第17話 オスマン帝国

オスマン帝国は中東でも最大の国家である。

 パーサー達の祖国である大英帝国と長く交易などで関係はおおむね友好であり、何よりゴーレム技術圏の国だった。

 周辺諸国との小競り合いはあったものの、帝国は平和な国だった。

 しかし、数年前に先帝が崩御して新しい皇帝が即位してすぐの時にそれは始まった。

 皇帝と貴族を頂点とする特権階級の支配に対する革命だ。

 彼らは自らを青年同盟と名乗り、全ての階級を廃止して政治を民主の手で平等かつ自由な国を作り上げることを旗印に武器を手にしたのだ。

 当初、誰もがこの革命はすぐに終わることを予想していた。

 何故なら帝国軍には精鋭のゴーレム軍団があり、革命軍たる同盟には一体のゴーレムが無かったからだ。

 しかし、予想に反して革命の火は消えなかった。

 同盟は帝国軍の補給線に攻撃を仕掛けたり、渓谷など狭い地形で伏撃したりと翻弄して帝国軍を徐々に削って行った。

 そして2ヶ月前のある日、帝国軍のゴーレム一個中隊が行方不明となる事件が起こった。

 帝国はただちに捜索隊を編成し、行方不明の中隊を捜索した。

 程無く、行方不明の現場の数キロ先の荒れ地をさ迷っていたボロボロの状態のラビ士官を発見した。

 すぐに保護をして回復を待ち、事情聴取を行うと驚くべき証言をした。




『中隊は反乱軍の一隊を発見し、戦闘を開始しました。戦況は我々が有利で上手く反乱軍を崖に追い詰めていました。しかし、最後にゴーレムを突撃させたときに突然、大きな音が響いて来ました。音と同時に先頭のゴーレムが粉々になりました。おそらくemethをやられたと思います。そして、轟音が響く度に我のゴーレムは粉砕されていきました。』




 そして、茫然自失としていたところにゴーレムを葬った怪物が現れたとラビ士官は語った。


「怪物ですか?」

「うむ。形状は四角い鋼鉄の箱で正面と左右から、細い棒が出ていたらしい。それが三体、轟音を響かせて突撃して来たと証言しておる。その様なゴーレムを知っておるか?」


 鋼鉄の箱、パーサーの知っている限りその様な形状のゴーレムは思い付かない。

 しばらく考えてパーサーは自分の意見を口にする。


「ゴーレムは基本、人間や動物などを模して造られます。それが動く上で効率が良いからです。その鋼鉄の箱がゴーレムだとは思えません。もしかしたら、ゴーレムの追加装甲を施しているのかも知れませんが、それが箱形にする意味はわかりません」

「そうか、実は軍の技術部も追加装甲という結論が出た」


 ハミルトンはそう言って、紅茶を一口飲んで話を続ける。


「だが、わしはゴーレムでは無いと思うがな」

「ゴーレムでは無い?」

「そもそも、革命軍にはゴーレムが一体も無い。あったとしても農耕用の中型ゴーレムが関の山だろう。そんな物で軍のゴーレムを粉砕出来はせん」

「では、大佐は何と考えているんですか?」

「おそらくは革命軍の背後に教会が絡んでおり、帝国のゴーレムを倒したのは教会の軍事的な機械技術によるものと考えている」


 機械、パーサーは制服の内ポケットに入れている小さな歯車を思い出した。

 とるに足りない小さな部品の集合体でゴーレムを打ち倒せる兵器が出来るものなのかとパーサーを悩ます。


「信じられません。大佐は機械技術がゴーレムよりも有用とお考えですか?」

「ふむ、わしはゴーレムも機械も詳しくは知らん。だが、どちらにも特筆して優れている点があり、欠点があるものと思っておる。まぁ、機械どうのとは現時点でわしの憶測に過ぎんがな」

 どちらにせよ戦場でそれを確かめる他はないとハミルトンは言った。


「大佐。もし本当に機械だったとして、僕の専門はゴーレムです。僕にも機械の事はわかりませんが?」

「だから、ヴァチカンに向かうのだ。事前に教会側に要請して機械に詳しいアドバイザーを用意してもらっている。お前はゴーレムについて、わしに助言すれば良い」


 パーサーは教会にですかと驚いてハミルトンを見た。


「何だ、不服か?」

「大佐は先ほど、革命軍の背後に教会が付いていると言っていたので」

「心配するな、教会は一枚岩という訳ではない。教会の中には幾つもの派閥に別れており中には穏健派、協調派など色々とある。革命軍に援助しておるのは過激派と言った所だろう。わしが要請したのは穏健派と協調派の中間くらいの派閥で問題は無かろう」

「穏健派に協調派ですか?」

「知らんのか?」


ハミルトンは呆れた様にため息を吐いた。

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