1-1【氷の大地 8:~”自分”を信じて~】
side モニカ
地面から解き放たれた瞬間、またふわっとした感覚が襲ってきた。
正直まだこれには慣れない・・・いやむしろ怖い。
しかも今回は今まで以上に速度が速い。
『あぶねぇ・・』
ロンが即座に噴射を切って加速をやめる。
それでもかなりの高さまで上がってしまった。
「ゆっくりね・・ゆっくり・・・」
思わずそんな言葉が出てしまう。
ジャンプならこんな弱気にならないのに、浮かんでいるというだけでこのザマだ。
格好良く轟音を撒き散らした割にずいぶん遅いが、飛んでいる方としてはこれでも怖いくらい速いのだ。
この分だと”戦闘には使えないな”と思っている自分がいる。
どうやら飛ぶことに対して、氷の間を渡ること以上のことを期待していたようだ。
そもそも飛ぼうなどと言い出したのは自分なんだから、私の方はしっかりしなきゃならないのに、ロンに頼りっぱなしで申し訳ない。
それでもなんとかロンが高さを維持できるとゆっくりと下ろし始めた。
下がるときに時々、バランスを崩しかけているがなんとか保っている状態だ。
ロンが何かコツを掴んだ的なことを言っていたが、どうやら本当らしい。
『この高さなら問題ないだろう』
ロンがそう言って降下を止める。
だが下を見てみると、恐ろしいほど地面が遠く感じられた。
「も、もうちょっと、下に降りない?」
正直この高さでも怖い。
『いや、さっきはこれより高いところから落ちていたし、これより下だと地面が近すぎて動きづらい』
「・・・さっきそんな飛んだの?」
『もう少し高いくらいだ』
どうりで落ちたら痛いはずだ。
どうやら、飛ぶことに恐怖を感じているらしい。
これではダメだ。
「じゃあしばらくここで・・・」
まずはこの高さから慣れないと・・・
『それじゃ向かいたい方向を指示してくれ』
「じゃあ、いくよ・・・」
恐る恐る前方向に神経を向ける。
それに合わせて羽と噴射器が傾き前へ進み出す。
「あ!?」
前方向に傾いたことで大きくバランスを崩してしまい、慌てて戻そうとする。
すると今度はそのせいでさらにバランスが悪くなってしまった。
こうなるとてんやわんやだ。
なんとかロンがバランスを取り続けているが、時々つらそうな思念を感じる。
『モニカ!細かい変化は無視しろ!俺がなんとかする!』
「で、でも・・・うわっ」
またも大きくバランスを崩しそうになり、縮み上がりそうになった。
『向かいたい所だけ集中するんだ!俺がそこに連れて行ってやる!』
「向かいたい所だけ・・向かいたい所だけ・・・」
呪文のようにつぶやきながら自分に言い聞かせる。
そうでもしないとまたバランスに気を取られそうだった。
今は全力で細かな動きを無視する。
だが今までずっと自分の直感だけを大事にしてきただけに、他人に自分の命を任せるようで落ち着かない。
いや違うか、ロンは自分を私のスキルだと言った。
ということは彼は私の一部だ。
そう思うと不思議と恐怖が減っていった。
私の役目は何をすべきかを決定することだけ。
『いいぞ!かなり指示が安定した』
そういってロンが励ましてくれる。
正直、自分はまだまだ気を取られていると思う。
それでもロンは進むために励ましてくれている。
自分だって怖いだろうに・・・
そうか、彼も怖いのだ。
この感覚も恐怖も全て共有しているのだ。
ならば今までと何が違う?
ここからは本当の意味で”自分”を信じよう。
『お!?』
その時、不意に視界がはっきりした。
同じ恐怖を共有してくれる相手がいると思うだけで、小さな事を無視することが出来る。
今は目の前の目的地に向かって意識を集中するだけ。
あとは
もちろん完璧ではない。
時々大きく崩れそうになるし、どうも危なっかしい。
だけど”絶対に落ちてたまるか”という心が伝わってくる。
だからどんなに怖くても
もし、これがただの機能だったらここまで信頼できなかっただろう。
不完全な、だけど確かに血の通った”人格”だから頼れるのだ。
「・・・・ぬぬ・・・」
気合を入れて次の指示を出す。
今度は左に大きく曲がる。
それに合わせてロンが羽を曲げる。
するとゆっくりと飛ぶ方向が左に曲がっていく。
曲がるのはまだ慣れていないので、曲がるスピードが大きく変化したり大きく姿勢が崩れたりして正直怖い。
また恐怖との戦いが始まるのかと一瞬身構える。
その時ふと、体を曲げたいという思いに駆られた。
本当に何となくそれに従い体を左へ曲げる。
すると嘘みたいに安定して曲がり始めた。
そしてどこからともなく自分のものではない安心感が漏れてくる。
再び直進の指示に戻す。
すると今度は体をもとに戻したいという思いが湧いてきて、再びそれに従うと今度は一度も姿勢を崩すこと無く直進に戻る。
『いいぞ、その調子だ』
「ねえ・・・」
その時ふと疑問に思った。
「さっき体の向きを変えたいって思った?」
『ん?思ったけどどうしてだ』
やっぱり。
「それ続けて!」
『まさか!?』
二人で飛んでいる!
初めて声以外でロンの存在を感じた。
私の考えをロンが読み取るだけじゃなく、ロンの考えを私が読み取れる。
私が右へ曲がりたいと思う、それをロンが形にし、必要なことを私も行う。
今度は思い切って後ろ向きに飛んでみよう。
ああ、上体を起こしたほうがいいのか。
背伸びをするように体を起こす。
するとまるで鳥のように綺麗に後ろへ飛んだ。
いや、鳥以上かもしれない。
右へ、左へ、前へ後ろへ、もっと速く、もっと遅く。
次々に方向転換が決まる。
『すごいな・・・』
「どうしたの?」
『いや、この様子を外から見たらモニカが宙を舞う天使のように見えそうだ』
「わたしだけじゃないよ」
『?』
「ロンも天使みたい」
少なくとも私にとっては可能性をくれる天使そのものだ。
「ロン、話してても大丈夫?」
『モニカが慣れてから一気に楽になった、今は少し余裕がある』
「慣れたわけじゃないよ、わたし、気がついたの」
『何に?』
「二人で飛んでるんだって」
そう二人で飛んでいるのだ。
だからこそ怖くもあり、対処できることも知っている。
その時、頭の中で”カチッ”という音がした。
『 ”スキル使用のパターンを確認、現在の使用中のパターンを【魔力ロケット】【空力制御】としてスキルを登録します” 』
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