1-1【氷の大地 10:~スキルについての考察~】

side 【ロン】



 少しだけ時は戻って、空を飛べるようになった日の夜のこと。


 力尽きたものの、充実した表情で眠るモニカの中で俺はあることについて思考を巡らせていた。

 この一ヶ月、とにかく移動しなければらならないという思いに駆られて、半ば無理をしてでも考えないようにしていた問題。


 つまり俺の正体が人間ではなく、人間意識を持った”スキル”だという事についてだ。

 

 この生活の中でモニカと接するにつれて、そのことについて自分の中で段々とそれでもいいと思うようになってきていたが、ここに来てその前提に冷水を浴びせられるようなものに出会おうとは・・・


 事の起こりは昼間の飛行練習中に俺達が新しく獲得したスキルによるものだ。

 全部で3つ【魔力ロケット】【空力制御】そして【思考同調 Lv1】だ。


 この内【魔力ロケット】と【空力制御】に関しては問題はない。


 2つともFMIS制御スキル内で作られた、いわば”カンニングペーパー”的なスキルで、飛行に必要なフロウの変形と本当に単純な姿勢制御についての自動化を行うためのものにすぎない。


 ただこれによって俺達の飛行は単なる思いつきから、実用的なものに変わったと言っても過言ではなく、今の所全く疑念の挟む余地のない”良いスキル”といっていい。

 しかもまだまだ拡張の余地があり、今後は飛ぶたびにどんどん高性能化していくだろう事が予想された。

 今はまだ空中にフワフワ浮かんでいるのが精一杯だが、そのうち高速で空を飛び回る日が来るのではないか?


 ただ燃費問題に関しては深刻だ。

 これまでモニカは一度も魔力切れを起こしていない。

 今回初めて魔力総量のパラメータを特定できたことで発覚したのだが、サイカリウスの群れと戦ったときですら、使用した魔力の量は全体の1割にも満たなかったのだ。

 それが僅か1時間ほどの練習で枯渇してしまい、それを補おうと急速に体力を魔力に変換したため力が抜けたようだ。


 モニカによると、これまでこのような事態になったことはないらしい。

 つまりこれは、これまでモニカが使ってきたどの魔法やスキルよりも遥かに多くの魔力を消費するということを意味する。

 

 おそらくだがモニカの”元々”持っている魔力量はおそらくこの世界でもかなり多い方だと思う。

 それは書籍の内容から推察される平均的魔力量を大きく逸脱していることからも明らかな事だ。


 だが”フランチェスカ”の覚醒では元々の体力や魔力は増えたりはしていない。

 スキルが目覚めても、ただ取れる手段が増えただけなのだ。

 覚醒してから約3週間ほどで、この”スキル”とは何か?ということについて簡単な概要が見えてきたように思う。


 例えば相応のスキルさえあれば・・・おそらくフランチェスカのスキルを総動員すれば、この星を|真っ二つ(・・・・)にすることも可能である。

 何を馬鹿なと思うかもしれないが、この仮説にはオチがある。

 それが可能なのは、使い手に星を真っ二つにするだけの腕力なり魔力なり、とにかく必要なエネルギーを供給できるだけの何かがなければならないのだ。

 

 ではそれだけの力がある人物なら、スキルがなくても切れるだろうと思うかもしれない。

 しかし仮にそれだけの腕力がある人がいても、その人が地面を殴ったところでそこの地面が激しく破壊されるだけで切断は不可能だろう。

 星を切るためにはその力を活かせる”ハサミ”が必要なのだ。


 つまり星を切断できるスキルとは、星も切れるハサミ といった感じのものになる。 

 

 これがフランチェスカのスキルの殆どの起動に失敗した理由だ。

 つまりハサミを使いこなす力が、パワーもしくは技術的な意味で足りてないのだ。


 では魔法との違いは何か?


 これは簡単である。


 星を切るハサミを用意するとき、すでに用意してあるのがスキル、自分でハサミから用意しなければならないのが魔法だ。


 このため今回スキル化した【魔力エンジン】と【空力制御】のおかげで今後は意識しなくても、インスタントにエンジンと翼を用意できるようになった筈だ。

 だが燃費を改善しなければ、魔力ドカ食いスキルのままなのだ。


 さて話を戻して、残り1つの【思考同調 Lv1】についての問題だ。

 まだこのスキルについては使用したことはない。

 これは前の二つと異なり元々フランチェスカの中に用意されていたスキルだ。

 それが条件を満たしたことで起動可能な状態になったらしい。

 だが俺の直感がこのスキルは”ヤバイ”と強烈に反応している。

 それも悪い方にだ。


 幸いにもスキルが起動しても発動させなければ効果がないので、今は何の影響もない。

 それにどうやら発動には俺とモニカの二人の意思が必要なので、うっかり使ってしまうということもないだろう。


 起動の条件は”俺とモニカの双方が思念でのやり取りが可能な状態である”とのことだ。

 おそらく普段モニカが俺に注文を出すときに使っている集中力の変動による指示、あれがそれに当たるのだろう。

 今回、飛行の練習中に俺の考えたとおりにモニカが体を動かすということが何回かあった。

 おそらく俺が無意識に発した思念をモニカが読み取ったものと思われる。

 こうしてスキル起動の条件が整ったことで起動したのだろう。


 では【思考同調 Lv1】とはどのようなスキルか?

