ひとつ、前身する。


「あった」


 張り出された紙には、番号がズラリと並ぶ。合格したものの番号だけがそこにはあるのだ。その中にはもちろん、僕の番号もある。

 あって当たり前なんだけど、自分の番号を見た瞬間、なんだかホッとしてしまった。やっぱり緊張していたんだと思う。無意識にギュッと握りしめていた紙を離して、くしゃくしゃになったそれをポケットへと突っ込んだ。


「ない!うわあああん」


 突然泣き始める子もいた。この試験に落ちたということは、魔女の卵にすらなれなかったということなのだ。憧れのものになれないというのは、とても悲しいことだと思う。泣きじゃくる子を見て、胸が張り裂けそうになる。

 ギュッと胸のあたりを掴んで、衝動を抑えた。




 ××××




「おばあちゃん!」


家に帰ると、おばあちゃんがいた。

大きな釜で何かを煮ている。香りから察するにビーフシチューだろうか。お肉がごろっとしているおばあちゃん特製のビーフシチューは、ほっぺがほんとうに落ちてしまいそうになるくらい美味しいのだ。


「おかえり。試験はその調子だと受かったみたいだね?」

「ただいま!受かったよ!ようやくこれで僕もスタートラインに立てたよ」


おばあちゃんは僕を抱きしめて、おめでとう、と祝ってくれた。

とてもうれしい日だった。落ちてしまった子のことを忘れたわけではないけど、引きずっていては前に進めないから。素直に喜ぼうと思う。


釜の中には、ぐつぐつと煮込まれたビーフシチューが居座っている。おいしそう。いいかおりがするので、自然とよだれが出てくる。ごろごろと入っているお肉は柔らかく煮込まれているだろうし、赤ワインでコクを出したスープはパンによく合うんだろう。

そう考えただけで、お腹の虫は騒ぎ出すのだった。


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