第8話 仮想X戦争

 俺は素朴な疑問を持った。先生の話の内容はあまりにも現実的ではなかったからだ。先生はなぜ、俺たちを選ぶ権利を持っているのか。なぜ、全員の得意武器、出身ゲーム、プレイスタイルを知っているのか。


 普通の先生ならこんな踏み込んだところまでデータを持っているとは思えない。いくら、プレイヤーの行動ログを取っていても。そして、それをゲームの運営会社から入手しているとしても。ここまで細かいデータを取ることは不可能だ。


 だが、先生はそれを知っていた。それを知ったうえで自分の思想に合う人間を厳選したわけだ。すべて仕組んでいたとしか思えない。今までのことからもそうだ。俺たちはまだ、この学校に来て一週間すら経っていない。それなのにここまで俺たちの力を発揮できる指揮力を持っている。


 俺はそんな先生に一つ率直な質問をした。


「一体貴女は何者なんだ────」


──と。


 教室には緊張感が走る。先生は、俺の目を見て直ぐに答えを語った。


「私は3年前。この学校の生徒でした。卒業後すぐにこの学園に就職しました。その理由はこの学園に疑問を持ったから。私はそれを解明するためにこの学園に就職したのです。」


「なるほど。なぜ俺たちのパーソナルデータを持っているのですか?」


「私の職務は可能性を持つプレイヤーの選定。私はありとあらゆるゲームの中にダイブし、プレイヤーの情報を収集しました。そして、今日こんにちは個々それぞれに国から与えられる国民番号を入力しなければゲームはプレイできない時代です。そのため、個人情報の収集は容易いです。それに私は、もともと教師ではなくプレイヤーとしてゲームをプレイしていた人間でもあります。そのため宛てもありましたし私もここで学んだ人間です。普通にゲームをしても普通の人よりは強いですから。すぐにトップの人間にコンタクトをとることもできました。私はそのデータをもとにこの学園に、私のクラスにふさわしい人間を選定しました。わざと人間を一クラス分多くして私がそのクラスを持てるように根回しをして、そうしてあなたたちがここにいるのです。」


 俺はそれを聞いてすべてを理解した。なるほどそう言う事かと。


「つまりは先生は俺たちにゲーム内で会っているということですね?」


「その通りです。君にもあったことがありますよ? SoFでもFTSでも。」


「なるほど。確かにそうでもしない限りは俺たちのプレイスタイルまで熟知できるでしょうね。」


 俺は記憶を辿った。今まであったそれらしき人物。俺は確実にあっているはず。SoF、FTSでも。二つに共通した人物。容姿は違っても名前は同じだったはず。もし違っても話し方は同じだったはずだ。それに俺の。俺たちのプレイスタイルを知っているということは戦闘を見ている可能性が高い。つまり、俺と戦ったことがある。もしくは俺のことを少なからず近くから監視していたはず。俺はそこまで思考が働いたとき、一つの答えが導き出された。


「なるほど。貴女はSoFでは俺の戦闘を近くで観察し、FTSでは俺に戦闘を仕掛けてきたクランのリーダー。スカウター。偵察者。ですね?」


「その通りです。私は自分で高レベルプレイヤーの情報を収集しこのクラスを作りました。私のなすべきことをなすために。」


 先生は深刻な表情でそう言った。俺は何となくその意味を察した。この学園の闇それを知っているのだろう。だから俺はそれ以上は何も聞かなかった。


***


 この学校は特殊で、取らなければいけない単位は本戦のみ。それ以外は各担任の先生に授業を決める権限がある。各クラスに当たるように特別教室があるためそれが可能なのだ。俺のクラスでは授業という授業はほぼしないと言っていた。


「では、次の本戦に向けて作戦を説明します。」


 そう言って、ホロキーボードを叩く。それと同時にホロディスプレイにマップが表示される。


「今回は私たちの陣地が強襲される心配はないので全員での大規模作戦となります。相手はもちろん上級生。2年生のクラスです。そのクラスの特徴は機械兵器を使うことです。」


「機械兵器ですか?」



「その通りです。彼らは絶対に戦死をしないよう、巨大な機械兵器を作り遠隔操作して戦います。そのため、彼らにとってこの場所は無くてはならない場所。ここが落とせればその肝心の機械兵器の生産をできなくすることが出来ます。ここを攻める最大の理由はそのクラスと同盟を組むことにあります。私たちがこの場所を抑えて、交換条件を付けるのです。」


「つまり、この生産ラインを使いたければ俺たちに協力。および併合しろと?」


「流石です。そうすることで私たちのクラスは一手で大勢力となります。彼らの兵器はどのクラスも狙っていますがどれも失敗。結局のところ、この場所を落とさない限り手に入れることはできません。」


 確かに作戦の意図は理解できた。だが、その方法は全く思いつかない。たかが銃火器でそのロボット兵器を破壊できるとも思えない。それに、こっちが先に見つけても、俺たちが先に相手の射程内に入ってしまう。


「作戦の意図は理解しました。ですが、俺たちの武器ではせいぜい対物ライフル以外に太刀打ちできるものは無いように思えますが。」


「確かにその通りです。そこで遊撃部隊を編成し、フックショットによる襲撃を行います。相手はロケットランチャーが主装備です。機関銃の装備はありません。ならばフックショットによる複雑な行動で相手を錯乱。そして、相手の追尾するロケットランチャー弾を当てるのです。」


「なるほど。面白いですね。やりましょう。そのためにはフックショットは一つでは足りないですね。両手に一つずつ着けて二つをうまく使って動きましょう。」


「それがいいですね。あとは、素質のある人間ですが。さくらさん? あなたなら選べるでしょう?」


「もちろんです。」


 さくらは前に出て、クラスメイトを見渡す。


「編成は、第一遊撃部隊に月影、ゼロ、ユウナ、リク。第二遊撃部隊に私、ミナ、アルス、ファーニス。で、どうでしょう?」


「スナイパー一人。それ以外をフックショットで編成しましたか。二つに分割した意図は?」


「命令を出しやすくするためです。人数が多いと複雑な動きをするのには向いていません。なので、管理する人数を少なくすることで作戦の効率化を図りました。それに、私と月影くんは付き合いも長いので無言でも連携が取れます。」


 その言葉にクラスメイトは騒めく。おそらく二つの意味で……。


「なるほど。筋が通ってますね。では、それでいきましょう。では、歩兵部隊は陽動として各部隊の人数を多めに設定し、HPの状況によりローテーションするように。」


「「了解ヤヴォール!!」」


 俺たちは早速訓練に入った。フックショットの使い方。連携の取り方を入念に確認した。相手はある意味人間ではない。動きは遅いが、射程は長い。それに追尾型のロケットランチャーを装備している。そのロボット兵器を出し抜くために色々の陣形を試す。


 この試合はある意味ではすべての始まりにもなる試合だ。これを逃せばこの計画は先送りになる。それどころか、相手にこちらの手をさらすことにもなる。俺たちの戦略は自陣にとどめておくことで威力を発揮する奇策だ。それをさらしてしまえばもう同じ手は使えない。それに、この前の試合で勝ったことで次の本戦では自陣を守らなくてもいいというのも大きい。もし今回作戦に失敗してしまった場合。いろんなクラスが俺たちを狙ってくる。こちらにはスナイパーが居ることもバレている。それに前回の試合ですらギリギリの戦いだったのだ。次もうまくいくとは到底思えない。


 なんとしても。なんとしても、次の試合に勝たなければならない。


 俺はそこまで思考が廻ったときふと思った。


───なぜ俺はこんなに本気になっているんだ? 


───と。


 俺はそれに気づいたとき、恐怖感に襲われた。この感覚は一体何だ? 俺は自分が。自分の意識が遠のいていくのを感じ、力を失った。


 空中を飛んでいた俺の体はフックショットが刺さったまま、建物に勢いよく衝突し、自動的にログアウトした。


 目を覚ますと今ではもう見慣れてしまった天井が目に映った。


「大丈夫ですか? 悠遠くん。」


 声のした方向を向くとそこには先生がいた。俺は体を起こそうとするが頭に強い痛みを覚え頭を押させる。


「無理はしないでください。やはり。君が最初にこうなりましたか。」


「俺が最初に? どういうことです?」


「この症状は特に頭のいい子に見られる症状なのです。現実の認識を仮想世界に持ち込んでいることで、本当の戦争をやっていると錯覚させる。ですが。君のような頭のいい子は大抵、仮想世界だということに気づいてしまう。そして、自分が何をしているかがわからなくなりエラーを生じて思考が無限ループしてしまい君のように気を失ってしまうのです。」


「先生。俺、あの世界に戻るのが怖いです。」


「そうでしょうね。今までそうなった子はみんなこの学校をやめていきましたから。それにそうなった子はこの学校の真実に触れることにもなる。そうでしょう?」


「ええ。俺は、この学校が何をしようとしているのか何となくわかった気がします。意識がなくなっていくときに何かを見た気がします。それが何かはわかりませんでしたけど。」


 俺はなんとか体を起こし、意識を失う直前のことを思い出す。


「この症状は本当に突然訪れます。ですが、一回それを乗り切った者は本当の力を発揮できます。おそらく君にも何かが芽生えていると思いますよ。これを乗り切った者はデータからしても脳の信号に他のものとは違った傾向が見られます。私のように……。」


「………。」


  俺はその言葉の意味を察した。先生がこのことに詳しいのは自分がそうだったからだ。

 俺は正直これ以降も先生の言ったように力を発揮して戦えるとは思えない。でも。それでも先生の言わんとしていることも理解が出来る。俺はどうすべきなのかどうしたいのかそれに従ってみるのも悪くない。先生がそうしたように。


「俺があの世界に復帰できると思いますか?」


「もちろん。貴方はそれだけの力があるはずです。それだけのメンタルがあるはずです。」


「この恐怖感は何なんでしょうか。俺の体が勝手にブレーキをかけているのです。」


「そうでしょう。でも、貴女は次の作戦では必須の存在。何としても戻ってきてください。次の一手がこの学校を変える第一歩になるのだから。」


 先生はそう言い残して俺の部屋から出ていった。


 俺は一人になり。もう一度深く考え直す。


───本当にいいのか?


『当たり前だ。』


───後悔は無いか?


『ああ。』


───あの世界が怖くないのか?


『怖いさ。』


───では、なぜ?


『軍を持たないと言っていたはずのをほっておけないからだ。』


───相手は国だぞ?


『だから何だ。』


───覚悟はできたのか?


『ああ。恐怖心が何だ。』


───目的は何だ?


『決まっている。この仮想戦争だいりせんそうを終わらせる!!』


8話 仮想X戦争バーチャルリアリティ 完





 














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