1-8【少女と老人 2:~力の王の名残~】
「全ての力の王?」
『の名残り?』
俺とモニカがカミルの言葉を反芻する。
どうやらそれが俺の正体らしい。
「・・・ガブリエラ様の事は知っているか?」
「名前は・・・」
『この国唯一の王位スキル持ちの王女様だろ?』
そういえば、他にどっかで聞いたことあるような・・・
あ、今は検索しなくていいから、後で見るから。
俺は勝手に記憶の総ざらいを始めようとした完全記憶にストップの指示をだす。
「ガブリエラ様について名前以上の事を知っている者など、そうはおらんよ、この世界唯一の王位スキルとされているが北部でその実態を見たものはそうはおらん」
ありゃ、この国どころか世界で唯一だったのか・・・
「だがその力はこの国中にその名声を轟かせている、どんな片田舎の子供でも知っているほどにな・・・・」
カミルがそこで一旦話を切り、魔水晶の上に展開されている魔法陣を睨む。
そういえばこっちが本題だったか。
なにか、気になることでも見つかったのだろうか?
しばらく魔法陣の形を少しいじって調整をしている。
「当然・・・新たにその力を得ようとする動きはいくつもあった、そしてより強い力を求める動きも、全ての”力”を内包する”力の王”の完成すら、ウルスラ計画で得た知識はそれが可能ではないかと錯覚させるのに十分なものだった」
「力の王?」
「魔法、スキル・・そして物理的な力・・・全てを内包する万能の神に近い空想上の存在だ、そして人は何度もそれを追い求める愚行を犯してきた」
「わたしのスキルも・・・その一つ?」
「・・・・・・おそらくな」
「じゃあ、なんでわたしの中にそれが?」
「・・・・・それは分からん」
その答えは、妙に時間をかけてから放たれた。
なんとなくだが、カミルには心当たりがあるのではないか?
そう感じさせるが、この分だと聞いても答えてはくれないと思われた。
だがモニカはもっと突っ込んだ問いかけをした。
「その”力”は、わたしの中に
これに対してカミルは答えることはなった。
まるで何かを誤魔化すように視線を魔法陣に向ける。
「ところで、お前さんの名前は?」
少ししてから、カミルが今更といえば今更なことを聞いてきた。
「ティモさんの紹介状には書いてなかったの?」
「名前のところは見とらんかった・・・・」
どうやら俺たちが何者かよりも、カルテの内容の方が気になったらしい。
そういうところは仕事人なのか、彼の中に受けないという選択肢は無いということなのか。
「・・・モニカ」
「母親の名前は?」
「・・・知りません」
その答えを聞いて、少し押し黙る。
「では、父親の名前は?」
そのとき、不思議なことにモニカの中に気恥ずかし気な感情が流れた。
「ええっと・・・・」
「どうした? 父親の名前も知らんのか?」
カミルの表情がまた少し気まずそうな感じになる。
「いや、そうじゃなくて・・・・名前は知ってるんですけど・・・」
どうやら何かモニカには父親の名前について、恥ずかしがるような事があるらしかった。
そういえば俺もモニカの父親の名前は知らない。
今まで父親の話はタブーに近い空気だったし、モニカ自身も父親のことをそこまで知っている感じでもなかったから、聞かなかったのだ。
「・・・・父さんは・・・・ロンって名前です・・・・」
モニカの口から出てきた名前は、まさかの俺と同じ名前。
まさか俺ってモニカの父親だったのか!? 衝撃の事実が発覚!
