1-1【氷の大地 9:~”飛ぶ”ということ~】
突然ロンがいつもと全然違う声色で話しかけてきた。
声自体は一緒なのに、なんというか”命”を感じない。
それにスキルを登録?
「どうしたの!?」
『いや、俺もびっくりして・・・”スキル解放条件の達成を確認、補助スキル【思考同調Lv1】を起動します” 』
一瞬戻ったように思ったロンの口調がまた冷たいものに変わる。
まるで初めてロンの声が聞こえたときのようだ。
『ええっと・・・何か条件を達成して飛行に使っている操作を”スキル”として覚えたらしい、それに【思考同調】?は俺とモニカの思念のやり取りを強化してくれるみたいだ・・』
「ロンの思考を感じられる様になったのはそれのおかげ?」
『いや・・・そうじゃない、それはただの”条件”だ』
「条件?」
『俺とモニカが双方向に思念をやり取りできるようになるのが条件らしい・・・ただ』
「どうしたの?」
『いや、なんでもない』
急にロンが言葉を濁す。
なにやら困惑の感情が伝わってきた。
そんなに変なスキルなのかな?
「ところで、飛行制御は大丈夫なの?」
そう、今は空中にいるのだ。
それも気を抜くと一気に落ちてしまいそうなほど不安定に・・・
いや、不安定ではない。
先程までが嘘のように空中にピッタリと静止していた。
私もロンも突然の謎の宣告で混乱しているのにも関わらず、問題なく安定している。
『どうやら飛行に使う一連の動作がスキルとして記録されたおかげで、ほとんど無意識に近い形で制御できるらしい』
「それってすごいの?」
『モニカ自身も意識しなくても体が自然に動いているぞ』
「え!?」
そこで私の動きに注目する。
確かに何も考えてないのにも関わらず自然に体を動かしていた。
腕がまるで自分のものじゃないかのように、ピクピクと高速で動いている・・・
それがあまりにも自然すぎて逆に・・・
「気持ち悪い・・・」
『ははは・・そういってやるな、自転車に乗れるようになったようなもんだと思えばいい』
「自転車?」
『おっと、自転車は通じなかったな、まあ例えるならいつも走ったりする時に細かい動きまで考えたりしないだろ?』
「うん」
『それの一種だと思えばいい』
なるほど、たしかに走る時にその
といって納得できるほど違和感は小さくないが、これはもう”そういうもの”と思うしか無いのだろう。
『今回はいきなりその状態になったから、違和感が大きいだけだ』
「うーん・・まあそういうことにしておく」
害はなさそうだし・・・
そのあと私達はもうしばらく好きに動いてみて、飛ぶことに問題がないこと確認した。
どうやら”スキル化”の力は凄まじいらしく、まるで初めから飛べたかのようにスイスイと飛んで回ることが出来る。
飛ぶってこんなに気持ちよかったんだ。
それまで見たことがないほど空が高く見えた。
それがまるで自分の可能性のように感じられて嬉しくなる。
私たちはもう少しの間飛び回ると最後にソリを持ち上げて、必要なパワーが有るかどうかだけ確認して地面へと戻った。
「まだ飛びたかったのに・・・」
『いや、もう無理だ』
「?」
着地してロンがフロウを元の棒状に戻すと、突然足から力が抜けて膝をついて倒れた。
全身から冷や汗が飛び出し、不意に視界がブレる。
『ああ、やっぱり・・・』
「・・何・・・これ・・・」
立ち上がろうにもそうするだけの力が出ない。
『簡単に説明すると・・魔力不足の症状だと思う』
「ま・・りょ・・く?」
今までこんなことは初めてだ。
『羽とエンジンの維持に、エンジンの燃料、それとそれらの制御・・・パラメータの中に物凄い勢いで減っているのがあったからもしかしてと思ったけど、やっぱり魔力の使いすぎが原因だと思う』
「・・・・・」
『やっぱりこれはそんな長時間出来ることじゃないな、連続だと最大20分以内にした方がいい、それだけあれば氷を渡るくらいは出来るだろう』
「・・・と・・・」
『と?』
「・・飛ぶのって・・・・大変だね・・・・」
※※※※※※※※※※
翌日
