第9話 ミケ、保護される

『はて、ここは』

 そんな言葉が出てしまっても仕方がない。我が知る中では極上の場所じゃ。爪とぎ板もあるし、寝るところも登るところもある。

「よかったぁぁ。保健所であのあたり目をつけてたから、危機一髪!」

 む。「ほけんじょ」とな。それは一体。

「うんうん。母猫と子猫も無事保護できたし、まずは落ち着かせよっか」

「お、子猫は全部男の子だ。あとで去勢しないとね」

「ママさん猫は落ち着き次第だね~」

 そんなことを言いながら、母猫ははおや子猫こどもを見ておったヒトが我の傍までやって来る。

 うむ、悪意はない。じゃが、そこを覗かれるのは嫌ぞ?

「おうっふ。この三毛猫、ノラ暮らしが長いと見える」

「武里君、どうしたの?」

「いやぁ、あからさまに警戒中」

 だから、覗こうとするでない! 我にも矜持というものがあるのじゃ!

『ネコマタ様、大人しくした方が身のため』

 前からいるじゅうみんが助言をしてくるが、それだけは死守したいぞ。

『しないと、おちおち昼寝も出来ねえ。なんつーか、ニンゲンにとって俺らがオスかメスかってのが、重要らしい。因みに、終わって落ち着くと、もれなく〈びょういん〉行きだけど』

『何故じゃ!?』

 その前にその「びょういん」とやらが分からぬが。

『んーっと。〈びょういん〉でするのは〈ちゅうしゃ〉と〈びょうき〉の検査。あとは……大事な所をちょきんって』

 な……ん……だ……と!?


 思い出したわ。若いのが言っておった「せんようしせつ」の事か! 家無しを防ぐためとかニオイを少なくするとか、他愛もない理由で、そういうことをする場所か!

『いや、こんだけいたら、ナワバリ争いが酷くなるから、しゃーない』

 ぺろんと顔を洗いながらその猫は言うが、我には屈辱じゃ……。

『まぁ、他の猫たちやつらの為にも、股間だけは見せてやってよ』

 その間、周りも昼寝がしにくくなる、と次はのん気に欠伸をしながら言う。お主ら! 危機感はないのか!?

『俺らもそれ申し送りされた身だし。一回逆らったやつがいたんだけど、ほんっとうに昼寝が出来なくて子猫こどもたちが大変でなぁ』

 ふっと遠い目をして言うでない!


 くそっ! 子猫こどもたちを盾にとるとは卑怯なり! ならば、我から見せてやるっ。


「お、いきなり降参されると思わなかったな~。あ、雄だ」

 我の性別が分かったとたん、ヒトどもは慌て始めた。

「ちょい、雄の三毛は珍しいんじゃ……」

「だなぁ。しかも、尻尾が短いタイプ。つまりは日本猫だ」

 なんじゃ、その「にほんねこ」とは。

「この子の里親探し、気を付けないとだね~」

「だよなぁ。三毛の雄だって分かった瞬間、ブランド志向のやつらが煩いからなぁ」

 我の頭をわしわしと撫でつつ、そんなことを言いよる。我はそのような俗物と共に居る気はないぞ。


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猫好き様はご存知かもしれない豆知識

①日本猫は尻尾が短い(らしい)

②尻尾が短いのが残った理由は、「ネコマタ」になりにくいとされたため(らしい)

③雄の三毛は船の守り神


あと、この場で。

ミケさんが去勢等を嫌がっておりますが、個人的には去勢や避妊は容認派です。産まれた子供に対しても責任が持てる方は、去勢・避妊等をしなくてもいいとは思います。

ただ、ミケさんの立場からしたらこういう反応かなぁという感じです。

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隠居ネコマタの大(?)冒険!! 神無 乃愛 @Noa-Kannna

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