とはさすがにならないが、俺は自分の名前の由来に少なからぬ衝撃を受けていた。
そして意外なのは、カミルの顔がわずかに強張ったのだ。
「父さんの事を知ってるんですか!?」
そしてモニカもそれを見逃さなかった。
まるで掴みかからんばかりの勢いで身を乗り出そうとして、カミルに左手で抑え込まれた。
「動くな、調整中だぞ?」
「えっと・・・すいませんでした」
モニカがゆっくりと椅子に腰を下ろす。
その様子を見てカミルが深いため息をついた。
「どうやら、調整が一段落するまで私が何か質問するのは止めたほうが良さそうだ」
『俺もカミルさんに同意見だ、気になるのは間違いないが、それで調整に影響が出れば目も当てられない』
「・・・分かりました」
多少不服そうではあったが、モニカはそれを了承してくれた。
「その代わり、お前さんについてもっと教えてくれ」
「わたし?」
「ああなんでもいい好きに喋ってくれ、どんな風に生きてきたか、どういうスキルの使い方をしてきてきたか、それが知りたい」
「スキルの調整のため?」
「・・・・まあそうだな、それにこいつはかなり時間がかかりそうだから、その間、お前さんは暇だろう? 話したくないことは話さなくてもいい、ただこのスキルをどういう使い方をしているのかについてだけは正直に教えてくれ」
それからカミルがモニカのスキルを調整する間、モニカが自分の人生について語り続けた。
ただし、目新しい情報はあまりない。
強いて言うなら、モニカは住んでいた家のことを”王球”と呼んでいたことと、モニカの父親はあまりロンと呼ばれるのを好んでいないということくらいか。
いい名前だと思うのに、変な人だ。
それに玉の王とはまた妙な名前の家だな、まあかなりでっかい丸なのは間違いない。
卵型だけど。
そしてモニカは物心ついたときから、あの氷の世界に住んでいて、俺の知っているように二体のゴーレムも最初からそこにいた。
彼らに対する親愛も最初から変わりないものだ。
あそこの周囲の獣を狩って、氷のオアシスに野菜を取りに行くというのも変わりない。
もちろん最初は父親一人で行っていたらしい。
ただすぐに一人で家で待つのが辛くて、父親に無理を言って付いていくようになった。
そしてそこで父親に連れられていく中で、父親から戦う技術を学んでいったそうだ。
フロウを使う砲撃は父親譲りだ。
そして次第に父親が病気で弱っていくに連れ一人で狩に出かけることも多くなり、その生活は父親が死んでも変わることはなかった。
それが俺の知らない、モニカの人生だ。
モニカが、父親が死んだと語った瞬間、わずかにだがカミルの顔が曇ったような気がした。
やはり何か知っていそうだ。
そしてモニカもそう確信したみたいだが、聞いてもまた止められそうなのと、彼女の中でもまだ整理がつかないのか口に出すことはなかった。
そして、話が俺が目覚める段になって、モニカが俺に対して何かを確認するかのように思念を飛ばしてきた。
ただすぐ目の前にカミルがいるので、声にはできないらしい。
『どうした? 俺に何か質問か?』
モニカから肯定の感情。
『スキルについてか?』
またも肯定。
『スキルの詳細を話すかどうか?』
今度はやや微妙な感情、言葉の意味はあっているが、ニュアンスが違うらしい。
となると・・・・
『俺についてか?』
これまでで一番の肯定の感情、それと軽い安堵と不安。
どうやら、いざスキルの詳細について話す段になって俺という一番の特異性を話すかどうか悩んだらしい。
『喋るスキルくらいは言った方がいいんじゃないか?』
これまでで一番の不安な感情。
『相手はこの道の専門家だ、それにもう知っているかもしれない』
既に結構な時間、カミルはモニカのスキルの何かの情報を閲覧しているのだ。
どういう構成をしているかは既に俺以上に理解していることだろう。
「声が・・聞こえた」
「声?」
「スキルの声」
カミルがその情報に僅かに眉を動かす。
ここまで何を聞いても、相槌以外は殆ど動きがなかっただけにその反応は新鮮だ。
「その声は、今も聞こえているのか?」
モニカが軽く首肯する。
「どんな声だ?」
モニカの話が始まってから、初めてカミルがその内容について聞き返したので、その内容はさぞ彼の興味を引いたのだろう、まあ、スキルに関する重要な情報だし、俺もモニカが俺についてどういう風に感じているのかすごく気になる。
「・・・父さんと同じ声、でも話し方はぜんぜん違うけれど」
『・・・・・・・・それほんと?』
モニカから肯定の感情、と同時に何かずっと言えなかったことを言い切った後のような、謎のすっきり感が漂ってくる。
だが、それでモニカが俺にロンと名付けた訳がわかった。
まさか、同じ声だったのか・・・・
「その声は、スキルが起動したときに聞こえ始めたのか?」
モニカがまた首肯する。
それを見たカミルが、少し手を止め、それからまるで異物を探すような真剣な目で魔法陣を覗き込む。
もしかして、俺ってやっぱり何かの異物なのだろうか?
