1-11【新しい朝 8:~魔力傾向~】
ルシエラが天秤のような魔道具の準備を進める。
何やら色々と不思議な物体が取り付けられているが、全体としては白い無骨な見た目をしている。
特徴的な見た目としては物を載せる皿が両天秤の上ではなく、天秤の中央の支柱部分に固定されていることだろうか?
ちなみに両天秤の先には謎の四角い箱が収まっており、片方は青い宝石のような物が嵌っている。
そしてその宝石の部分はカートリッジ式のような形になっていて、おそらく外れると思われた。
その天秤を一通り手で持ち上げて機器の状態を確認した後、準備が整っていることを確認したのかルシエラが俺たちの目の前にそれを置き、今度は天秤の台座を弄り始めた。
どうやら天秤の水平を取っているようだが、魔道具でも天秤はやはり水平にしなければならないのかな。
「うん、まあ、こんなもんか、用意できたわよ」
最後に問題がないことを確認したルシエラが得意気にそう宣言した。
「ルシエラ、今、こんなもんか、って言わなかったか? 大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫、これは適当やっても別に怪我したりするようなものじゃないから」
俺の心配に対してなんでもないように、そう軽く答えるルシエラに俺は一抹の不安を覚える。
「本当に大丈夫だよな・・・・」
まあ見た感じ構造自体は簡単な感じのちょっと不思議な形の天秤なので危ないことはないだろうが・・・
一方、モニカに関してはニコニコと目を輝かせてその天秤を眺めている。
どうやら彼女の好奇心をくすぐる何かがある様だ。
さて、天秤を置いたはいいがどうするのだろうか。
「それじゃ手を出して」
「手?」
「そう、どっちでもいいけれど、片手を天秤の中央のここに乗せて」
ルシエラが指し示したのは天秤の中央の上に取り付けられた皿のような部品。
どうやらそこに手を置けということらしい。
おっかなびっくり半分、好奇心半分のモニカが指示通りそこに手を置く。
すると天秤の宝石がついていない方が下にほんの少しだけ下がった。
その状態で止まっているので風や振動の影響ではないだろうが、一体何が原因なのだろうか?
するとおもむろにルシエラが天秤に顔を近づけ、何かの値を読み取っている。
どうやら天秤の中心部にはどの程度天秤が動いたかを示す目盛りが刻まれているようだ。
「えっと、青は0.3と・・・」
そしていつの間にか取り出した紙片にその値を書き込む。
「ルシエラ、その数字は何なんだ?」
「・・・これ? モニカの青の魔力傾向量だよ」
「私の青の魔力傾向?」
「黒以外もあるのか!?」
驚いた、てっきり黒だけが俺たちの魔力だと思っていたのだ。
「当たり前じゃない、基本的に殆どの魔力は全ての傾向が少しは含まれているものよ、むしろ0.3だから青はかなり少ないといえるわね」
「青は少ない・・・」
ルシエラの青い魔力に少なからず憧れていた、モニカが少しショックを受けたような声を出す。
「それじゃ次行くわよ」
そう言ってルシエラがカートリッジ式の宝石を取り外し、代わりに今度は赤色の宝石の付いたカートリッジを天秤に取り付けた。
「その石は何?」
興味を持ったモニカが問う。
「吸魔石・・・魔法石の一種で、特定の条件の魔力を吸い込むの、これは検査用に生成された特別仕様だけどね」
「何が特別なんだ?」
俺がそう問いかけると、ルシエラが幾つかのカートリッジを収納したケースのようなものを取り出した。
そこには先程使った青い吸魔石を含めて、黄緑黒白と今天秤に取り付けられている赤色の吸魔石を含めれば全色の吸魔席が揃っていることになる。
「この吸魔石はね、石の色の魔力傾向だけ吸い取るようにできてるの、それでこっちは・・・」
そう言って今度は天秤を指し示す。
「中心の皿に置かれたものから一定の魔力をこの両天秤に均等に流して、下向きの力に変わるようになってる、だけど片方には吸魔石が付いているからその吸魔石と同じ色の魔力は全て吸い取られてしまう、そんな状態で魔力が天秤に届けばどうなると思う?」
「・・ええっと、吸魔石の付いていない方がさがる?」
「どれくらい?」
もしその吸魔石と同じ色の魔力がなければフィルターに吸収される要素がないから、魔力はそのまま全て下向きの力に変わり、天秤の反対側と釣り合うから動かないはずだ。
反対に吸魔石と同じ色の魔力が多ければ、フィルターに吸収される魔力が多くなり反対側に対して押し下げる力が弱まるので、釣り合いが取れなくなり、