昨日倒れてから簡単な食事だけして、その場で死んだように眠ったおかげで起きた時にはすっかり元気になっていた。
ロンの方は何やら一晩中考えてたようだが、私はそんな余裕が無いのでひたすら熟睡していたらしい。
私の感覚としては目をつむった途端、世界が一気に朝に変わって、突然元気が湧き出したように感じたのだが。
ロンによると夜中はけっこう大変だったらしい。
今後は魔力の使いすぎには気をつけないと。
ロンがちゃんと見ているので大丈夫だとは思うが、まだロンが把握していない事があるかもしれないので油断してはいけない。
そう思うと急に昨夜のことが怖くなった。
あれだけ消耗していたのだ、仮にロンがいなければ動物の夜食になっていただろう。
これはいけない、気合を入れなければ。
どうもロンが”来て”から気を抜き過ぎている気がする、
たしかに彼はとても頼りになる存在だ。
だけど依存しすぎては私のためにならないだろう。
私が彼を支えるくらいの気持ちでなければいけないのだ。
そうやって少し大げさなくらいに自分に気合を入れた。
「行くよ!」
『・・・そうだな』
どうもロンの声に元気がない。
昨日スキルを覚えた時からずっとこんな調子だ。
「どうしたのロン!今日からいよいよ海を渡るんだよ!」
『海といっても氷が張っている範囲だけな』
「それでもまた進める!」
『・・・うん、そうだな・・・よし!』
ロンの声に元気が戻る。
冷静なのは絶対に必要だけど、ときどきは勢いも大事だ。
海の目の前までやってきた。
といっても水の部分は殆ど無い。
地平線・・・いや、ロンによると水平線?のむこうまで氷が浮かんでいるのだ。
だけど地面とは明らかに違うものがある、それが目の前に横たわっている水の部分だ。
水といっても青黒く、とても深そうで、それが普通の水ではないことを主張していた。
だが、今日の私たちは昨日とは一味違う!
「緩んでるところはない?」
『うーん、特に変なところはないよ』
最後に確認とばかりに足でソリを抑えながらロープを引っ張る。
いつもとは違って上方向へ引っ張るために、複数の方向からロープを張りそれを持ち上げる。
昨日も最後にやって成功しているので問題はないだろう。
すべての準備が整うとフッと一息吐く。
『じゃあ行くぞ!』
「うん!」
2つのロープを握りしめて上昇の指示を出す。
すぐに2つの魔力ロケットから轟音が上がり、全身に上向きの力がかかる。
そしてソリごとゆっくり上昇していく。
向こう側の氷の高さを超えたところで、前方向へ加速する。
あっという間に氷との間にあった空間を渡ってしまった。
そして何事もなく氷へ着地する。
着いてしまえばこれまでの苦労が何だったのかというくらい、あまりにもあっけない。
この氷は、氷といっても相当大きく私が乗ったくらいじゃびくともしていない。
だがわずかに揺れる地面がこの氷が水に浮いていることを示していた。
一見するとあまり変わらない景色だが、足元の感覚が全く違う世界に来たことを示していた。
この先はしばらくこんな道が続く。
「・・・・っぷ・・」
『モニカ?』
「プッは!はははっはっは」
久々にお腹の底から笑ったような気がした。
前にここまで笑ったのは、”砲撃”魔法がうまくいった時以来かな?
そう考えると意外にも最近の出来事だ。
その間に悲しいこともあったし、ここまでの度はずっと緊張していたし長く感じたのかな?
そしてその時もロンと一緒にやったことだった。
「ロン!!」
『え?、何?どうしたの?』
ロンが私の様子に対して、反応に困っているようだ。
だがそれでも構わない。
私一人ならここまで来れなかっただろう。
仮にここに来ても、この僅かな氷の隙間を渡るなんて考えもしなかったはずだ。
だけど、ロンがいればその氷の隙間だって一跨ぎだ。
それがたまらなく滑稽だった。
彼がいれば・・・いや私達ならどこまでも行ける。
その確信がさらに強くなった。
「次もよろしくね」
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