現代社会における魔女の在り方

武田修一

僕の在り方について


 すうっと空気が張り詰めていた。光源らしきものはどこにもなく、まっくらだ。その暗い中、僕は一人立っている。少し大きめの帽子を被り、黒いローブに身を包んで。

 ゆっくりと、目の前に手を出す。手のひらは、床を見つめている。


「ひかりを。」


 僕の言葉に反応して―――、ぼんやりとした光が灯る。

 成功だ。


「もうっ!早く寝なさい!」


 バァン、とドアが開けられて眩しい光と共に小言が飛んで来た。暗闇の中の柔らかな光に慣れすぎていた目にそれは随分と毒だった。ぐう、と唸っている間に、母の魔法で帽子とローブが片付けられて、僕はベッドへと戻される。そうしてゆっくりとドアが閉まるのだ。母はもういない。あの懐かしい声も、もう降ってくることはなかった。

 毛布で頭を隠して、丸まって寝た。



 朝になって、誰もいないことを確認する。母の姿はどこにもない。僕が家の中で魔法を使っているときだけ現れるのだ。

 少し頭が寝ている状態で、珈琲を淹れる。もちろん魔法は使わない。昨日は、入試の最終練習だったのだ。とくべつ、昨日だけ特別だった。


「おかあさん」


 呼んだって出てこないのだ。母は、額縁の中で笑っている。

 会いたいと思うけど、話してはいけないから結局苦しくなるだけだ。まだ母の元へ行くには早すぎるし。一人前の魔女になるために今まで頑張ってきたけれど、まだまだ頑張らないといけない。そのためには、魔女だけを育てる学園に入る必要がある。かつて母も通ったという学園。そこに入るのだ。

 まだ受かってもないけれど、そこに入るのは決定事項だと、そう確信していた。


 もし、あの学園には入れないとするなら。きっと、死んだ方がマシだ。一人前の魔女になれないのなら、僕は僕である必要性がないのだから。


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