第2話 模擬戦

 ホログラムのパーティクルが視界を覆い、視界が明けるとそこは複数のホログラムディスプレイが浮くオペレータールーム的な印象を持たせる部屋だった。


 すでに数名キャラメイクを終えここに転移されていた。


「月影さん。やっぱりそれなんだね。」


 ホロディスプレイに映っているマップを眺めていると後ろから俺の名前を呼ぶ聞きなれた声が聞こえた。


「そういうお前もな。」


「結局これが落ち着くんだよね。」


「まぁな。」


 多少口調は違うが彼女は紛れもなく、さくらだ。


 俺たちはゲームを遊びではやってきていなかった。SoFはもはや戦場。そのためVRゲームの中に入ってしまうとどうしても口調が変わってしまうのだ。


 しばらくすると全員がこの部屋に転移を終え、先生が一番大きなディスプレイの前に出る。


「注目してください。では、これから模擬戦の概要を説明します。」


 そう言って先生は手元のキーボードを叩く。


「まず、ルールは2チームに分かれて戦闘を行ってもらいます。使う武器、戦術は自由です。ただし、サーバーに認められた装備のみが使用を許可されます。」


「つまり、自分たちで武器を作って戦えってことだな?」


「その通りです。流石ですね。この説明だけで分かるなんて。君たちにすでにメールを送っておいています。確認してください。武装を作ることについての制約はそこにすべて記してあります。」


 先生の言葉で全員がメールを確認する。制約自体は割と簡単なもので、要はゲームバランスを壊すようなものは作ることが出来ないというものだ。


「チーム編成に関しては、君たちのHPバーの横にあるアイコンで判断してください。さくらさん。月影さん。君たちが各チームのリーダーになってください。」


「了解。」


「了解です。」


 俺たちは先生の言葉で一気にスイッチが入り、ギルドの団長としての二人になっていた。


「では、これから2時間の時間を与えるのでチームごとに戦略、武装などを考えてください。始め!!」


 先生の合図でチームのアイコンと同じマークの部屋に走る。


 マップは半径10kmの廃都市。高い建物が多く、索敵をするのが難しいステージだ。曲がり角での鉢合わせ。なんてこともたやすく起きてしまう。


 だが、逆を言えば位置さえ把握できればかなり優勢をとれるマップでもある。基本的に都市というものは大きな道路を基点に十字方向に道路が伸び、その周りにビルが建つ。となれば基本的に開けているところはまっすぐに空間が開いているため狙撃手がいると有利に戦況を操作できる。


「リーダー、早速だけど。どうするんだ?」


「ああ。」


「まず、マップは少し広めの廃都市だ。廃都市はいかに早く敵を見つけるかが勝負になる。そこで、俺たちは索敵用の熱源スキャンを使う。これを使いいち早く相手を見つけて囲み仕留める。これが出来れば俺たちにも勝機がある。」


 俺はマップを映したディスプレイで一通りの作戦を述べた。


「なんか質問はあるか?」


「相手のリーダーってどんな感じなんだ? ギルドのリーダーってことはそれなりに強いんだろ?」


「ああ。あいつは機転を利かせた戦術を得意としていて、何より集団戦を得意としている。正直言ってかなりの強敵だ。」


 さくらはSoFでも対人戦、対MOB戦においてすべての指揮を執り、勝利に導いてきた。彼女は仲間であれば心強い仲間だが、敵に回せば恐ろしい敵だ。


「まず、チームをA隊2人、B隊6人、C隊6人、D隊6人の四つに分ける。そしてその中でアサルター4人、タンク2人に分ける。A隊は俺ともう一人、中距離戦闘の得意な人についてもらう。」


 俺は20人のチームを戦力に応じ、各分隊が均等になるように配分し、各分隊長を決めた。そして、次に今回の戦闘のカギを握る武装の作成に取り掛かる。


「この中で武装を作れるやついるか?」


 俺が問うと一人だけ前に出る。


「名前は?」


「クリフだ。あんたも気づいてんだろ?システムの抜け道に。」


「お前もな。よろしくな。」


「ああ。やるぞ。」


 俺たちは部屋に設置されているコンソールでもくもくと作業をする。俺はスナイパーライフル、L96を少しカスタマイズして射程距離を伸ばした。その代わりに威力を落としたがそれは何の問題でもない。なぜならこの世界の制約には抜け道があるからだ。それは銃本体とは別のもので威力をブーストするという方法だ。つまり使う弾丸に細工をして威力を何倍にもするのだ。この世界は基本的に完全な物理法則で動いているため、弾丸だけは制約が適用されない。それを逆手に取り、本来射程が伸びたせいで落ちた威力も普通よりも高くすることが出来るのだ。


 俺はスナイパーライフルとナイフ。そして、左手にあるを仕込んでおく。俺の作戦が成功すれば戦況をひっくり返すこともできるだろう。


「そっちはどうだ?」


「もうすぐできるぜ?」


「そいつがこの戦闘のカギを握ってるからな?」


 そう言って俺は不敵な笑みとともにエンターキーをタップする。


 ***


「それでは両チーム準備はいいですか?」


「いつでも。」


「出来てますよー」


「では、模擬戦開始!!!」


 その合図とともに俺は無線で命令を出す。


「B、C隊。中央を警戒しつつ西側に展開。そのまま目標Aまで前進。」


『OK。』


「D隊。東側に展開しつつ、索敵を開始。」


『了解。』


 俺はしばらく各分隊の行動をスコープで確認しつつ、相手の来るであろう方角を警戒する。


「敵兵見ず。」


『了解。』


 そろそろ見えても全くおかしくない時間だが、一切敵が見えない。少々違和感を覚えつつさらに索敵を続ける。


『敵発見!方向E!数10!』


 まさかマップの隅をチームの半数を突っ込んでくるとは思いもしなかった。流石はさくらだ。この様な作戦を簡単にやってしまう。


「了解。B隊はその10人を頼む。熱源スキャンを終了し、目視による索敵に変更。潜伏し、背後からの奇襲。」


『了解。』


「C隊は、E方向を警戒しつつ、中央側に移動。」


『了解。』


「おそらく、その隊は陽動のための隊だ、本体は別にいる。C、D隊は中央を引き続き警戒。」


『OK。』


『了解。』


 俺は何か見落としていることがあるのではないかと疑う。俺は作戦時のマップを思い返す。見落としていること。それは───


「C隊!急いでB隊の支援に入れ!!」


『どうしてだ!?』


「本命は地下だ!!地下を通って俺を狙っているんだ!!」


 この戦闘の終了条件は二つ。


 一つ目、リーダー以外のプレイヤーを全滅させる。


 二つ目、リーダーをkillする。


 このどちらかを満たすことで試合は終了する。


「D隊は索敵しながら俺の所に戻ってきてれ!!」


『OK。』


 俺は無線ですべてを伝え終わり、立ち上がる。


 その時だった。


「──っ!?」


 俺は振り向きライフルを俺に襲い掛かる影に向かって腰撃ちで撃つ。


 銃声とともにその影は力なく崩れる。


「流石にお手上げだぜ? さくら。」


 俺はこのビルの屋上に続く唯一の階段のほうに向かって言う。


「流石だねこれに気付くなんて。」


「まさか、地下があったとはな。通りで索敵に映らないわけだ。お前、俺たちが索敵に力を入れてくることを読んでその索敵に使う電波を読み取ってたんだろ?だから俺たちの位置が完全に筒抜けになってた。」


「そこまで気づいてるならもうわかってるよね? どうする? 君はもう囲まれてる。でも、君はまだあきらめないよね?」


「もちろんな。」


 俺は周りの気配を探る。SoFで身についたこの索敵能力で。


「7ってところか。」


 俺が索敵を終えた瞬間。さくらは突然、突進してくる。その右手には片手直剣。それもSoFで使ってるのとまったく同じ物だ。


 俺は腰のナイフを握り、その攻撃を受け止める。


「おいおい。剣なんてありかよ。」


「君はこの世界観に囚われすぎだよ。」


「そうみたいだな。」


 俺はナイフでさくらの剣を押し返す。さくらは一瞬体制を崩すがすぐに持ち直し、二撃目を打ち込む。その瞬間、さらに『バン!!』という、単発の銃声が鳴り響く。その銃声とともにさくらの持つ剣がはじけ飛ぶ。


「え!?」


「俺も用意してたんだよ!!!」


 俺はそう言ってビルから飛び降りる。


 ***


「今年の生徒はレベルが高いですな。友恵先生。」


「ええ。」


「これも例のゲームの成果なのかね?」


「そうですね。あのゲームはに運営しているのですから。」


「それもそうですな。」


 ホログラムモニターで戦闘を観戦している二つの影。


「友恵先生は何をしようとしているかはあえて聞きませんが、あまり派手なことをやるとどうなるかわかりませんよ?」


「ええ。承知しています。それでもやらねばならないのです。この学園は大きくなりすぎた。私はそれを正すだけです。本来のあるべき姿に。」


「期待しているよ。この学園は間違った方向に行ってしまっている。それを正せるのは君たちだけだ。」


「ええ。ここで終わらせます。この仮想戦争バーチャル・リアリティを。」


「それでは私はここで失礼するよ。」


 そういってメニューを操作しログアウトする。


 ***


「はっ!!」


 左手に隠していたフックショットを隣のビルに打ち込む。アンカーはビルの外壁に突き刺さり、物理法則に従って俺は空中を移動する。


「え!?そんなのあり!?A班!目標!月影!撃て!!!」


 さくらは俺の奇策にも柔軟に対応し、総勢7名のアサルターが俺を目標に射撃を開始する。着弾音、銃撃音から位置を特定し、俺は攻撃に入る。


 俺は振り子のように移動し、上に上がってきたタイミングでアンカーを打ち直す。俺はそのままビルの割れている窓の隙間に飛び込み、そこにいるプレイヤーの元へ走り出す。


「なんだと!?くそっ!!」


 即座に俺の方を向き、俺に向かって銃を乱射する。


「あまい!!」


 俺は相手の後ろにある柱にアンカーを撃ち、高出力で巻き取る。


「っ!?」


 俺は相手を通り越したタイミングでアンカーを離し、ナイフで首元を切り裂く。


「ぐっ!?」


 それと同時にポリゴンの欠片となり爆散する。俺はこいつの落としたアサルトライフルを拾い、窓を突き破る。


「出てきたぞ!!撃て!!」


 さらに弾幕が厚くなる。俺はアンカーを高めの位置に打ち込み巻き取りながら片手でアサルトライフルを撃つ。俺を撃っていた敵は次々とビルから落ちていく。


「流石は月影くんね。あんなに動いていても的確にヒットさせるなんて。でも、もう終わりだよ♡」


『月影さん!!!B、C隊!ほぼ壊滅状態です!!D隊ももう持ちません!!』


「なんだって!?くっそ!俺は俺で戦闘中だ!!そっちは何とかしてくれ!!生き残ることだけを優先!!索敵機の電源を落としておけ!現場の指揮を任せたぞ!!」


『了解!!』


 流石にお手上げだ。もう、リーダー以外の全員を倒すことはできない。残されている勝利の手段はさくらを倒すことだけだ。


 俺はフックショットを刺したまま、ビルの壁に着地し、少し勢いをつけてビルの壁をそのまま走る。タイミングを見計らってフックショットを壁から外し、強く壁を蹴る。

 俺の体は最初いた、ビルよりはるか上空に飛び上がる。


「さくら!お前はやっぱりすごいぜ!でも今回も俺の勝ちだ!!!」


 俺は銃を空中で構えさくらの直上から連射する。数発ヒットし動きが鈍くなる。全弾撃ち終わり銃を投げ捨てる。そして、ナイフを逆手に持ち回転しながらさくらに襲い掛かる。


「はぁぁぁああああ!!!!!」


「負けないよ!!」


 さくらは剣を俺に向ける。俺は回転の遠心力を利用しさらに威力を上げる。


「っ!?」


 さくらの持つ直剣は勢いに負けて弾かれ、体制を崩す。俺は着地したと同時に背後に回り、首元を切った────


 はずだった。さくらの首元にナイフの刃が当たる直前、『バン!!』という、単発の銃声が鳴り響いた。俺のナイフは勢いを殺さずにさくらを捉え、銃弾は俺の頭を貫いた。


 その数秒後、俺たちの体はポリゴンの欠片となり散っていった。


『勝負あり!!!両チームともにリーダー死亡。よってこの試合は引き分けとします!!』


 この試合はリーダーの同時打ちということで幕を閉じた。実際はさくらのチームが残り10人。俺のチームは7人となり、人数差で言えばさくらのチームが勝ちだ。だが、この試合ゲームはリーダーの戦死、もしくはリーダー以外の全滅により勝敗が決まる。そのため、お互いのリーダーが同時に戦死したということで、ドロー。引き分けとなったのだ。


 俺たちは試合を終え元居たミーティングルームに転移された。


「流石だな。さくら。やっぱりお前の策略には勝てねぇわ。」


「そんなことないよ!月影くんだってあんなに自由に飛び回ってたじゃない!」


 俺たちはお互いを称え合う。そして、クラスメイトからは拍手が沸き上がった。


 この試合を通して、一気にクラスの団結力が高まった。これなら本試合も行ける気がする。


「本当に見事でした。二人とも。さくらさんは策略で。優月くんはとびぬけた技術で。とても素晴らしい試合でした。君たちには今後も期待しています。わが軍を勝利に導いてくださいね。」


「「はい!」」


 今日はこの試合だけで授業が終了した。その後は学校の案内など説明を受け、俺たちがこれから住むことになる、寮に入った。女子の部屋と男子の部屋はもちろん分かれているが、基本的にはクラスごとの大きいフロアにそれぞれの部屋があるという形になっている。それもすべてが個室になっており、割と広い部屋に少々驚いたくらいだ。消灯時間は決まっているが寮から出ない限りは基本的に自由になっている。


 俺はこれからの学園生活に胸を躍らせながら、クラスメイトとの会話を楽しんだ。


 2話 模擬戦 完





 








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