第19話 脱出挺へ
「避けろ‼」
誰が言ったかも分かず、ただ言われた事に対して身体が反応してパーサーはクラーディの身体を掴み、倒れた状態から横に転がった。
そして数秒もない内にバンと激しい衝撃派を感じた。
見ると黒い塊がもう一つ増えてパーサー達がいた地点に打ち下ろされていた。
そして、まるで崖から這い上がる様にして僅かな凹凸部を掴み、上半身がバキバキと木製の甲板の下から姿を表した。
「候補生、逃げろ‼」
今度はハミルトンだとはっきり認識出来た声にパーサー達は弾かれた様にタロースと距離を取ろうと身体を起こした。
甲板の中央に沸き出たタロースは目につくモノを徹底的に破壊している。
「候補生!こっちに来れるか?」
ハミルトンは脱出挺の側でパーサーに叫ぶ様に質問した。
パーサー達の位置と脱出挺側で待つハミルトンの位置の間にはタロース。
とてもではないがハミルトンの位置には行けそうも無かった。
「無理です‼大佐、行けそうにありません!」
パーサーがそう答えるとハミルトンはそこで待っていろとコートと制帽を脱ぎ、パーサー達の所まで駆け抜けようとした。
しかし、ハミルトンが走り出す前に周囲の船員達がギョッとしてハミルトンの身体にしがみついて止めた。
「何をしとるか!離せ!」
「ハミルトン大佐、無謀です!死にます‼」
数人にしがみつかれてもパーサーの元に行こうとするハミルトンにパーサーは声が届くように声を掛けた。
「チィ、船長!後部甲板に脱出挺は無いのか?」
「後部甲板の脱出挺はちょうど、タロースの貨物室の近くにありまして一番最初に破壊されています!いや、待って下さい。確か一挺だけ無事な脱出挺がありました」
「何!良し候補生、後部甲板に行け!」
「ハミルトン大佐!報告ではその一挺の留め具が破損して船から切り離せれないそうです!補佐官殿、行っても無駄足になります!」
「大佐!後部甲板に行きます!大丈夫、ラビは手先が器用なんです!何とかしてみます!」
ハミルトンと船長のやり取りを聞いてパーサーは決断した。
そして、クラーディの手を引き走り出した。
しかし、数メートルにも行かない内に後部甲板に繋がる通路にベンチが飛んできた。
「うわっ!びっくりした!アイツ、僕たちを狙ってない?」
慌ててマストの裏側に入り、タロースを監察するとタロースは無茶苦茶に暴れるよりもパーサー達に狙いを絞った様に甲板上の物を投げて来ていた。
「うっ、今の危なかった!」
ガンガンと投げられるベンチや甲板の破片はてにcrewの残骸によってマストは次第に嫌な亀裂音を出しながら、傾き出している。
「どうしよう!?このままじゃ、潰される!」
通路を行こうにもマストから出た瞬間に良い的だ。
かと言ってこのままマストの裏側にいても、いつかはマストが折れて下敷きになってしまう。
どちらにせよ録な結果にはなりそうにないとパーサーが考えているとクラーディがパーサーの肩を叩いてある方向を指差した。
「そうか!クラーディ、君は天才だよ!」
クラーディが指したのは内部通路へのハッチだった。
普通に後部甲板へと行くよりも若干遠回りになるが、一度入ってしまえばタロースの驚異から逃れられて安全に後部甲板へ行くことが出来る。
「大佐、僕達は内部通路で脱出挺に行きます!大佐は先に脱出して下さい!」
「よし、わかった!だが、待て!ワシの合図で内部通路に飛び込め!」
ハミルトンが大声で言った後に小さな破裂音と甲高い金属音が何発も木霊した。
「今だ!行け!」
ハミルトンの合図でパーサーとクラーディはマストから飛び出した。
パーサーがチラリと見ると脱出挺に乗り込んだハミルトンが自分の回転式拳銃でタロースの額、emethの位置を撃っていた。
一番、装甲を施された部分であり小口径の拳銃弾などタロースにとって正に豆鉄砲くらいのダメージしかない。
しかし、タロースは一瞬動きを止めた。
おそらくはハミルトンの驚異度を計っての事だろう。
「なんて、無茶を」
ついパーサーも歩を止めて呟いた。
少しでもタロースが驚異と判断したら、ハミルトンの乗っている脱出挺は一瞬で木っ端微塵にされてしまうだろう。
同乗する船長や船員が顔面蒼白になっている。
「バカモン!早く行かんか!」
ハミルトンの叱責とまた数発の銃声でパーサーはハッと我に返りハッチに向かって走り出した。
パーサーがハッチに辿り着くと緊張から床にへたり込んだ。
すると先に到着していたクラーディがハッチの扉を閉め出した。
「二人とも港で合流するぞ!万が一、出来なければフランスの大使館に来い!待っているぞ!」
後ろからハミルトンの声が聞こえて振り替えるとハミルトンが脱出挺の昇降機のロープを銃で撃ち、暗い海面に消えていく姿が見えた。
その直ぐ後にタロースが投てきしたのだろう大きな残骸が通過して行った。
完全にハッチは閉められて外の視界が消えた。
クラーディは手をさしのべてパーサーはしっかりと握り立ち上がった。
「行こう、クラーディ」
脱出するんだとパーサーは言って内部通路の階段を下りだした。
クラーディはそんなパーサーを見て頷き、パーサーの後ろへと従った。
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