第5話 格の違い

 開始の合図とともに索敵を開始する。自分たちが思いつく作戦は敵軍も思いつくと思った方がいい。索敵電波を読み取る索敵。これをしてくる可能性は十分に高い。


 俺たちは目視による索敵に重視し、電波による索敵は囮として一つの班に任せてある。索敵はある意味本命の戦い。索敵に負ければその試合の勝率は格段に下がる。


 一応として、電波探知機を使い敵の索敵機の電波を探る。電波探知機自体は電波を自身が発することはないため感知されることはほぼない。


 俺たちは目視、電波、電探の三重の索敵で敵の位置を探す。一応領地内にプレイヤーが侵入してくれば警報はなるようにはなっている。だが、そうなってしまえば第一防衛線を突破されたことも同義。何としても見つけ出さなければいけない。


***


 開始から約3時間が経過した。未だに敵に動きはない。そろそろ来てもおかしくない。本戦は4時間しかない。この広いマップでは移動に端から端まで歩きで約10時間はかかる。本戦開始前の準備時間を使って走ればぎりぎり端までたどり着くかどうかだ。マップの端には拠点が設置されていないため実際のところは本戦中にたどり着かないということはないらしい。


「そっちはどうだ?」


『いや、特に見えない。』


『こっちもだ。』


 いまだに敵は見つからない。


「どうする? さくら。」


「そうだね。ここまで見えないとなると少し怖いね。何があるんだろう。上位学年の先輩は何を考えてるんだろう。」


 さくらは少々黙り込む。俺は索敵を続けるためスコープを覗く。


「ん?」


「どうしたの?」


「いや……」


 俺は少し違和感を覚えスコープの倍率を上げる。


「これは!?」


「え? 何?」


「光学迷彩だ! だから目視で見えなかったんだ!」


 俺はライフルをコッキングし狙撃体制に入る。


「ゼロ。俺の打ち込んだところを狙ってくれ。多分俺は見つかってる。まだスコープは向けるなよ?」


了解ヤヴォール


 俺は領地外側ギリギリのところにいる敵に向けて狙撃する。


 ドン! という少し低めの音の直後窓が割れ、弾丸は真っすぐに敵の目標に向けて飛んで行く。この距離なら弾着までに少し時差がある。この学校に来るほどの実力者。そして、一年間この学校で生き残ったことを考えると避けられる可能性が高い。


 俺はスコープ越しに弾丸の行く末を見守る。弾丸は真っすぐと目標に向かって飛んで行き、頭の位置を捉えてはいた。だが、やはり避けられた。だが、俺が撃ったのは爆散する弾丸。地面に当たり爆風を巻き起こす。その爆風に巻き込まれ迷彩が解除される。


「今だ!!」


了解ヤヴォール。』


 ゼロは弾着した位置に一瞬で照準を合わせ、引き金を引く。プシュっという音を鳴らし発射された弾丸は二人の頭を捉えた。ゼロはサプレッサーを着け、弾丸を貫通力重視の弾に変えていたのだ。そのため並んでいた二人を一気に消し飛ばした。流石は必殺のゼロだ。彼女は100発100中の異名を持つ。それに加え無音のゼロとも呼ばれている最強のスナイパーだ。


「全部隊に連絡! 中央通り、領地付近に敵兵発見! 2人は排除した! あとは8人だ。そのうち4人は居場所がわからない。他4人の索敵を優先してくれ。俺の隊で中央通り2人を排除する!!」


