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技術部に異動となった僕を出迎えてくれたのは、ルミナート博士はくしここの責任者であり、これから僕の直属の上司になる人だ。


「さっそく君にやってもらいたいことがある…と、言いたいのは山々なんだが…ボクは今個人的に君のことが気になっていてね、とてもじゃないが軍務どころではないんだよ」


気になっている?はて、何が気になるのだろうか…僕にとっては女性であるはずの彼女がずっと一人称をボクと言っていることがとても気になるのだが。


「君、なぜこの星の言葉が喋れている?」


この星の言葉?確かに、聞こえてくる言葉の意味もわかるし、自分でも流暢に喋れる…でもそれは、記憶にはないが片親がこの星の出身だからじゃないのだろうか?


「この星のことの記憶すら失っているんだろう?だったら、尚更変じゃないかい?普通なら地球の言語を話すはずだし、この星の言葉すら分からないはずだ…なのに、なぜ君は記憶を失ってもなお、この星の言葉を理解し、喋ることが出来ているのか?科学者としては実に気になるのだよ…あぁ、いや、科学者としてではなく、ボク個人としてもすごく気になっている。」


僕は、彼女の言ったことに対して何も言うことができない。閉口して言葉を詰まらせている。


「まぁ、気にはなるが本人に答える気が…いや失礼、答えられるかどうかすらも分からないのなら仕方がない。じゃあ、早速だが、君にやってみたいことがある」


僕の額から冷や汗がたらりと頬をつたい、顎へと辿り着き、ポタリと落ちて乾いた地面を濡らした。


「僕にやってみたいこと…ですか?やって欲しいことではなくて?」


「ボクにとってはどっちも同じさ、君がモルモットであることには変わりないよ。特別にボクのラボへ案内しよう。と言ってもこれから先君の勤務先はボクのラボなんだけどね。」


そう言いながら、すたすたとルミナート博士は歩いていく。僕は小走りで博士に追いつき、後から歩いてついて行く。しばらく進むと、巨大な鉄とコンクリートのような素材で出来た一つの街がまるまる入りそうな程のビルの前に付いた。


「ここが、博士のラボですか?随分と大きいですねぇ…」


「何をバカなこと言ってるんだい…ボクのラボがこんな木偶の坊であってたまるか、もしボクのラボがこんなにでかけりゃ、この国どころか、この星をぶっ壊せるほどの兵器を作れるよ。」


つい、星をぶっ壊せる、という単語に反応してしまいそうになるのを僕は必死に我慢した。


「へ、へぇ…すごいですね」


「だから、ここはボクのラボじゃないってば…ボクのラボはこの中にあるのさ…騒がしいこの街の中にね…」


街?ビルの中ではなく?と聞き返そうとしたときだった。


「ここから先、何をみても驚かないこと、はしゃがないこと」


ルミナート博士は胸ポケットからカードキーを取り出してビルの壁に付いているスキャナーに差し込む。


「私たちにとってここから先はいつもの光景で、ただの日常でしかない、それは、ここで働く第2期団の彼らだけじゃなくほかの地球人にとっても同じだ。」


赤のランプが青に変わり、ブザー音が鳴り響く。それと同時に重く、黒い扉が轟音をとどろかせながら上がっていく。


「あぁ、回りくどかったね、簡潔にいうなら、君が記憶喪失だということは、私と、君の元いた部隊の隊長、副隊長、カネモトケンゴ一等兵、軍医のガイウ、そして君の隊長が報告しに行った王国軍の一部の人間以外には知らされていない」


