1-2【新たな世界へ 3:~山の麓で~】


 

 思わぬところでモニカの年齢が判明する、というか


『誕生日って概念あるのか』

「うーん・・・だいたい寒くなる前に適当にやってた感じかなぁ」


『ちょっとまて、それじゃまだ10歳じゃないか!』

「もうすぐ11歳だよ!」


 空中でどうでもいいことで口論する俺たち。

 傍から見たら轟音を上げてふわふわ浮かぶモニカがしゃべっているだけなので、さぞかし不思議な光景だろう。


『10歳でも11歳でもあの山に登るには小さすぎる』

「うーん・・・」


『それにどっちにしろ歳の割には小さいぞ』

「・・・それほんと?」

『成長期なんで誤差は大きいが頭一つ分くらい小さいな』


 しかもそれは日本人の話であって、モニカのような西洋人的人種なら平均はもっと高い可能性が高い。

 まあ、この世界の平均身長が実際のところどうなっているのかは不明だけど、


「いいもん、小さいままでも」


 そういってモニカが膨れる。

 なにこれ、ちょっとかわいい。


『小さいままじゃダメだろ?』

「なんで?」

『スキル! ゴーレムスキルの条件!』


 俺はそもそもの旅の理由を思い出させる。


「魔力の扱いと魔法知識でしょ?」

『それだけじゃないだろ!』

「・・・・なんだっけ・・・」

『”身長”と”手先の器用さ”』


 それを聞いた途端、モニカの顔から急に血の気が抜ける。

 

「ロンどうしよう!このままだとわたし、クーディもコルディアーノも助けられない!」

『お、落ち着け、姿勢を乱すな!』


 慌てて強制的に高度を落とす、このまま墜落されたらたまったものではない。


「で、でも・・・」

『いいか、モニカ!俺の話をよく聞け』

「う、うん」

『お前はまだ10歳だ!』

「じゅうい・・」

『10歳!』

「・・う、うん」


『10歳ということは子供だ!』

「う・・・うん・・・」

『つまり成長する!』

「背が伸びるってこと?」

『そう、それもかなり伸びる!』

「おお・・」


『だから今はそこまで気にするな』

「わかった」

『ただし!』

「うっ!?」


『食べ物はよく噛んで食べること!それとしっかり寝る!』

「なんで?」

『じゃないと身長伸びないぞ?』

「!?わかった!」


 そんなやり取りしている間に、ちょうど目的の氷山に降り立った。

 そしていつも通りソリのロープを解き始めるモニカ。

 だが、その表情には前回の興奮とはまた違った強い感情が表れている。


 俺としてもようやくこの氷山伝いの海渡りが終わるのかと思うと、なかなかに感慨深い。

 そう、今回山の姿を確認したと同時に、そこまで氷が続いていることが判明した。

 つまり現状の方法で陸地にたどり着くことができるのである。


 まあ、その先に壁のような山がそびえたっているが何とかなるだろう。

 既に通り抜けられそうな部分を見つけており、現在はそこに向かうコースを取っている。

 氷山を渡る回数はあと3回、今日中に陸地部分にはたどり着けるだろう。



※※※※※※※※※※※

 


『ついに来た』


 そういわずにはいられない。

 

「これが最後だよね」

『ああ、次の氷山は陸とつながっているからこれが最後の”渡り”になる』


 既に眼前には海に浮かぶ氷山よりも、その先の山々の威容の方が目に付く。

 手前側に少し小さい山、奥の方に行くほど山が高くなり、見える範囲で一番高い山の頂上などは雲に包まれて見えない。

 しかも小さめの山でもかなり斜面が急で、それが連なっているのでまるでのこぎりの歯のように見える。


 そして意外なことに、山との間の平地部分がほとんどない。

 もはや崖といった方がいいレベルだ。


 それが右も左もどこまで続いているのかわからないところまで続いている。

 

『不思議な地形だな』


 ゆっくりと最後の飛行に入りながらそうつぶやく。


「これは珍しいの?」

『ここまで巨大なのは珍しいんじゃないか?』


「ふーん・・・そうなんだ」

『あれ、モニカは何とも思わないのか?』

「いや、あんまりにも大きすぎて」


 そういうモニカの目が点になっている。

 確かにここまで巨大な物体を見るのは初めてだろう。


「山って、すんごいんだね・・・」


 どうやら山に圧倒されているみたいだ。

 


