第15話 イアン・ハミルトン

流れ行く潮風に穏やかな波の境目から、朝日の光だけがぼんやりと見えるまだ、暗い時間帯にパーサーは目を覚ます。

 いつもはまだ寝ている頃だが、海軍がチャーターした商船『バウンティ』号に乗り込んでから大佐は宣言通りにパーサーを半人前の軍人として扱い、起きる時間を分刻みに指定して来たのだ。


「・・・クラーディ、お早う」


 数日間で身に付いた動作で素早く洗面と着替えを済ませて、椅子に待機していたクラーディに声を掛けたら、クラーディはパーサーに会釈してぎこちなく椅子から立ち上がった。


「無理して付いてこないで、良いよ」


 船に乗り込んだ時に大佐にゴーレムのクセに松葉杖など要るかと杖を取り上げられ、クラーディは右足を引きずりながら、パーサーの手伝いをしている状態だった。


「君の足は故障しているんだ。無理をしたら、悪化するだろ。部屋に残って待機していて良いんだよ」


 船の揺れで何度もバランスを崩して転倒しそうになるクラーディを心配してパーサーは言ったが、クラーディは頑なにパーサーの側からは離れない。


「わかったよ。気を付けるんだぞ。クラーディ、大佐の軍服を出してくれない?」


 ゴーレムなのに頑固なクラーディにパーサーは折れて指示を出すとクラーディは昨夜、アイロンで皺を延ばした大佐の軍服をクローゼットから取り出してパーサーに手渡した。


「さぁ、行こう。一秒でも遅れたら、大佐にまた、腕立てさせらるからね」


 大佐の部屋はパーサー達の向にあり、最初の数日は幾度となく文字通り叩き起こされて『反省』を受ける羽目になった。

 二人は早速、部屋から出て大佐の部屋の扉の前に行くとお互いに自分の軍服に皺や寝癖、汚れが無いかをチェックして扉をノックした。


「マルセイ・ベルメール候補生、他候補生付ゴーレム・クラーディ入ります!」


 軍の入室要領でパーサー達が入ると、大佐はキッチリと軍服を着て部屋のラウンジで紅茶を飲んでいた。


「お早うございます!ハミルトン大佐、着替えの軍服を持って来ました!」


 元気よく、パーサーが要件を言うとハミルトンはカップをテーブルのソーサに置き、ジロリと一人と一体に視線を写した。


「ベルメール候補生」

「ハッ!」

「何故、貴様が軍服を持っている?」

「え?」


 唐突に言われてパーサーは昨日、大佐が手入れするように渡されたましたと困惑気味に答えた。


「そんな事を聞いてはおらん。わしは何故、貴様自身が軍服を手に持っているのかを聞いておる。そこのゴーレムは置物か?」

「クラーディは右足が故障中なので転倒の恐れがあるので、ぼっ、自分が持って来ました」

「だからどうした?ゴーレムが転倒ぐらいで更に破損する事は無いだろう」

「お言葉ですが、クラーディは最新の球体間接を使用したゴーレムです。通常のゴーレムと違い耐久性が低くなっており」


 パーサーの説明にイアンは右手を上げて黙らせると、椅子から立ち上がりパーサーの目の前に来た。


「全く貴様もだが、ラビという人種は理解出来んな。ゴーレムに過保護すぎる。良いか、これは物だ。人の命令に従う道具でしかない。道具に愛着を持つのは結構だが、度が過ぎるな。今、貴様は士官学校とは言え準士官。つまりは士官なのだ。雑務は従兵に命じてやらせよ。士官らしい振舞いを心がけよ。良いな?」


 イアンのプレッシャーに耐えながら、パーサーはどう答えるべきか考えていた。

 確かにゴーレムは道具だが、クラーディと共に居るとゴーレムにも心という物が有るのではないかと思わせる事が度々あり、クラーディを単に道具だと肯定出来なかったいや、したくないと思っていた。


「ベルメール候補生、返事は?」

「」


 NOと言い掛けたとき、クラーディがパーサーとイアンの間に割り込んで来た。

 そしてクラーディはイアンの目を見詰めながら、パーサーが持っていた軍服を取りパーサーに顔を向けた。

 その仕草が、自分の指示を待っていると理解したパーサーはクラーディに大佐のクローゼットに直す様に指示をした。


「最初から、そのように指示を出して置け。候補生、0700時にミーティングをする。それまでに朝食をとっておけ」

「yes、sir」


 パーサーは退出を命じられ、クラーディに部屋の扉を開けさせてパーサー達は退出して行った。



















「フン。生意気な奴め、一人前にワシを睨み付けおったわ。フフフ、ウィルソン。あれがお前の本命なのだろ?」


 パーサー達が居なくなり、一人また紅茶を注いでイアンは声を落として呟いた。

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