第15話-大事なことは口に出して言おう。
「ごちそうさまでした」
若干の気まずさを残したまま食事を終えると私は食器をキッチンにさげて洗い始めた。
「コーヒー。インスタントじゃなくてちゃんと淹れたやつ」
リビングから死神がリクエストする。食器を洗い終え、昨日買ってきたコーヒーを開けてドリッパーにセットするとお湯を注ぐ前からすでに良い香りがキッチンに満ちている。その香りを深く吸い込みながら丁寧にコーヒーをドリップしてマグカップに注ぎ、リビングに運ぶ。
ソファに座った死神が黙って自分の隣を軽く叩くので、カップを渡してそこに座った。なんとなく、体育座りになる。
「昨日さ、子どもの頃のこと話したじゃない」
「昔溺れたトラウマがあるから今回溺死は選んでいないって話?」
「いや、なんか違うけど。まぁいいや。昔そういうことがあったから、両親がすごく過保護っていうか」
「贅沢な悩みだな」
「それはそうなんだけど。おばあちゃんの話ではね、弟が生まれるまではちょっと熱を出したとか転んだとか、そんな程度でも大騒ぎだったって」
「そりゃ無理ないな」
「うん。ほんとは東京の大学に進学するのも反対だったみたい。でもね、私のやりたいことは必ず応援してくれてさ」
こんなこと、誰にも話したことがなかった。口に出して語ることで初めて、両親に大事にされていることをしっかりと実感する。なんだか鼻の奥がツンとする。
死神が黙ったまま箱ティッシュを差し出してきたので、ティッシュを一枚引き抜いてびーと音を立てて鼻をかむ。
「もっとこうさ、可愛らしさとか上品さとか」
さらにティッシュをもう一枚引き抜き、横目で死神を睨む。
「自分ちでくらい好きにさせなさいよ」
死神は黙って肩をすくめてみせる。私は思う存分鼻をかんだあと、右側に死神の体温を感じながらコーヒーを味わった。今夜はおとなしく寝よう。
私と死神とあれやこれ。 夏目泪 @sizukiaoi
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