俺達を見て謝った。
「実は、私は昨日まで、”学校”を持っていなかったんだ」
「昨日まで?」
「そうだ、しかも校長とスリード先生がかなりの無理を通して用意したものだから、私には君を受け入れる心構えも準備もできていない」
うわ、本当に無いところに枠を作り出したんだ・・・
「だから、私の学校を受験する君自身に、私が君の”所属”としてふさわしいかを判断してほしい」
「それで、私が面接するんですか?」
「その方が、まだ有意義な気がしてね」
「ええっと、わかりました・・・」
そう言ってモニカがマニュアルを受け取り内容を確認する。
そして”これを聞け”と書いてある内容を、状況に合わせて少し改変しながら読み上げた。
「えっと、先生について教えてください」
「名はスコット、姓はグレン、アクリラで23年教師をやっている、その前はトルバで”魔導剣士”をやっていたが、君と同じようにここへ逃げてきた身だ」
魔導剣士・・・逃げてきた身。
随分意味深だが、強さの理由は分かった。
「ええっと・・・なんで、私達を入れようと思ったんですか?」
するとスコットが指で左側を指した。
「隣の立派な建物は見たか?」
「はい」
「そこに勤めるほとんど知らない”友人”が、君を入れないと嫌がらせをすると脅してきてね、彼らに睨まれたら、この街で研究はできないというのが理由だ」
「はあ・・・」
その”友人”さんには感謝するが、先生は結構嫌々ってことか?
その割に満更でもない印象も受けるのだが。
「ええっと、私が入学したらどうしたいですか?」
「どうしたいとかは無い、昨日の今日で、生徒の扱いなんて分かるものでもないし、困ってるというのが、正直なところだ」
「困ってる・・・」
モニカがその言葉に逆に困惑してしまった。
「それでも、出来る限りのことはしてやりたいと考えている、まあ、アクリラのシステムがあるから、書類上以上の関係はないけど」
「先生の魔力の色は?」
今度はモニカが、マニュアルに書いてない疑問をぶつけた。
「一応、赤ということになっているが、君のようにハッキリとはしていない、特に赤が使いやすいということも無かったし、私にとって魔力傾向とは検査の度に思い出す程度のものでしかなかった」
そんな人もいるんだな。
たまたまこれまで、何かの色に特化した魔法士ばかりを見てきたせいもあってか、無意識に高度な魔法士はどれかの色に特化してると思いこんでいた。
そういえば、ガブリエラも特化はしていないと聞くし、魔力傾向ってのは血液型くらいの認識でいいのかもしれない。
まあ、正確にはスコット先生は”魔導剣士”なので違う可能性もあるが。
「先生って、足を怪我してるんですか?」
するとモニカが意外な質問をして、スコット先生の目が軽い驚きに満ちる。
「なんでわかった?」
「強さの割に、動きがぎこちなかったから・・・」
「凄いな、初見で見破られたのは久々だ」
そう言ってスコット先生がズボン裾を捲くると、そこにあったのは生身の足ではなく、簡単な構造の金属製の義足だった。
ああ、なるほどこんな物で歩けば、そりゃ手負いにも感じるというものだ。
それでも表面上はなんともない事を驚くべきか。
「なんの傷かは聞かないのか?」
「それは、なんとなく聞いちゃいけない気がして・・・」
モニカでもはっきりと分かる地雷臭。
モニカって、意外とそういう話を見極めるのがうまいのか、本当に触っちゃいけない地雷は、露骨になってでも避けるんだよね。
「別に聞いて駄目な話じゃない・・・じゃないが、そっとしておいてくれて感謝する」
「・・・はい」
「俺からも質問していいか?」
「おや、そうだった、もちろんかまわないよ」
スコット先生がそこで俺の存在を思い出したような、驚きと苦笑いを浮かべながらそう言った。
そして俺が感じていた疑問をぶつける。
「スコット先生に選択肢がないのは理解したが、俺達にも選択肢はない、ここに入れなければその足で命懸けの逃避行になる、なのになんで俺達が、先生を拒否すると考えてる?」
