第7話 新たな戦術
今日はここにきて初めての休日。俺はいつもと違うこの休日をどう過ごそうか布団の中で考える。
昨日までのことを整理しながらとりあえず食堂に向かうことにした。
俺は支度をして部屋を出た。食堂につながる階段を降りようと角を曲がると、そこには桜が居た。
「おはよう。優月くん。」
「おはよう。桜。」
俺たちはそのまま食堂に向かう。いつも通り食べるものを注文し、席に座る。
「ここにきて初めての休日だな。」
「そだね。でも、家ならゲームしてればいいけどここじゃそれが出来ないからねー」
「ほんとな。なんでここネットワークから隔離されてんだよマジで。」
「まぁ、情報漏洩を防止するためなんだろうね。」
「今日何すっかなー。」
俺は椅子の背もたれに体重を乗せ伸びをする。
「学校の外でも散歩する?」
「なんか、あんな殺伐としたことをする学校の生徒から出る言葉には思えないなそれ。」
「確かにね。でも、どう? まだこの周りのことあまり知らないでしょう?」
「まぁな。どうせやることないし、行くか。あ、そうだ。試したいことあるからB・E着けてきてくれ。あと、あのデバイスも。」
名前を教えられてなかったため、非常に呼び方に困ったが何とか伝わったであろう。
「分かった。準備してから校門前に9時集合でいい?」
「
俺はからかう様に言って敬礼をする。
「もー。こんなところでやらなくていいよぉー。」
俺たちは席に到着した食事を食べながら、今までのことを少し振り返る。
「まさか、お前と同じ学校に来ることになるとはな。」
「本当にね。しかも同じクラスの隣の席とはね。」
「どんな確立だよってな。この数日だけで入ってきた情報量が多すぎて正直ついてけないわ。」
「そだね。今まではギルドの団長として、これからはクラスメイトとして。私たちの
「確かにそうだな。SoFも結構長いことやってたしな。」
俺はSoF時代のことを思い出し、懐かしく思う。つい数週間前にNo.5AREAのAREA BOSSに挑んでいたとは思えないほどここに順応している。
それだけ、この一週間にも満たない時間が濃厚な時間だったということなのだろう。
俺たちは食事を終え、準備のため自室に戻る。
「さてと。時間まで何すっかなー。」
俺は自室のPCをとりあえず起動し、用意していたプログラムをB・Eにインストールする。
このプログラムは先日、体育で使ったソフトウェアのプラグインだ。これを使えば、体育で行ったことより遥かに先のことが出来るようになる。とはいえ、テスト上はだが。そこで、この機会に実戦してみようという考えだ。
俺は時間までこのソフトにバグがないかスクリプトの確認を行う。普通のPC用のソフトとは違い、脳に直接の信号を送るためのプログラムだ。そのため、入念にソースを確認しなくてはならない。
***
しばらくして、俺は正面玄関に向かった。
「あ! 優月くん! こっちこっち!」
俺は内心桜らしくないなと思いつつ、桜のもとに駆け寄る。
「さ、行くよ」
「はいはい。」
少々、呆れつつ桜についていく。
しばらく、探索をし、校舎の周りの構造を確認する。
俺はマップを開き、ソフトを試せるような場所を探す。
「お、桜。」
俺は森の中に少しだけ開けた場所を見つける。
「どうしたの?」
「ここに行ってみないか?」
俺はマップを桜に見せる。
「いいね。じゃあそこでお昼にしようか。」
「昼?」
「そっ。お弁当作ってきたんだー。」
「弁当? どうやって作ったんだ?」
「食堂のキッチンを借りたの。食堂の人に事情を言ったら快く了承してくれたんだよ。材料まで使わせてくれたんだー。残ったからいいよって。」
「へー。そんなことまでしてくれるのか。」
ここは本当に生徒には都合のいいようにできてるな。
「本当にね。」
俺たちは森の中に入り、開けた場所にたどり着く。
「綺麗な場所だな。」
「そだね。森の香り、風の香り。全部が心地いいね。」
「ああ。そうだな。」
俺は木々が風で揺れる音に耳を澄ませる。さーっという音が今までの精神的疲れを忘れさせる。
「じゃあ、お弁当食べちゃおうか。」
「ああ。その前に一ついいか?」
「どうしたの?」
俺はB・Eを操作し、例のソフトを桜に送る。
「これを試したいんだ。」
「これは……。」
桜はソースコードを軽く確認する。
「なるほどね。いいよ。やろ、デュエル。」
そう。このソフトウェアは対モンスターしか出来なかった体育用のソフトに対人戦。つまりデュエルが出来るようにするものだ。デュエルを選択すれば痛覚をキャンセルし、実際に仮想世界と同じようなデュエルを出来るようにするものだ。
俺たちは少し距離を取り、デュエル申請を桜に送る。
形式は初撃決着。ソフト起動と同時に俺たちの服装はSoFと同じ装備となる。
「久しぶりだな。こうやってデュエルするの。」
「そだね。手加減はしないよ?」
「ああ。」
俺たちは剣を互いに向けて構える。姿勢を低くし、相手に集中する。
俺たちの視界にはカウントダウンが表示されている。カウントが進む度に緊張感が増していく。この場所が仮想世界のフィールドに似ているせいか、向こうでのデュエルと同じ感覚に陥る。
カウントが0になり、STARTの文字が表示され同時に地面を蹴る。俺は右中段水平に構えていた剣を右上段下斜めに構えなおす。桜は前中段に構えていた刀を上段に移動させそのまま縦に斬り落とす。俺は剣をそのまま桜の刀に当て、受け流すように剣を動かす。
「はぁっ!」
すれ違った瞬間に右に回転し、桜の背中を剣が捉える。だが、桜は腰に携えている二本目の刀を体制を崩しながら軽く抜き、刀身が鞘から少し出たところでガードする。
「なっ!?」
桜は直ぐに地面に手を突き、横に回転しながら体制をもとに戻し、俺に刀を向ける。
「流石だな。桜。」
「そっちこそね。優月くん。」
流石は桜。SoFの時もこのような柔軟性のある戦いを得意としていた。俺の得意な連撃技も桜相手だと、まったくと言っていいほど通用しない。俺もここで成長しなければならない。
桜は、剣の実力だけで言えばそこまで卓越しているとは言えない。だが、それを補うどころかプラスにできるほどの柔軟性、知恵がある。相手をよく観察し、相手を誘導する。それが桜の戦い方だ。
俺はもう一度桜の刀に意識を集中させる。刀の微小な動きを読み取り先を予測する。それしか、俺の連撃技を生かす方法は無い。
俺は剣を握り直す。桜の刀の切先が少し左にずれ始めた瞬間、俺は体の横に剣を添え、一直線に走り出す。桜は少々驚くが直ぐに表情が戻る。俺の剣と桜の刀が接触する瞬間自分の剣に潜り込むように攻撃を受け流し、桜の腹に剣の柄がヒットする。
それと同時にデュエルが終了し、服装がもとに戻る。俺は疲れのせいで膝を着く。
「まさか、ここで進化するとはね。優月くん。」
「まぁな。疲れがすごいけど。」
「そりゃそうだよ。現実世界で体を動かしながらあの集中力を発揮したんだから。」
「桜はあまり疲れてなさそうだな。」
「まぁ、この戦い方には慣れてるしね。それにこれでもスポーツやってたしね。」
「俺もやっときゃよかったなー」
「今からでも遅くないんじゃない?」
「ここで何しろってんだよ。」
「それもそうだね。」
俺は差し出された桜の手を握り、立ち上がる。
「せんきゅ。」
「お昼にしよっか。」
「そうだな。」
俺たちは木陰に移動し少し大きめの木の幹によしかかる。
「さっ、どうぞ。」
そう言って桜は俺にバケットサンドを渡してくる。
「センキュー。」
俺はそれを受け取り、桜が自分の分を取るまで待つ。
「別に待たなくていいのにー」
「いや、流石に作ってもらったのにな。」
「いいよ? 食べて。」
「じゃ、お言葉に甘えて。」
俺がバケットサンドを頬張るの心配そうに見つめる。
「どう?」
「………」
俺はこのバケットサンドの味に思わず硬直してしまった。
「ゆ、優月くん?」
桜はものすごく心配そうに俺の顔を覗き込む。
「うまい!! うまいよこれ!」
桜は俺の言葉にほっと肩を下ろし、恥ずかしそうにうつむく。
「よかった。」
「そんな恥ずかしそうにするなよ。」
「だってぇ。」
「いや、でも本当にうまいぞこれ。凄いな、こんなの作れるなんて。」
俺はこの料理を作った桜に対して純粋にすごいと思った。俺も一人の時が多かったため料理はする方だったがここまでのものは作れたことがない。
「ありがと。さ、どんどん食べて? いっぱい作ったから。」
俺たちはその後、今後の待ち受ける戦闘のことなど忘れて普通に食事を楽しんだ。食べ終わった後も少し校舎の周りを散策し、校舎の正面玄関に着くころには夕刻となっていた。
「楽しかったね。」
「そうだな。」
「さてと。戻ろっか。」
桜は玄関に向け歩き出す。俺は何やら背後に違和感を覚え、その方向を見やる。木陰に黒い影が動いたようにも見えたがおそらく気のせいだろう。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
俺は少し気味が悪いとは思ったが、俺はとりあえず桜についていく。俺たちはそのまま部屋に戻り普通に過ごした。
次の日も特にすることがなく、俺は部屋でダラダラと過ごしていた。この一週間の疲れをとるいい機会だった。
***
「起立。気を付け。礼!」
俺は朝の号令をする。
「着席!」
俺の合図と同時に一斉にクラスメイトは席に着席する。
「皆さん。おはようございます。今日は今後の戦闘隊形についてミーティングし、実際にそれを交えて演習をしたいと思います。」
「戦闘隊形でありますか?」
「そうです。どのクラスにも、そのクラス特有の戦闘スタイルというものがあります。それ故に、どのクラスも本戦において輝けるのです。このクラスは、とてもいい武器を持っています。悠遠くん、日高さん。この二人はこのクラスにとって最大の武器であり。この二人が居るからこそ、このクラスの人間は本来の力よりもさらに上へ行ける。このクラスはそういうクラスです。」
「先生。一ついいですか?」
「どうしましたか? 日高さん。」
桜はその場に立ち上がり話始める。
「はい。他のクラスの戦闘スタイルというものはどういうものがあるのですか?」
「そうですね。例えば、銃を極めて遠距離から中距離戦闘を得意としているクラスや、剣や槍といったファンタジー世界の武器を中心に扱い、近接戦闘を得意としているクラス。魔法に特化した隊で構成されているクラスなどですね。」
「魔法ですか?」
「そうです。あの世界はあくまでも仮想世界。魔法ももちろん存在しています。その代わり、魔法の扱いはほかのゲームとは比べ物にならないほどに難しいですが。」
そう。この学校の仮想世界では魔法こそ使えるもののものすごく扱いが難しい。普通、魔法は詠唱によって発動されるものだがこの学校ではそれが出来ない。
もともと魔法という概念を設定されていない上に、それを容認してしまうとゲームバランスの崩壊に繋がってしまうからだ。そこでこの世界では
極めれば魔法の可能性は無限になる。その時の状況などにうまく対応できる。できるのならば扱えるようになりたい技術の一つだ。
「なるほど。わかりました。ありがとうございます。」
そう言って桜は席に着く。
「では、早速ミーティングを始めます。このクラスの戦闘スタイルをある程度決めてしまいましょう。月影くん。さくらさん。お願いします。」
「「
俺たちは黒板の前に立つ。
「まず俺から。このクラスの悪い点でもあり良い点でもあるところを生かしたいと思う。このクラスの人間は正直統一感が無い。もちろん、指示を聞かないとかそういう意味ではなく。ここに来る前にやっていたゲームがバラバラすぎるところにある。」
クラスメイトは俺の話の先が見えずに頭の上に
「俺はそれを生かそうと思う。このクラスはいろんな武器を扱える奴がいる分、あらゆる状況に柔軟に対応できる。俺たちのクラスの戦闘スタイルはそれで行きたい。銃、剣、魔法。武器を固定化しないで、使える武器を使う。そして、その作戦に応じて編成を柔軟に変化させる。そうすることで、他のクラスには無い新たな戦闘スタイルを作り出すことが出来る。そして、何より相手にとって脅威となれる。弱点ってのは一転して強みに変えられる。それが、俺の考えるベストな戦闘スタイルだ。」
「なるほど。なかなかいい考えですね。よく、その答えを導き出しましたね。月影くん。この機会にこのクラスについて少し、話すべきですね。」
先生は教壇に立ち話始める。
「この学校のクラスを決める方法についてです。この学校ではある程度その人の得意な武器などを見極めて似たような力を持つ人間同士を同じクラスにするようにしています。ですが、今年の生徒は例年に比べて少し多めに入学してきました。そのため、割り振った後にもう一つ特別クラスとして、クラスを作ることにしました。今までにない編成をすることで何が起こるか、試験的にこのクラスは作られました。そして、このクラスの人間を選んだのは私です。SoFの二人を中心にこの二人の策略が最大限発揮できる人間を厳選しました。そのため、もとより君の言ったスタイルにしていこうと思っていましたが流石ですね。」
「一ついいですか? 先生。」
「ええ。」
「一体貴方は何者なんだ────」
7話 新たな戦術 完
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