第28話 機械港

「すまないが、別の宿屋に泊まってくれ」


もう話すことはないとフロントの受付けはパーサーから目を話した。

ここに来て何件目だろうか。

パーサーは深く溜め息を付いてホテルのフロントから出て来た。


「駄目だ。クラーディ、ここは僕みたいなラビは受けが悪いみたい」


パーサーは外で荷物の番をしていたクラーディに話し掛けた。

クラーディは仕方ないという風に首を振る。


「クラーディ、港に戻ろう」


パーサーは肩を落として歩を進め出す。

通りは朝の賑わいで人が多いがパーサー達が通ると不自然に人垣が割れていく。

侮蔑な目、

好奇な目、

そして、最初っから視界に入れないと行ったら目など、ここまであからさまに避けられると乾いた笑いが込み上げてくる。


「本当、まさかここまでラビとゴーレムが嫌われているなんて思わなかったよ」


パーサーはそう呟いて数時間前の甘い考えを後悔し出すのだった。














~数時間前~




港は艦の積み荷を降ろしたり、補給の物資を積み込んだりと人が忙しそうに動き回っていた。

本来の目的としていた港から、離れた港に来ていた。

そう、パーサーの見慣れた土の人形が忙しく動くゴーレム圏の港では無く、機械を推奨する教会の港にだ。


「ゴーレムが居ないな」


そんな中、パーサーは甲板の手すりから港の風景を眺めていた。


「ここは教会の勢力圏の港ですからね」


後ろから、マリアがパーサーの隣に来た。


「珍しいですか?」

「そうだね、珍しいと言うか不思議に感じるかな?例えば、あそこのコンテナ」


パーサーは港の一画のコンテナの群れを指差した。


「あのコンテナはどうやって船に積載するの?」

「ああ、それはですね。あの近くに見える鉄塔みたいのが見えますか?」


マリアの言った方を見ると確かに先端に太い鎖が垂れた大きな鉄塔の様な物がある。


「あの鉄塔の鎖の先に大きな鉤爪が付いていて、その爪でコンテナを固定して運ぶんですよ」


マリアはそれから、あの鉄塔が回転したり船の近くまで移動したり出来るんですと説明をした。


「そうなんだ。でも、それなら大型ゴーレムが居れば良いんじゃないかな?いくら、鎖でも重量によっては切れてしまうし、ぶら下げるんじゃ、安定性も無いよね。それにあの鉄塔はレールで移動出来るみたいだけど、ゴーレムなら何処へでも持ち運び出来るしさ」

「確かに、そうですね。でも、ゴーレムには細かい作業とか出来ませんよね?あの鉄塔、クレーンと言うんですが操縦士の運転で細かい動作が出来るんです!例えば、コンテナを幾つも積んだ貨物船にあと、一つのコンテナを積載するときにゴーレムなら、コンテナとコンテナの狭い間に置くのは苦手ですよね。クレーンなら操縦士のテクニックも関わりますが、両隣のコンテナを傷付けずに積載出来るんです」


パーサーとマリアは二人でゴーレムと機械の意見を出し合い疑問に答えたりしていった。


「ちょっと、お二人さん。デートの所で悪いんだけど、降りるわよ。ついて来なさい」


リリスに声を掛けられて二人は顔を赤くしてリリスの元に行った。

そして、リリスはパーサーの格好を見ると眉をひそめた。


「貴方、その格好で行くの?」

「え?はい」


湿った士官学校の制服を脱いで学校の制服を着ているパーサーは何が悪いのか解らずに取り敢えず返事をした。


「ウ~ン。まぁ、私も居るし大丈夫ね。さぁ、行きましょう。下でネッドさんとクラーディが馬車で待っているわ」


パーサーとマリアはリリスに促されてタラップを降りていった。

降りた先ではネッドとクラーディが二台の馬車の前で待っていた。


「よう。やっと降りてきたか」


ネッドはパーサー達に気付くと軽く手を振った。


「シスター・リリス。俺なんかに馬車を手配してくれて感謝します」


ネッドはまずはリリスに礼を言うとパーサーの方に向くと肩に手を置いた。


「パーサー、ここでお別れだな。まぁ、短かったがスリルある航海だったぜ」

「ネッド、もう行ってしまうんだね」


パーサーは右手をネッドに差し出した。

ネッドはニッと人懐っこい笑みを浮かべるとガシッとその手を握った。

そして、クラーディにも元気でなと一言描けると馬車に乗り込んだ。

行者がそれを確認すると、鞭を生きた馬に打ち馬車を発信させる。

そう、生きた馬に


「うゎあ!」

「どうしたんですか?」

「馬だ!マリア!あの馬、生きてたよ!って、こっちの馬も!」

「えっ、ええ、生きてますよ?」

「本物の馬だ!」


パーサーの慌てようにマリアは困惑気味にしているが、リリスは二人の様子が可笑しいように笑いだした。


「マリア、パーサーくんの所は馬車を曳くのにもゴーレムを使っているのよ。パーサーくんは生きた馬を見るの初めてなのよね?」

「えっ、そうなんですか!」

「そうなんだよ!凄いなー、ホースよりもなんだか小さいな!」


物珍しそうに馬を見渡すパーサーにリリスはそろそろ行くわよと声を掛けてパーサー達も馬車に乗り込むのだった。


「あの~、この馬車って暴走しないですよね?」


馬車が発信して数分してパーサーは心配そうにリリスに聞いた。


「暴走なんてしないわよ。それより、今から教会支部に行くわよ。その時にパーサーとクラーディは向かいに喫茶店があるんだけど、そこに居てくれないかしら?」

「何故ですか?」

「そこの支部はシスター派の教会で男子禁制なのよ。ああ、あと悪いんだけどマリアはこの二人のお守りをお願いね」

「はい、リリス先生」

「わかりました」


そんな会話をしつつ、馬車は港町の中心部へと向かって行くのだった。

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