第27話 シスター・リリスの推理

バウンティ号で使っていた部屋より倍は大きな部屋でパーサーはソファーに座り、リリス達と向き合っていた。


「・・・」


 そんな中でパーサーは一言も話さず、リリスの質問に沈黙を貫いていた。

 マリアはそんなパーサーを心配そうにしている。


「もう一度、聞くわね。パーサーくん、貴方が最初に着ていたのは貴方の国のラビの士官学校の制服だったわ。それに貴方に渡した鞄にはマルセイ・ベルメールと書かれた士官学校の身分証が入ってあったわ。可笑しいわね。マリアが貴方に会ったのは普通のラビの学生だと話していたのにね。パーサーくん、貴方は何の目的で軍人に成りすませていたの?何処に向かおうとしたのかしら?」


 ラビ・レーヴが制作したゴーレム、"アダム"をどうにかするためにウィルソン教授から使命を帯びていると説明するべきか?

 正直、アダムが存在しているのか今だにパーサーは半信半疑だった。

 だからこそ、パーサーはどう答えるべきか解らなかった。


「フゥー、パーサーくん。別に私は貴方を責めている訳じゃないわ。私は貴方が心配なの」

「心配?」


 リリスはそうよと言って頷いた。


「パーサーくんが着ていた軍の制服や身分証。最初はレプリカだと思っていたわ。でも、よく見たら本物よね。本物の軍服や身分証は工作員とかに渡って利用されない様に管理が厳しいと聞くわ。つまり、貴方にそれらを準備した軍人がいるわね。子供を軍人に偽装させるなんて、その軍人に利用されているんじゃなくて?」

「なっ、待って下さい!僕は子供じゃありませんし、ハミルトン大佐は僕を利用するような人じゃありません!」


 思わずパーサーは立ち上がり抗議するが、リリスは私からしたら子供よとピシャリと言われてしまった。


「そう、パーサーくんを軍人に偽装させたのはそのハミルトン大佐なのね。軍にはラビがいるのに学生の貴方が何故、必要だったのかしら?・・・そうねぇ、軍が関わってないわね。じゃ、ハミルトン大佐個人が計画したのかしら?いいえ、おそらくは大佐だけが計画したのではないわね。そう言えば、偽装するのにもしっかりとした身分が要るわよね?ベルメールという事は、あの写真家のハンス・ベルメールも関わっているわね」

「えっ!ハンスを知ってるんですか!?」

「あら彼は結構、有名人よ。貴方の反応で確定ね。あと、そうねぇ、少なくとも貴方を選んだ人物がラビの学校の中にいるわね。クラーディはその人が作ったんでしょう?」


 パーサーへの質問というよりも自分の思考を纏める様にリリスは言葉を続けていく。

 パーサーは深く息を吸い込み、吐き出した。


「あら、どうしたの?もしかして全部合ってたのかしら?」


 可笑しそうにクスクスと笑い出すリリス。


「どうやら貴女には隠し事は通じなさそうですので、お話しします。ただ、これは僕もまだ本当の事か自信の無い混沌無形な話です」


 そう前おきしてパーサーは今日に至るまでの事を話し出した。














「そんな、信じられません。本当に聖書に出てくるアダムなんですか?」


 パーサーの話が終わるとマリアは戸惑いながら尋ねて来た。


「僕にも解らないんだ。でも、ウィルソン教授達の様子からただ事じゃないのは感じてる」

「居るわよ」

「「え?」」


 突然、リリスはそう言ってパーサーとマリアは一緒にリリスへと注目する。


「リリス先生?」

「現実に彼、アダムは存在してるわよ」


 リリスは断言した。


「何故、そう言いきれるんですか?」

「簡単な事よ。遠い昔、私は彼に会ったことがあるからよ。実は今回の旅行も彼の調査の為だったの」


 パーサーは驚いたまさか、アダムと会った事がある人物と会えるとは思ってはいなかったからだ。

 マリアも驚いていた。

 どうやら、彼女も知らなかったみたいだ。


「リリス先生、どう言うことですか?私は機械技術の講演のお手伝いと聞いていたんですが?」

「もちろん、講演も目的だったのよ。アダムの事はそうねぇ、副次的な目的よ。パーサーくん、どうやら私と貴方達は同じ目的を持ってるみたいね」


 どう、私と共闘しないとリリスは口にした。

「共闘ですか?」

「ええ、そうよ。お互いが同じ目的ならバラバラに動くのではなくて連携して行動した方が効率が良いでしょう?」


 確かにリリスの言うことは一理あるが、パーサーは必然的にマリアを巻き込むことに抵抗があった。


「マリアの事で悩んでるの?大丈夫よ。貴方が悩む悩まないに関係なしにもう、私が巻き込むことにしてるもの」

「ちょっと待って下さい!それは勝手です!」

「パーサーさん、私なら大丈夫です。お話しを聞いて、そんな大変な事態なら私にもお手伝いできる事がある筈です」

「マリアでも危険なんだよ」


 パーサーはマリアを説得するがマリアは自分も協力すると言って聞かなかった。


「マリアは私が見込んだ娘なんだから、諦めなさい。それに私達が協力しないと貴方達はヴァチカンに辿り着けないわよ。それに、」

 そこまでは言って扉がノックされて船員が入って来た。


 船員は椅子に座るパーサーとクラーディをちらりと嫌そうな顔で見るとリリスにお辞儀をした。


「シスター・リリス、マリアさん。間も無く艦は港に到着致します」

「そう、わざわざお知らせに来てくれてありがとう」


 船員は報告を終えると一切、パーサー達に目もくれず退室していく。


「ヴァチカンに着く前に貴方達だけだったら、途中で刺されかねないわよ」


 どうやら、リリスに従う他無いとパーサーは認めるしかなかった。

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