第14話-やっぱり我が家が一番。
「あー、やっぱり我が家が一番」
リビングで伸びをすると、後ろからぺしりと頭を叩かれた。
「旅行帰り気分ですかテメーは」
後頭部を押さえながら振り向くと、死神はいつも通り蔑むような冷たい視線を投げて寄越した。
「明日の病院の予約、忘れんなよ。夕食はシチューとサラダな。シチューは鍋、サラダは冷蔵庫に入ってる」
「え、もう行っちゃうの?」
「当たり前だ。お前な、俺の貴重な週末をなんだと思ってんだ。明日は普通に仕事なんだから休ませろ」
そう言うと死神は背中を向けて玄関へ向かった。
土日休みなのか。もしかして祝日も休みなんだろうか。完全週休二日制(祝祭日は別途休み)?
「ごはんくらい、一緒に食べていけばいいじゃない」
靴を履こうとして座っている背中に置いていかれるような寂しさを覚えて、少し甘えてみる。靴を履き終えて立ち上がりかけた死神は、改めて腰を下ろしてしばらく黙ったあと、靴を脱いで戻ってきた。
「そういや腹減った」
リビングのソファに腰を下ろすと死神は私をじろりと見る。
「ほれ、ぼんやりしてないで荷物片づける」
無印良品の袋から、コーヒーの袋だけを選り分けて残りを私に突き出す。私が袋を受け取ると、コーヒーの袋に顔を近づけ香りを楽しみながら、死神は私を追い払うようにしっしっと手を振ってみせた。
袋を持って寝室に移動して、大量に買い込んだ服からタグを外す。畳み直してチェストにしまいリビングに戻るとシチューの良い香りが立ち込めていた。
「座れ。そして食え」
死神がぞんざいに手招きをする。私は犬かなにかか。言い返したところで無駄なのはわかっているので黙ってテーブルについた。
「いただきます」
手を合わせてサラダに手を付ける。
「美味しい」
「当たり前だ」
尊大に、しかし嬉しそうに死神が言う。
「ドレッシングも手作りだからな」
うちにそんなものを手作りできるような材料があっただろうか。怪訝そうな私の顔を見たのか、死神が言う。
「さっき荷物届いてたぞ。食料品。お母さん?」
「ちょっと、何勝手に開けてんの」
「いや、どうかとは思ったんだけどさすがに食料品はさ、傷んだら困るし」
「そりゃそうだけど」
「んで、荷物のなかにバルサミコ酢とクレイジーソルトがあったから、ドレッシングにした。オリーブオイルはあったし。ってかどんだけおしゃれなもん送ってくんだよ」
あぁ。デリカシーがあるんだかないんだかわからない、この死神。サラダを食べながら死神は続ける。
「実家、北海道なのな。たまには帰ってんの?」
急に話が好ましくない方向に進む。家族との仲は決して悪くはないのだが、両親はいささか過保護で心配性のきらいがある。それが少し、息苦しい。
「年末年始くらいかな」
「さようでございますか」
話したくない気配を察したのか、死神は肩をすくめるとシチューを黙々と食べ始めた。
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