第16話 meeting

朝食は薄いベーコンに微妙な味付けのスープそれに硬いパンだった。

 腹の壊しそうな、そのメニューを最初に食べたときは船酔いも手伝って甲板に走り出して海に吐き出したものだったが、今は慣れたもので構わずに口に入れている。

 勿論、パーサーは決して旨いとは思ってはいない。


「士官らしくしろって言うなら、このメニューをまずは士官の朝食らしくして欲しいよ」


 つい愚痴をこぼしてパーサーはハァーと溜め息を吐いた。

 昼も夕食までも今食べているメニューに一品追加したようなクオリティーの低い食事が続いている。

 思い出せば、旅立つ朝に食べた朝食が唯一のマトモな食事だった。


(そうだ! 陸に着いたら、一番良いレストランで食事してやる!)


 本来はこの長旅の為の物のだろうが、ハンスの用意した旅行鞄に多額の現金が入っている事を思いだしてパーサーは内心で決心した。


「さてクラーディ、お待たせ。行こうか」


 最後のベーコンを飲み込み、パーサーはクラーディと食堂から出た。


「まだ時間の余裕があるね。ねぇ、貨物室に行ってみない?船員がこの船にタロースが載っているって言ってたんだ!」


 タロース。

 現、陸軍主力であり体長5メートルの全身青銅制の中型ゴーレムである。

 パーサーは昨日、船員からリーグルには紛争中の友好国に貸与する為に六体のタロースが輸送されていると聞いていた。


「感激だな!軍の観閲式とかで遠くからしか見たことないから、こんなに間近で見れる機会が来るなんて!」


 パーサーは意気揚々と貨物室へと向かっていた。

 もちろんクラーディに合わせた速度で歩いてはいるが、もし一人だったら全力で走ってただろう。
















 貨物室内


 六体の巨人が向かい合って方膝を付いていた。

 小窓からの朝日が青銅に反射してタロースの身体は鈍く輝いている。

 別名で重騎士と呼ばれるゴーレムにはその名に恥じぬ重厚な雰囲気に包まれている。


「タロースは全身金属性である為にかなり重いんだ。通常なら自重で起動しても動けない。だから、脚部を大きくして上半身を支えられる様にして自壊するのを防いでいるんだ。あと素体に軽銀アルミニウムを使用することで間接部の可動問題を解消していてって、君に言っても仕方ないか」


 つい説明し始め、パーサーは相手がクラーディだった事を思いだして苦笑してしまった。

 それから、しばらくタロースを眺めて大佐の指定した時間に間に合う様に貨物室から出ていった。


「座りたまえ、候補生」


 指定した時間通りに部屋に着くとハミルトンに促されてパーサーはテーブルに向かい合う形で座った。

 クラーディはパーサーの後ろに待機している。


「ミーティングをはじめる前に紅茶でも飲むかね?」

「はい、いただきます」

「うむ。1013、紅茶を二つ用意せよ」


 ハミルトンはクラーディに命令したが、クラーディは全く動こうとしなかった。


「1013、どうした?はやく、紅茶を入れないか」

「大佐、おそらくクラーディは番号を自分の名前と認識していないのでは無いでしょうか?」

「フン。さっき自分の主がイビられて反抗的になっているだけだろう」

「クラーディの主はウィルソン教授です。あと、ゴーレムは反抗なんてしません。クラーディ、僕とハミルトン大佐に紅茶を入れてくれ」


 パーサーが命じるとクラーディは頷き、ティーセットの置いてある棚に行き、紅茶を入れだした。


「さて、まずはルートの確認をしよう。我々は明日の早朝にフランスの港に到着する。その後に欧州横断鉄道で一度、ヴァチカンに行く。そしてそこから目的地のトルコに向かう」

「えっ、ヴァチカンにですか?」

「ああ、あそこは貴様らラビにとって行きづらい場所だったな」


 教会の総本山で非ゴーレム主義の巣窟のヴァチカンは小さいなから、自治権を持つ都市国家であり市内にはゴーレムはもちろん、ラビも一人としていない。

 パーサーの感覚で言えば、ゴーレム技術無しの遅れた文化の知名度だけ有名な田舎と言った感じだった。


(ヴァチカン・・・もしかしたら、マリアに会えたりして、いや会える訳が無いよな。でも、もし会えたりしたら!)

「何、心配するな。貴様はラビとは言え、今は軍属でそこのゴーレムは軍の備品だ。到着したとたんに後ろから刺される事は無いだろう。」


 押し黙ってマリアの事を思い出しているとハミルトンは声を掛けられてパーサーは?を浮かべ、ハミルトンの方を見た。


「何だ?貴様、不安がって無かったのか?」

「えっ、ああ!いえ、不安。そうですね!確かに少し不安があります!」


 まさかハミルトンに、ついこの前会った教会の神学校の女子学生のことを考えていたとは言えず、パーサーは慌てて誤魔化した。


「まぁ、良い。で、ここまでは良いか?」

「sir、質問があります。何故、このまま海路で内紛中のえっとトルコに向かわないのですか?」


 パーサーの問いにハミルトンはジロリと睨み付けた。


「貴様、それは一番最初の日に説明したではないか」

「・・・すっ、すみません!」


 実は最初の日、パーサーは寝坊してしまいハミルトン大佐のありがたい反省をしながら聞いていた為、全く頭に入っていなかった。

 青ざめたパーサーにハミルトンはハァーと大きく溜め息を吐き出した。


「しょうがない。最初から、説明してやる。今度は聞き逃すなよ」

「yes、sir!」


パーサーは反省を受けなかった事に内心でホッとしつつ、それをおくびにも出さない様に姿勢を正した。

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