第18話 船上の暴走

穏健派、機械技術を徐々に広めてゴーレム技術を緩やかに廃止していくという派閥で協調派は一度広まった技術は廃止出来ないのでゴーレムの存在を認めつつ、機械技術を発展させてゴーレム技術の発展を食い止めるという派閥だ。

 そして、過激派とは機械技術でゴーレムを圧倒してゴーレム技術を葬るという派閥だ。


「貴様ら、ラビはゴーレムだけに熱心で敵対する勢力に全くの無関心だ。それで良く今まで教会に消されなかったな」


 呆れた様に言うハミルトンにパーサーはばつが悪そうに、ごもっともですと答えるしかなかった。


「他に質問は無いな。では到着は明日の早朝になるから、貴様はそれまでに荷物の整理と休養をとっておけ、解散」

「yes、sir」


 パーサーはハミルトンの部屋から出て自分の部屋に戻っていった。

 部屋に戻るとクラーディに手伝ってもらい、出していた荷物を鞄に納めてベットに転がる。


「ヴァチカン・・・どんな所なんだろうね?」


 もしかして、本当にマリアに会えたりしてと口ずさみやることを終えたパーサーは昼寝しようと目を閉じた。

 クラーディはパーサーが寝ているのを確認して椅子に座り虚空を見つめた状態で待機する。

 一人と一体は波の音を聞きながら、明日に備えるのるのだった。

 パーサーは一日中、寝て過ごしているのに関わらず数日も続く不馴れな船旅で余程、身体に疲れが貯まっていたのか深夜になっても起きなかった。


(シエム・ハ・メフォラシュ)


 深い眠りの中でパーサーは誰かが起動キーを唱える声を聞いた気がした。

 パーサーは寝返りをして毛布を頭まで被ろうとすると突然、地震が起きたような振動が部屋中に響き渡った。


「なっ、何!?クラーディ!」


 ベットから、転げ落ちて飛び起きたパーサーは部屋を見渡すと椅子に据わって待機していたクラーディが顔から床に突っ伏しているのを見て慌てて立ち上がらせた。


「一体、何が起きているんだ?」


 激しい振動が続く中でパーサーは船か真っ二つになるのではないかという想像して顔が引き吊ってしまった。


「ベルメール!」


 バンと扉が勢い良く開き、ハミルトンが入ってきた。


「何をぼさっとしておる!さっさと必要な荷物だけを持って甲板に避難するぞ!」

「わっ、わかりました!」


 ハミルトンに急かされてパーサーは手早く軍服に着替えてクラーディにスーツケースを自らは旅行鞄を持って通路に出た。


「うっ、クラーディ。もしかしたら、本当にこの船は沈むかも」


 通路に出ると徐々に傾いている事に気付いた。

 少し先にはハミルトンが船員を捕まえて事情を聞いているのが見える。

 パーサーが近づくとハミルトンは険しい表情になっていた。


「大佐、一体何があったんですか?」

「ベルメール。どうやら、輸送中のタロースの一体が暴れておるらしい」

「タロースが!そんな僕が午前中にタロースの見学に行ったときは未起動状態だったのに!」

「未起動状態のゴーレムが勝手に起動して暴走することはあるのか?」


 ハミルトンの問いにパーサーは首を振って答える。


「あり得ません。製造過程で命令文のカバラが間違っていたり、元から暴れる様にプログラミングしていたりしても近くでラビが正しい発音で起動キーを唱えない事にはゴーレムは一ミリも動きはしません」


 そうかとハミルトンは呟き、手を顎に当てて思考する。


「大佐、もしかして船に革命軍の工作員とかが乗っていたのでは?」

「いや、それこそあり得ん。移送中のタロースはどれも帝国の支援の為とは言え、引渡し前に攻撃を加えるのは我が国に対する宣戦布告だ。奴等も帝国だけではなく我が国も相手にする余裕は無い。それにこの船は海軍のチャーターした船だ。船員も全員が調査済みで工作員が入る隙など無い」


 そこまで言ってハミルトンは何かに気付いたのか、眉間に皺を寄せてパーサーに小声で話し掛けた。


「可能性は低いが、奴が潜り込んでいるかも知れん」

「奴?」

「貴様のいや、我々の本来の敵の事だパーサー。この船に《アダム》が居る可能性がある」

「そんな!?だって、大佐は船員は調査済みだと!」


 ハミルトンは苦虫を噛み潰した様に顔を歪めると油断したと呟いた。


「奴はどんなモノにも化けられる力があるとウィルソンが言っていた。くそっ!もし奴なら、どの時点でこちらが本命だと気づいた?」

「本命?」


 ハミルトンはパッと顔を上げてパーサーを見るとおもむろに懐から、ある物を取り出してパーサーに押し付けて来た。


「保険だ。持っておけ」

「えっ、これって!?むっ、無理です‼」


 押し付けてられた物の正体、六発入り回転式拳銃をハミルトンに押し返そうとするが、頑として受け取らなかった。

 そうこうする内に今までに感じたもので一番大きな揺れと船体全体に響く轟音が支配した。


「候補生、本格的に船が破壊されている様だ!急いで避難するぞ!おいクラーディ、貴様は足が遅い、荷物を主に渡せ!」


 そう言うとハミルトンはクラーディを肩に担ぎ上げて駆け足で階段を登りだした。


「ちょっと、待って下さい!」


 パーサーは慌てて荷物を持ってハミルトンの後に続いたのだった。

 息を切らせながら甲板に出たパーサーは先に着いたハミルトンから遅いぞと叱責を食らいつつ周りを見渡した。

 甲板には多くの船員が駆け回っている。

 中には頭から血を流している者もいるが、全員が己の仕事を全うしようとしている。


「大佐!ハミルトン大佐!」


 その船員の中から、部厚いコートに身を包みひさしの着いた制帽を被った人物がハミルトンを呼び現れた。

 バウンティ号の船長だ。


「大佐、良かった!無事でしたか!」

「船長、どんな感じかな?」

「どうも何もお手上げですな!相手は軍用ゴーレムですぞ!我々のcrew・golemなど相手にはなりません!」


 crew・golemとは船舶でマストなどの高所作業や水中作業、貨物の搬入などを行うゴーレムで万が一は空気を体内に入れ込み浮体としての役割もこなすゴーレムである。

 形状はwaxworkと違い無駄を排除した顔無しの、のっぺりとした感じでパーサーは最初、暗闇から現れたcrewに悲鳴を上げていた。


「大佐の補佐官はラビでしたな?タロースを止められませんか?」


 船長の言葉にハミルトンはどうなのだと聞いたが、パーサーは力なく首を横に振る。


「無理です。ゴーレムは最初に起動したラビが命令しないと止まりません」


 そうかと船長は溜め息をつき、ハミルトンとパーサーを脱出挺へと誘導する。

 傾斜は時間が経つほど、酷くなっている。


「どうした、クラーディ?」


 脱出挺まであと少しという所で何故かクラーディは突然、歩を止めた。

 パーサーはクラーディに気を取られて一緒に止まるとクラーディは足の損傷が無い様な俊敏な動作でパーサーに飛び付いて来た。


「うわっ!!」


 強い衝撃にパーサーは後ろにクラーディと共にすっ飛んだ。

 同時にパーサーが今まで立っていた地点から、大きな黒い手が生えていた。


「パーサー!!」

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