「別に考えてないよ」
「いや、明らかに俺達を恐れている」
そう、この人からは一挙手一投足に俺達に関する謎の”恐れ”を感じていた。
モニカから ”それ聞いちゃう!?” 的な感情が流れてくるので、モニカも気付いていたはずだ。
「まいったな、恐れているか・・・確かにそうだ、こんなまどろっこしい事をしてすまななかった」
「俺達が、本気で先生を拒否すると考えてるんですか?」
「そうして欲しいと、心の何処かで考えていたのだろう」
「なんで?」
そこで意を決したモニカが、”それ”を聞いた。
「私は・・・自分の子供を殺した事がある・・・他の私の弟子たちと一緒にな・・・」
スコット先生が行った予想外の衝撃の言葉に、俺達が固まる。
「驚いたようだな、そうだ、だからアクリラに来ても、授業を持つことはあっても、生徒は持たないように努めてきた」
俺はそれを聞いても反応を返す事ができなかった。
自分の子供を殺すなんて・・・
だがモニカは違った。
「・・・なんで」
「ん?」
「なんで、それなのに、私達を受け入れようと思ったの?」
「それは隣の・・・」
「そうじゃ、ないんでしょ?」
モニカのその言葉に、今度はスコット先生が固まる。
どうやら図星のようだ。
「君の事を頼んできた人に、私は”弱い”と言ったら、ならば受けろと言われた、私が受けなければ君達が再び死地に身を置くと・・・」
そしてスコットが俺達の目をじっと見つめる。
「だが、それでも君達は、自分の教師が教師にふさわしい人物でない事を知るべきだ、その上で私の学校を受けるか判断してほしい」
「受けます」
モニカの答えは、一考にも値しないといわんばかりの即答で、それにスコット先生が軽く面食らったような表情になった。
「あなたは正直にそれを話し、選択肢もくれた、それに意味はなくとも、逃げであっても、私達の味方になってくれた、私にとってはそれだけで十分です」
モニカはその言葉に精一杯の気持ちを込めた。
どうやら覚悟は揺るがないらしい。
だが、そうは言っても”ケジメ”はつけないといけない。
「俺からも一つ」
そう言って、モニカの中の大量の魔力を周囲に漂わせて一気に濃度を上げる。
それはまともな人間なら恐怖するほどの密度。
俺でなければ即座に制御不能に陥り、周囲を焼き尽くすだろう。
アクリラの教師だってダメージにはならなくとも、その”意志”は伝わる。
「俺達を簡単に殺せるとは思わない方がいい、そこは
これで少しは脅しになったかな。
だが、スコット先生は無表情のまま、少しの間俺達の顔を見つめたあと、おもむろに回れ右して、そのまま階段を登っていってしまった。
「え?」
『あれ?』
俺達が、なけなしの”虚勢”がスルーされた事と、スコット先生の突然の行動に呆気にとられ、続いて軽く慌てる。
「ええっと、先生?」
「そこで待ってなさい」
「あ、はい・・・」
「待ってます・・・」
柄にもなく威圧とかしちゃって、ごめんなさい。
と、心のなかで謝りながら少し待っていると、スコット先生は意外とすぐに戻ってきた。
そして手には謎の布の袋を持っている。
「モニカ・シリバ!」
「は・・・はい!」
「ロン!」
「はいっ!」
突然、キリッとした表情と声でそう呼びかけられ、俺とモニカが揃って背筋を伸ばすと、スコット先生が手に持った袋をこちらに差し出した。
「これを受け取りなさい」
スコット先生がそう言い、モニカが恐る恐る受け取ると、そっと中を確認する。
その瞬間、モニカの目頭に熱いものがこみ上げた。
中に入っていたのは、白と黒の衣服が一式。
それはアクリラの中等部の制服だった。
「君は今から正式に、我が校の生徒になった、今後は街の中ではそれを着て過ごすように」
「・・・はい」
「それとバッジは必ず胸元に着けること」
「はい」
モニカが折りたたまれた制服の上に置かれた、金属製のレリーフのようなバッジに軽く触れる。
びっくりするほど、ピッカピカなそのバッジには、黒と白でカラスと蛇と獅子の紋様があしらわれ、”スコット・グレン”の文字が刻まれていた。