 ぱっと目につく特徴はレベルがあることだろう。

 実はこれ以外にもレベルを持っていると思われるスキルがいくつかある。

 一見た感じだとその中でも【筋力強化 Lv5】や【魔力制御 Lv7】といったものがレベルが高い。

 それと身体強化が最初に見たときより一つ上がって2になっている。

 おそらく使用すればするほど上がっていくのだろう。

 

 だがおかしい。


 数日前に見たときは確か【身体強化】という表記で【身体強化 Lv1】ではなかったのだ。

 これはおそらくレベルが表記されているスキルのレベルが最低でも2以上ばかりなので、レベル1は表記しないとかで説明が付くが、すると今度は【思考同調】が何故レベル1で表記があるのかという謎が生まれてきてしまう。

  

 まあそのへんはまだ俺がスキル表記の詳細を把握していないだけかもしれないが、それでもこの【思考同調 Lv1】が他とは異質な扱いなのは間違いない。


 そしてその内容も異質だ。


 俺の権限としてスキルの詳細を確認することができるのだが、それによると【思考同調】とは読んで字のごとく思考を同調するものらしい。

 その思考とは、モニカと俺、両方の意識のことでそれを同調するということは、早い話がどちらも全く同じことを考えるということだ。

 それにより双方がやり取りするときのタイムラグを無くしより効率よくスキルを行使することが可能となる。


 だが、そもそも同じことを考えるとはどういうことか?


 更に言うなら俺は人格なのか?


 もし人格だとするならば同調するとどうなってしまうのか?

 そして一旦同調したあとその同調を解除したとき、そこにいるのは俺とモニカなのか?

 それとも二人の人格がくっついて生まれた”新しい人格”を2つに分けたものなのか?

 

 もし仮に後者だった場合、それは人格の死を意味するのではないのか?


 考えれば考えるほど、このスキルがパンドラの箱のように思えてしまう。

 きっと余程のことがない限り使わないだろう、それこそ使わないと死ぬような場面でもない限り。

 別に今でもモニカとのやり取りはうまく行っているし、俺からモニカへの思念伝達が可能になったことで今後は、更にうまくいくはずだ。

 

 それに思考を纏めることはメリットばかりではない。

 多角的にモノを見れたりそれぞれが自分の役目に集中したりと、二人分の思考があることのメリットだってあるのだ。


 今まではただ単にフランチェスカの事を適当なスキルの寄せ集めのように感じていたが、その中にはこのようなリスクを感じさせるものも含まれているのか。


 起動していないスキルは詳細を確認することができないのが怖い。


 今回のは幸い発動しなければなんの効果もない上に、その発動も他より難しい条件になっている。

 だが中には常時発動型のスキルも幾つかあり、今後新たに起動するスキルの中にそんな危険そうなシロモノが混じってないともいえないのだ。

 

 まだモニカには発動条件については言っていないし、少なくとも俺の中で”自分”について明確な答えが出るまでは、封印扱いにしておこう。


 封印されたスキルというと、なんかかっこいいではないか。

 

 そんなことより今はモニカを守らなければ。


 実は今このように悩みながらの片手間ではあるが、戦闘中だ。

 といっても、基本的にモニカの寝込みの間に持ち物を拝借しようと考える小動物が相手で、それ程派手に暴れたりはしていない。


 地面を伝わる感覚などから相手の位置を予測して、フロウを伸ばして追い払うだけ。

 空を飛ぶためにフロウを二本持っているので、いつもより余裕がある。


 ただほとんど力尽きるような形でモニカが眠っているので、今なら”いける”のではと中型くらいの肉食獣が、たまに本体の方を狙ってくるから怖いのだ。


 幾ら弱っている小さな少女とはいえ、背中から危なっかしい触手のようなもので攻撃してくる存在をよく襲おうと思うな。

 眠っているので目は開かないが、一度顔を拝んでやりたい。


 そして言ってやるのだ。


『ありがとう、お前のおかげでウジウジ悩まずに済む』と。



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