「ねえ、ロン?」

『なんだ?』


「また飛ぼうね」

『どうした?』


「やっぱり空から見た方がいいと思うんだ」

『ははん、モニカはまた空を飛びたいんだな』

「うん」


『おや、そこは誤魔化さないのか』

「何で誤魔化すの?」

『いや、子供っぽいかなと思って・・・』

「子供っぽいと隠すの?」


『・・・・いや、忘れてくれ・・・まあ、今後も時々飛ぶことはいくらでもあるだろうさ』


 そうしないと突破できない地形や、高いところから確認した方がいい場面はたくさんあるだろう。

 むしろ飛行能力は山岳地帯でこそ、その力を発揮できるというものだ。


 そのことを伝えると、モニカは一際嬉しそうな顔をした。




※※※※※※※※※※※※※



 

 今日出発した時はまだ山の姿がはっきりとは見えていなかったのに、今現在、山脈の端に沈む太陽を見送りながら、山の麓に今日の寝床を確保している。


 何とかこの一日で陸の部分までやってくることができた。

 といってもまだ氷の上に違いないのだが、モニカに言わせればこっちの方が安心するらしい。


 俺も振動で遠くの状況を測る技術を最近ようやく身に着け始めていたので、こうしてそれが使えて周囲が確認できると、気持ちが落ち着けるような気がする。


 それにここは陸地なのだが、海の反対側にあったような木が生えておらず、森の中のように動物の数が多くない。

 少し先に大型の海生哺乳類と思われるセイウチのような集団がいる程度だ。


 というかあのセイウチでかいな・・・・

 

 ただ名前まではわからない、図鑑にあのような生き物は載っているのだがどれも見た目が似通っていて、正直見分けがつかない。

 

 ただし大きさに関しては地球のセイウチを大きく超えるだろう。

 小さめの個体でも20m近くあり、ほとんどがこの前の超巨大サイカリウスよりも大きい。


 そんなのが何十匹もいるのだ。


 さすがの俺たちも近寄ろうとは思わない。

 向こうもおそらく気づいているが、何か手出しをしようという素振りはない。

 というよりもあまりにもでか過ぎて、こんな小さな存在など歯牙にもかけていないのだろう。


 それならそれでありがたい。


 正直戦っても実りが少ないのだ。

 

 実は氷山を渡ってきた時に一度似たような生き物を仕留めたのだが、体が大きい上にあまりにも皮膚が分厚くて解体をあきらめたのだ。

 それにわずかに切り取った肉に関しても脂肪が大半で、モニカ曰くまずいらしい。


 なので関わらないのが双方にとってメリットがあるだろう。


 まあ、俺たちは山の向こう側に用があるため陸地の深くに陣取っているので、そもそも出会うことはないのだが。



 今夜のおかずは昨日食べなかった鳥だ。

 こいつは基本的に海鳥なので、今後出会うことはないだろう。

 氷山生活の締めとするにはちょうどいい。


 モニカが丁寧に羽をむしり首を落とす。


 それを内臓と肉に分けて、さらに細かく切り分け”魔力鍋”で煮込む。

 味付けは基本的に塩だけだが、これだけでもかなりうまい。

 内臓からは結構いい出汁がでるようで、それだけでも深い味わいがあるのだ。


 ここ最近のお気に入りである。


 ただ食器の類がないので、鍋直飲みなのが珠に瑕たまにきずだが致し方ない・・・・そうだ。


「わ!?」

『これを使え』


 モニカの目の前にフロウを変形させて作ったフォークを差し出す。

 そしてモニカがそれを掴むとフォークの部分だけ切り離した。


 おそらく一度切り離すとまた元に戻せるかどうかわからないが、それでもこれくらいのサイズのものを持っていた方がいろいろ使えていいだろう。

 

「なにこれ?」

『フォークだ』

「フォーク?」


『今後は人の居るところに出ることになるだろうし、そろそろ基本的な食器の使い方を覚えた方がいい』

「食器?」

『食べるときに使う道具だ、おそらく普通の人間はこれを使って食べていると思う』

「ええ・・・手で掴めばいいじゃん」

『それじゃダメなんだ、相手の心証が悪い』


「うーん、わかった使い方を教えて」



 その後俺の簡単なフォークレクチャーによって、モニカがフォークを使って食べることを覚えた。

 しかもこのフォークはフロウで出来ているので、スプーンにもナイフにもなれる優れものだ。


 おそらくこれを見た人は欲しがるんじゃ無いか?

 まあ俺がいないと使えないけれど。

 

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