第3話 ゲーマーとしての意地
俺はカーテンの隙間から差す日差しのまぶしさに目を覚ます。昨日までとは違う
「………。」
その文字を見た俺の時間が停止した。
「やばい。初日から寝坊した……」
俺は朝飯を食べずに一気に準備し、学園へ。と言っても学生寮は建物の中にあるので校内をダッシュする。
幸い、この学園では教科書らしい教科書はないのですぐに用意ができた。
俺は無駄に広い校舎を猛ダッシュし、20分にクラスに到着。
「ふ、ふう。間に合った。」
「あ、優月くん。おはよ。」
「おはよう。焦ったー。」
「そんなにギリギリだったの?」
「ああ。つい五分前に起きたばっかり。起きて五分で走ったせいで足が死にそう。」
俺はパンパンになった足をたたきながら席に座る。
「この学校無駄に広いもんねー。」
「ほんと広すぎだ。」
「ん? でも、5分って早すぎない?」
「確かにな。どうしてだ?」
そう、確かに早すぎる。どんなに走っても10分は余裕でかかる距離だ。
俺は少々思考を巡らせる。
「君はフルダイブ型のゲームが及ぼす影響について考えたことある?」
「運動不足とかそういうことか?」
「違うよー。仮想世界の認識がリアルの人格に反ってきちゃうってことだよ。」
「ああ。そういうことか。確かに俺、さっき集中しきってたからな。それに最近ほとんど走ってなかったしな。もしかしたら現実の認識感覚が仮想世界と混合してるのかもな。」
VRゲームが及ぼす影響。それは全世界でも研究が進められている分野の一つ。
例えば軍隊だ。
VR世界の中で銃を使って限りなく実戦に近い形で訓練を行う。そうすることで現実の戦闘であらゆる状況に対処できる。この方法で訓練した兵士は現実での訓練をしていないというのに現実で訓練している兵士よりもはるかにキレのある動きをする。なぜなら、人間の脳というものは記憶する機能がある。その記憶は現実であろうと仮想だろうと関係なく共有されるものだ。そのため、現実認識に影響が出るのだ。
だが、欠点もある。現実の訓練より仮想訓練を多用するため、脳が体を強制的に動かす。そのせいで体にはかなりの負荷がかかってしまう。今の俺のように。
「はい、皆さん席に座ってー。」
先生の一声で全員が席に座る。
「まず君たちにはこの学園から支給される、MR用デバイス、『ブレイン・エクステンション』を配ります。」
形は片耳用のイヤホン的な感じでこんなに小さいものでどうやって脳とリンクするのか疑問しかない。
「今後のリアルでの授業ではこのデバイスをつけてもらい行っていきます。」
なるほど。これをつかうほうが色々都合が良いということか。
「今日の授業は実戦に向けて装備の調整、および作戦会議を行います。10分後、フルダイブ室に集まってください。」
そう言って教室を出る。
「俺たちも行くか。」
「そうだね。」
俺たちも続いて教室を出てフルダイブ室に向かう。
「昨日の戦いすごかったよねー」
「ああ。なんか、なんでかわからないけど自然と戦場に適応してた。」
「そうだね。なんか、SoFと感覚が似てたかも」
「お前も気づいたか?」
不思議と俺たちはあの戦場に適応していた。なんの違和感もなく戦っていた。
よく考えてみれば不思議なことだ。どんなフルダイブ系のゲームでもそのゲームによって大分感覚が違うため、いくらハイレベルプレイヤーでも初戦からMAXの力を出すことは極めて難しい。
だが、それでも俺たちは今まで以上に動くことが出来ていた。
「うん。昨日の戦いはSoFよりも体感覚に違和感がなかった気がする。」
「確かにな。普通の仮想世界と何が違うんだろうな。」
そんな話をしていると、あっという間にフルダイブ室に着いた。
「あ、もう着いた。」
「ほんとだな。さっさと入っちゃうか。」
「そうだね。」
俺は扉の前に立つ。
『フェイスID読み取り完了。コード:Tukikage入室許可。』
「………は?」
「………え?」
俺たちはその場で数秒固まる。
「どこにカメラあるんだ?これ。」
「どこ探してもないね。」
「てか、それ以前に俺の顔はいつデータを取られてたんだ?」
「な、なんか怖いね…。」
俺たちは少々恐怖感を覚えながら部屋に入る。
「ここに来るのも二回目だけど、やっぱ慣れないな。この光景には」
「そうだね。でも、これになれるときが来ちゃうんだろうなー」
そんな他愛のない話をしている間にもどんどんクラスメイトは部屋に集まってきている。
そしてさらに数分後。
自動ドアが開く。
「みんな集まってる?」
先生は周囲を見渡し、全員がいることを確認する。
「では、今日は昨日の戦闘を踏まえ、作戦会議をします。まず、昨日の職員会議で決まったこのクラスのチーム名を発表します。」
その言葉に全員の息が詰まる。それもそのはず。このような戦闘においてチーム名というのはとても重要だ。
「このクラスのチーム名は。SCです。これはShadow Cherryの略です。名前の由来は言うまでもなくさくらさんと優月くんのプレイヤー名からとったものです。《影の桜》。綺麗な者ほど内には何らかの影、隠し持った刃を持っているものです。君たちにはこれからこのチームを引っ張ってもらいますからね?」
俺たちは少し戸惑いながらも前に出て互いのギルドで共通して使っていた敬礼をし、返事をした。
「「はっ!!」」
「早速ですが今後の戦い方を君たちなりに分析して見てください。」
「了解。」
「まず俺から。昨日の戦闘でわかったことは大きく分けて3つ。一つ目はやっぱり、全員が全員、FPS系のゲームをやってたわけじゃないせいで分隊行動だったり、分隊同士の連携が乱れていたと思う。今後の訓練ではそこを重点的にやったほうがいいと思う。
そして、二つ目は”戦争”という言葉に囚われ過ぎた。俺たちは基本的に銃を使った戦闘をしていたが、さくらのチームは違った。その人の得意な武器種を使ってバランスよく分隊を組んでいた。武装を自由にできる仕様上、これを使わない手はないと思ってる。
そして最後、このクラス特有の戦闘スタイルを作ったほうがいい。やっぱり、こういう大規模戦闘にはある程度のセオリーというものがある。でも、それに囚われると簡単に負けてしまう。以上のことを踏まえて訓練をしていきたい。異論はあるか?」
クラスメイト達は首を振るのみ。
「OKそしたら次は桜、頼む。」
「了解。」
クラスメイトの視線は俺から桜へと移る。
「私が気になったのは二つ。一つ目は、このクラス特有の返事みたいなものを作るといいかなって思う。無線通信の時、みんな返事がバラバラだったからそこを統一したらもっと団結力とか意識力とかが高まると思う。
二つ目は優月くんも言っていたように私たちにしかできない戦闘スタイルを確立していく必要があるかも。それこそ、優月くんのやった、フックショットなんかは最適だと思う。みんなはどう?」
こちらもまた異論はないらしい。
「ありがとうございます。二人とも。私もほぼ、同じ意見でした。流石です。では、まずは手っ取り早く、返事から決めましょうか。誰かいい意見のある人は言ってください。」
「俺は、OKでいいと思います。」
一人のクラスメイトが意見を言う。
「私は了解で良いと思います。」
また一人。次々と意見が出てくる。
「あの…。」
そして、一人の女性が立ち上がる。
「ヤヴォールはどうでしょう?ドイツ語で了解という意味です。」
彼女の言葉に一瞬、無音の空間に代わる。理由は二つ。今まで一度も言葉を発しなかったおとなしい性格の彼女が発言したこと。もう一つは今までとは少し方向性の違うなかなかに良い表現。
「良いと思うぞ?俺は。みんなはどうだ?」
俺の問いかけにどっと歓声が沸き、一気ににぎやかになる。
俺と桜は一度顔を見合わせてからくすっと笑い、桜が前に出る。
「じゃあ、それにしよう!これからの返事は
「戦略については実戦を交えて向こう側でいろいろ吟味しよう。」
「「
みんなが一斉にフルダイブポットに向かう。俺は彼女を呼び止める。
「君、FTSのゼロさんだよね?」
FTS。《ファング・ザ・ストライク》はガンゲームのVRタイトルだ。昨日の戦闘で分隊長を任せた3人もこのゲームの出身だ。そして、このゼロさん。彼女はFTS一のスナイパーで、撃ちぬけないものなどない。《必殺のゼロ》と呼ばれる実力者だ。
「……ん。」
「昨日の戦闘で俺を撃ったのも君だよね?」
「……ん。」
「ナイスショットだった。全くわからなかったよ。」
「そっち…こそ、あの時……私に気づいて、ナイフの速度を上げてた……。」
「頼りにしてるぜ?」
彼女は、こちらに振り向くことなくフルダイブポットに向かう。
***
「みんな揃ったか?」
俺は人数を確認し、さらに続ける。
「じゃあ。まず、みんなの得意分野の武器を教えてくれ。それを土台に、編成を決める。でも、全員に銃は使えるようになってもらう。場合にもよるけどやっぱり銃を使えるのはかなりのアドバンテージになる。」
俺と桜は全員の得意武器を一覧化し、ある程度の分隊に分けた。
各4人の分隊に分け、十隊の分隊を作った。大体、近接系一人、中距離系二人、遠距離系一人という構成だ。だが、この構成は八隊のみ。残りはイレギュラーな動きのできる遊撃部隊。この編成にはもちろん意味がある。遊撃部隊は、個々それぞれが個性の強いメンバー。それをまとめるのが俺と桜だ。全体の指揮を執る二隊がこのクラスの隠し刀。さらに、細かく分隊を分けることで陣形を自由に形成できる。それがこのクラスの勝利につながる。
「銃が苦手な人はがガンゲーをやってたやつが中心になって教えてやってくれ。そして、逆に剣などの近接が苦手な奴は得意な奴が教えてやってくれ。苦手を少なくしていけば個々の戦闘力も上がる。各分隊に分かれて分隊長を決めてくれ。」
各分隊に分かれ、話し合いを始める。各分隊長が決まり、一度分隊長同士でさらに会議を行う。これからの戦闘は全く想像が付かない状況ではある。が、それでもこの学園に来たからにはトップをとる。それがゲーマーとしての意地というものだ。
3話 ゲーマーとしての意地 完
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