第13話-病院は苦手なの。

 慣れない病院の夜は寝苦しく、なかなか寝付けないままカーテン越しに聞こえる誰かの軽いいびきや寝言をぼんやりと聞きながら眠気が訪れるのを待つ。首元に転がる珠をそっと掌に握りこむとなぜかじんわりと温かい気がして、ほっと息をつく。

「眠れないのか」

 ベッドの脇から小さな声が聞こえる。声のほうを見ると死神が椅子に座り、背中を向け腕を組みながら座っている。

「うん。病院ってなんか苦手」

 死神と同じ程度の小さな声で応えると彼はようやくこちらに向き直った。

「夢をね、見ていたの」

 死神は尋ねるように首を傾げる。

「あの、妖魔...だっけ。彼女の腕が絡みついたらもう、私全然動けなくなって。すぐに目の前が真っ暗になった。すごく冷たくて、怖くて。でね、病院で目が覚めるまで、私、昔の夢を見てた」

 首元の珠を右手で握って左手を死神に伸ばすと、黙って彼は両手で私の左手を握った。

「私、小さかったから詳しいことはほとんど覚えてないんだけど、川で溺れたことがあったの。あの時もすごく冷たくて怖かったのだけは覚えてる」

「だからか」

「何が?」

「お前、ありとあらゆる手段で俺の手を煩わせてきたくせに、溺死は選ばなかっただろ」

「ちょっと、人が真面目な話してんのに、なにそれ」

「病院の朝は早いんだ、余計なこと考えてないでとっとと寝ろ」

 握っていた私の手を離し死神は立ち上がると、にゅっと私の目の前に顔を突き出した。いつものような醒めた視線ではなく真剣な眼差しで私の目を見ると、握った右手を私の目の前に出す。

「え、なに?」

 右手を少しずつ上げていくので、それを目で追っていく。突然その右手の形が見覚えのある形に変わったと思うとパチンと額にデコピンを食らった。

「ちょっと」

 抗議する間もなく、私は眠りに落ちていった。

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