第26話 ゴーレムへの恐怖心

「本当にすみません!私、ゴーレムが苦手なんです!」


 パーサー達に介抱されてマリアは意識を取り戻し、申し訳無さそうに告白した。


「気にしないで、誰にでも苦手なモノはあるから」


 パーサーはそんなマリアを慰めながら、違和感を感じていた。


(ゴーレム恐怖症って事なのかな?でも、そんな症状は聞いた事ないな)


 もしかして、waxworkに使われている蝋とかにアレルギーを持っているのかも知れないとパーサーは考えて取り敢えず、クラーディにはあまりマリアに近寄らない様に命令した。


「もしかしてマリアは今、身体が痒かったりする?」

「痒みですか?いえ、特にはありませんよ」

「そうか・・・(マリアの皮膚にも発疹的なのが出来てないみたいだし、精神的なモノなのかな?)」


 一応、確認をしてみるがアレルギーの類では無い様でパーサーは首を傾げて考える。


「貴方達、ラビとは根本的に違うからよ」


 扉から声を掛けられた。

 リリスが更衣室に入って来たのだ。

 マリアと同じようなデザインのベールに修道服と呼ばれるゆったりとした真っ白い服を着ている。


「リリス先生!」

「マリア、遅いから心配で来たわよ」


 リリスはそう言ってマリアの頭に手をポンと乗せるとパーサー達に向き合って近くの椅子に座った。


「シスター・リリス。遅くなったのは僕のせいなんです。申し訳ありません」

「あら、気にしないで良いわ。別に遅くなって怒ってる訳じゃないから」


 リリスはそれよりと言葉を続ける。


「ゴーレムが苦手なんて感覚が解らないんじゃなくて?」

「いえ、人それぞれですし」

「自分の好きなモノを相手にも理解して欲しい。あわよくば好きになって欲しいって、無意識でも思ってるんじゃなくて?」


 特に好きになった娘に対しては、その思いは強いでしょうと最後にパーサーだけに聞こえる様に言ってクスクスと笑い出した。


「そっ、そんな事ないですよ!」

「クスクス、そう言う事にして置きましょう。でも、私はそれが悪いこととは思わないわよ。相手の視野を広げる切っ掛けになったりするから」


 リリスはさてとと、椅子から立ち上がった。


「こんな所でお話するより、私の部屋でお話ししましょうか?マリアはもう大丈夫?」

「はい。ご心配をお掛けしてすみません」

「それじゃ、行きましょう。そうそうネッドさん、艦長が沈没事故の詳細を聞きたいと言っていたわよ」


 ここで待っていて下さいと言われてネッドは少し残念そうにウッスと返事をした。


「おい、パーサー。彼女に彼氏がいるか聞いておいてくれよ」

「ネッド、シスターにそんな事を聞ける訳無いだろ。クラーディ、行くよ」


 パーサー達はネッドを残して更衣室から出た。

 マリアが先導し、中央にパーサーとリリスそして、最後尾にクラーディが続く。


「あの、シスター・リリス」

「リリス先生で構わないわ。何だが、堅苦しいから」

「ではリリス先生。先程、ラビとは根本的に違うと言ってましたよね?どう言う事ですか?」

「簡単な事よ。貴方達は小さな頃からゴーレムと触れあって来たのでしょう?」

「はい。そうですが、それが何か?」


 初等学校や保育所などで掃除などの雑用をwaxworkを始め、多くの種類のゴーレムが働いている。


「無意識の内に感性でゴーレムを受け入れるいえ、ゴーレムが居て当たり前って言う下地が出来上がってるのよ。対してはマリアは生まれも育ちもヴァチカン。ゴーレムなんてお話や授業の中でしか知らない。今回の旅行でゴーレムを実際に見たのは初めてなのよ」

「本当にヴァチカンにはゴーレムが居ないんですか?」

「居ないわ。あの都は徹底的にゴーレムを排除して変わりに機械を発達させたのよ」


 パーサーにとってゴーレムが居ない社会は想像できない。

まるで、おとぎ話を聞いている感覚になって来た。


「貴方を見ていると、昔のラビは本当に上手く世界にゴーレムを浸透させたモノだと感心するわ。さて、話しを戻しましょう。要は下地の問題。下地の無いマリアはどうしても、あの蝋のwaxworkだったわね?人に近い容姿のゴーレムが不気味な存在いえ、不自然な存在として認識して、人としてか物としてか接し方が解らずに混乱してしまうのよ」

「貴女は平気なんですか?」

「私は大人よ。それに一人の技術者としてゴーレムの構造や利用を研究したこともあるもの」


 そこまで言ったときに先頭のマリアが着きましたと声を掛けて来た。

 そして、マリアが扉を開けようとすると後方のクラーディが前に出て来て先にノブを手にした。

 扉をクラーディが開けて、どうぞと言っている様にマリアを見る。

 マリアは先程の様に倒れはしなかったが端から見ても身体が強張っているようだった。


「クラーディ!マリアが怖がるから近寄っちゃ駄目だ」

「あら、この子って結構、紳士なのね」


 パーサーはクラーディを注意してリリスは可笑しそうに笑った。


「さて、入りましょうか。パーサーくんいえ、マルセイ・ベルメール士官候補生さんって言った方が良いかしら?」

「えっ!?」

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