第20話 一瞬の静寂

「こっちも駄目か」


 船内通路は所々、タロースによって潰されていた。

 パーサーは何度目かの足止めを余儀なくされていた。


「仕方ない。もう一階下に行ってみよう」


 そう言ってパーサー達はまだ無事な階段を見つけて下へと降りる。


「冷た!うわ。酷いなここ」


 下層に着いたパーサー達の目の前にはタロースが無理矢理拡張しながら通過した跡になっていた。

 客室や通路に床が原型を保っていない程、無茶苦茶になっており、パーサーの足首まで海水が浸水していた。

 しかし、タロースが通っただけはあり残骸で塞がれている事はなく何とか通れる道が出来ている。


「クラーディ、ここを通るしかないみたいだな」


 覚悟を決めてパーサーは海水に足をつける。

 足場は悪く、海水で足から冷える中でパーサーとクラーディは転ばない様に慎重に前に進んだ。


「ハァ、ハァ、このまま行けばタロースが居た貨物室だ。そこから上にいける階段を見つければ脱出挺に到着だ」


 気付けば海水はパーサーの太股の辺りまで増えて来ている。

 それに船の傾斜はどんどん左へと傾いて来ており、パーサーの身体に負担がのし掛かって来ていた。


「ハァ、ハァ、ハァ、 クラーディ、少し休もう」


 とうとうパーサーは止まり、壁に身体を預けた。

 クラーディは頷き、パーサーの隣に止まった。


「ハァ、ハァ、ハア、 クラーディ、君達ゴーレムが羨ましいよ。ゴーレムには息切れがないからね」


 パーサーの呟きに首を傾げて答えるクラーディを横目で見つつニ、三回深呼吸をして呼吸を整えた。


「ハアー、少しは回復したよ。そう言えばさっきから何だか静かだよね?」


 パーサー達が船内に入った直後にあれほど響いていた破壊音が何故か途切れていた。

 もしかしてタロースは海に落ちたのかと思う程に静かになっていた。

 聞こえるのは船の軋みと波の音だけで静寂が辺りを支配している。

それが、何故か不気味に思えてならなくなる。


「行こう。嫌な予感がする」


 壁から離れてパーサーが歩き出そうとした。

 その直後、近くで爆発が起きたような轟音と衝撃がパーサーに襲いかかった。

 衝撃で出来た波に呑まれ、パーサーは咄嗟に近くの張り出した鉄骨にしがみついて耐えた。


「ゲホッ、ゲホッ!クラーディ!クラーディ、大丈夫?クラーディ!?」


 口に入った海水にむせながら、パーサーはさっきまで居た場所を見ると天井から太い腕が現れていた。

 しかも、その手にはクラーディが握られている。


「クラーディ!!」


 パーサーは叫びながら、クラーディに駆け寄ろうとしたが直前でタロースの腕はゴゴゴとクラーディを掴んだまま天井へと戻って行った。


「ああ、そんな!クラーディ!」


 クラーディを失い、絶望が支配した。

 全身の力が抜けてパーサーはその場に崩れ落ちた。


「そんな、クラーディ・・・まだだ、絶対に助けてみせる!」


 諦め掛けた心を寸前で奮い起たせてパーサーは拳を握りしめ、立ち上がった。


「待っていて、クラーディ!」


 タロースの衝撃で益々、海水が増えて腰まで達した通路を貨物室へとパーサーは泳ぎ出した。














「ゲホッ、ゲホッ!ハア、ハア、つっ、着いた」


 必死の思いで泳ぎきり、パーサーは貨物室へと到着した。

 貨物室は特に酷い状況だった。

 何体ものcrew・golemがバラバラに散乱し、外に繋がる階段は粉々になっており別の通路に続くハッチは変形している。


「ハア、ハア、やっぱりマトモなのは残ってないか」


 パーサーは貨物室で暴れたタロースの余波で横倒しになり腕や足、果ては頭などが取れて亀裂の走ったタロース達の状況を確認した。


「大丈夫、大丈夫。僕なら何とか出来る。・・・まずは君だ。シエム・ハ・メフォラシ」


 パーサーは上半身と下半身が離れたタロースを起動させた。


「良し!じゃ、そこの腕を取って奥の君の兄弟の所に持って行くんだ!」


 パーサーは五体のタロースの内、片腕だけが取れたタロースの側に持って来させた。


「あとは、刃物か何か無いか?あっ、あれが使えそうだ!」


 次に鋭く尖った破片を手に取り、近くのcrewの身体を切り裂き、泥を取り出した。


「そのまま、その腕を持ってて」


 パーサーはその泥をタロースの腕と身体に接合部に塗る。

 そして、そこに新たに命令文を刻む。

 更に亀裂を泥で補修していく。


「タロース、腕をくっつけるんだ!よし、その状態を維持するんだ!・・・ハアー、お願いだから、うまくいってくれよ。










 シエム・ハ・メフォラシ!」

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