これが”校章”になるのだろう。
「それと・・・週末の最後の授業の後に、ここに報告に来なさい」
「はい」
「あとの詳しいことは、事務局に行けば教えてくれる、その服にはここで着替えていくように、君はもう既に”生徒”だ」
そう言ってからスコット先生が部屋の中を見回して、少し困った顔になった。
「あー・・・更衣室とかはないが、私が上に戻るから、それから着替えて出てくれ」
そして、それだけ言い終わるとスコット先生は再び回れ右して、もと来た階段を登っていった。
だが今度はその途中で足が止まる。
なんだろうと思っているとスコット先生の顔がこちらを向いた。
「あー・・・なんだ・・・その・・・お互い”新人”だが、今後もよろしく頼む」
するとモニカが返答するように大きく頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします、”スコット先生”」
「モニカ共々お世話になります」
そして、スコット先生が俺達のその言葉を聞き終わると、また再び階段を登り始めた。
◇
制服の生地は、実際に袖を通してみると、伸縮性のあるしっかりとしたものだった。
天然素材ではあるが近くで見ると、スポーツウェアの様な印象を受ける。
それに肌触りがなめらかで心地がいい。
夏服なので半袖の白のシャツに、黒の薄手のベスト。
暑さが心配だったが、着てみると薄い生地でちょうどよかった。
下は黒のスカートの下に、膝上くらいの黒いズボンを履いている。
これなら捲れても気にならないだろう。
着てみて分かったが生地もよく伸びるし、本当に動きやすい構造をしている。
”制服”というデザインも、機能性を追求していった先に偶然たどり着いた、といった感じだ。
そのためよく見ると、細かい所が”こっち”基準の塊であることに気が付き、それを知ったあとでは、地球の制服とはあまり似ていないと感じるようになった。
そして何より制服である前に、魔法士服として完成していた。
おそらくこれを生徒に着せる理由は、魔法士の服装はこうあるべしというのを、肌で覚えさせるためというのもあると感じた。
これを知ったあとでは、魔法士服”もどき”は着られないだろう。
最後に胸にバッジをつければ完成だ。
どこにつけるか迷う事はない。
魔法士は合理的なので制服の胸元には、ここにつけろとばかりに金具がついている。
後はそこにカチリと音がするまで嵌め込んでやれば着替えは完了だ。
『うん、いい感じだ、様になっている』
俺が少し離したところに作った感覚器からの映像を見て、満足そうにそう言った。
馬子にも衣裳という言葉もあるが、こうして制服を着ればどこからどう見てもアクリラの生徒にしか見えない。
というか嫌にサイズがあっているが、いつ測ったんだ・・・って検査の時に散々測ったか・・・
あれだけ細かく測れば、もっと体型にピッタリ合わせ込むことも可能だろうが、成長を見越してか、それなりに”遊び”が取られてはいる。
「変なところない?」
そう言ってモニカが感覚器に色んな方向を向けて、俺にチェックさせる。
『ないない、むしろもう少し着崩しても大丈夫なくらいだ』
街なかを歩いてる生徒は結構フリーダムに着ているので、多少適当でも気にならないだろう。
「この後は、事務局に行くんだっけ?」
『そうだな、そこで残りの手続きを行うらしい、時間も少ないから早く行ったほうがいいだろ』
「うん」
モニカが頷き、さっきまで着ていた服を袋に入れると、それを抱えて部屋を後にする。
建物の玄関までの長い廊下を歩いていると、その一歩ごとに自分が変わっていくような不思議な感覚を覚えた。
まるで、ここに来るときに抱えていた重たいものが取れていくかのようだ。
モニカが玄関の扉を開ける。
そして俺達はこれから数年に渡ることになる、アクリラ生としての第一歩を踏み出したのだった。
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