もちつもたれつ

めぞうなぎ

漫才『お米』

「突然ですけど、子供に右と左を覚えさせるために、お茶碗持つ方お箸持つ方っていうのあるじゃないですか」

「ああ、ありますね」

「あれのせいで僕、食事中にコップとか持てないんですよ」

「別にお茶碗しか持っちゃいけない箸しか持っちゃいけないってわけじゃないんですよあれは」

「だから今でも右と左をそうやって考えちゃってるところがあるんですよね」

「どういうこと?」

「つまりね、道案内を頼まれたときに『あそこのハンコ屋さんをお茶碗して、次のハンコ屋さんでお箸して、また次のハンコ屋さんのところでお茶碗して――あれ、お箸だったかな?』ってなるんですよ」

「訳分かんねえじゃん、お前大人なんだからもう右左でスッと言えよ。あと、お前の住んでる所ハンコ屋多すぎるだろ」

「ははは、それについては太鼓判押せますよ」

「うるせえよ」

「自己紹介が遅れましたけど、僕のお箸に立ってる方がお茶碗で、お茶碗のお茶碗に立ってる僕がお箸です」

「何言ってんのか全然分かんねえよ」

「ちょっと今日は、皆さんに炊き込み入った話をしたいなと思ってるんですけれども」

「込み入った話でしょ。そう、今日はですね、ご飯の話をさせてもらおうと思ってるんですよ。ちょっとそれに引っ張られちゃったみたいですけど」

「僕たちコメディアンですから」

「何上手いこと言ってんだよ」

こめられると照れますね」

「米られるってなんだよ」

「それはさておきね」

「もういいのか」

「僕たち二人とも日本人なんで、やっぱり白いお米が大好きなんですよね」

「そうですね、炊き立てのご飯は美味しいですよやっぱり」

「あんまり美味しくてやめられないんで、僕はお米のことを白い粉みたいに白い粒って呼んでるんですけど」

「なんか危ない薬みたいになってんじゃねえか」

「食べるたびにお百姓さんの幻覚が現れるんです」

「お前がすげえな」

「生産者の顔が見えると安心しますよね」

「かなり意味が違うと思うけどね」

「いつも部屋で、ガスで炙ったりしてますしね」

「ただの焼きおにぎりだろうがそれは」

「お風呂も改良してね、ライスシャワーが出るようにしてあるんですよ」

「ライスシャワーってそういうことじゃないだろ」

「湯船にも米の研ぎ汁が張れるようになってて」

「お前は植物か。風呂埋まるほど米研ぐの大変だろうが」

「で、今日付けてるこのベルトもね、スイッチ入れると光るんですよ」

「なんでだよ」

コシヒカリ腰光りに決まってるじゃないですか」

「くだらねえ~」

「自分でご飯も炊きますよ」

「自炊? それはいい事なんじゃないの」

「昔の偉い人がこう言ったのを知ってますか?

 『省電力追い炊きすると

  固く成り難し』」

「少年老い易く学成り難しだろ。あと、米は普通追い炊きしないからな」

「俵万智という歌人も、こんな短歌を詠んでるんですよ?

 『このお米

  美味しいねと君が

  言ったから

  八月十八日は

  お米記念日』」

「あれサラダ記念日だろ。八月十八日って全然音合ってねえしよ」

「米とサラダってほとんど同じでしょ?」

「なんでそうなるんだよ」

「コメダ珈琲って米+サラダなんでしょ?」

「違うよ?」

「え、違うの?」

「鳩が」

「米鉄砲を喰らったような顔をして」

「自分で言うな。何だよ米鉄砲って」

「お前な、『ライスイズビューティフル』って映画を知らないのか!」

「『ライフイズビューティフル』の間違いだよ」

「もっと米米しろよ~!」

「焚きつけても意味ないからな」

「オーマイゴッド」

「うっぜ。何コイツ」

「ずいぶんとおこめりのようで」

「困ってんだよ」

「そんな炊飯釜にこびりついたお米みたいにカリカリしないで」

「あんなにカリカリしてねえよ」

「ともかくね、僕はそれくらいお米がまい好きなんですよ」

「米好きって何だ、初めて聞いたぞ」

「ライスきなんですよ」

「大好きって言いたいんだな」

「ナイスコメント」

「いちいちめんどくせえなコイツ」

「そういえばね、三度の飯より○○が好きって言う人いるじゃないですか」

「確かにいますね、それくらい好きだって事言いたいんでしょうけど」

「僕はね、ああいう人たちにこう聞きたいんですよ」

「何をですか?」

「『じゃあ、四度の飯だったらどうなんだ!』」

「あれはそういう事言ってんじゃねえんだよ」

「米を舐めるな!」

「ちょっと落ち着きなさいって」

「噛め!」

「怒ってんのそっちかよ」

「一寸の虫でもご飯が楽しいって言うだろ!」

「五分の魂じゃないのかよ」

「でね、風邪引いた時にお母さんが作ってくれるあれ、美味しいですよね、


 おかず」


「お粥じゃねえのか」

「いや、僕はお粥をおかずにお粥を食べてたんで」

「あぁそう」

「お米をウサギみたいに剥いてもらったりしてね」

「どういうことだよ」

「水枕の代わりに30kgの米袋を枕にして大人しく寝てましたね」

「蕎麦枕みてぇだな」

「寝返り打つたびに耳元でジョリジョリ聞こえて――いやー、安心したなー!」

「なんなんだよ」

「こんな僕にも夢がありまして」

「どんなのどんなの? 聞かせて聞かせて」

「僕ね、すごく長生きしたいんですよ」

「いい目標じゃないですか」

「特に、ほら、何だったかな、カーキだかブラウンだか、何とか言うじゃないですか」

「米寿な。ベージュじゃねえよ」

「そう千住!」

「米寿だっつってんだろ。八十八ってお前、現代だったらもっと生きれるぞ。ただ米って入ってるだけじゃねえか」

「ただね、僕はお米について、ひとつ悩んでることがあるんです。この気持ちを、表現する方法がないんです」

「まあ、今までのやり取りでも十分伝わったとは思いますけど」

「だから今日は、その為にこれを持ってきました」


  米

 米米


「何だこれは」

「やっぱりね、『米』という漢字一文字では、僕のこの気持ちはどうやっても表現できない。だったらご飯と同じ、大盛りにしてしまおうと!」

「見た感じすげえ気持ち悪いけどな。森に毛が生えたみたいで」

「これ、どう読むか分かりますか?」

「いや、全然想像つかないけど」

「『よねさん』です」

「まんまじゃねえか。なんかおばあちゃんの名前みてえになってるし」

「そう! 意味は『おばあちゃん』なんだよ!」

「米関係ねぇじゃねえか」

「よく見ると、この線の多さもおばあちゃんのシワを表現してる気がするでしょ?」

「それか、梅干し食べて『すっぱ~い』の顔だな」

「子供の名前はこれにしようと思ってて」

「可哀そうだからやめろ」

「そういうわけでね、僕のお米が好きなんだ! というこの気持ち、皆さんに届いたでしょうか」

「まあ、嫌というほど届きましたよ」

「あ、ちょっと待って」

「何だよ」

「動かないで」

「だから何だって」

「――ほっぺにお弁当、ついてるぞ☆」

「――全然気が付かなかった」


『どうも、ありがとうございました』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もちつもたれつ めぞうなぎ @mezounagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