第25話 シャワールーム

熱い水がパーサーを包む。

 ベタついた海水の塩を洗い流し、低くなった体温がどんどん上がってくる。

 パーサーは深く息を吐き出す。

 暫く心地よさに浸っていると扉が開き、誰かが更衣室に入って来る音が聞こえた。


「皆さん、お着替えを持って来ました」

「ありがとう」

「すまねぇな、嬢ちゃん」

「あっ、パーサーさんに朗報ですよ!今、艦が皆さんの船の沈没地点に着いて捜索を始めたんですが、いくつかの鞄を回収したんですよ。先生が中身を確認してゴーレムさんの手入れ道具みたいなのが入っていたので、パーサーさんの荷物かもしれないからと言っていたので持って来ました。置いてるので確認してみて下さい」

「え!本当に!?」


 荷物を諦めていたパーサーは思わぬ知らせを受けてホッと胸を撫で下ろした。

 その後、マリアはシャワーから出たら教えて下さいと更衣室から出ていった。

 パーサーは早速シャワーを終えて出ると身体の水滴を拭い、置いてある服に手を出した。


「おっ、似合ってんじゃねぇか」


 パーサーが服を着替え終わった頃合いにネッドもシャワーから出て来た。

 パーサーが着ているのは水夫の制服だった。


「そうかな?」

「おう!何だが、ガキが仮装してるみたいだがな!」


 豪快に笑い出したネッドにパーサーは何だよと言って手元のタオルケットを投げつけた。


「こんなことをしてる暇なんて無かった。え~と、あった!これだ!良かった、これでクラーディを手入れ出来る!」


 パーサーは近くの椅子に置いてあった旅行鞄を手に取り、中身を確認し出した。


「よーし、クラーディ出て来て」

「嬢ちゃん、みんな終わったぞ」


 二人は同時に声を掛けた。

 そして、一人と一体は同時に更衣室に入って来た。

 一人は入りますと言って、一体は水滴を垂らして何も着ていない状態で










「本当にごめん!」

「何だよ?ゴーレムの裸みたくらいで、イテッ」


 余計な事を言ったネッドの足を踏み、パーサーはマリアに平謝りを続ける。

 ちなみにクラーディはタオルケットを羽織り椅子に座り、その様子を見ている。


「いっ、いえ!ちょっとビックリしただけですから」


 マリアは顔を真っ赤にしながら大丈夫ですとパーサーに言った。


「あの、パーサーさん。今からクラーディさんのお手入れをするんですよね?」


 マリアは良かったら見学しても良いですかとパーサーに言うとクラーディから少し、離れた椅子に腰を掛けた。


「よっ、良し。じゃ、まずは関節部の水滴を拭くよ」


 クラーディは先程のちょっとした騒ぎの中で大部分を自分で拭ってはいたが、球体関節の隙間に入った水滴や塩は残ったままの状態だった。

 パーサーは細い綿棒や刷毛で丁寧に除去していく。

 室内の時計の音だけが鳴っている。

 パーサーは足から腕に胴体そして、首筋へと作業を進め、次にwaxworkの保湿性を保つクリームを薄く塗っていく。

 前に教授とクラーディの修復をしたときは変な気分になったパーサーだったが今はマリアが近くに居る事を意識しているからか、更に何とも言えない感じがしてならなかった。

 マリアも何故かパーサーとクラーディを見て目のやり場に困っていた。


(何だよ。落ちつけ、僕!クラーディはゴーレムなんだぞ!恥ずかしがること無いだろ!)

(何でしょうか?何だが、パーサーさん達を見ていられない様な?)

「お前ら二人して何、顔を赤くしてんだ?」


 そんな二人の様子を見てネッドは呆れてぼやくのだった。


「終わったよ。さぁクラーディ、服を着て」


作業を終えてホッしてパーサーはクラーディに命令した。

クラーディが着替えている間にパーサーはマリアに向き直った。


「マリア、ありがとう。おかげでクラーディをちゃんと整備が出来たよ」

「いえ、私は単にパーサーさんのお荷物を持って来ただけですから、気にしないで下さい」


パーサーがお礼を言っていると着替え終わったクラーディがパーサーの横に立った。


「へぇ、似合うね」


クラーディもパーサーと同じく水夫の制服を着ている。


「クラーディ、君もマリアにお礼をして」


パーサーは笑顔でクラーディに言うとクラーディは一本前に出てきた。

しかし、マリアは一本後ろに下がった。

更にクラーディが一本前に出るとマリアは一本後ろに下がる。


「?」

「あの、ごめんなさい。私、実は」


マリアが何かを言おうとしたとき、クラーディがリーグルで一瞬見せた本来の滑らかな動作で近づきサッとマリアの手を取り、手の甲にキスをした。


「・・・」

「マリア?」


パタリとマリアはその場に倒れた。


「マリア!?」

「嬢ちゃん!?」


パーサーとネッドは慌ててマリアに駆け寄り、クラーディはマリアを見詰めて首を傾げた。

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