0-1【知らない少女と、知らない世界5:~帰宅~】
執事くんは主の上着とバッグを受け取ると、そのまま卵型構造物の中に戻っていった。
一方の主はというと、卵型構造物にひっついている小屋の方へ歩いていく。
そこにはいつの間に移動したのか護衛くんがいて、肩に担いでいたデカリスを下ろすと後ろ足と尻尾をまとめてロープのようなもので縛りだした。
そのまま後ろ足が上になるように持ち上げ、小屋の側面のフックのようなものにロープを引っ掛けると、ロープの反対側を主の足元に落とし、主はそれを拾い上げ地面にあるフックに結びつける。
ロープがピンと張りデカリスの死体が吊り下げられると護衛くんが手を放し、その状態で何処かにほころびがないか確認し、それが終わると後ろを向いて何処かへ行ってしまった。
すると護衛くんと入れ替わるように、今度は執事くんが現れた。
手には何やら物騒な刀のようなナイフと薄汚れたエプロンを持っている。
そして何をするのかと思えば、エプロンの方を差し出してきた。
主はそれを当たり前のように受け取るとその場でつけ始める。
執事くんは主がエプロンの紐を後ろ手に結んでいる間、それをじっと待ち、エプロンを付け終わるとすぐにナイフの方を差し出す。
主は当たり前のようにそれも受け取り、その様子から、どうやらこのやり取りもいつもやっていることであると理解した。
ただ、執事くんの名前は思いのほか妥当だったな。
特に受け答えもせず、ただパシリをしているだけなのにもかかわらず、その佇まいは執事然としたものがある。
姿勢をピンと伸ばして、従属を誇りとするかのような気品すら見られ、冗談抜きに主従関係がありそうだった。
そしてその間に、護衛くんが戻ってきており、脇に樽のような物を抱えて、吊り下げられているデカリスの死体の横に立っていた。
そこに、もはや刀剣と言ったほうがいいような大きさのナイフを手にとった主が近づき、そのまま大きく振りかぶり・・・
一振りでデカリスの首をはね、断面から真っ黒な血が噴き出した。
うわっ、むっちゃグロい!?
だが俺は突然の光景にびっくりしたが、主の方は飛んできた血を避ける余裕すらある様だ。
流れ出した血も最初は真っ黒だったが、すぐに少し赤みが出始め、それを待っていたかのように護衛くんが樽を首の断面の下に置いた。
一方の主の方は何やらハシゴのようなものを横に立てて上り、デカリスの腹のあたりを弄って場所が定まると、そこにナイフの切っ先を当てて一気に刺し込む。
手の中にナイフの先が内臓の様な物に当たる感覚を受けると、頭の中に謎満足感が溢れてきた。
きっと今、主は相当いい”ドヤ顔”をしているはずだ。
そしてここまでの行動から鑑みるに、どうやら血抜きをしているのではないかと思わる。
だが仕留めてから1日経ってるけど大丈夫なんだろうか?
ただ俺のその心配を他所に、意外なことに流れ出てくる血はかなり高温で色もきれい。
こんなに大きいと1日程度では冷たくはならないのか。
それともいわゆる活き締め的なアレなんだろうか?
仕留めた時喉元に思いっきりナイフ刺していたけど、そうえば血はそんなに出てなかったな。
ひょっとすると今この瞬間までデカリスは生きていて、ずっと仮死状態だったってことか?
