仮想X戦争(バーチャル・リアリティ)

るみにあ

第1話 兵士

 日本仮想世界研究学園。世界に名を轟かせるその学園は世界最高レベルのVR技術、AR技術、MR技術の研究を行っている。世界中から注目される学園。


 だが、この学園は謎に包まれた場所でもある。日本のどこかにあるそれは、一切の情報が存在していない。唯一わかっているのは学園からの招待が無いと入学できないことのみ。


 ここで一応各技術について説明しよう。


 まずは皆も馴染み深いであろう、AR技術、拡張現実Augmented Realityについてだ。例で言うとポケ〇ンGOとかだ。画面上に映ったモンスターはカメラの映像の中に存在し、あたかも現実にいるように見せる。だが、カメラを別の方向に向けても中のモンスターは画面に追従してくる。そこにいるようで居ない。それがAR技術というものだ。


 次にVR技術、仮想現実Virtual Realityだ。例で言うとヘッドマウントディスプレイだ。簡単に言うと自分が仮想、つまりゲームの世界などにいるような体験ができる夢のような技術だ。

 

 そして、忘れてはいけないもう一つの技術。MR技術、複合現実Mixed Realityだ。この技術については知らない人のほうが多いだろう。VRが仮想世界を現実にするものだとすると、MRは現実世界を仮想化するものだ。説明するのはかなり難しい技術ではあるが体験するとVRの比ではない感動がある。


 このような技術を研究しているのが日本仮想世界研究学園というわけだ。そしてこの学園招待されなければこの学園に入ることはできない。


 そしてこの学園に招待されるには二つの条件がある。


 一つ目、何らかのフルダイブ型オンラインゲームのトッププレイヤーであること。


 二つ目、一人でもフルダイブ型のゲームが作れるほどのプログラマーであること。


 このうちのどちらかを満たしている必要がある。


 つまり、この学園はプレイヤーとプログラマーを同時に育て、最高の環境でVRの技術を研究できる場だということだ。


 そして俺、《悠遠ゆうえん 優月ゆづき》も今日、この学園に入学することになる。


 俺はプレイヤー枠、プログラマー枠の両方で招待を受けたエリートの中のエリートということだ。


 それ以外はさっぱりだが………。


 とまぁ、そんなことは置いておいて、今日はついにその学校の入学式だ。


 俺達入学組はフェリーに乗って、学校に到着した。


「なんでこんなところに学校があるんだよ。」


 俺は小声で呟く。それもそうだ。こんな孤島にフェリーで来たのだから。


 見たところ住宅なども存在していない。唯一の建物はなだらかな山のてっぺんにある、校舎のみ。


 俺はとりあえず重たい持ち物を背負いなおし、一つしかない道を行く。


 しばらくすると校舎の全容が見えてくる。


「お、おい……。これ、本当に学校…なのか…?」


 見えてきたのはやたらとでかい建物。


「流石はエリート校。こんな無駄にでかい建物に何があるってんだよ……。」


 校舎の迫力に圧倒されつつ、建物に入る。玄関にはクラスの名簿が張り出されている。


 全部で5クラス。AからEまでだ。各クラスに大体40人と言ったところだ。結構な数の人間がこの学校には来るらしい。


「俺のクラスはっと。」


 電子掲示板を眺めているとA組の所に名前を発見した。俺はフェリーから降りたときにもらった校内案内図を見ながらA組の教室へと向かう。


 しばらく歩くと俺はある問題に直面していた。


「この学校広すぎるだろ!!!!」


 俺は思わず叫んでしまった。周りの生徒からの視線が刺さる中俺は顔を伏せ、教室に向かう。


 そう、この学園はすべての機能が一つの建物の中に入っているため、異常なまでに広いのだ。主に研究室やコンピューター室。学生寮や娯楽室といったものがひとまとまりになっているためバカみたいな広さになってしまっているのだ。


 俺は校舎内を15分ほど歩いてようやく、A組の教室に到着した。


 扉が開き、電子黒板に表示されている座席を確認する。


「俺の席はっと。」


 教室を見渡し自分の席を確認し、席に座る。


「この学校エリート校って割には結構人いるんだなぁ」


 俺は荷物を降ろしながらつぶやく。


「そうだね。」


 突然右隣から声が聞こえ少々驚きながら声のした方を向く。


「君、月影くんでしょ?」


 俺はその言葉に驚愕した。《月影Tukikage》という名前は俺のやっていた《ソードオブ・フィールド》というゲームの中の名前だからだ。


「あ、ああ。そうだけど。なんでわかったんだ?」


「雰囲気的にそうかなーって。」


「俺ってそんなに変?」


「違うよー。なんて言うかオーラが違うって言うか。」


 妙に初対面感のない彼女に違和感を覚えながら、自己紹介をする。


「俺は悠遠優月。プレイヤー名は月影だ。よろしく。」


「よろしく!優月くん!私は、《日高ひだか さくら》SoFではさくらです。」


「さくらかー……ん?おま、さくらか!?」


「そだよ?」


「まじか……」


 まさかこんなことがあろうとは。さくら、この人は俺のいたゲームで張り合っていたギルドのリーダー同士で良き戦友であり、ライバルといった感じだ。


「え!?お前らSoF出身なのか!?」


「あ、ああ。」


「マジかよ!?あんな超ハイレベルのゲームから推薦されたのかよ!?」


「え!?SOF?本当に?!」


 俺たちは一瞬でこのクラスの話題になってしまった。SOF、ソードオブ・フィールドは全フルダイブ型MMORPGの中でも特にハイレベルのプレイヤーが多いことで有名で、他のタイトルとは違い完全無料で遊べるゲームなのだが、あまりにもハイレベルすぎてプレイヤーの人口が少ない。完全無料という運営スタイルなのにどうやって運営しているのかは不明だが、とても有名なゲームでやったことのないフルダイブプレイヤーはいないほどだ。


 俺たちはこの後も質問攻めに遭い、それはもう大変だった。


 しばらくすると教室のドアが開く。


「はーい。席に座ってー。ホームルーム始めるよー。」


 先生だ。おそらくこのクラスの担任であろう。先生はそのまま電子黒板の前まで行き、こちらを向く。


「今日からこのクラスの担任を務めることになった、《佐藤さとう友恵ともえ》です。よろしくお願いします。今日は皆さんに入学式とお伝えしていましたが、この学園には入学式は存在しません。代わりに今日は君たちの技能調査を行います。君たちの仮想世界への適性や、運動能力。戦闘能力などを図ります。」


 先生はそう言って何やらペン状のリモコンのボタンを押す。それと同時に電子黒板に戦力図のようなものが表示される。


「君たちはこれからここの研究者クリエイターであり、兵士プレイヤーです。」


 俺は疑問を抱き、立ち上がり質問する。


「先生。質問をいいですか?」


「ええ。どうぞ。」


「兵士というのはどういうことですか?」


「君たちは文字通り兵士なのです。いつの時代。どんな時代にも戦争はついて回るものです。そして、その戦争のおかげで技術は進歩していっているのもまた事実。この学園ではその状況を疑似的に作り出して、フルダイブ技術の応用を研究していくのです。」


「なるほど。つまり俺たちはこの学園で戦争を行うんですね?」


「簡単に言うとそういうことです。もちろん。ただ、戦争をするというわけでもありません。兵装は君たち自身に作っていただきます。ただし、しっかりとゲームバランスを保った上で、ですけどね。ゲームバランスを保つのも製作者側クリエイターの役目です。」


「わかりました。」


 俺が着席すると先生はさらに続ける。


「今日は各クラスに与えられている下位サーバーで模擬戦をしてもらいます。これから1年A組のフルダイブ室にて、サーバーにダイブしてもらいます。では、10分後フルダイブ室に集合してください。」


 そう言って先生は教室を後にする。


「さて、行くか。」


 俺はそう言って立ち上がると、桜も同タイミングで立ち上がる。


「一緒に行こうよ。」


「そうだな。」


 俺たちは教室を出て、地図を見ながら教室へと向かう。


「この学園ちと、広すぎやしないか?」


「ほんとね。校内図を見て驚いたよー。これ、絶対迷子になる人出てくるよね。」


「確かに。でも、まさかお前と一緒になるとはなー。」


「そだね。まぁあっちでは敵同士だったけど、これからよろしくね。君と一緒に戦えることを本当にうれしく思うよ。SoFのトップギルドの団長さん?」


 桜は俺の顔を覗くようにして腰を折り、からかう様に言う。


「そういうお前もトップギルドの団長だろうが。」


「まぁね~。」


 こんな他愛のない話をしながら、地下にあるフルダイブ室に向かった。


 5分ほど歩くとその教室が見えてきた。地下は地上階とは違って、いかにも研究室といった感じの雰囲気だ。


 俺たちは自動ドアの前に立つと顔認証が行われ扉が開く。


「な、なあ。」


「どうしたの?何となく言いたいことはわかるけど。」


「俺たちいつ顔のデータ取られたんだ?」


「ちょっと怖いね…。」


 俺たちは顔認証システムに多少の恐怖感を覚えながら教室へと入った。


 家庭用フルダイブ機器、《ブレイン・リンクギア》とは比べ物にならない大きさだった。人が一人入れる大きさの個室に椅子と一体型になったフルダイブ用ギア。やはり、家庭用のブレイン・リンクギアではスペックが足りないのだろう。見た目からして大げさなものだが、これは期待以上のもの体験できるであろうと、ゲーマーとしてプログラマーとして好奇心を沸かせてくれる。


「あれがフルダイブポットか。」


 しばらくして、クラスの全員が集まると同時に先生が教室に入ってくる。


「では、各自、指定のポットに入ってください。接続方法はリンクギアと同じです。接続したらスキャンの後、このクラスの保有する拠点のミーティングルームに転送されます。」


 俺たちは指示通り指定のポットに入る。


「それでは準備はいいですか?」


「「はい!!」」


「ダイブ、開始!!」


 先生の合図と同時に俺たちはボイスコマンドを叫ぶ。


「「ブレイン・コネクション!!!」」


 マシーンはボイスコマンドを読み取り、俺たちの意識を仮想世界へと繋ぐ。視界が真っ白になり、フルダイブ特有の突入感に襲われる。そしてだんだんと視界が開けると、真っ暗な。だが、しっかりと空間の把握ができる奇妙な空間に立っていた。


 体は完全に硬直していて、一切の動きも許されない。視線を下の方に向けると、一切のオブジェクトが存在しない状態だった。つまり、まだ体は作られてはおらず、カメラだけがあるということだ。


『スキャン開始。しばらくお待ちください。』


 アナウンスだ。いつもより高い位置にあった視界がだんだんリアルの自分の高さに変わっていく。


『20%完了。モデリングを開始します。』


 このアナウンスと同時に足の位置からホログラムのエフェクトがだんだん上がって、体の形を形成していく。だがそこにはまだテクスチャは無く。ただ、灰色の体が出来上がっただけだった。


『40%完了。テクスチャを作成、および貼り付けを開始します。』


 だんだんリアルな人間の肌の色や質感に変わっていく。


『60%完了。体感覚再生開始。』


 体の感覚がもとに戻り。空気の匂いや、肌を撫でる空気の感触などを感じれるようになり不快感がなくなった。


『70%完了。初期装備、およびキャラクターメイクを始めてください。』


 体の硬直が解け目の前にホログラムウィンドウが表示される。腕を上げ指を動かすが動作に多少遅延を感じる。おそらく、システム同期のためにわざと動かせて操作感をよりよいものにしようとしているのだろう。多少不快に思うが仕方ないと諦め、キャラメイクを始める。キャラメイク自体は基本的なフルダイブ型オンラインゲームと変わった部分は見当たらないが強いて言えば、今まで体験したどのフルダイブゲームよりも遥かにグラフィックが綺麗だということだ。


 先生が言う通りここが下位サーバーならば本サーバーは一体どうなんだろうと期待を抱く。


 俺はキャラメイク、初期装備の選択を終え完了ボタンを押す。


『90%完了。最終同期を開始します。もうしばらくお待ちください。』


 そのアナウンスと同時に移動制限が解かれ完全に自由になった。俺はとりあえず走ったりジャンプしたりとこの世界での動きを確認する。


「この世界には普通にシステムアシストが存在するのか。」


 俺は剣を振るようなイメージで腕を振ってみたりはねてみたりしてこの世界になじませる。


 これは俺だけかもしれないが俺はどのフルダイブゲームに行っても初めて入ったときはその世界の感覚になれるために結構激しめに動く。


 というのも各ゲームによって若干ではあるが感覚が異なるためこうやって自分自身を慣れさせることによってすぐにでも戦闘ができるようにしているというわけだ。


『100%完了。お待たせしました。ホームに転送します。』


 そのアナウンスに大きな期待を抱きながら俺は転送されるのを待った。


1話 兵士プレイヤー 完。













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