「そいつは管理用のインテリジェントスキル・・・だと思う、たぶんそいつも自分のことをそういう風に言っているんじゃないか?」
「・・・うん」
よかった、異物じゃなかった。
俺が深い安堵を感じていると同時に、一つ気になることがあった。
『なあモニカ、”ウルスラ”にもそういうのがあるのか聞いてくれないか?』
俺は、名目上、フランチェスカの唯一の同類であるウルスラにも似たような機能があるか気になった。
「ウルスラも喋るの?」
「ああ、あれにも管理用のインテリジェントスキルがあるからな、もともとこいつは”軍位”スキルの管理用に作られたシステムを応用している」
なんと!
『ということは、俺には生き別れの兄弟がいるかも知れないのか!!』
一人ぼっちの存在ではなかった!
と、謎の実はそれ程でもない感動に浸っていると、モニカからちょっとうるさいという感情が流れてきた。
「その声も、よく喋るの?」
その問いには少々毒が篭っていた。
「俺が纏めた軍位スキルを持っているやつは、喋るときはうるさいと言っていたな・・・ただ、それ程話しかけてくることはないとも」
「ふーん」
モニカが俺の声に対して謎の採点を行っている様子が伝わってきた。
『違うぞ、そいつはきっとシャイなだけで、俺が普通なんだ!』
俺が何故か必死に取り繕う。
「まあ、悪いものではない、むしろお前を助けてくれるものだ」
カミルのその言葉にモニカの中に強い肯定の感情と、温かい安心感が溢れた。
「それは知っている」
モニカが力強く頷いた。
どうやら、俺はカミルに救われたらしい。
サンキューカミル!
その後、モニカは俺が目覚めてからここに来るまでの話を始めた。
そこは俺も知っている部分だが、モニカ視点で語られるとモニカの俺に対する信頼がなんだか妙にむず痒い。
俺の考えていた以上にモニカは俺に命を預けていたようだった。
それと記憶が新鮮ということもあるが、モニカの語る人生については、本当にここ数ヶ月が劇的だったようで、語る分量の配分が俺の目覚める前と後でそれ程大きな差はなかった。
カミルは語り口の熱量が妙に増えたことを、一瞬訝しがることはあるものの、概ね無反応を貫く。
そして普通ならば驚きそうなサイカリウスとの激戦の話にもそれ程興味は示さなかった。
スキルの使い方としては別段注目するほどのことではないのだろうか?
ただ、飛行系のスキルの獲得の話になると、カミルの表情が大きく変化する。
「組んだのか? スキルを?」
「組んだというか・・・・」
『ログには・・・スキルを登録したとあるな』
「登録したって・・・」
「登録した、だぁ!? 新しいスキルをか!?」
カミルは器用に顔だけを大きく動かして驚いている。
モニカの腕と魔水晶に触れている自分の手は微動だにしていないので、そのへんは流石本職ということか。
だが、その驚きようは凄まじかった。
もしかして新しいスキルの登録って普通ではないのか?
「【魔力ロケット】に【空力制御】・・・こいつか・・確かにあるな・・・すまん続けてくれ・・・」
カミルが魔法陣を睨みつけながら、そう言った。
もしかしてその魔法陣には、俺が持っているスキルの一覧でも書いてあるのか?
その後モニカが今日までの旅の内容を語ってみせたが、戦闘について熱く語りたがったモニカに対して、カミルが興味を示したのは【ロケットキャノン】の獲得の話と、ミリエス村での他人のスキルをコピーしたときの話だった。
「それは、そのスキルがそう言ったのか?」
「そうだけど・・・」
カミルが俺がモニカに話したスキルコピーの原理を聞いて、蒼白になった顔を左手で抑えた。
「あの・・・やっぱり、何か変ですか?」
「・・・・まだわからん・・・」
カミルは魔法陣とモニカの顔を交互に見比べながら何かを考えているようだった。
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