第30話 僕の所に泊まるかい?

「もう、嫌だ!いくら反ゴーレム主義者でも僕達は客なんだぞ!ここまで来たら差別じゃないか!」




 数十件のホテルを巡り、一息付くために入った公園でパーサーはそう言ってベンチに座り込んだ。

 日が傾き出した時間の公園にはパーサーとクラーディしか居らず、これ幸いとパーサーはクラーディに盛大に文句を言っていた。


「ゴーレムだから何だよ!ラビが悪いって言うのか!?冗談じゃないよ!僕から言わせれば機械を使う彼らがどうかしてるよ!機械なんて命令しても一つの動作しか出来ない木偶の坊じゃないか!それに見てよ!街中、木炭コークスを燃やした煙ばかりで健康を害してしまうじゃないか!」


 ホテルを探している中で何度となく見た黒煙を上げて走る動力馬車や港に停泊している蒸気船の煙で街中が薄いスモッグが掛かっている事を上げて息苦しくて仕方ないとパーサーはひたすら愚痴っている。

 その様子をクラーディはずっとパーサーを見詰めているだけだった。


「・・・ハァ ねぇクラーディ、教授は無事かな?」


 ひとしきり文句や愚痴を言い終わり、パーサーはつぶやいた。

 クラーディは自分もわからないと言う様に首を横に振る。


「こうして居ても、どうしようもないね。取り敢えずは今日の宿を探さないと」


 パーサーはそう言ってベンチから立ち上るが正直、見つかるとは思えなかった。

最悪は野宿かとパーサーはため息をつく。

 すると、不意にクラーディがパーサーの後ろを指差した。


「どうした?あれ、誰だろう?」


 パーサーが振り向くと後ろにはヨレヨレのコートを羽織った痩せた青年がパーサー達に近づいて来ていた。

 青年はパーサー達が気付いたのを認めると軽くやぁと手を挙げた。


「この街にwaxworkがいるのを見て驚いたよ。もしかして君はラビかい?」


 青年は笑顔でパーサー達に話掛けて来た。

 この街を歩き回って誰一人として友好的に接する人が居ないと嫌と言うほど身に染みたパーサーはそんな青年が胡散臭く思えて口数少なく、そうですが何かと答える。


「アハハハハハ、そう警戒しないでくれよ。まぁ、この街の人達とふれ合ったら仕方ないか」

「あの、僕達は急いでいるので」


パーサーは怪しい青年との会話を早目に切って立ち去ろうとする。


「おっと、そんな事を言って良いのかな?君ら泊まる所無いんだろ?」

「なぜ、その事を?」


 ズバリ言い当てられて、パーサーはますます怪しく思った。


「この街に来たラビは大抵、まずは宿に困るんだよ。どうだい、散らかっているけど僕の所に泊まるかい?」

「えっ?」


 突然の提案にパーサーはどうしようかと迷い、まずは理由を聞いてみることにした。


「理由かい?ああ、簡単だよ。同じラビとして同僚が困っているのをほっとけないんだ」

「貴方はラビなんですか!?」


 まさか、この街で同じラビが居るとは思っていなかったパーサーは驚いて聞き返す。


「アハハハ。そうだよ、僕はこの街で多分、唯一のラビなんだ。どうだい、来るかい?」

「嬉しい申し出ですが、貴方に迷惑を掛けるんじゃないですか?」

「迷惑なんて、久しぶりに会えた同志なんだから、迷惑なんて関係ないさ!逆にここで、見て見ぬふりをしたら僕が目覚めが悪くなってしうよ」

「そうですね。では御言葉に甘えて、お願いします!」

「良いとも、付いて来て」

「はい!行こう、クラーディ」


 これで、野宿しなくて良いと喜んで青年の後を付いて行く。

 しばらく歩くとパーサーのアパートに負けないくらいボロボロな建物が見えてきた。


「あれだよ。あの建物だ。元は教会の建物だったんだけど、数年前に墓地の管理を条件に安く買い取ったんだよ」

「そうなんですか?よく教会がラビに売ってくれましたね」


 最も反ラビを掲げる教会から建物を買い取るなんてと口にすると青年は大した事ないよと笑った。


「僕の服装を見てわかるだろ?僕は自分がラビだと隠してるんだよ。君もしばらくこの街にいるなら、黒服を脱いで隠していた方が良いよ。まぁ、そこのwaxworkは隠しようが無いけどね」


 確かにその方が良いのは解るパーサーだったが、どうしてもラビを示す黒服を脱ぐのは気が進まなかった。

 それを正直に話すとまぁ、人それぞれだからねと青年は笑った。


「ところで貴方は何故、このラビに偏見が強い街に居るんですか?」

「よく聞いてくれたよ!良いかい、僕は今、誰も考え付いた事の無い画期的なゴーレムを作ろうとしているんだ!それには機械の知識が必要で僕はそれをこの街で独学で勉強しているんだ!」

「新しいゴーレムですか!それは素晴らしいです!機械の知識が必要とはどう言うことでしょうか?もし、良ければ見せてもらっても良いですか?」

「勿論と言いたいけど、まだ秘密なんだ」

「そうですか・・・わかりました。そう言えば、まだ自己紹介がまだでしたね。僕はパーサー・フロイツでこっちのwaxworkがクラーディと言います」


 クラーディは自己紹介に合わせてお辞儀し、青年はその様子を見て興味深かそうに監察している。


「君のwaxworkはかなり、精巧に出来ているね。いや、凄いな。全体的な動作が実に自然だ。でも、脚の動作が不安定そうだね。・・・あっ、失礼。僕はまだ自己紹介していなかったね。僕はヴィクター。














 ヴィクター・フランケンシュタインだ。よろしく」




 自己紹介が終わると二人は握手を交わして、ヴィクターの家の柵を潜り玄関へと向かう。

 そして、ゴーレムについて語り合いながらパーサーはヴィクターに促されるまま玄関の中へと入って行った。

 しかし、クラーディは何故か玄関で立ち止まり、ジッとヴィクターを見詰めた。

 暫くしてパーサーに早く来いよと声を掛けられて、ようやくクラーディは家の中へと入って行った。

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