『『了解ヤヴォール!!』』


 俺はライフルをさくらに預け、用意しておいた装備を身に着ける。腰のホルダーにはナイフ。足にはM9。メインにはQBZ-95を装備している。

 俺は急いでビルを駆け下り、中央通りを爆走する。


 俺の隊の仲間は俺のバックアップをしてもらう。


 目標は俺に気づき、銃を構える。M4だ。銃口の向きを確認し、さらに加速する。トリガーにかかっている指の動きに注意し、走り続ける。


 指が動いたタイミングで俺は、ビルの壁に思いっきり飛び壁を走る。4歩走ったところで壁を蹴り、空中で目標に向けて銃を乱射する。


 銃口から放たれた弾は頭を捉え、一撃で消滅させる。


 もう一人はすぐに俺に銃を向けてくる。俺は着地し、QBZを捨て相手の持ってるM4を蹴り飛ばす。


 相手はすぐにナイフを取り出し応戦してくる。


「流石だな。先輩。」


「ふんっ。お前こそ1年坊主」


 相手のプレイヤーは不敵ににやけ、ナイフによる戦闘に持ち込む。


 俺はそれに応戦するため、ナイフを構え近接格闘戦を始める。


 何合も打ち合い、一度距離を離す。


「くっそ。」


「一年にこんなにできるプレイヤーが居るとはな。だが、もう終わりだ。」


 先輩がそう言った直後通信が入った。


『外周護衛部隊ほぼ壊滅状態!!! 戦死者は無し!! 全員HPレッド! もう時間の問題だ!』


「何だって!?」


 これが先輩の実力。やはり、俺たちはまだ実力が足りていないというのか。


 俺は思考を巡らせ、俺たちが勝てる策を考える。

どうする? どうすれば勝つことが出来るんだ?


 俺は必死考えた。その時だった。


「どうだ? これが、”強者”たる上級生の実力だ。格の違いを思い知ったか?」


 強者。そう、強者だ。相手は俺たちにとっては絶対的な強者だ。俺たちは”弱者”だ。なら、俺たちにも勝機はあるはずだ。俺たちは弱者。そう、弱者だ。いつの時もそうだ。強者は牙を。弱者は知恵を磨く。俺たちにできることそれは!


「そうだな。思い知ったぜ。流石だ。だが、だからこそ俺たちの勝ちだ!!」


「全軍後退!! 中央占領装置まで後退し、防御を固めろ!!!」


『『了解ヤヴォール!』』


 さぁ、かかれ。強者は強者であろうとするが故に、獲物を絶対に逃がさない。


「ふっ何の真似だ。悪あがきもほどほどにしろ。全隊。占領装置の占領に入れ。」


 かかった。今までの必敗の手が必勝の手に変わった。


「全軍、何としてでも死守しろ。ダメージを負ったものを守るようにしてローテーションを組め、回復を交えて絶対に死なないように尽くせ!」


了解ヤヴォール!』


 あとはさくらが俺の意図を汲んでくれる。


「さ、続きをしようぜ?」


 俺はナイフを構えなおす。


 先輩も同じくナイフを構える。


 お互いの武装はバトルナイフ。そして、足のホルスターに納めているハンドガン一丁。


 一瞬で緊張感が走り。戦場とは思えないほどに静かになる。風の音。遠くから聞こえる銃声。そんな音すら聞こえなくなり、やがて全意識が相手に集中する。


「!!」


 先輩が先に地面を蹴り行動に出た。速い。だが、俺もここで負けるような剣士じゃない。


「はっ!!」


 俺はナイフを逆手に持ち相手のナイフを受け流す。そのまま、体を回転させ蹴りを入れる。だが、それを腕でガードされる。


「くっ」


 俺はすぐに体制を戻し、追撃に入る。


「はぁあっ!!!」


 俺は気合を込めナイフを突き刺そうとする。


 先輩はそれを受け流そうと構える。

 

 俺はナイフを突き出して、ナイフを手放す。


「なに!?」


 左手でM9を取りだし、先輩の頭めがけて打ち込む。


「あまい!」


 先輩は俺が撃った弾丸をギリギリで避け、ナイフを俺に振りかざした。


 その直後システム音声が響き渡る。


『試合終了。本日の本戦を終了します。直ちにホームに戻り、ログアウトしてください。』


 その音声とともに俺に振り下ろされたナイフはシステムの障壁にはじかれた。


「俺たちの勝ちだな。」


 そう、俺の狙いはこれだ。時間切れでの試合終了。俺たちの決められた勝利はこの一つのみ。


「ふっ。何が勝利だ。時間切れで逃れただけだろう。」


「勝利の形は人それぞれだ。お前は自分のことを”強者”と言った。自分で強者だという奴は大抵、勝利の意味を掛け違えている。勝利というのは挑戦者が目的を達成したかどうか。それだけだ。お前たちは勝ちという言葉の意味を相手を完全に倒しきる。としか思っていないんだろう。それがお前の、お前たちの敗北した原因だ。」


 俺はナイフと銃を拾い、占領装置へと向かう。


 先輩はその場に膝を着き、地面を叩く。


 俺はその光景を横目に見て思った。昔の俺と似ていると。


***


 俺はVRゲームを始めたころ。夢のような理想郷を目の当たりにし、どっぷりとVR世界に浸かっていた。

 俺がVRゲームを始めて1年が過ぎたころ、ソード・オブ・フィールドの正式サービスが開始された。他のゲームと違い一切のベータテストなどのテストプレイが無かった。しかし、クォリティはすべてのゲームを凌駕し、何より完全無料タイトルとしてサービスが開始されたことにすべてのVRゲーマーの間で話題になっていた。


 俺は、さっそく当日にゲームをインストールしてプレイしてみた。


 PVP推奨。安全地帯はホームになりえる少し大きめの街のみ。それ以外ではストーリー中だろうと関係なく、PKが可能。イベント発生中もお構いなく、PKが行われるとてもハードなものだった。


 それでも俺は、このゲームを狂ったようにプレイした。俺のプレイスタイルは攻略専念。PKはしなかった。だが、ギルドを立ち上げたころから俺たちはPKをしている連中を抑え込むようになり、PKをすることも増えていった。


 俺はその頃から自分の強さに酔い始め、自分を強者だと思い込むようになっていった。


 俺はそれから何人ものプレイヤーを見下してきた。俺はたとえロールプレイとは言え許容範囲を超えてしまっていた。それからというもの現実世界でも人を見下すようになってしまった。仮想の認識を現実に持ち込んでしまったのだ。

 仮想と現実で唯一ある共通点。それは記憶だ。記憶は仮想だろうと現実だろうと同じ記憶になる。そしてその記憶は仮想、現実問わず自分の人格に返ってくる。

 人間の脳というものは単純だ。簡単に記憶に左右されてしまう。例えば、目の錯覚。これも、現実と仮想の記憶的考え方と似ている。実際に見えているものと脳が認識するものが違う。脳というものは簡単に騙されてしまう。


 俺はそんな沼にはまってしまっていた。


 そんな時、俺は一人の剣士と出会った。


 見た目からして俺よりも弱い。俺は全く負ける気がしていなかった。


 だが、結果は違った。確かに弱かった。だが、勝てなかった。そう、俺が強者だと思い込んでいたがために。真の弱者である、その剣士に負けてしまったのだ。


 俺はそれ以降、自分を強いとは一切思わなくなった。


 俺はそれから剣を極めることをやめ、代わりに知識を極めた。剣の使い方から何からすべてを基礎からやり直した。


 ”格の違い”を見せつけるために。


 そして、その剣士は俺にとって特別なものとなった。今では共に戦う良き戦友として、良きライバルとして、良き、として。


***


「さくら、俺の意図をちゃんと分かってくれたみたいだな。」


「もちろん。でも、時間切れを狙うとはね。昔の君なら絶対に──」


「やめろ。その話はするなって。」


「ごめんごめん。」


 こちらの被害は数人のHPが危険ゾーンまで入ってしまったが。戦死者は無し。この領地も奪われずに済んだ。俺たちの勝利だ。


 俺たちはそのままホームに戻り、今日の初の本戦の反省会をしてそのまま自室に戻った。


 つい数時間前までいた仮想世界での戦闘の余韻を残しつつ俺は就寝に入った。


5話 格の違い 完










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