1-1【氷の大地 7:~改善の糸口~】
エンジンからの排熱を学習した俺達は、魔力ロケットエンジンをさらに小型化して両翼の中間に取り付けることにした。
元々そこは羽ばたくために曲がるようになっていて、空間として納まりが良かったのでちょうどいい。
そして前回と同じように地面に固定した状態でテストを行った。
「おお、今度は熱くない!」
『・・ぬぬぬ・・・』
いや、実際はこれでも結構熱いのだが、先程に比べると雲泥の差だ。
そのまま今度はエンジン内に投入する魔力量と圧力を調整する。
2つはリンクしているので一気にバランスが変わらないようにするのが一苦労だ。
そうやって俺達は暫くの間エンジンの効率のいい魔力配分を探していった。
「いい調子、いい調子、安定してきたよ!」
『・・ふんぬ・・・ぬぬ・・・』
モニカが頑張っている俺を応援しようと言葉をかけてくれるが、俺の方はそれに答える余裕がない。
噴射の調整は予想を遥かに超えて難易度が高かった。
燃焼室代わりの球体の内部の圧力は、一瞬ごとに大きく変わりなかなか安定しない。
どうにか安定させようとして、色々試しているが時折圧力が高まりすぎて魔力注入口から逆流しようとしてしまう事が多発していた。
そしてそれを防ぐために突発的に穴を絞れば出力が一気に無くなり、魔力量を増やせば逆に出力が一気に高まってしまう。
したがって魔力量を残しつつ注入口の大きさを瞬時に変えるという技術が要求された。
これが両翼2つなので、思考加速を使ってもギリギリの状態だ。
このままでは恐ろしくてとても空を飛べたものではない。
なんとか分量と出力のバランスを記憶しようと今は躍起になっている段階だ。
『ぐぐ・・・お?』
どうやら、おおよそのコツが見えてきたようで少し余裕が生まれてきた。
余裕ができたので今度は意図的に出力を上げたり下げたりしてみる。
やってみるとこれがなかなかの難物で、魔力を流す量を変化させたくらいではそこまで変わらないのだ。
しかも、そのまま変化量を増やそうものなら今度は一気に出力が変わってしまう。
『うわ!?』
「あ!?」
今回もそうやって出力が一気に増え、危うく空中に飛び出す寸前だった。
慌てて俺がエンジンを切る。
ぷしゅぅという気が抜ける音を最後に残し、エンジンから火が消えた。
「・・ふう、今のは危なかったね・・・」
『・・・どうしても魔力の注入と噴射までのタイムラグが解消されない』
「・・量を暗記すればいけると思ったけどダメだね・・・」
『ああ、安定して浮かび上がるにはどうしても、即座に
本職のロケット技術者は偉大だ、俺達はまだある程度はフロウで作った翼でコントロールしようとしているが、本物のロケットはエンジンの推力だけで飛んでいる。
よくそれだけ安定したエンジンを作れるものだと感心せざるを得ない。
『せめて、噴射の威力だけでもいじれたらな・・・』
「・・・じゃあ、下の穴も絞れば・・・」
『・・・・』
俺はそこでそんな下品な言葉を使うなと言おうかと一瞬迷った後、それが可能かどうかを頭で検証し始めた。
”言うは安いし行うは難し”
噴射される高エネルギーを絞るのは、可能であれば即座に出力を調整できるので大歓迎だが、圧力だけを気にすればいい注入口側と違い、場合によっては噴射される高エネルギー自体に対抗しなければならず難易度はかなり高い。
さらに制御部分が噴射口の数だけ一気に増えるので、俺の余裕が無くなる恐れが高かった。
『まあ、一応やるだけやってみるか・・・』
「それじゃあ、いくよ・・・」
俺達両方に若干疲れが見えるが、それでも検証するくらいは出来るだろう。
再び魔力エンジンに火を入れ出力を安定させる。
先程はこれにかなり時間を取られたが、不思議と今回はすんなりできた。
『あれ?』
「どうしたの?」
『いや、なんでもない』
恐らく慣れたのだろう、もしかするとスキル自体がある程度制御を覚えてくれたのかもしれないが、それは流石に気のせいだろう。
だが、すんなりと安定させられたのは心強い。
そして俺はエンジンの出力を弱める。
