第21話 ネッド
商船バウンティ号の後部甲板上。
普段は何人もの船員とcrewが行き交うその場所は見渡した限り、タロースの暴走で酷く荒らされて穴だらけになっていた。
そんな中で折れた後部マストの隙間に一人の船員が身を隠していた。
船員の名前はエドワード・ヤング、仲の良い相手にはネッドと言われている。
「ちくしょう。いったい、何があったてんだ」
夜間当直明けで仮眠を取っていて目を覚ましたら、自室がボロボロになっており外に出ると幽霊船の様になったリーグルがあったのだ。
「どうなってんだよ?船長は?航海士は?みんな何処に行ったんだよ?」
少しの間、船内や甲板をさ迷っていたネッドだったが突然、床を突き抜けてタロースが現れたのを見て慌てて隠れていた。
「何なんだよ?あのゴーレム・・・って、あのゴーレムが持ってんの、あれ人じゃねぇか!?」
マストの隙間からタロースを観察していたネッドは手に握っているのが人の形をしているのが見えてギョッとした。
「おいおいおい、冗談じゃねぇよ!くそっ、何とか助け出せないか?ん、いや待てよ?なんかおかしいぞ?」
手に握られている人物の救出を考えたネッドだったが、タロースの様子に違和感を感じた。
前の年に姪がお気に入りの人形をネッドに見せてくれたときの事だった。
姪はその人形を壊れ物を扱う様に持っていた。
そうまるで、あのタロースの様に大切な物を潰さないように持っていたのだ。
「奴があのゴーレムを暴走させたのか!」
よく見ると手の中の人物はラビの黒い服を着ている。
「あいつ、何が目的なんだ?まぁ、今さら関係ねぇ」
目的が何であれ、ネッドは船内に入ったときの浸水具合からリーグルは直に沈没すると予測していた。
その前に船から脱出しなくてはならない。
脱出挺はあらかた無くなっており、残りは後部甲板の唯一無事だった一挺のみ。
しかもその脱出挺は金具が変形して切り離しが出来ない。
「何とか、あのラビ野郎を人質に取るしかないな」
操者のラビを人質にすればゴーレムは下手には動かないし、脱出挺を切り離すにも役に立つ。
そして、そのまま反乱を起こしたラビを陸まで連行すればちょっとした英雄になれるとネッドは考えた。
「問題はどうするかだな。・・・あそこは、ちょうど厨房の真上か?そうだ!」
ネッドは思い付いた手を実行する為に隠れていた隙間をゆっくりと出た。
気づかれない様にまた、少し急いで所々出来た穴から船内に入る。
船内に入ったら、まっすぐ厨房に向かった。
船員だけあって迷うことなく厨房に辿り着くとネッドは食品庫に進んだ。
目的の物は直ぐに見つかった。
「へっ、目にもの見せてやる!」
ネッドは手に持った物を厨房にばら蒔いた。
それも一つだけではなく、食品庫にあったのを全部だ。
「こんなもんで良いだろ。あとは、あった!」
厨房中に広がったそれを満足してネッドは次に油缶を手に取り、腰に差していたマリンナイフで底に穴を開けた。
そして油を垂らしながら、甲板に戻って行った。
「待たせたな。今、ご馳走してやる」
甲板に戻って、空になった油缶を捨てネッドはポケットからマッチを取り出した。
そして、喰らえと火を着けて油の導火線へと着火した。
待つこと数秒、派手な爆発とともに火の柱がタロースの足元から立ち上がった。
流石のタロースもその衝撃に耐えられず、手に持っていた人物を放り出して横転した。
「ハー、ハハハハ!小麦粉の味はどうだ、クソゴーレム!」
ネッドはその様子に笑いながら、放り出されたラビに走り寄って馬乗りになるとマリンナイフを首筋に当てた。
「おら!観念しやがっ、れ?なっ、何だよ!?」
細身で眉目秀麗な容姿、そこまでは良い。
そんな人間は探せば居るだろう。
問題は蝋でコーティングされた不自然に白い肌と人間ではあり得ない透き通った硝子で出来た青色の瞳がネッドを見ている事だ。
「おい、おいおいおい!てめえもゴーレムかよ!」
どうなってんだよと混乱し出したネッドだったが、金属を擦る音で直ぐに現実に戻った。
さっきぶっ飛ばしたタロースが這って近づいて来ているのだ。
「ヤベェ!」
「クラーディを返せ!!!」
もうお仕舞いかとネッドが思った直後、真後ろから人の声が聞こえてバキバキと床を突き破ってもう一体のタロースが現れた。
「ちくしょう!勘弁しやがれ!?」
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