夢の続き

 波の音が聞こえた。それに混じってずるずると何かを引きずる音がする。右手と下半身全体からざらざらとした感触が伝わってきた。どうやら引きずられているのは私のようだ。左手は何者かに引っ張られており、わたしはどこかへ連行されているらしい。


 ぼんやりと見え始めた視界に映ったのはだらりとした私の身体と砂浜だった。ここまで引きずられてきた形跡が道のようになっている。視界の左端で海水が浜辺に打ち付けられたりひいたりしているのが見えた。私の服装はパジャマのままだった。パジャマが砂で汚れるのはいやだなぁ。


 頭がくらくらした。抵抗するような気力もなく、手足には力が入らなかった。視界は暗く、下ばかり見ていた目をどうにか頭とともに上へ向けると、月と星ばかりが輝いていた。辺りに他の光源はなかった。ここが近所の海辺であれば、私は海沿いの町に住んでいるため、そう遠くまで来ていないはずだ。時間もそんなに経っていないのかもしれない。まだ先ほどと同じ夜なのだろうか。


 視界の端にあった海がいつのまにか見えなくなっていることからだんだん陸に向かっていることがわかった。進行方向から草や木々がざわざわと風に揺れる音が聞こえる。土や草の匂いが徐々に強くなることから、町ではなく、森へ向かっていることが予想できた。浜辺が森に繋がっているところなどあっただろうか。町の浜辺はコンクリートの防波堤に囲まれており、浜から階段を登ったところには毎年海水浴の時期になると多くの人に利用される駐車場があった。ということは、町から離れた別の浜辺にいるのだろうか。そうなると、あれから何日か経ってものすごく遠いどこかの浜辺にいる可能性もある。


 さまざまなことを推測し、現状を把握しようとした。ぼんやりした視界にある星空からどの方角に向かっているのかなどを確かめようとしたが、天文学に明るくない私にはどれが北極星なのかがわからなかった。いつでも見えるものなのだろうか。ふと、私を引きずっていた何者かの動きが止まった。視界に映っていた星空がその何者かが私を覗き込む姿に一部上書きされた。


「目が覚めたか。」


 辺りに聞き慣れた私と同じ声が響いた。しかし、私が口を開いた覚えはない。視界に入った何者かの口が動いたことから、声の主が『わたし』であることを私は察した。


「お前を殺すつもりはない。ただ、今はもうしばらく眠れ。」


 そう声が続いた直後、鈍い音とともに強い衝撃が頭部に走った。視界が瞬く間に真っ黒に塗りつぶされ、その声の通り、私は再び意識を失った。

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