第9話 対策

 俺は先日、気を失った。その理由はこの学園の真実に気づいたからだ。


 俺は訓練中に『俺はなぜここまで本気になっているのだろう』と疑問を持った。そう思ったときに一つの答えに辿り着いた。


 それは───


 この戦いはただの仮想戦争ではない。これは本物の戦争なのだと。


 先生によると、頭のいい生徒によくみられる症状らしいのだが。俺の場合は先生の話を聞いていたということが大きい。


 かつての日本もそうだったように。どの国もそうだったように。戦争をするときはまず自国の人間を洗脳する。我々は正しいと。我々は強いと。人間を洗脳し、自国の兵隊として戦争に出撃させる。それとやっていることは何ら変わりない。


 そのためにあの世界は普通のゲームと違い痛覚をキャンセルする機能が弱い。そして、仮想世界の認識を現実に上書きしたり、逆に現実の認識を仮想世界に上書きすることでその洗脳を早く済ませる。


 その結果。俺たちはあの世界で戦争をしているという認識。殺し合いをしている認識をかき消しているのだ。


 この学校はそれを利用して、仮想世界の戦争を現実世界の結果に仕立て上げようとしているのだ。


 あくまでも戦争には不参加という思想のはずが一転。全面的な戦争を請け負っている。確かにそうすれば現実での死者はいなくなる。これ以上この大地が破壊されることもなくなる。だが、それを生徒にやらせるなど鬼畜の所業。


 こんなことは許されない。俺が止める。何としても。


***


 俺は先日の脳のダメージが大きく、少し頭が痛かったがとりあえず教室に行くことにした。


 先生には無理をしないように。と言われてはいたがあんな真実を知ってしまってはそれもできない。無理をしてでももう一度あの世界に入って克服しなくてはならない。


 確かに怖い。相手は国どころではない。世界だ。それを相手にたかが学生が戦わなければならないのは怖くて当然だ。普通は中退を希望するだろう。でも、俺はそれを選ばなかったならば、やれることをするしかない。どうせ、ゲームばっかりやってた俺にとっては将来はあってないようなものなのだから。


 俺は教室のドアを開け、席に着く。


「おはよ。優月くん。大丈夫?」


「おはよ。まぁ、まだ頭痛はするけど何とか大丈夫だ。」


「無理はしないでよ?」


「分かってるって。」


 内心では『すまん。無理するしかないんだ……』と桜に答えていた。


 しばらくして先生が教室に入ってくる。先生は俺の顔を見てから教壇に立つ。


「号令は省略でいいです。」


 先生は改めて俺の方を向き、さらに続ける。


「優月くん。大丈夫ですか?」


「そのセリフ聞き飽きましたよ。大丈夫です。多少頭痛がする程度です。」


「わかりました。少し不安要素は残りますがいよいよ明日が例の作戦決行日です。そこで今日も昨日と同じく、訓練をします。優月くんはまずリハビリからですけど。慣れてきたら訓練に参加してもらいます。」


「わかりました。」


「それでは早速、ダイブの準備をして向こう側に集まってください。」


「「了解ヤヴォール!!」」


***


 拠点の中にあるミーティングルームで作戦の概要を再確認した俺たちは各自作戦班に分かれ訓練を始める。


 俺はみんなが転移するのを確認してから先生のもとに向かう。


「俺は何をしたらいいですか?」


「決意はできたのですね。では、手始めにSoFのモンスターを少し狩りましょう。」


「わかりました。」


 俺は先生のあとをついていく。正直今も俺の心臓の鼓動は高まっている。やはり、現実の認識が強く俺の中に定着してしまっているのもあってこの世界が仮想世界ではなく現実世界だと認識してしまっているのだ。


「心拍が高いですね。大丈夫ですか?」


「ええ。今のところは大丈夫です。」


「その症状に打ち勝つのは正直難しいでしょう。聞いた話ではこの学校を去った後VRゲームに戻ることが出来なかったという報告も多数あります。それでも貴方はここに戻ってきた。貴方は強いです。」


 俺は恐怖感を抑えながら先生についていく。到着したのはトレーニングルームという部屋だった。


「では、リハビリを始めましょう。」


了解ヤヴォール……。」


 俺はいつもより無気力ながら敬礼する。


 先生は少し離れてコンソールを操作する。俺はアカウントの連携をしたSoFの防具と武器を実体化し装備する。


 俺は剣を腰から引き抜き、剣を構える。それと同時に目の前に三つのライトエフェクトが現れる。モンスターがポップするときの特有のエフェクトだ。


 ライトエフェクトが消えると、SoF中級小型モンスター《Goblin Fighterゴブリン・ファイター》が姿を見せる。


 ゴブリンは俺を索敵範囲内に納めているため、すぐに襲い掛かる。


 ゴブリンはすばしっこい上に基本的には集団で沸く。そして何より厄介なのは他のモンスターに比べ知能指数が高い。ゴブリン単体ではそこまで強いとは言えないが集団で襲ってくると連携をうまくとってくるためかなり厄介なモンスターだ。


 一体目のゴブリンは高くジャンプし、持っているサーベル型の片手剣を俺に振り下ろしてくる。そのタイミングで二体目のゴブリンが動き出す。俺はそれを確認し、一体目の攻撃を剣で受け流し自分の前に落とす二体目はすでに地面を蹴ってこちらに向かって剣を振ろうとしていたため、タイミングよく一体目のゴブリンに攻撃がヒットする。


「ぐぎぃぃ!?」


 ゴブリンは背中を仲間に斬られ驚きを隠せない。俺はすぐさま体を回転させ初級片手剣用水平回転切り、《廻旋斬》を使って二体のゴブリンを同時に薙ぎ払う。


「はぁっ!!」


 この世界にシステム的なアシストのある攻撃手段は無い。だが、俺は魔法と同じくその人のイメージが具現化できるのであれば使えるのではないかと考え、基本的な技を使ってみた。結果はエフェクトは出なかったものの、普通よりも高速に回転し狙ったところにシステム的に命中した気がした。


 俺の攻撃がヒットした二体のゴブリンは吹き飛ばされ光の粒子になって消えていく。


 最後の一体は倒された仲間に困惑しその場で周りをきょろきょろと見渡している。


 俺はさらに、戦技が使えるかを試すべく次の戦技の軌道をイメージする。


 上級片手剣用単発突進技、《時穿突》を使う。この戦技は一瞬で相手の背後まで移動し、突き攻撃をする技だ。これはこの世界で再現不可能だと思っていたが魔法の存在を知ったとき、できるかもしれないと思っていた戦技の一つだ。


 俺は強く地面を蹴り、剣を突き出す。俺の体はシステムにより、一瞬でゴブリンの背後まで移動する。こちらも同じく、エフェクトは出なかった。だが、確かにこの世界では実現しえない速度で移動に成功した。やはり、この世界のスペックが脳の信号をフルに生かせるようになってる。


 脳と直接信号をやり取りしているからこそできることなのだろう。


 俺は剣を鞘に納める。


 俺はその時、自分が自然とこの世界に順応していることに気が付いた。すでに克服したということだろう。極限的な集中力がこの世界に俺を繋ぎとめた。


 俺はやはりここから離れてはいけないのだと、実感した。


「すでに克服しましたか。やはり、SoFのモンスターを出したのは正解でしたね。それに、この世界における戦技の使い方も分かったみたいですし。」


「ええ。正直まだ不安はありますが、最初よりは断然楽になりました。」


「では、訓練にはいってください。」


了解ヤヴォール!」


 俺は先ほどとは違い気力のある敬礼をして、訓練先に転移する。


***


 俺は装備を次の作戦用に装備しなおし、自分の隊の元へ向かう。


「月影くん!?」


「今の状況は?」


 俺はこちらに走ってくる桜に冷静に問いかける。


「あ、ああ。えと…。とりあえず全員フックショットの扱いはできるようになったよ。でも、まだ実戦レベルとは言えないかな。」


「大体わかった。」


 俺は他のメンバーを見渡してから思う。やっぱりゲーマーって生き物はどうしようもない生き物なんだと。今回のようにトラウマになるようなことが起きても勇気を出して戻ってみれば意外とすぐに克服してしまう。


 結局のところ好きな物を簡単に諦められる程人間って生き物も出来上がってないのかもしれない。


 俺はそれに気づいたときまだ少し高かった心拍が一気に落ち着いていった。


 俺はさらに一歩前に踏み出し深呼吸する。


「ふぅ。」


 再度心を落ち着かせ指示をする。


「よし、まずは両手に装備しているフックショットの巻取りの速度から調整していこう。その人によって使いやすい使いにくいがあるはずだ。その辺は各自で判断してくれ。」


「「了解ヤヴォール。」」


 俺の指示で桜以外の全員が動き出す。


「凄いね。やっぱり。私が報告した状況だけで原因を突き止めるなんて。」


「何もすごくないよ。あり得ると思っただけだ。それに最初につまずくとしたらそこだしな。俺とさくらは他のゲームでフックショットを扱ってたしな。できるやつはこういうのって基本すぎて見落としがちなんだよ。」


「確かにね。そういうところって当たり前すぎて見落としがちだよね。これからこのクラスを引っ張る指揮官としても気を付けないとね。」


「ああ。そうだな。ちょっと慣らしてくるわ。」


「いってらっしゃい。」


 俺は近くの建物にアンカーを打ち込み飛ぶ。俺は左右交互に高度が変わら無いようタイミングをずらしながら建物にアンカーを打ち込んでいく。


 俺は明日の作戦について考えながら空を舞う。


 明日の作戦には致命的な欠点がある。それは、作戦の中核を担う俺たち遊撃部隊には一切の武器がないことにある。これをどう攻略するかだ。何事においても準備に手を抜いてはいけない。ありとあらゆる可能性を精査しておく必要がある。


 俺はフックショットで街を飛びながら起こりうる可能性を検討する。


 まず一番の懸念は相手が本当に機械兵器だけなのかということにある。もし、相手に歩兵がいた場合俺たち遊撃部隊はなすすべがない。両手がふさがっている以上は銃を持つことができない。相手がアサルトライフルを持っていた場合。高確率で俺たちは落とされてしまう。場合によっては落下ダメージのせいで死んでしまう可能性だってある。


 フックショットの構造自体は単純で腕に括り付けてあり、アンカーを打つためのハンドルを握りトリガーを引くことで動作させることができる。


 この構造をうまく利用して、銃を使うことができないかその方法を模索する。銃とフックショットを同時に使う方法。


 俺はそれをフックショットで飛び回りながら考える。この世界はあくまでもプログラムだ。それなら内部機構は一切無視して大丈夫だ。見た目だけをどうするかで決まってくる。トリガーの位置を使いやすくしなくてはならない。それにすでに形になっているものを改変するとなると、慣れるのにも少し時間がかかる。


 今の形からあまり変えずに銃の機能を付ける方法。それは───。


 俺は直ぐにもとの場所に戻り、桜と合流する。


「あ、戻ってきた。」


「調整は終わったか?」


「ええ。何とか。結構時間かかったね。」


「ああ。ちょっとな。みんな、そのフックショットを装備解除して俺にトレードしてくれ。」


 俺は遊撃部隊のみんなからフックショットを受け取り俺はG18Cを渡す。


「これをフルオートで動きながら標的に当てる練習をしてくれ。マガジンは練習用に大量に用意してある。」


「「了解ヤヴォール!」」


 全員疑問を持ちながらも敬礼をする。


 俺は一度拠点に転移し、開発用のコンソールを起動する。モデリングをすぐに済ませ、プログラムを組む。その一連の動作を数分で済ませ、すぐに動作テストを行う。テストを終え、訓練をしている場所に転移する。


「調子はどうだ?」


 俺は現場に到着し、みんなの調子を問う。


「問題ないよ。やっぱりトッププレイヤーなだけあってすぐに扱いは慣れたみたい。」


「そうか。よし、みんなこれを装備してくれ。」


 俺は完成したフックショットをみんなに渡す。


「月影くん。これは?」


 ユウナが装備したフックショットの形を見て俺に問いかける。


「今までのフックショットのグリップの部分を銃のマガジンに改造したものだ。リロードがしやすいようにスピードローダーも作っておいた。ここにG18Cを着ければ銃とフックショットを同時に使えるようになる。そして、このホルダーに銃をしまえば両手が開くようになるからそれでリロードができる。もちろん片手でもなれればできるようになるはずだ。」


「なるほど。では、中指のトリガーでフックショットの操作ということでいいのかい?」


 続いてミナが質問を投げかける。


「そうだ。ちょっと操作に慣れなきゃいけないかもしれないけどその代わり相手に歩兵がいた場合でも対処は出来るはずだ。」


「そうだね。でも、もし。もし相手の機械兵器そのものに機関銃の装備があったらどうするの?」


「そうだな……。」


 桜の言う通りだ。もし相手の機械兵器が機関銃を装備していた場合。明らかにこちらの不利になる。その対処法を模索しなくてはならない。だが、どちらにせよ時間がない。本戦は明日。そして、今日の残り時間は出来るだけフックショットの連携に使いたい。


 とは言え機関銃への対策なしではもし本当に機関銃を装備した機械兵器が居たとしたらこの作戦は失敗に終わってしまう。


 この作戦は俺たちのクラスの目標をクリアするために絶対に勝たなくてはならない作戦なのだ。それでなくても、俺たちのクラスは前回の本戦で勝利はしなかったものの上級生に引き分けたのだ。それだけでも俺たちはほかのクラスから注目されている。そして前回はまだ、俺達のプレイスタイルを前面に出した戦いをしていない。つまり、前回の俺たちの戦いに対処してくるはず。ならば、俺達のやるべきことは一つ。前回の俺達の戦闘に対策に対策するまで。そうなればやはり、機関銃の装備があってもおかしくはない。


「よし。じゃあ。まずはフックショットの扱いと空中でのリロードをマスターしよう。時間は無い。そこが実戦レベルになれば、必然的に機関銃に対処できるはずだ。俺達の指示通りに動けるようになればだけどな。」


 俺はフックショットを建物に向けて振り向き、笑みをこぼす。


「さて、始めるぞ!!」


「「了解ヤヴォール!!!」」


 俺たちは一斉にフックショットでビル群の中に消えていく。


 次の本戦。今まで以上に力が発揮できるような気がしてきた。


『一度壁を人間ゲーマーを甘く見るなよ。世界!!』


9話 対策 完




















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仮想X戦争(バーチャル・リアリティ) るみにあ @show1999

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