この時噴射側の穴のサイズを大きくしたり小さくしてみたりした。
噴射口の調整は予想どおりかなりの負担を必要とした。
ほんの少し絞るだけでもフロウの制御にかなりの魔力を使ってしまう。
これでは燃費は極悪になってしまうだろうな。
だがそのほんの少しで起こった変化は劇的だった。
僅かに穴のサイズを変えただけでも、即座に出力が変化したのだ。
その即応性に俺は確かな手応えを感じる。
『これなら行けるぞ』
噴射側を弄ることで瞬間的ではあるが出力を狙った方向に調整できるようになった。
少しすると戻ってしまうのだが、それは魔力の注入側を弄ることで根本的に解決してやれば問題ない。
重要なのはタイムラグが完全に取れたことと、瞬間的な増減をその瞬間に補正することが可能になったことで俺の負担が大きく軽くなったことだ。
この”その瞬間に補正”が可能になったことの大きさは計り知れない。
なにしろ今まで俺の処理能力の大半を持っていったのは、この突発的な出力の不安定への対処がほとんどだったのだ。
それがインスタントに対処できてしまうのは大きい。
2機の出力を完全に制御下に置くと今度は徐々にエンジンの出力を上げていく。
エンジンから吹き上がる轟音がより直線的な音になり、連続した爆発音といった印象から甲高いジェットエンジンのような音に変化する。
「揺れがなくなった!」
モニカがその音に負けないように叫ぶ。
そんなことしなくても自分の体なので聞こえるのだが、彼女も空気が変わったことを感じているのだろう。
『左右のバランスを変えていくぞ』
俺は徐々に2つのエンジンの出力をそれぞれ増減させたり、時折エンジン自体を傾けたりして、その効果を探っていく。
そうしてこのシステムの細かな変動を覚えることで、空中での姿勢制御にどう使うか学んでいるのだ。
『モニカ!いつもやっている集中力の移動、あれで行きたい方向を指示してくれ、俺がそれに合わせる』
「わかった、やってみる」
モニカが魔力制御の注文にいつもやっているように、集中力の移動を使って指示を出してもらう。
そしてそれに合わせて、俺がエンジンや羽の角度を調節していく。
まだ地面に固定されているので格好だけだが、推力の向きなどからモニカの指示どおり動いているようで、モニカもすぐにコツを掴んでくれた。
飛行の指針をモニカに預けるのには理由がある。
重心を決める体の動きはモニカしか動かせないし、動物的直感に優れている彼女が行動の大枠を決めたほうがいい結果を生むような気がした。
さらにしっかりと空気をつかむために羽を動かす自由度がそれほど無いことも大きい。
そうやって暫く地上で動きの確認をして、見落としがないかチェックしていく。
その過程で羽の形もただの板といった風貌から、徐々に飛行機の羽のように複雑な形へと変化していく。
まだ空は飛んでいないが、エンジンの噴射が地面にあたって巻き起こす風を掴んでいるうちに洗練されてきたようだ。
今では本物の鳥や飛行機のように状況に応じて表面の形を複雑に変形させるまでになった。
『地面に固定して練習したのは正解だったな』
「風だけでも、羽の力がかなり強いね!」
『おかげでかなりのことなら、羽だけでバランスを取れる自信があるぞ!』
「それじゃあ、そろそろ」
『ああ、実践練習へ移ろう』
モニカが上昇の指示を出す。
それに合わせて、エンジンの出力が両方とも上がり、吹き上がる風を受け止めようと羽が大きく広がる。
新たに翼の表面に追加された小さな補助翼の一片まで、風を掴んだことを確認すると。
俺はモニカに合図を送る。
『3!』
モニカがハーネスをしっかりと握りしめる。
『2!』
そして上空をしっかりと見つめ、進む方向を見定めた。
『1!』
その瞬間に備え、全身が一気に緊張した。
『0!』
それと同時に固定していたフロウの形を元に戻す。
地面から解き放たれた俺達は圧倒的な力を地面に叩きつけ、大空へ向かって飛び出した。
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