それは流石にないか。
とにかく俺は狩猟に関してド素人なんでよく分からないが、主は満足気なんで、とにかくこれでいいのだろう。
デカリスの首の断面からは、しばらくは威勢よく血が噴き出していたが、だんだんと血が流れる量が減り始め、
それを見計らった主が、またデカリスの腹にナイフを突き刺すと、今度はなんとそのままはしごから飛び降りてしまった。
すると今度はナイフが一気に首元までデカリスの腹を割き、主が着地したすぐ後ろに音を立てて内臓が落ちてくる。
主はしばらくの間、何やら『これは決まったな』的な表情をしながら俯いていたが、やがて満足したのか目線を上げると、そこには執事くんがこちらを睨んで立っている姿が目に入ってきた。
だが彼には表情なんて無いはずなのに、こちらの否を咎めるかのように感じるのは何故だろう。
この感じ、どうやら飛び降りるのは正解ではなかったようだ。
どうするのが正解かは分からないが、飛び降りたのは主の幼児性が出たらしく主の方も何やら気まずそうな感じでいる。
おお、これがバツの悪い気分とやらの心理パラメータか、保存しておこう。
少しの間、主と執事くんの間で無言のにらみ合いが続いたが、すぐに主が折れ逃げるように視線をデカリスへ戻した。
そこにあったのはもはや”肉塊”となったデカリスの姿。
デカリスの方も逆さに釣られ腹を割かれて内臓が抜け落ちては、生前の風格はどこにもない。
その上さらに、たった今主によって”アイデンテティ”だった尻尾が切り落とされてしまった。
体長の半分以上を占める巨大な尻尾であるが、今は5mを超すただの超巨大毛玉。
切り落とされた尻尾を見る主の感情も、(どうしようかこれ···)的な何かめんどくさいものを見るような感じである。
その後、主と護衛くんと執事くんが一緒になって毛皮を剥いだあと、主が流れ出る血をチェックして樽に蓋をする。
樽はそのまま護衛くんが何処かへ持っていってしまった。
もうしばらく血抜きするのか毛皮を失ったデカリスもそのままで、内臓だけ執事くんと手分けして選別し、そのうち幾つかは捨てるのか執事くんが袋のようなものに入れて持っていき、残った物を板の上に乗せ小屋の中に運んだ。
小屋の中には色んな物が置いてあるが、中でも一際目立つのが床にぶっ刺さっているポール状の物体である。
主はそこで内臓の乗った板を横に置き、ポールの上に手を置き何か思念のようなものを発すると、ポールの横に穴が空きそこから勢い良く水が流れ出した。
そして、その手が痛くなるほどの冷水で内臓を洗い始める。
全てを軽く洗い終わると、またポールの上に手を置き水を弱めて内臓にかかるように調整する。
すべての内臓が流水に浸かるように調整すると、おもむろにその中の一つを手にとって口の中に放り込んだ。
その瞬間とてつもない苦味と生臭みが口腔内を支配したが、当然のごとく主は御機嫌だ。
感情を代弁するなら、『やっぱ新鮮なキモはたまらん!!』になるだろうか。
主くらいの年齢の子の食べ物の好みとしては最悪な部類のはずだが、どうもこの主はこういう系統が好きのようだ。
小屋から出ると、護衛くんがなにやら巨大なバケツのようなものから水をかけてデカリスの腹の中を洗っていた。
字面にすればそれだけだが、サイズがサイズだけに下に落ちる水の飛沫がとんでもない事になっている。
主の小さな体ではとても近寄れそうにないな。
主もそう思ったのかすぐに興味を失い、タイミングよくその場にいた執事くんにエプロンを渡すとそのまま卵型構造物の側面に向かっていった。
最初に執事くんが出てきたドア状の箇所だが、やはりドアのようだ。
さっきまでと同じ時代とは思えない未来的な音と挙動でドアが開くと、その内部が目に入ってくる。
内部には廊下のようなものがあり、その先には部屋上の空間があるようだ。
そして、その部屋には何やら色々なものが所狭しと置かれており、俺の興味を誘うが主はそこには入らず廊下の壁を触りだす。
すると廊下の左側の壁の一部に穴が空き、今まで無かった空間がポッカリと口を開けた。
これは何かドアの開閉スイッチのようなものなのだろうか?