「うーん、その色が強いほど大きく下がる?」
「正解!」
ルシエラが楽しそうにそう言ってモニカを軽く褒め、褒められたモニカが得意げな笑みを作る。
「それにしても単純な作りだな」
「その代わり正確だけどね。受験の時にはこれのもっと大きな奴で測られるわ」
「それは楽しみだな」
結局こういった検査ではシンプルな構造こそが信用できるというものだ、それはこの世界でも変わらないらしい。
「さて、説明はこの辺にしてちゃっちゃと全部測っちゃいましょ!」
◇
それから俺達は少し時間をかけて、全部の模力傾向の量を測り終えていた。
表にするとこうなる。
赤 2.6
青 0.3
黃 4
緑 4.4
黒 83.4
白 5.3
という結果になっていた。
天秤のメータのマックスもそうだし、得られた値を全部足すと100になるので単位は%と見てまちがいないだろう。
となるとやはり黒傾向が圧倒的に強いか。
他はわずかに白が一歩リードしているが正直どんぐりの背比べだ。
「で、俺達の魔力傾向はどうなんだ?」
「うーん、普通よりかなり黒によってるかな、他も使えなくはないけれどってレベル止まりで、青に至っては絶望的ね」
「ぜ!?」
青が絶望的と言われてモニカが発した大きな衝撃が俺の方まで伝わってくる。
「一応聞いておくが、この傾向がその魔力傾向の使いやすさと見て間違いないのか?」
「そう思ってもらって構わないわ、だから専門性の高い魔法は、黒は得意だけど、その他は出来ても基礎レベル止まり、青に関してはほぼ使えないと思っていたほうがいいわ」
その答えを聞いたモニカが露骨にシュンとなる。
どうやら黒以外殆ど使えないと聞いてガッカリしたようだ。
そしてそれに気づいたルシエラが声を掛けてくる。
「どうしたの? なに? 黒以外使えないって聞いてがっかりした?」
「いや、そんなことはないけど・・・・」
「それじゃ、面白いものを見せてあげるわ」
そう言ってルシエラが天秤の中央の皿に手を乗せる。
その表情はなにかイタズラを仕掛けているかのように得意げだった。
今は白色の吸魔石が嵌っているはずなので彼女の白の魔力傾向量が分かるはずだ。
だが驚いたことに、一向に天秤が傾く気配はない。
「え? どういうこと?」
モニカが驚いたような声を放つ。
天秤が動かないということは、天秤の両方に均等に力が掛かっているということだ。
そして今片方にはフィルターとして白の吸魔石がついているので、少なくともルシエラには白の魔力傾向が全くないということになる。
少しではなく全くだ。
1でも0.1でもなく、完全な0。
天秤が微動だにしない所を見るにそうとしか思えなかった。
「それじゃ次はこっち」
そして得意げな顔のままのルシエラが今度は青の吸魔石を手に取る。
ルシエラはかなり強烈な青なので、きっと大きく振れるはずだ。
90%かそれ以上の値が来ることが容易に予想された。
「あ!」
だが現実はその予想の上を行く。
なんと天秤が一番大きく傾いたのだ。
メーターは見るまでもなく100%だった。
「つまり、ルシエラは青の魔力しか持っていないのか?」
そんなことってあるのか?
今かなり黒が濃いと言われたモニカですら、黒は80%台なのだ。
それがきっちり青100となるとちょっと信じられない。
「そうなるわ、私は青だけ、それしか持っていない」
そう言って真剣な眼差しでモニカの目を覗き込んできた。
「私は、他の色の魔法は全く使えないわ、基礎的なものですらね」
その迫力にモニカが息を飲み、俺も圧倒されていた。
彼女のレパートリーは俺達から見たら圧倒的で、なんでも出来るような気でいたのだ。
だが実際は魔法の大部分は挑むことすら出来ない状態だったのだ。
「覚えておいて、その値は何かの優劣を表すものじゃなくて、ただの道標だということ」
そしてさらに指を一本立てるとその上に複雑な形の魔方陣を作り、それを利用して小さな魔力の塊を次々にいろいろな形に変形させていく。
「そしてこれも覚えておいて」
指の上の魔力の塊は炎や光、氷や土に次々変わっていった。
その種類の多さは”青”という色からは想像もつかないほど多種多様だった。
「この世界には1色として極められた魔法なんてない、たとえ1色しかできないとしても、できることが少ないわけではないの」
俺達はその言葉の意味の雄大さに圧倒されながら、ルシエラの魔力の動きをただ目で追っていた。
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