第2話

‪「久しぶりだな。元気そうだ。」‬

‪慣れた手つきで茶を出す彼は、かつての存在感を薄れさせてそこに居た。‬

‪「…もう本当に、やめてしまったのか?」‬

‪ソファに背もたれ茶を啜りながら、部屋のそこかしこに飾られた彼の絵を眺める。‬

‪筆を折る直前まで描かれていた裸婦のシリーズだ。‬

‪彼を売り出そうとしていた画廊主が何度説得しても、頑として手放さなかったものだ。‬

‪「このシリーズのモデルは、お前が街で拾ってきた女だろう?もう一度同じようなのを見つけるか、またこの彼女に来てもらうかして、創造力ってやつを滾らせてもらっちゃどうだよ?」‬

‪「…また来てもらう?」‬

‪彼は薄く笑った。‬

‪「ははは、それは無理だな。彼女はな…故郷へ帰っちまったんだから。」‬

‪そう言いながら、裸婦の胸元に描かれたネックレスを指し示した。

シリーズの裸婦はみな、その白い肌に、大振りなリングに革紐を通したものを纏わせている。‬

‪「聞きたいか?彼女が故郷に帰った日のことを。」‬

‪「あ、ああ…」‬

‪図らずもキャンバスを見るような苛烈な視線に射抜かれ、私はギクシャクとうなづいた。‬

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る