ルミナート博士の話など、もう僕の耳には届いていなかった。

何故なら、開いた扉のその先には────


「街だ…ビルの中に、街がある…まさか、本当に街がビルの中に入ってるなんて」


「まるで子どもだな…おい、ボクの話聞いてなかったのかい?あまりはしゃぐなと言ったじゃないか僕のラボはこの中にあるほら、行くよ」


すごいの一言だった。僕は走り出したくて仕方がなかった、なぜかとても心が踊った。

しばらく歩いていると、廃墟ビルのような場所についた。


「ここが、ボクの研究施設、最上階にあるのが、ボクのラボさ」


中に入ると外見とは違い、綺麗に清掃されていてなんというか、ギャップがすごかった。


「あれ、ここって、研究施設なんですよね?他に研究員の人とかっていないんですか?」


施設内を見回しても、人の気配が全くなかった。


「君は記憶を失っている割には妙なところで勘づくね、安心しておくれ研究員ではないが一人だけボクのお手伝いをしてくれる子がいるのさ」


階段を登りきり、ようやく最上階に付いた。ここにはエレベーターというものは存在しないのだろうか…とても疲れた


「ここが、博士のラボがある最上階…って、あれ…あれってエレベーター…ですよね?」


「あぁ、ここのフロア全体がボクのラボだよエレベーター?あぁ、確かにあるよエレベーターちゃんと動くし安全性にも問題はないよ」


エレベーター…あったのか…だったら最初からエレベーターで移動すれば良かったのでは?と口にしかけるが、あるものが目にとまり思いとどまる。


「これは?」


ガラスケースの中には何かのギミックなのかゴテゴテした手のひらサイズの円盤があった。


「それは、インパクトスーツを作動させるための、ディスクだね。タイプ:ソルジャー、戦闘を積み重ねていくことによってあらゆる戦術を学習し、スーツ自体のパワーや耐久力を向上させていく強化アーマーさ。」


「そんなにすごいものがなぜここに?しかも、1つだけ」


「開発途中で色々あってね、開発中止になったんだ。それ以降はボクが改造して、ディスク型にして、ドライバーとセットでなければ使えないようにしたんだ。まぁ、天才のボクはドライバーに適合者判断システムを搭載して、インパクトスーツを使いこなせる人間とそうでない人間を区別させることを可能にしたんだ。だけど…」


博士はガラスケースを開けて、ディスクを取り出し、壁に手を当てると壁が開き、中にあったドライバーも取り出した。


「適合者は過去一度も現れなかったんだよ。何人かは確かにスーツを作動させた…けど、作動できただけで、結局実践訓練となると、やはり装着者達は不調を起こし倒れてしまった。そこで、君の出番というわけだ」


博士は僕を指差し、にこやかにドライバーとディスクを預けると、満面の笑みで僕に向かってこう言った。


「実は君のバイタルを調べたら、今までの装着者とは比べ物にならない程の数値が出たんだよ!さぁ、早速実験を始めようじゃないか!ドライバーを腰につけて!」


言われるがままドライバーを腰に巻く。


「次は、ドライバーに付いてる上のボタン押してみて」


ボタンを押すと、僕から見てドライバーの右側部からディスクトレイのようなものが出てきた。


「よし、じゃあ次はディスクトレイにディスクをセットして、ドライバーに差し込んでみて」


ドライバーにディスクを差し込と、

『ディスク・イン』という音声とともにギュイーン、ギュイーン、と待機音のようなものが流れ始めた


「よし、ディスクは弾き出されないはずだ!もう一度上のボタンを押すんだ!」


言われた通りにボタンをもう一度押した。すると、次の瞬間、ドライバーから、

『チェンジ・ソルジャー』という音声ともにドライバーが白く発光し、インパクトスーツが展開されていく。1秒も経たないうちにスーツは僕の全身を包み込んだ。


「うん、いい感じだ、ヘッドマスクもいい感じにキマッてるよさて、問題は体がスーツに耐えられるかどうかだが…地下にダミーガイナスを使った戦闘訓練用施設があるそこで実験をしよう」


「ダミー、ガイナス…?」


記憶を失ってから一度も聞いたことのない名前だった。


「ガイナスを知らないのかい?君達4期団が所属している部隊が調査しているはずのものだろ?」


「僕達が調査しているのは、荒廃都市の魔力量や不発弾などの危険物が落ちていないかの調査だと教わりましたけど?」


「記憶を失った君にガイナスを教えなかった…?まぁ、いいか…ガイナスについては、ボクが説明しよう。ガイナスっていうのは、ムガンド帝国が使った超巨大魔力攻撃、デウスの影響によって生まれた新生物だ。生まれたというよりかは、進化に近い。もともとこの星にいた動物達が、巨大な魔力の影響を受け、その身体組織を変化させてできたものだ。性格は狂暴そのもので、感情を司る前頭葉の機能が著しく低下していて、より野性的に、そして破壊衝動を抑えられなくなる傾向がある。」


「そんなやつと今から戦うんですか?僕…」


「大丈夫、ダミーガイナスはボクがガイナスをもとに作り出した実験用の動物だ。その分狂暴性は少しだけ抑え目にしてある。安心しなよ、君ならやれるさ、それに君以外にやれる人間はボクはいないと思うよ」


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