夢じゃないよ
―――話声が聞こえる。辺りには草や木々が風に揺れる音で溢れていた。森の中だろうか。
「では、この子は私が連れて行くわ。」
はっきりと聞き取れたのは聞き覚えのない女の子の声だった。相変わらず頭はくらくらするが、少しだけ目を開けてみる。女の子、といっても『わたし』より目線が少し高い位置にあることから、私と同じ高校生くらいの年齢だと推定できる。今度は目を覚ましたことがこの場の人間にバレないようなるべく薄目のままでいることを心がけた。
「では、わたしは持ち場に戻る。もうわたしたちが会うことはないだろう。」
『わたし』は私と同じ声で無機質にそう言った。音源は女の子の声より遠い。なぜなら、この正体不明の女の子は私を背負いながら『わたし』と会話しているのだ。
「……そうね。ばいばい。」
女の子も特に惜しむわけではなく、『わたし』に淡々と別れを告げた。さよならのかわりに『わたし』はひらひらと手を振ってから森の向こうへと去っていく。『わたし』が地面を踏みしめる音も遠ざかっていった。
「さて、そろそろ行きましょうか。」
誰かに語りかけるように女の子は言った。
女の子が森の反対側へ振り返ると、四角い真っ白な建物が目の前に現れた。その建物は町の神社にあった蔵くらいの大きさでそこまで大きくはなかった。見た目は古くも新しくもなく、いつからある建物なのかがわからなかった。
私をおんぶしている女の子は長い黒髪を風で揺らしながらその建物に付いている真っ白な扉へ近づいていく。扉の前に立つと、女の子は着ている白いワンピースの腰あたりにあるポケットからひっぱり出した鍵で解錠する。私たちは建物の中へ進んでいった。
中は仄暗い。扉のない正面と左右の壁にはA4用紙を横にしたぐらいの大きさのすりガラスが貼られた小窓が、女の子の目線ぐらいの高さにそれぞれ一つずつある。照明が見当たらないため、それがこの部屋の光源になっていることがわかった。その建物には小窓とあるもの以外何もないことがわかった。
そのあるものとは上下に続く螺旋階段である。
女の子は階段に近づいていった。女の子が階段を
女の子は私を背負ったままどんどん階段を下っていく。どの階も同じような作りになっているが、階数などは壁にかかれていない。はじめは何階降りたかを数えていたが、次第にわからなくなってきた。今何階なのかを考えようとして、私は頭痛が起きていることに気がついた。だんだん意識を保つことが難しいぐらいに痛みは強くなっていく。意識が途切れる直前に不思議な夢だな、これでやっと目が覚めるのかなと考えていたら、それに答えるように女の子は言った。
「これは夢じゃないよ。」
そこで意識が途切れた。
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