第7話-お前、コーヒー淹れるのだけはうまいのな
眩しい朝日が部屋に差し込み、私は目を覚ました。カーテンは閉めて寝たはずなのになぜか全開になっている。
「おはようございます、お嬢様」
聞きなれた声が耳元で聞こえて飛び起きる。
「いい天気だぞー。しっかり日の光浴びるとセロトニン生成されてハッピーよ?」
ベッド際にしゃがみ込んだ死神がハッピーとは縁遠そうな醒めた表情でこちらを見ていた。思わず掛け布団を手繰り寄せ肩まですっぽり覆う。
「ちょっと、いつからいたのよ」
寝起きのすっぴん顔を見られるなんて恥ずかしくて軽く死ねる。それ以前に無防備な寝顔を見られていたとか、これはなんていう羞恥プレイですか。
「寝顔でまで眉間にシワ寄ってたし、もう9時だからそろそろ起こしたほうがいいかと思って」
やっぱり寝顔を見られていたのか。恥ずかしくて今度は頭から布団を被る。
「ほれ、顔洗ってこい。朝飯出来てるぞ」
「わかったらからこっち見ないでー。あっち行っててよ」
「へいへい」
死神が寝室から出ていくのを確認すると急いで部屋着に着替え、顔を洗う。化粧水をパッティングしていると「化粧なんていいから早くメシ食え」と死神が急かすので「すっぴん見られるくらいならいっそ殺せ!」と返す。
「もう見たからいいじゃん。せっかく色白くて肌きれいなんだから化粧なんていらなくね?」
思いがけない言葉にファンデーションを塗りかけた手が止まる。
「ほらー、朝飯冷めるから早くー」
とりあえず日焼け止めを塗って軽くベビーパウダーをはたきリビングに行くと死神はすでにテーブルについていた。テーブルにはサラダ、オムレツ、ミネストローネ、ベーコン、全粒粉のパンなどがずらりと並べられている。
「素で可愛いんだから、お休みの日にまでばっちり化粧なんてしなくていいの。その程度でじゅうぶん」
思いがけないセリフにどう反応していいのかわからずフリーズしてしまう。まさか死神に褒められるなんて。
「間抜けヅラ晒して固まってないで早く座る」
褒められたと思ったら、即落とされ思わず脱力する。フリーズが解けたので死神に急かされるままおとなしくテーブルについた。
「朝からこんなに食べられないよ。いつも朝食べないし」
「これだからいまどきの若い娘はイヤだねー。いつだってダイエットですかテメーは。とりあえずスープだけでも口つけろ」
渋々スプーンを取り、ミネストローネに手を付ける。
「あ、美味しい」
「だろー。女子に冷えは禁物なんだから朝はちゃんと温かいもの食え」
いったいどこのお母さんだ、この死神は。言われるままに温かいスープをお腹に収めると急に食欲がわいてきた。結局出されたメニューをきれいに平らげてしまう。死神も自分の分を食べ終えて満足気だ。
「コーヒー。インスタントじゃなくてちゃんと淹れたヤツ」
「はいはい」
食器類をキッチンにさげて湯を沸かす。湯が沸くのを待っている間に食器を洗ってしまい、もはやルーチンとなってきているコーヒーの用意をした。二人分のマグカップを持ってリビングに戻ると死神はりんごを剝いていた。
「ほい、食後のデザート。朝のりんごは金ってね」
あぁ、この死神、その辺のお母さんよりよっぽどお母さんらしいわ。死神なのに異常に女子力が高すぎませんか。ウサギさん型にカットされたりんごは蜜が入っていていかにも美味しそうだ。死神とソファに並んで座り、無言でりんごを齧る。しゃくしゃくという咀嚼音だけがリビングに響いていた。
「ごちそうさまでした」
りんごを食べ終えて私が言うと死神が「お粗末様でした」と返す。
「やっぱりお前、コーヒー淹れるのはうまいのな」
コーヒーをすすりながら死神が満足そうに言う。私も黙ってコーヒーを飲む。カップを持ったまま心もち死神に軽くもたれかかると、ちらっと私を見ただけで死神はそのまま黙ってコーヒーを飲んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます