第33話 狂気
「紅茶で良いかな?」
マリアとクラーディはヴィクターの家のリビングに通されて紅茶を差し出された。
「はい、ありがとうございます」
「いやー、しかしビックリしたよ。人だかりが出来ていたから見に行ったら、クラーディが牧師の手を握りつぶそうとしていたからね」
「あれは・・・私のせいなんです。私がブラザーを怒らせたばっかりに、あんな事に」
シュンとして経緯を話すマリアにヴィクターは何か考える様に腕を組んだ。
「ヴィクターさん、ゴーレムは皆、クラーディみたいなんですか?何と言いますかあの、感情があるって言いますか・・・」
「感情?いや、聞いたことは無いな。そもそもゴーレムの思考は頭部にカバラで
解読を出来ていないのにラビの皆さんは使っているんですかとマリアは驚いてヴィクターに聞いた。
「そうだよ。現在までに解読出来た単語を組み合わせて僕らは使っているんだ。多文、カバラを作った古代の人が見たら、幼児の書いた文書みたいな感じだろうね」
「原理が解らない物を使うなんて!これじゃ、ゴーレムが暴走を起こすのも頷けますよ」
そう言われると耳が痛いなと笑うヴィクターにマリアは信じられないと呆れてしまった。
「まあ、そんなこと言わずに結局は今のゴーレム技術もまだ、発展途上なんだよ。君らの機械技術と同じでね」
「ゴーレム技術が発展途上ですか?ヴィクターさん、貴方のいえ、ラビの皆さんの目標っていったい何なんでしょうか?」
「ラビの目標かい?」
「はい」
「簡単さ、僕らの目標は『人間』を造る事なんだよ」
ヴィクターは間を置くこと無く、言い放った。
聞いた瞬間、マリアは手にしていた紅茶を思わず、落としてカップを割ってしまった。
「ゴーレムは元々、ラビ・レーヴが人造の人間を造る課程で出来た副産物に過ぎない。教会の聖書にある天地創造に出てくる最初の人間の作り方を参考にしたら、たまたまゴーレムが出来てしまったんだ。それからラビは分裂して教会とゴーレム制作者ラビに別れてしまい、教会に弾圧されて人造人間を別のアプローチで研究出来ずに弾圧から身を守るのにゴーレムを武器にしてゴーレム技術を発展させて行ったんだ」
割れたカップには気にも止めずに、そこは神学校の君は詳しいんじゃないかなとヴィクターは笑い掛けてきた。
マリアはそんなヴィクターに恐怖を覚えて来た。
先程の牧師も怖かったがヴィクターからは底の知れない暗い恐怖が沸いて来た。
「人が人工的に人を造るなんて、主は赦しませんよ!」
声が震えない様にマリアはヴィクターに警告する。
「解ってないな。神様なんて本当にいるか判らない者を恐れて技術の発展を諦めるなんて、僕らラビがする訳がないじゃないか」
「教会が黙って無いですよ」
「関係ないさ、教会なんて神の御意向とかにすがってないと人も国も動かせない、何も出来ない、ただ肥太った組織だ。そんなのが僕に何が出来る?」
実際、この街は教会のお膝元だけど、僕がゴーレムを造ってるなんて何にも気付いて無いだろうとヴィクターはマリアに微笑み掛けた。
「僕はね。別に教会を批判する積もりは無いんだよ。人は理解出来ないモノとかを怖がるからね。批判はしない。逆に僕は感謝してるんだよ。今の教会があるから、機械が生まれたんだからね。機械は素晴らしい、これで僕は別のアプローチから、
ヴィクターが機械で何をするのか解らない。
しかし、マリアは絶対に恐ろしい事だと直感で感じてガタッと座っていたソファーから立ち上がった。
クラーディもヴィクターが語り出したときからマリアの側でいつでもヴィクターに飛び掛かれる様に体勢を低く落としている。
「クラーディ、暴力は駄目です。ここから、出て行きましょう。ヴィクターさん、私達はもう帰ります」
「そうかい?」
マリアは早くこの場から出て教会の工房でリリスに手伝わされているパーサーに会ってここへ来ない様にしなければ、そして彼の事をリリスに話さなければと思った。
「もう暗くなってきているみたいだし、女の子が一人で帰るのは危ないんじゃないかな?」
「クラーディが居ます!」
「クラーディはここに残って貰わなければならないから、駄目だね。ああ、あと君も良かったら残ってもらえないかな?」
ヴィクターは親しい友人を誘うように気軽に話し掛ける。
マリアは得体の知れない恐怖で後退り、クラーディは直ぐにマリアを庇う様に前に出てヴィクターに対峙した。
それを見てヴィクターはそれだと、大声を上げた。
「そう、これだ!クラーディを見たときから疑問だったんだ!今、僕は君に危害を加えてない!ただ、君が勝手に怖がってるだけだ!なのに何故、ただのゴーレムが命令も無く、君を庇う様な動作が出来てる?何故、そんな人間味のある行動をしてる?最初は気のせいだと思っていた!そして、一応、確認しようとパーサーくんを誘い、話をしてクラーディが最新の球体関節式のゴーレムだと教えて貰ったときはやはり気のせいだと思っていたんだ!でも公園で牧師を手加減なく締め上げるクラーディを見てもしかしてと思った!普通、ゴーレムは暴走したとき以外は人間に手を出さない!クラーディは暴走しているのか?いいや、クラーディは基本、人間に従っているから暴走しているとは言えない!なら、何だ?マリア、君はゴーレムには感情があるかを聞いたね?さっき、言った様に今のゴーレムには感情なんてモノはない!」
どんどん興奮してきたのかヴィクターの眼は血走り、声も大きいものとなって来た。
マリアは小さく聖句を唱えて神に助けを祈り、クラーディはヴィクターがマリアに少しでも近づいたら飛び掛かると言う様にジッとヴィクターを見ている。
「だがね!僕の理論で造られたゴーレムなら、確実に感情が有るんだ!ひょっとしたら、魂と呼ばれるモノもあるはずなんだ!だからこそ、クラーディ!何故、君には感情らしきモノがある?まさか、僕の研究が漏れてしまい、君が造られたのか?」
君を調べなければならないとヴィクターはクラーディを指差した。
「クラーディ、逃げましょう!」
マリアはクラーディに叫ぶように声を掛けた。
クラーディはマリアの声に反応してマリアの手をとると部屋の入り口へ走って行った。
「逃げられると思っているのか?」
そう呟いてヴィクターは隣を走って駆け抜けるマリア達を横目に冷めてしまった紅茶を一口啜た。
扉を破壊する勢いで開けたクラーディはマリアを引っ張りながら、玄関を目指した。
しかし、損傷した右足がギシギシと悲鳴を挙げて次第に速度が落ちてきた。
「クラーディ!」
マリアが明らかに失速し出したクラーディを心配して名を呼んだ。
クラーディは大丈夫だと言うようにマリアの方を向いて頷く。
その時、床から何本もの手が突き破って生えてきた。
(!?)
「きゃぁぁぁぁぁ!」
マリアとクラーディは脚を取られて床に倒れてしまった。
クラーディは身体にまとわりつく手を引き剥がして何とかマリアに近づこうとするが、引き剥がす度にクラーディを拘束する手が増えていく。
マリアは気を失ったのか床に倒れ伏して動かない。
クラーディは最後にマリアに手を伸ばすが、その手は空をきって無数の手に埋もれて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます