1-7

そいつは二足歩行で、色はどこを見ても真っ黒で、頭には二本の太く鋭い角が生えており、その口元には口輪のようにして剛鉄が嵌められている。その右手には、体の色と同じ真っ黒な剣のようなものが握られている更に、この巨体の全長は、20mを優に超えているかのようにも見える。そんな巨体が、僕が乗っているマシンアバターの装甲越しに僕を見つめている。


「……は?」


理解が追いつかなかった。突然降って現れたそれは、地面を抉り、進みながら、その場に不幸にも居合わせてしまった王国軍の兵士を踏み潰し、引きずり、ようやく停止したかと思えば今度はこちらを見つめて声を発したではないか、その第一声が、「貴様がアレン・ハーヴェンだな」と来たものだ。


「あ…あ、あれもガイナスなのか…?」


一人の兵士がポツリと言葉を漏らす。それがこだましてか、皆それぞれ隠せなくなった驚きや戸惑いを次々に口にしていく。


「言葉を喋るガイナスだと…ありえない…!」


そもそもガイナスとは、南都、デミガラの大悲劇、オグドルヴォの強大な魔力によって引き起こされた二次災害。動物の遺伝子を変貌させ、その姿形がその面影を残さず全く別の生命体へと変えたものであり、簡潔に言ってしまえば動く魔力の塊。意思や意識はあるのだろうけれど、人語を解すような知的生物では絶対にないとされている。


「オープン回線…?まさか、人が乗っているのか…あれに?」


そう声を発したのは、調査部隊の隊長だった。すると、あの巨体は体を屈ませ首を垂れ、人間でいうところのうなじの当たりから、フシュゥという音と同時に蒸気とも煙とも見分けがつかない白い気体上のものを上げると、そのうなじの部分がせり上がり、コックピットのようなものが露出し、その中から人影が現れ出てきた。


「我が名は、ムガンド帝国軍14騎士団が一つ、剛毅騎士団、騎士団長、ドラングである!ムガンド帝国皇帝陛下の勅命により、アレン・ハーヴェンを拘束、捕虜としての連行をしにきた!大人しくアレン・ハーヴェンを引き渡せば、我々は軍を撤退させ、これ以上の危害を貴様らに加えることはない!だが、断るのであるならば我ら剛毅騎士団がフランテイク王都へと進軍する!」


呆気にとられていた王国の兵士たちがドラングの放った言葉に対し、騒然としはじめる。

それは僕とて同じ、否、それ以上に混乱している。いきなり現れたと思えば身柄を引き渡せときた上に、断れば王都へ進軍すると宣言してきた。


頭の痛い話だ…ここで僕がアレン・ハーヴェンだと名乗り出て身柄を拘束されても、王国側は何ら問題はないはず…だけど、僕だって捕虜になってはい、おしまいは嫌だ…!名乗り出て拘束される前にあいつを倒す…倒せるのか?いや、無理だ、向こうの戦力が不明瞭な上に、あいつは騎士団長と言っていた、なら、伏兵としてほかの騎士とやらが必ずいるはず…その数も分からないのに僕一人が突っ込んでいけば確実に囲まれる…そうなったらおしまいだ…!


正直言って、剛毅騎士団全員がドラング同様搭乗型のガイナスを持っているのだとしたら、マシンアバターに乗っているのは僕一人だけ…他のみんなが束になっても一体と互角に戦うのも難しいかもしれない…どうする…考えろ…!考えろ…!


選択を迫られ、必死に考えていたそのときだった。空から声が聞こえてきたのだ。


「悪いが、その条件は飲めねぇな!ケツまくって帰んな、田舎モン!」


口は悪いが、親しみのある声が​─────

振り向けばそこには、白銀の装甲に真っ赤なラインが胸元から大の字を書くように、腕や足の部分へと鋭く伸びている。


「マシン…アバター…まさか、ケンゴ!」


「悪いなアレン、遅くなっちまった」


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