だがもっと驚いたことに、主は現れたドアから内部に入ると、すぐに両手で服の端を掴み、なんとその場で服を脱ぎ始めたのだ。
そして俺が一瞬思考が停止している間に、一気に下着まで脱ぎ去り全裸になってしまう。
あ、そうだ、トイレの時に気になったが下着も布ではないようである、まさかこれも革かな? こんなに薄い革製品ってあるのか?
あと透明な宝石の付いた黒い手袋は外さないのな。
そういやこっちは布製に見えるがどういう違いだろう?
などと意識を微妙にそらさないと、今見ている光景を記録してしまいそうで怖い。
年端もいかない幼女の全裸映像なんて持っていたら逮捕されること間違いないだろう。
いや、オートなんだから確実に記録されているんだが、それでも主の”お風呂”なんて記録フォルダを作らせてはいけない。
そう、どうやらお風呂に入るらしい!
部屋の中には湯船のようなものは無いが、壁からニョキりと先程の水がでるポールと同じものが生えていた。
これをシャワー代わりにするのだろう。
へえ、壁との接合部はそうなってるんだ、ってちょっと待った!
まさかそれ冷水じゃないよね!?
今、全身にあんな氷水みたいなの浴びたら死んでしまうよ!
やめて!冷たいのはやめて!
俺が心の中でそう叫ぶが、無情にもその声は主には全く届かず、ポールから流れ落ちた水がその先にある手に当った。
だがそこで俺の心配は杞憂に変わる。
キンキンに冷えた水ではなくそれなりに熱いお湯が出てきたのだ。
意外にもちゃんとシャワーをしている。シャワーヘッドがないので蛇口から直だけど。
主はそのお湯を頭からかぶると、その場でしばらく体が温まる感覚を楽しんでいた。
目を閉じていたので当然視界は真っ暗になる。
だが俺もこの全身が温まる感覚を楽しんでいた。
体が温まってくると、主は体を洗い始めた。
ただ石鹸のようなものはないらしい。
衛生的に大丈夫なのだろうか?
などという心配も杞憂だった。
どこからか取り出した、謎の棒。
外で使っていた棒と似たようなものだが、こちらは長さが40cmほどしかなく白くも塗られていない。
そのかわり表面は黒く何か幾何学的模様がびっしりと刻まれている。
主がその棒の表面を撫でると、魔法のようなものが発動した気配を感じた。
ただ、感覚的に連続で発生するタイプのようだがどこも変わった様子はない。
すると主は棒の腹を、腕にあてがってこすりだした。
驚いたことに棒は体のラインに沿って変形し、肌に密着すると、そこの所の垢がきれいになくなっていく。
その気持ち良さたるや石鹸の比ではない。
まるで魔法だ。
いや、魔法なのか?
主はその後も、棒を手ぬぐいのようにして全身を洗い、俺は時々恥も外聞もなく大写しになる際どい所をできるだけ記録しないように注意しながらその気持ちよさを主と共有していた。
そして最後にポールに手をかざしお湯を止めると、いつの間にか気分は非常にサッパリしたものになっていた。
ここで気になったのは、使ったお湯の行き先である。
床に排水口のようなものはないが、現在、床には水気など欠片も無い。
まだ濡れている主の体から流れ落ちる水気も、床に触れた瞬間消滅している。
これも魔法か?
すると主が棒を2、3回軽く振ると、また肌にあてがった。
すると今度はなんという事だろうか、棒に触れたところの水分がまるで剥ぎ取られるかのように落ちていくではないか。
全身を軽くさすっただけでもう乾いてしまったぞ。
どうやらこの世界のタオルはその価値を大きく失っているみたいだ。
だが、それにしても微妙に不満が残るな・・・・
気持ちいいことは、気持ちいいんだが・・・・
やっぱり湯船にゆっくり浸かりたい。
俺は心の中でそう思った。
だが現状はそういった物は望めそうにない。
これはなんとかしたいな。
なんとか、この主に対して意見を伝える方法はないものだろうか?
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