第24話 乗艦拒否

「パーサーさん、大丈夫でしたか?私、遭難している人が居るって聞いて心配で何かお手伝い出来ないかなって思いまして!お怪我はありませんか?」


 マリアはパーサーの手を握りしめ、心配そうに見詰めた。


「ぼっ、僕は大丈夫!それより、マリアとまた会えるなんて偶然だね!」

「はい。私もまたお会い出来るなんて思ってもみませんでした!」


 マリアはパーサーに怪我が無いかを確認してホッした様子だった。

 しかし、直ぐにハッと何かを思い出した表情になった。


「パーサーさん!怪我人がいると聞いているんでした!こうしてはいられません!何処にいらっしゃいますか?」


 マリアはパーサーに問いかけた丁度そのときに船員が怪我人を引き上げるぞと声が聞こえた。


「固定したか?よーし!ウィンチ始動、引き揚げろ!」


 カラカラカラと鉄の擦る音が響き、クラーディが船に上がって来た。


「おい、待てよ!こいつはゴーレムだぞ!」


 クラーディを引き揚げた船員が驚いてクラーディを指差した。

 そして、その場は騒然とした雰囲気に包まれた。


「ゴーレムなんて、艦に乗せるな!」

「バチが当たるぞ!」

「摘まみ出せ!」


 周りの船員が口々に罵り出し、パーサーは驚いてクラーディの元に急いで駆け寄った。

 見るとクラーディは数人の船員に取り押さえられている。


「ちょっと、待って下さい!何をしてるんですか!クラーディを離して下さい!」


 パーサーは船員を押し退けてクラーディを背に庇った。


「ラビの小僧、この艦は教会所属の艦だ。人間のお前さんは乗艦を認めるが、そのゴーレムは認められねぇ」


 古参であろう船員がパーサーとクラーディを睨み付けながら言った。

 パーサーは負けじと睨み返す。


「おっと、やっぱ、こうなってたか」


 そこにネッドが甲板に上がって来た。


「イヤー、あんたらも海の男だろ?だったら、海で遭難したヤツは絶対に助けるって掟を知ってんだろ?良いじゃねぇか、相手が人だとかゴーレムだろうがよ」

「もちろん、助けてやる。だか、人だけだ。ゴーレムなんぞ助けたら神様からどんな天罰が下るか、わかったもんじゃない」


 ネッドは軽い感じで説得をしてみたが、周りの船員はまったく耳を貸さない様子だった。


「待って下さい!皆さん、主は助け合いを求めます!それが、その、ゴーレムであってもです!」


 船員の人垣から、マリアが表れてパーサー達と船員の間に立った。

 船員達はマリアの言葉にばつが悪そうにするが、それでも雰囲気はクラーディを受け入れる様にはならない。


「お嬢さんの言う事に一理ある。だが、俺達の艦にゴーレムを乗せるのは駄目だ。どうだ、脱出挺をこの艦が牽引するから、そのゴーレムはその脱出挺に乗せたままにしておくのは?」

「おいおい、海の上では皆兄弟だろ?」

「そんな、いくらゴーレムでも可愛そうです!」

「なら、僕も脱出挺で構いません!」

「あんたら、五月蝿いわよ!」


 誰も意見を変えず、場の収拾が着かない状況に成りつつあったときに一人の女性の声がした。

 船員達は皆、シスター様と呟き頭を垂れて女性に道を空けていく。

 煤で汚れた白いツナギを着た赤毛の大人の女性で、パーサーの隣に居るネッドがすげぇ、別嬪じゃねぇかと言う呟きが聞こえた。


「まったく昨日の夜から、ボイラーの調子が悪いって言うから寝ずに整備してあげて寝てないのに貴方達が騒ぐから寝れないじゃない」


 何してんのよと女性が古参の船員に話し掛ける。


「はっ。シスター様、真に申し訳ありません。実はこの艦にゴーレムを乗せようとしている輩がおりまして」

「別に乗せれば良いじゃない」

「はぁ?」


 きっと同じく反対してくれると思っていた船員は女性の一言で戸惑ってしまった。


「いっ、良いんですか?」

「私が良いって言ってるのよ。問題無いわ。何なら、艦長に私が話を付けましょうか?」


 そこまで言って船員は慌てて、とんでも無いと言って周りに仕事に戻るように指示を出し始めた。


「まったく、面倒な男達だこと」

「すみません。うるさくしてしまい」

「あら?マリア、貴女が何も謝ることないわ。ところで彼がこの前、話してたパーサーくん?」


 女性はパーサーをじろじろと観察し出した。

 大人の女性の雰囲気にパーサーはたじろいでじっとしていると女性はチラリとクラーディを見てフッと微笑んだ。


「身体の線は細いし、体力は無さそうね。まぁ、私の生徒が一目惚れしただけあって芯は強そうね」

「えっ!?」


 小声で言われてパーサーは途端に顔が赤くなった。


「フフフ。貴方達、シャワーと着替えを終えたらあとで私の部屋に来なさい。マリア、貴女は彼らを案内なさい」

「はい、わかりました」


 そう言って女性は踵返して船内へた戻って行った。


「マリア、さっきの人って君の教授なの?」

「私達は教授ではなくて先生って言うんですけど、そうですね。さっきの方はシスター・リリス。機械技術関連で有名な人で神学校の先生です」


誇らしげにマリアはパーサー達に紹介してさぁ、こちらですと艦内へとエスコートして行った。


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